第31話『これプロテディはいつだって』
宿泊研修二日目は天候に恵まれず、昨夜学習時間を過ごした部屋で室内レクリエーションが実施された。
新聞紙だけで自立する塔の高さを競う新聞タワーや、ロープを結んで課題をこなすロープワーク等々……。内部生にとって、これらは初等部時代から毎年経験してきたお馴染みのレクリエーションだった。
その経験差は大きく、外部生である二組との差は歴然としていたが――
「おい服部!鍋でカレーピラフ作れんの凄すぎるだろ!プロかよ!」
「テディ君が作ったちくわカレー炒飯めっちゃ美味かったくない?」
「でも炊事場じゃないとあの美味さ感じれないよね」
「胡瓜も炒めて水分飛ばしたら割とイケた」
「あたし納豆カレー癖になっちゃったかも」
――帰りのバスの車内は、笑い声や話し声でとても賑やかだった。
そして一班、二班、五班の証言によって、糸哉は宿泊研修にまつわる黒い噂を集めていたことが明るみになる。
最低でも野外炊事だけは成功させるため、周到に計画していたことが車内にいる全員に共有された。
「委員長エグ」
「学校もエグくない?」
「委員長のテディとピラフの服部と火起こしの犬飼とプリティプリンセスの小椿さんが居なきゃ俺ら先輩と同じ道辿ってたな」
「二日目はしゃーない。一組明らかに手慣れてたし」
「なぁテディ。何で行きの時に話してくれなかった……」
「ね、寝てる……!」
「空気悪くなるの避けたかったんじゃね」
爆睡中の本人をよそに、糸哉の株は着実に上がっていく。様々な感情が交錯する中で――宿泊研修は何事もなく終了した。
☆彡
「テディあれやって。動画の最初に言ってたやつ」
「あぁ……『キャラクターの特性や武器はラウンドごとに激変!ド派手な戦場の覇者となれ――諸君!これがバレットターンズである!!』」
「うおぉー!」
「キタキタキター!」
「っしゃーー!」
テディの一声を合図にローグライト・シューティングゲーム『バレットターンズ』のコラボ配信が始まる。参加メンバーはテディ、らむらす、りょくおー、まくれなの四人だった。
「お茶の間の諸君こんばんわ。全力『バレットターンズ』のお時間です。まずは僕、実況のテディと」
「解説のらむらすでーす」
「審判のまくれなー」
「えっ……おぉい!プレイヤー俺しかおらんて!おかしいやろぉ!」
「皆さんお分かりいただけましたでしょうか。これ台本ないんですよ……」
完全アドリブのネタに乗り遅れたりょくおーが鋭いツッコミを入れる。一笑いで場が和んだところで、らむらすがゲームの簡単な説明を始めた。そしてゲーム開始直後、らむらすはこせゆ隊の肩に腕を回す。
「おいこせゆ隊」
「あ?」
「はいらむさん」
「三人でテディ倒そうぜ」
「あー。脅威を先に潰す感じね?」
「よし先ずはテディからや」
「二万人の視聴者諸君ー。これがパワハラでありますよー」
そしてローグライト・シューティングゲーム『バレットターンズ』のゲーム実況配信から一時間が経過した頃、視聴者は最高の盛り上がりを見せていた。
『既に神配信』
『風呂で見るんじゃなかった。髪洗えない』
『誰かテディ止めろ!』
闇に浮かぶメタリックシルバーの足場へ、四人はそれぞれ別の地点に転送される。
ラウンド開始のカウントが鳴る前から、全員が理解していた――これを落とせばテディが完勝してしまうと。
現在、テディが持つ能力は最初に与えられた『移動中、弾丸の威力が上昇する』ただ一つ。一方で、他の三人はそれぞれ五つの異なる能力を有していた。
「楽しくなってきたぁ!」
「いくぞオラァ!」
りょくおーとまくれなの鼓舞が虚空に溶ける。テディは開始の合図と同時に、すぐ上にいるりょくおーから逃れるように走った。
「まー最初はけったいな激レア能力引いたまくれなからだよね!」
「おい来いよ潰してやる……!」
まくれなが躊躇なく『体力を一割にして弾の威力を即死級まで上げる』能力を起動する。体力が一気に削れ、ゲージが赤の極限まで落ちた。代わりに銃身が異様な存在感を放つ。
「りょくお裏から回るぞ!」
「ちょっ!らむた俺の前走んなや!お前の連射と変化弾で死ぬ!」
「は!?りょくおに近づくと移動速度落ちんだけど!」
りょくおーとらむらすが何とか連携し、テディの裏を取ろうと踏み出した刹那。遠距離から放たれた一発が、下段の足場にいたまくれなを捉えた。
「どぉーー!」
「まくれなー!!」
激ヤバ能力は発動したままだったが、何もさせてもらえなかった。
「この能力めっちゃ強いのに……」
