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諸君!これがプロである!!~ゲーム実況者の日常~  作者: 椋木美都
中学一年生編

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 第29話『出来過ぎた勘働き』

班員の男女の台詞はフィーリングで当て嵌めてください。糸哉・敦斗・幸樹・翠羽だけ分かってたらいいです。

晴れた空から差し込む光が、木々の間にまだら模様を落としている。

先頭の幸樹が地図を持ちながら進み、後ろからは足音と息遣いが続いた。彼は分かれ道に差しかかる度に現在地を確認する。自分の選択ひとつで夕飯の内容が変わるかもしれないと思うと、自然と足にも力が入った。


――ガラじゃねぇけど……。ったくテディも厄介な裏事情話しやがって。


幸樹の班は、何故一組の正答率があんなに高かったのかで持ちきりだった。


「まさか一組の先生が教えたとか?」


「そんなことしたらPTA大騒ぎだって」


「でも絶対何か秘密あるよね」


「秘密と言えば……」


日新と縄帯は横目で幸樹を見る。


「まさか服部の言った通りになるなんてな。『もしオリエンテーリングが同時出発じゃなくてクイズで出発順が決まるようだったら自分の意見に同調して』って……そろそろ教えろよ」


「え? なになに?何かヤバめな話?」


初耳だった女子三人も驚いて目を見開く。幸樹は一度顔をしかめて黙り込み、今朝糸哉に聞いた内容を思い出した。


「……俺もまだ半信半疑なんだよ。もし今から行くチェックポイントに卵があったら、弁当食うついでに話す」


「えー!カレーに生卵?」


「肉は?」


「競争率高いって話してただろ。それに最悪俺らの班が具無しカレーでも、温泉卵があったら俺は食えるけど」


――温玉乗せカレー!!


幸樹以外の五人は、茶色いルーの上に乗った温泉卵を思い浮かべる。ぷるんとした白身にとろっと流れる黄身。ちょっとした贅沢感を感じられるトッピングは、肉が無くても心理的満足感を得られるような気がした。


「で、でも何で食材の中に卵があるって知ってんの?」


「噂。だからあのチェックポイントにあるのが本当に卵かは――」


目指していたチェックポイントが見えかけた瞬間、食べ盛りの女子二人が一斉に走り出した。


「今行くよ私の卵ちゃん!」


「一杯目は温泉卵で二杯目はゆで卵じゃー!!」


残りのメンバーも慌てて後を追うと――中をいち早く確認した二人の口から、歓喜の声が弾けた。


「…」


風に乗って、その声が糸哉の耳に微かに届く。彼はオクラを回収した後、次の目的地を指でなぞった。


「さー次は何かなー?」


「く、熊本君!他の皆のテンションが……!」


糸哉が翠羽の声に反応して振り向くと、明らかに四人の気分がガタ落ちしていた。


「テディさぁ……集めた食材が夕食になるって自覚ある?」


「最初がカシューナッツでその前がちくわでさっき取ったのはオクラ!?」


「今んとこウチらのカレー渋い通り越して地獄なんだが!」


「委員長しっかりしてよ!」


山を歩き、地図を頼りに進み、仲間と相談しながら食材を集めていく――オリエンテーリングはただの山歩きではなく、班の結束を試す時間でもあった。


「はいはい。一旦弁当食べて落ちつこっか。ちゃーんと説明するから」


糸哉はそう言って班員を宥め、木陰の下にレジャーシートを敷いた。


――『同じなの。食材調達オリエンテーリングも、クイズの内容すら……私たち内部生が初等部五年の時に行った林間学校と』


まるで罪を白状するかのような重々しい声が、彼の脳裏を打つ。宿泊研修で出されたクイズはエントランスでカレンが話していた内容そのもので、カレーの材料も彼女の記憶通りの位置に置かれていた。


「この前、たまたま一組の会話聞いちゃったんだよね。『今年こそ牛肉取る』とか『クイズの答え覚えてねー』とか色々……」


「今年こそ……?」


「え?経験済み……ってこと?」


「知らない。僕の手元にある手がかりはその会話と、初等部出身者は五年生のときにここで一泊二日の林間学校を行っているってことだけ」


「はぁ!?何でそれ皆に話さないの?そこまで分かってれば……全員内部生の一組は林間学校をもう一度やってるって推理できるよね?」


草重(くさしげ)の非難を浴びても、糸哉は表情を崩さなかった。それどころか、責められている最中にもかかわらず卵焼きを頬張っている始末である。


「言ったら一組と先生に僕らが気づいたってバレるじゃん。あとこれはただの憶測で証拠もないし」


「けど!」


「草重さん安心して。熊本君はちゃんとクラスの皆のこと考えてるよ……ね?」


――きっと私の時みたいに……。


糸哉はカレンとの約束を破らぬよう配慮しつつ、敦斗・幸樹・翠羽の三人にだけ意図的に伏せられていた事情を簡単に伝えていた。


『今回のオリエンテーリングで隠されている食材は人参・じゃがいも・玉ねぎ・牛肉・サバ缶・ツナ缶・コーン・ピーマン・パプリカ・ほうれん草・茄子・トマト・胡瓜・オクラ・しめじ・ちくわ・卵・チーズ・キウイ・パイナップル・バナナ・りんご・カシューナッツ・納豆・ひよこ豆の二十五種類。そのうち茄子まではスタート地点から離れた場所に、トマトから後は手前に置かれているから、僕らは後半のハズレと呼ばれている具材を使ってカレー作りを成功させなくちゃならない』


