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諸君!これがプロである!!~ゲーム実況者の日常~  作者: 椋木美都
中学一年生編

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 第35話『それぞれのテスト週間』

糸哉の場合→敦斗・翠羽の場合→幸樹の場合という並びでお楽しみください。

一学期中間考査期間中の放課後。部活動も休みのため、糸哉は颯爽と教室を出た。


今日は週に二回あるシェンの家への訪問日。糸哉はそこで作り置きをいくつか用意し、部屋を軽く掃除している。


――お、シェンから……あー牛乳と卵の賞味期限近くて使い切ったのか。あと……。


シェンは基本的に家から出ず、食料品や日用品は全てネット通販で揃えていた。糸哉は訪問前に、その買い漏らしを補ってから家へ向かうことが多い。


トークアプリ『RICH(ライチ)』に返信し、彼はスマホで社会の勉強アプリを開く。電車が来るまで暗記に集中している最中――その様子をすぐ近くから観察している者がいた。


――熊本君!?何で今日行く日だってRICHしないのよ!


そう。シェンと同じタワーマンションに住む祐東カレンである。


彼女はそっと彼の後ろに近づき、周囲をさりげなく見渡す。時間帯からすれば当然のことだが、周りはほとんど電車通の大舞学園生だった。


――ぅ……クラスメイトっぽい子も近くにいるわね……。


後ろでもたもたしているうちに電車が到着し、糸哉は空いている席に腰を下ろす。カレンはそのとき、ふと思いついた素敵なアイデアに胸を躍らせた。


――これで彼の目の前に立ったら……!


『あれ先輩?お疲れ様です。どうぞこちらにお掛けください』


『あらいいの?ありがとう』


『そうだ……今日あそこ行く日だったんですよ。ご連絡が遅くなり、誠に申し訳ございません。心よりお詫び申し上げます』


『そんなに深く謝らなくても大丈夫よ。次からは気をつけてね』


『有難きお言葉……!こんな愚かなる僕には、もったいなきことでございます』


『ならもう少し優しくしてあげるわ。中間考査の勉強は、順調に進んでいるんでしょうね?』


『……申し訳ございません。大して頭も良くない僕は、テスト勉強を全く捗らせることができておりませぬ……』


『だと思った。いいわよ。私が手を貸してあげる』


――見下ろされるのは少々好ましくないけれど、電車内だから我慢してあげるわ。これでテスト期間中も会える口実……じゃなくて!先輩としての敬意も高まるのではなくて!?


そんな濃いめに脚色した妄想を一瞬で広げていると――


「祐東さん!良かったらここ座ってください!」

「俺がいたとこの方が日陰で快適です!」

「いや俺の方が!」


――周りにいた男性が、我先にとカレンに席を譲りだした。


「ん?」


「!!」


顔を上げた糸哉は、他の人に冷たい視線を送っていたカレンを見つける。そして目が合った瞬間、彼女は弾かれたように隣の車両へと逃げ込んだ。


――先輩……。美人って本当に大変だな。でもここまで譲られたなら適当に座っちゃえば……あ、勘違い野郎が増えるから?


