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諸君!これがプロである!!~ゲーム実況者の日常~  作者: 椋木美都
中学一年生編

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 第24話『可憐なる優等生』

シェンと同じマンションに住む少女は、勉強の気晴らしにコンビニまで散歩しようと思い立つ。糸哉と同じエレベーターに乗り合わせた際、彼の電話の内容を聞いてしまった。


――塩キャラメル苺プリンパフェ味のアイスですって……!?そんなの気になるじゃない!


だが初対面の男子に話しかけるほどの度胸は持ち合わせておらず――少女は『行き先が同じ』という体で糸哉の後をついていくしかなかった。たとえコンビニ利用すら去年が初めてという、かなりの箱入り娘であったとしても。


「……お父様にお願いして、このスーパーの株主になってもらうわ。そうすれば決済方法も増えるでしょうし」


「でも中学生(僕ら)はまだ現金持ち歩きましょうよ」


少女はスマホと交通系ICカードしか持っておらず、結局糸哉が立て替えることになった。彼は早速アイスの封を開け、歩きながら話題のそれを齧る。


「……食べ歩きはマナーとして相応しくないわ」


「近所でも深夜に未成年が出歩くのはモラル的にどーなんです?」


「はぁ!?」


「まぁそう怒らな……うま!先輩これちゃんと美味しいです!」


少女はしばらく糸哉を睨みつけていたが、やはり甘い誘惑には抗えなかった。


「ふーん。複数の味が層になっているから最後にパフェを付けたのね」


――意外と味が成立してる……実際にこんなパフェがあったら絶対頼まないけど。アイスとしてなら……。


「ふーん」


「これなら兄さんもお気に召すかも。今の先輩みたいに」


「……祐東(ゆうとう)カレン。中二よ。貴方本当に年下でしょうね」


「セーフ……!僕は熊本糸哉。大舞学園中等部の一年生です」


「……ふーん」


会話はそこで途切れ、二人は言葉も忘れてアイスを食べる。春先の冷気の中で、喧嘩しない甘さが口の中に溶けていった。


☆彡

週明け。敦斗は昨日の晩、翠羽(すいは)と通話した内容を反芻していた。


――偽装カップルをやるにあたってのルール……。


その一。お互い名前で呼ぶ。


「翠羽おはよ」


「敦斗君。おはよう」


このやり取りだけであちこちから掠れたうめき声が聞こえるが、当の本人たちはそれどころではなかった。


――まだ少し緊張するけど……これはこれで初々しいから自然……だよね。


その二。スキンシップやデートなど、恋人らしいことは決して無理のない範囲で。


「今日部活終わり一緒に帰る?」


「ううん。もしかしたら吹奏楽部の人たちと一緒に帰れるかもしれないから」


「そっか。頑張って」


――翠羽まだクラスに馴染めてないっぽいしな……マジでいい友達できるといいいけど。


その三。いずれかが異性として意識し始めるか、特定の誰かに恋をした時点で即座に解消とする。


「翠羽今日の髪かわいいね。どーなってんの?」


――これは全然大丈夫。


「ありがとう。敦斗君ももう少し髪伸ばしたら編み込みできるよ?」


――確実に守れる自信しかない!!