『待って?その情報ど……まさか』


『敦斗お察しの通り。僕には()()()()()がついているからさ!』


『大丈夫?その神様ヤニ臭くない?』


『はい。小椿さんが引いてるから話戻すよ?』


『は、服部君。キウイやパイナップルってカレーにいれていいの……?』


『いいに決まってんだろ。合うけど……あくまで他の食材と合わせて使うものであって、主役を張る食材ではねーな』


『ここで問題!ハズレ枠の食材の中で最もティアが高い食材は?』


『卵で温玉カレー。チーズでカレードリア。次点でトマトカレーとひよこ豆カレー』


『大正解!幸樹選手に28テディポイント獲得!』


『なんのだよ。つまり俺らは……』


『一組と他の皆にバレないよう班を誘導してこの食材たちを……』


『最低でも確保しろってこと?テディ本気?』


『そ。少しでもマシなカレーが作れたら一組のカレーとシェアできるかもしれないし。余った温泉卵とじゃがいもを交換してくれるかもしれないし?』


『改めて聞くと肉一種類しかないのグロくね?ホントに前半の食材は一組が独占しそう』


『前半の当たり食材が取れたらデカいけど……僕らは堅実にいこう。野外炊事が始まる前から終わってるのは僕も嫌だしね』


糸哉はプラスチックの弁当容器と割り箸をビニール袋に入れ、口を縛った。


「今頃カレーのメイン食材は一組で取り合ってるんじゃないかなー」


「でもあたしたち二班は……」


「オクラカレーかちくわカレー。隠し味は砕いたカシューナッツ……」


「でも胡瓜とパイナップル取った七班よりマシ」


「じゃあ……ちくわカレーかちくわカレー炒飯だったらどっちがいい?」


――ちくわカレー炒飯!?


糸哉以外の五人は、焼き色のついたちくわのぷりっとした食感とパラっとしたご飯を思い浮かべる。カレールーを刻んでそのまま米と炒めるという大胆さ。ちくわ自体に塩気と旨みがあるため、ご飯一粒一粒にカレーの香りが立ち――噛む度ちくわの弾力がアクセントになる。特別感が増したアレンジレシピは、肉が無くても心理的満足感を得られるような気がした。


「待って。ならオクラも炒飯にして」


「熊本君って料理男子?」


「まぁ……僕のお手並みは本番で拝見してよ」


こうして、二組がオリエンテーリングで手に入れた食材は――


「胡瓜・オクラ・ちくわ・卵・チーズ・キウイ・パイナップル・バナナ・りんご・カシューナッツ・納豆・ひよこ豆か」


――ほぼ糸哉の予想通りだった。


「み、皆!落ち込むのはまだ早いよ!まずチーズでカレードリアでしょ?あとは温玉カレーとひよこ豆カレーとフルーツカレーと……あ、あと熊本君がカレー炒飯作れるって!」


翠羽が明るい声でフォローするが、それでも一組に漂う不安は拭いきれなかった。


「ヘイ委員長!依頼されたモンだ」


その空気を『コトン』と何かが置かれる音が断ち切る。糸哉は教室で同じ班の男子二人へ笑顔を向けた。


「ナーイス!今日から六班のことフィジカルエリートって呼ぶよ!」


当たり食材の一つであるサバの水煮缶は、スタート地点から最も遠い場所に置かれていた。サバとカレーの相性は間違いない。だが糸哉は距離や他の具材を考慮し、多くの班はサバの水煮缶の優先順位を下げると踏んでいた。


「テディ六班にも話してたの?」


「ううん。ただ六班は四人組で全員運動部だからさ。『一番遠くのチェックポイントは絶対いいの置いてるから、そこ一点集中で行って欲しい』って頼んだだけ」


「計画が周到すぎる……」


無邪気に笑う糸哉に、敦斗は息を吐いて首の後ろをかいた。幸樹も嬉しい誤算に目を丸くしている。


「いや往復でこの距離……それ一点狙いでもよく間に合ったな」


「ね。スタートも遅れてたし。手に入らない想定で考えてたからめっちゃ嬉しいー」


こうして糸哉と幸樹、そして料理に自信のあるクラスメイトたちが中心となって作り上げたカレーは――王道とは呼べない出来だったが、二組にとって忘れがたい一皿になったのだった。

野外炊事での役割

・糸哉……全体指揮・料理

・敦斗……火起こし・洗い物

・幸樹……料理

・翠羽……料理・洗い物

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