電車が到着し、カレンと同じ駅で下りた糸哉は何となく彼女を探す。


――あ……。


しかしスカッシュ部の二年男子と一緒にいるのを見て、彼はそっと改札へと向かうのだった。


――お米も大分安くなったなぁ。


二十四時間スーパーの米コーナーにて。糸哉は並んでいる五キロ入りの米を見比べ、どれにするか思案していた。


――シェンって貧乏舌寄りの割に米の美味さ分かってる風なんだよなぁ……。でもこの前一番高い米から値段下げた米に変えても気づかず食べてたし。


「熊本君」


糸哉が真ん中の値段の米に手を伸ばしかけた瞬間、後ろから凛とした声がかかった。


他の客がいないのをいいことに、しゃがんでいた糸哉はそのまま振り返る。目の前には、相変わらずの吊目で彼を見下ろすカレンがいた。


「お疲れ様です。先輩もおつかいですか?」


「……っ!?頭が高い!!」


「痛てててて」


糸哉が米を抱えて立ち上がると、二人の距離は一気に縮まる。近い――そう悟ったカレンは、顔を赤くして後輩の頭を掴んだ。


「……おつかいは貴方だけよ」


「え?」


「喜んでパシリになるんでしょう?これで飲み物買ってきて頂戴」


カレンは早口にそう言い放つと、糸哉に飲み物代を押し付ける。彼はトイレの方へ消えた彼女と、手のひらの紙幣を見つめ――


「いや万札……何本飲む気なんだ」


――扱いに困ると溜息を吐いたのだった。


数分後。糸哉がセルフレジで会計を済ませると、カレンは袋詰めコーナーで腕を組んで待っていた。


「お待たせしました。こちらご所望?のやつです」


「……え?」


糸哉が頼まれていたものと一緒に、シワ一つない一万円札を差し出すと――彼女は一瞬理解が追いつかず、ただ目を丸くして彼を見つめた。


「僕ここの支払いはポイントカードでしてるんですよ。分けるの面倒なんで一緒にしました。あと精々二百円程度の商品に最高額のピン札なんて使えません」


「はぁ?誰が奢れなんて……」


カレンが意に沿わない真似をした後輩に怒る寸前、彼が独断で選んだ飲み物――苺フィナンシェラテのチルドカップが視界に入った途端、見事に怒りを失った。


「この前の苺なんたらアイスも先輩美味しそうに食べてたんで。また飲んだ感想教えてください」


「…」


――苺フィナンシェラテ……!?パッケージデザインは悪くないけど。お、美味しいのかしら……。


新たなスイーツラテの可能性に満足するカレンの隣で、糸哉は期末テスト勉強の前払いという結論に落ち着かせるのであった。


☆彡

「――じゃ、僕はシェンの家寄るから」


「ん。じゃあ俺らもやろっか」


「うん」


放課後。敦斗は先に帰った糸哉を見送り、翠羽と机を動かして勉強道具を広げた。


「……やっぱり隣同士でやるより向かい合わせの方が恋人っぽいかな?」


「うーん。俺はどっちでも(緊張感は)変わらないけど……翠羽はどっちがいい?」


「うーん……考える」


翠羽は国語のワークを開いたままそっと目を伏せ、想像の世界へと思いを巡らせる。


――今みたいに隣の席だったら……。


急に近くなった距離。


ほんの少し体を傾けるだけで触れる肩。


すぐ隣にある彼の左腕。


袖をまくったそこには――アルティメットで鍛えた、まだ少年らしさの残る筋肉が浮かんでいた。


「…」


テスト範囲のページよりも、隣にいる敦斗の方に意識が吸い寄せられてしまう。


西日の淡い光の効果もあってか、彼の横顔はいつもより大人びて見えた。


――あっ、あれぇ?いつもはよく笑ってて可愛い寄りなのに……敦斗君が真面目な顔をしてるのなんかずるい!


偽装カップルになって、気づけばもう二ヶ月。翠羽は自分がまだ知らない彼の表情があることが、少し嬉しかった。


――気が散ってしょうがないよもー!別のこと考えなきゃ……。


「…」


翠羽が淡い悩みに胸をかき乱されているその裏で、敦斗もまた――『翠羽と向かい合わせで勉強する』という一場面を想像してしまっていた。


――顔見れるのいいな。


彼女は黒髪のロングヘアを耳にかけて、ノートを広げる。夕方の光が窓から差し込んで、髪が少しだけ透けた。


睫毛が長くて、伏せた目がやけに綺麗で。


油断して伸ばすと足がぶつかりそうで、視線の置き場にも困る。


――可愛い……。翠羽ホントに可愛いんだよな……何でこんなに可愛いんだろ。


ふと顔を上げた瞬間、対面ではなく隣にいる翠羽と目が合う。ほんの一瞬なのに、時間が止まったかのように感じた。


机を挟んでいるのに――二人の距離は、さっきよりずっと近くなったように見える。


――ぜ、全然集中できない……。


敦斗と翠羽が勉強そっちのけで甘い雰囲気を漂わせているその時、教室のドアが勢いよく開いた。


「な……」


「え?」


「何でオメーが混じってんだよ服部ィ!!」


「おかしいだろぉ!」


そうシャウトしながら入って来たのは同じクラスの日新(にっしん)縄帯(なわおび)だった。彼等は仲良く指を差して勉強中の幸樹にヘイトを向ける。


「はぁ……」


ずっと数学の問題集に没頭していた幸樹は、やっと重い口を開いた。


「知るか。俺がいた方が集中出来るって言われたんだよ」


「空気読んで目ぇ覚ませ!ここに不純物の席ねーから!」


「は?やんのか?」


幸樹が強制退場されるのを見送った後――


「……真面目にやろっか」


「うん……服部君には明日謝りに行こ」


――二人は気まずい空気を振り払うように、黙ってシャーペンを動かすのだった。


☆彡

「――服部君!」


日新と縄帯を撒いた幸樹は、不運にも空き教室で勉強していた女子に呼び止められてしまった。


「何?」


――誰?同じクラスで顔は分かるけど苗字が出てこねぇ……。


別の緊張に囚われた幸樹を前に、五十鈴(いすず)は恥ずかしさと緊張を滲ませながら口元を緩める。


「あたし、野外炊事の時から服部君いいなーって思い始めて……インストやってたら聞いてもいい?」


「…」


幸樹は鞄から手帳型ケースに入ったスマホを取り出して――


「あんま大勢で来られると困る」


「え」


――『ヨリドリカレー(実家の店)』のショップカードを渡し、そのまま去っていった。

カレン「(折角この私と並んで下校してるっていうのに)……米が邪魔ね」

糸哉「そんな心底目障りみたいなオーラ出さなくても(先輩はパン派だったのか)」

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