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諸君!これがプロである!!~ゲーム実況者の日常~  作者: 椋木美都
中学一年生編

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 第28話『大舞学園の宿泊研修』

四月中頃の朝は、もう春の匂いがしっかりしていた。柔らかな日差しがアスファルトに反射し、幸樹は少しの眩しさを覚える。風はまだ涼しく、桜が散ったあとの若葉が並木で光っていた。


――絶好の宿泊研修日和りだってーのに……。


引率教員の説明を受けている中、幸樹は体育座りのまま舟を漕ぐ糸哉と敦斗を見やる。何故二人がこんな体たらくなのか――それは昨日の撮影が想定以上に長引いたからだった。


――ホットがイベントの前日楽しみすぎて寝られない症候群じゃなきゃ二十四時には寝たのに……。


これから始まる宿泊研修への期待と緊張が入り混じり、笑い声や小さな会話が春の空気に溶けていく。期待と緊張が入り混じった空気の中、敦斗は眠たげに欠伸をしつつバスへ向かって歩き出した。


――修学旅行初日もこんなんだったなー。はぁ眠ぃ……。


夜更かし組がバスの中で爆睡しているうちに、あっという間に舞台となる社会教育施設へ到着した。各自割り当てられた部屋に荷物を置き、最初に控えていたイベントは――


「これから班ごとに地図を使って山中のチェックポイントを回り、夕食の食材を集めてもらいます」


――『食材調達オリエンテーリング』だった。


班ごとにハイキングコースを巡り、指定されたチェックポイントを巡りながら夕食の材料を集めていくといった内容。どの食材をどこで手に入れるかは自分たち次第である。制限時間は弁当休憩込みで四時間だった。


各チェックポイントには一種類の食材が用意されており、同じ食材を入手できるのは一班のみ。合計十四の班で早い者勝ちのルールだ。集めた食材は、そのまま野外炊事で行うカレー作りに使用される。ただし、米とルーは全班共通で用意されていた。


――ホットとタンドリー大丈夫かなぁ。二人共別ベクトルで心配……。


班は出席番号順で三対三の男女混合に編成されており、糸哉・敦斗・幸樹はそれぞれ別の班になったが、糸哉だけは翠羽と同じ班だった。


「これから行うオリエンテーリングの出発順について説明します。出発の順番は、五問の三択クイズの成績順で決まります」


「……!」


二組担任である菱川の説明に周囲がざわつく。しかし敦斗は、一組と二組とで微妙な温度差があることに気づいた。


「正解数が多い班から順に出発します。なお、正解数が同じ班については同時出発とします。焦らず、合図があったら順にスタートしてください」


――成程な……。


幸樹は驚いた様子でこちらを見てくる同じ班の男子二人と視線を交わし、真面目な表情のまま頷いた。


「もしテーマが学校だったら僕けっこう自信ある」


「私も。もしそうだったら任せてほしい」


糸哉と翠羽が自信あり気な表情で班員を導こうとしたその時、問題がプロジェクターに映し出された。


第一問。大舞学園中等部の校章に使われているモチーフはどれ?

A. ∞ B. 王冠 C. 翼


「改めて見るとウチの校章ダサ……奇抜だよな。おいそんなこと言うなよ日新(にっしん)


唐突に罪を押し付けられた日新は、縄帯(なわおび)を一瞥してフッと笑う。


「|縄帯……まだ日新のこと何も分かってねーな。日新は∞に限界のない可能性を感じてぶっ潰すぞ。お前をなぁ!」


「情緒どうした?あと日新について解説するお前は誰なんだよ」


他の班が体操服や周囲に校章がないか探し回る中、幸樹はボケ属性の男子二人に鋭いツッコミを返した。


第二問。大舞学園中等部は創立何年目でしょう?

A. 十二年目 B. 十六年目 C.二十一年目


「BかCじゃない?」


「いや、この校舎全体的に新しいし。Aとか?」


「俺は……Bだと思う」


「えー私もBだと思ってた!」


「もう(犬飼君が選んだ)Bしか見えない」


「仮にBじゃなくても犬飼君なら言うならBだね」


「あ、ありがとう」


――ああぁ青山(あおやま)君と出光(いでみつ)君がどんどん死んだ目に……!この場合だと助かるけど……!けど!とにかくごめんー!


敦斗の一言で女子三人がその選択肢をバンバン押す。一方、残りの男子二人は引き気味で見守るしかなかった。


第三問。大舞学園中等部で、最も新しく導入された設備はどれ?