敦斗と翠羽が恋人同士になったことで、お互いに寄りつく人間は格段に減った。偽装カップルの虫除け効果を肌で感じた二人は同一の答えに行き着く。


『いい人っぽいし、もう卒業するまでこの感じでいきたい……』と。


偽装という前提のまま、敦斗と翠羽の毎日は穏やかに流れている。これが続くのか、どこかで形を変えるのか――未来だけが、答えを知っていた。


「……って感じだね」


「誰に言ってんだ」


「こっちの話ー」


糸哉は幸樹に行き先を告げて立ち去り、ポケットに入れていた手紙を職員室にいる担任に手渡した。


「熊本君、これ――」


「この手紙は読んだら処分してください。あとここに書かれている内容は、必ず先生にしかお伝えしません」


糸哉は菱川の表情に滲んだ戸惑いと同情を察し、制するように言葉を重ねる。


「ご迷惑をおかけしてすみません。後は菱川先生のご判断にお任せします」


「……ありがとう。事情は分かったから、無理しなくて大丈夫よ」


「すみません。ありがとうございます」


「そんなに恐縮しなくていいから。ちゃんと必要な配慮はするからね」


「はい。では失礼します」


――よし。これで授業は大丈夫……。


「……知ってる先輩を見つけたら挨拶って習わなかった?」


糸哉が職員室を出たところで一息つくと、後ろから涼やかな声が響く。彼はその聞き覚えのある声の主に視線を向け、驚きに目を見開いた。


「あれっ。塩キャラメル苺プリンパフェ先輩じゃないですか」


「長い!祐東カレンよ!」


シェンと同じマンションに住む美少女――大舞学園中等部二年一組の祐東カレンは、釣り目をいっそう鋭くして糸哉を睨みつけた。


「熊本君と言ったわね。貴方部活はどこに入るつもり?」


「あ、僕もう友達とスカッシュ部に入部届出しちゃいました」


「えっ」


「すいません」


「あ……そ、そう。ふーーん」


糸哉の返答を耳にするや、カレンはさっきまでの強気を急に崩して狼狽え始める。心なしか、その顔には喜びが浮かんでいるようにも見えた。


――マジ?どんな偶然だよ……。


糸哉は微かな裏切りの可能性に賭けてみるが、それも無駄に終わり――二人は部活動で再会した。


「――じゃ、一年男子は俺が教えるから。よろしく」


――ま、同じ部活でも最初はもあの先輩と接触する機会ないか。さっきからチラチラこっち見てるけど……。


二年生のカレンと話す理由もきっかけも、今の糸哉にはまだ与えられていなかった。カレンは三年生の指導の声に集中している糸哉を邪魔するわけにもいかず、ただコート脇で立ち止まる。


その距離は数メートルしかないのに、今はまだ埋めようのないものだった。


二人の間に会話は生まれないまま部活の終わりを告げる空気の中で、糸哉は今さらカレンに聞きたいことを思い出した。


「えーと、祐東先輩」


「…」


「!」


――声かけるタイミングミスった……?


糸哉はカレンの表情と空気を察し、言いかけた言葉を飲み込む。


「……生憎、部活中でも外部生と親しくするつもりないの。場を弁えてもらえるかしら」


「……すみません」


糸哉の読みは当たり、彼女の返答はその考えが正しかったことを示していた。


――これ多分、二人っきりの時じゃなきゃ駄目なやーつ……。


「そこの糸目お前ー!チャレンジすんのはえーよ!」

「お前が祐東に声かけるとは思わなかった」


カレンが練習場所を出た後、糸哉は内部と外部関係なく先輩と同級生に囲まれる。そして彼女と同じクラスに所属している二年生が代表するように口を開いた。


「悪いこと言わないから覚えとけ。祐東カレンは家柄も立場も別格。外部生が軽い気持ちで話しかけていい相手じゃない」


「そうそう。二年でもトップレベルの美人で優雅が服着て歩いてるような人だけど。下手に近づいたら火傷じゃ済まないぞ」


先輩はとどめに『親衛隊が彼女に近づく者を排除している』という噂を半笑いで語り、糸哉に念を押すよう忠告した。


――成程。そこまで有名な人だとは……。


「そうだったんですか。気安く声かけたらそりゃそうなりますよねー。これからは遠くから見るだけに留めます」


糸哉は笑顔で話を受け流し、同級生や外部生の先輩たちはむしろ賞賛の言葉を向けられる。一方、幸樹はというと――早々にその場を離れ、練習場所の外で着替え始めていた。


「遅い」


「ごめん。すぐ着替える」


今年スカッシュ部に入部した一年生は男子三人、女子六人の計九名。男子の残る二人は内部生の双子で、まだ外部生である糸哉たちを見下している節があった。


――ここでも一組と二組の隔たりが……まぁそれはどこの部でも同じ感じか。


糸哉が愛嬌たっぷりに挨拶すると、双子の弟は普通に応じてきた。それでひとまず安心し、彼は隣にいる幸樹の仏頂面をまじまじと見つめる。


「嫌うのはまだ早いんじゃない?」


「嫌ってない。直感で馬が合わないって思っただけ」


「それを世間では『生理的に無理』と言うんだよ……」


自転車置き場で合流した敦斗にも同じような話を振ると――


「俺の方はいつでも大歓迎だから……」


――彼は笑顔を引っ込め、気まずそうに視線を落とした。


「アルティメットって七人でやるんだけど、男子が俺と一組の男子……海老名(えびな)君入れて九人しかいない。女子はその倍いるのに」


「終わってんな」


「え、じゃあ先輩たち試合どーしてたの?」


「ラクロス部かスカッシュ部の友達を補欠に入れてたんだって」


「エグっ」


「そんな内情なら軋轢とか気にしてる場合じゃないね」


「うん。別の意味で心配だけど……アルティメット自体は普通に楽しい。海老名君もいい人っぽいし」


「海老いいよねぇ……美味しいし。僕はガーリックシュリンプがいいなー」


「ビリヤニ食いたくなってきた」


「俺はシンプルに茹で……じゃなくて!それ絶対本人の前で言うなよ!」


和気あいあいとした雑談が終わりに差しかかり、幸樹はおもむろに言葉を切り出した。


「……この後空いてるなら、通話繋いでゲームしねぇ?」

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