「まくれなが使っても恰好の餌食にしかならんか」
「うるせー!」
そしてりょくおーの体が能力で小人化し、防御力が0になる代わりに速度と跳躍力が一気に上がる。
「おらどうだ!今の俺はキショいぞ!」
「ひー!壁抜きと近づくだけでこっちの移動速度下がるのヤバすぎ……!」
テディは笑って壁を貫通する弾丸を躱し、りょくおーから距離を取って発砲するが……。
「足重っ!?」
一瞬、テディの動きがりょくおーの能力によって鈍る。その隙を逃さず、らむらすの弾がテディの脇腹を掠めた。
「飛べないぞ今!」
「効いてる効いてる!」
同時にらむらすの能力『弾が当たった相手を五秒間跳躍できなくさせる』が刺さり、テディは高所を取れなくなってしまった。
足場の端。下は奈落。テディは地上戦を強いられる。だが彼は止まらない。僅かでも移動している限り、弾は強化されるからだ。
「らむた構わず俺ごと撃て!!」
「了解!」
らむらすの変化弾が当たるのも気にせず距離を詰めたりょくおーは――
「あっ待ってイヤッ!らむたの弾痛すぎぃ!ァーーー!」
「あはははは!折角防御上がってたのに!」
――『移動中、防御力上昇』で小人化のデバフを相殺していたのにもかかわらず、テディのとどめの一撃で吹き飛ばされてしまった。
「こいつエグいマジで!」
「らむさん落ち着いていけば勝てるよ!」
「無茶苦茶やぁ……らむたマジ頼む!」
足場の外へ消えたりょくおーを悼む暇もなくらむらすが飛び出す。跳躍力を強化して高く舞い、連射――弾道は暴れ、予測できない軌跡を描いた。
――らむらすの能力は『跳躍力上昇』『弾道のランダム化』『連射』『弾が当たった相手を五秒間跳躍できなくさせる』『最後の一発の威力が強化される』か……。
「体力ないから近寄れないよ!」
「それでも?」
「行くしかない!」
「このビックウェーブに!」
「ブッチブチにしてやんよぉ!」
「テディつよい」
まくれなの唐突な脳死コメントに、テディ、らむらす、りょくおーは揃って吹き出した。
「まくれなヤメテ……!」
「鼻ほじりながら言うな!」
「もうテディは四連続で俺ら倒しとんねん!」
あっという間に一対一という状況になった今、ランダム化された弾道の連射をばら撒かれてもテディは止まらない。弾を避けながら、走り、飛び、足場で射線を塞いで角度を詰める。
「痛ぇ!」
移動中に強化された弾丸が、連射の隙間を縫ってらむらすを撃ち抜いた。
「喰らえ凶弾!」
最大火力の一発がらむらすの銃から撃ち出された。テディはほんの一瞬だけ止まり、横へ跳躍する。弾丸は足場を抉るだけだった。
「変化弾の解析完了。処理に移ります」
「おいアンドロイドおるて!」
「待って……あっ!」
らむらすが足場に飛び移ろうとしたが、距離感を謝り足を滑らせてしまう。その瞬間、高い位置を取ったテディが真上から引き金を引いた。
『――パァン!』
乾いた一発。能力で殺意が増した弾丸が、らむらすを弾ける勢いで吹き飛ばした。
「あ゙ぁーー!」
「おいこれプロォ!」
「テーさぁん……!」
「やーどうもです。先輩たちのお陰で終盤に取れ高作れました」
「うぜぇ……!チクショー!」
テディは銃を下ろして足場の真ん中に立つ。メタリックシルバーのステージに、もう動く影はなかった。
「…」
そんな四人の配信を見ていたタンドリーのもとに、ボイスチャットアプリ『スカイコード』からホットの着信が入った。
「タンドリー!俺もバレットターンズやりたぁい」
「…」
タンドリーは、ホットの羨ましさが滲んだ声色と、電話がかかってきたタイミングに思わず眉をひそめた。
今回の配信で、らむらすはこれプロの二人に声をかけていた。だがテディはホットに五月の連休明け締め切りの課題に取り組ませるため、リーダー権限で不参加を選んでいる。
――なのに試合がひと段落した時に通話って……コイツやってんな。
「ホット配信見てただろ」
「……いや、やってる!ちゃんと課題やってる!」
即答に近い否定。タンドリーはその必死さが逆に怪しいと感じた。
「じゃどんだけ進んだ?」
タンドリーがそう問いかけた瞬間、通話の向こうが静まり返る。彼はその沈黙だけで全て察し、呆れたように小さく溜息を吐いた。
「PW六連休用の課題は四月中に終わらせるって決めただろ」
「はい……」
「早くやれ。お前が終わってないと三人で実況できないんだから」
「やります……」
――幸樹って撮影割と楽しみにしてるんだ……。
ホットはタンドリーの想いを受け取り、ほんの少しだけ課題へのやる気を取り戻したのだった。