A. 体育館のスピーカー B. 音楽室のプロジェクター C. 中庭のベンチ


「これはCね」


「今死ねって言った?」


籠目(かごめ)君。やっぱ僕らがテディ呪ったのバレてるよ」


「おい!テディをメッタ刺しにするイメージでトゥシュ練習してること言うな!」


「トゥシュ……フェンシングの突き技か。嫉妬がましい問題児の分別って意外と手間かかるんだよなー」


笑顔でペンを握る糸哉を見て、フェンシング部の籠目と潮はヒッと身をすくめた。


第四問。創立と同時にスタートした数ある部活動の中で、最も早く全国大会に出場した部活はどこか。

A.演劇部 B.フェンシング部 C.吹奏楽部


「あ……これ吹奏楽だよ。ね、草重(くさしげ)さん」


「うん」


「えーうそ。サービス問題で草」


翠羽はぎこちなさを隠しつつ草重と同じ答えを選び、木村(きむら)の明るい笑顔に誘われて微笑んだ。


「「尊い……」」


熊本の隣で、同じ班の男子二人がそっと拝むのは毎度のことである。


第五問。大舞学園のキャッチコピーは?


A.踊れ、夢中になれ。ここが大舞学園。B.育てる六年、羽ばたく一生。C.大舞学園、マジOMG学園


「「…」」


他の班が第五問に苦戦する中、敦斗と幸樹だけは糸哉のドヤ顔が脳裏に浮かぶ。二人が笑いを堪えている間にクイズは終了し、答え合わせの時間に移った。


「……おいおい!一組で全問正解してる班……まさか全部!?」


「はぁ!?エグ!二組で全問正解してんの何班だ!?」


一組は七班全てが全問正解したのに対し、二組で全問正解したのは三つの班だけだった。


「……!?」


――全問正解が三班も……!?特に二、三、四問は日が浅い外部生じゃまず知れないことなのに。


「菱川先生。僕ますますこの学校のこと好きになれそうです」


「え?」


「素でそれ言えるの尊敬するわ」


「よーし先頭スタート!どうですか菱川先生!」


「え、えぇ……流石ね。じゃ、じゃあ二組の一班と二班と五班は六十秒後スタートです」


菱川は信じられないといった表情で自分のクラスの生徒――糸哉、敦斗、幸樹がいる班を見つめた。彼女の動揺など知ってか知らずか、糸哉は数分遅れてスタートすることが決まった他の班へにこやかな笑顔を送る。


「じゃあ先行ってるね。渋い夕飯にならないよう、皆で力合わせてくぞー!」


「「おーー!!」」


ノリノリな一組の声援を背に、糸哉たちはそれぞれのルートへ散っていった――全ては最初の作戦通りである。


今回巡るハイキングコースは、山の中腹を一周する外周路と、内側へ伸びる三本の道で構成されている。外周路は円を描くように続き、全長は約四キロ。高低差は比較的少なく歩きやすいが、距離は長めになる。


外周路の内側には、中心部へ向かう全長約二キロの道が三本設けられていた。これらの道は外周路と複数箇所で接続しており、途中には細かな分岐もある。


コース全体には最低限の標識しかなく、地図を使って現在地を確認しながら進む必要があった。外周を回るか、内側を横切るか――あるいは組み合わせるかによって、班ごとに異なるルートを取ることができる設計になっている。


「そんでもって各チェックポイントにある食材は、行ってみるまでのお楽しみ……怖いねー」


「ねー」


制限時間内にどれだけ多くの食材を揃えられるかどうかが腕の見せどころである。他の班も、夕食がかかっているだけに必死だ――糸哉と翠羽以外の二班メンバーはそう思っていた。


一方、敦斗の班は歩きながら、他の一組の班を不思議そうに観察していた。


「早い者勝ちなら走ってでも近場のチェックポイントを抑えるべきじゃない?」


「だよね?何でだろ」


「……食材に当たり外れがあるとか?」


「!」


敦斗が言葉を発するより先に、出光が核心を突く推理を放った。


「チェックポイントは二十五種類。俺が先生の立場なら定番の具材――人参、玉ねぎ、じゃがいも、牛肉はコースの中心部か遠い場所に置くね」


「じゃあスタートから一番近いチェックポイントにあたしたちの班以外誰も行ってないのって……」


「あ、アレじゃね?」


敦斗たち一班がチェックポイントに到着し、置かれたバスケットを覗くと――


「「……バナナ!?」」


――質の良いバナナが一房入っていた。


「え!?ジョーク?」


「デザート?」


「いや、俺SNSでバナナカレー見たことある」


「えーあたし無理!」


「最悪……いきなりハズレ枠か」


これで誰が何と言おうと、この宿泊研修においてバナナはカレーの具材の一つであることが確定した。


――不自然だけど俺がやるしか……!


バナナが今にも捨てられそうな雰囲気の中、敦斗は覚悟を決めて口を開く。


「俺、当たりの食材分かるかもしれない。ちょっと走ってもらうことになるけどいい?」


たとえ自分の班に真実を隠すことになっても――今日の夕食を楽しい思い出にするために。

班員(男3:女3)

1班:青山あおやま出光いでみつ犬飼いぬかい五十鈴いすず柄崎えざき大栗おおぐり

2班:うしお籠目かごめ熊本くまもと木村きむら草重くさしげ小椿こつばき

5班:縄帯なわおび日新にっしん服部はっとり本多ほんだ松田まつだ松屋まつや

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