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諸君!これがプロである!!~ゲーム実況者の日常~  作者: 椋木美都
中学一年生編

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 第23話『芽吹く関係』

糸哉と敦斗が帰った後、幸樹は早速新たなコースを制作しようとしていた。


――テディはアイテム使って敵バンバン倒す系とボス戦攻略するのが好きで、敦斗は強制スクロールとか時間迫られる系か……。


二人の好みを思い出しながらコンセプトを固める。彼が弟以外の知り合いに自分が作ったステージをプレイさせるのは実に五年ぶりだった。


『うっざ!はぁ!?ざっけんなムズすぎだろ!!』


『こんなん誰が楽しいんだよ。自分はクリアできるって自慢かぁ?キーモ!』


『なぁ無理無理無理無理。もー萎えた。別のやろー』


――あそこで使った敵やギミックは避けるか。同じこと繰り返すのは……俺が嫌だ。


幸樹は決して根に持つタイプではないが、感情に任せた小学生らしい態度を向けられた出来事を境に、同年代とのやり取りが苦手になってしまった。


――料理もゲームも勉強も一人でいい。学校より店の手伝いする方が楽しい。中学も義務教育がなきゃ行く気なかったのにな。


入学初日。偶然前を歩いていた糸哉と敦斗から感じた『大丈夫な空気』は、今も変わらずそこにある。校内でも、二人が店に来た時も、そして今もなお――幸樹はかつて感じたことのない安らぎに包まれていた。


――どっちも空気の読み方と距離の取り方が妙に上手いんだよな。ゲームもそこそこ上手いし……。


「幸兄ー。ご飯ー」


「ん」


「…」


――俺も一緒に遊びたいな……。敦兄と糸兄が来たとき頼んでみよ。


ちょうど夕食の声がかかり、幸樹は手を止めて部屋を出る。次男は今までにないくらいご機嫌な兄を見て、次は自分も輪に加わろうと胸を躍らせるのだった。


☆彡

服部家をお暇してすぐ、敦斗は糸哉に小声で懇願する。


「テディ。会った時から決めてたんだろ?タンドリー入れようよ」


「分かってる!アクションゲーム好きでPCゲームの環境があるなら多分レゾクラもやってるだろうし……」


「あとテディとは別方向で大人っぽくてクールだよな。やっぱ店手伝ってるから?」


「全然イケる……条件は割と満たしてる。けどまだタイミングがなぁ……」


糸哉は肩を落とし、幸樹側の事情と自分の事情を重ねた。


「明日から授業と部活が本格的に始まるし、再来週には宿泊研修が控えてる。それに僕らは僕らで普通に実況と生配信があるんだから。今月割と忙しいよ」


「うっ」


――勉強……確かにしないとヤバいか。流石にまだしなくていいと思うけど母ちゃんうるさそうだし……。


「じゃ俺の時みたくPW(プラチナウィーク)にテディの家で言うの?」


「いや、多分お店が忙しいから……言うとしたらその前か後だね」


「絶対俺がいる時に話してよ!?」


「はいはい」


糸哉が笑って流すと、敦斗の表情がふっと消えて深刻さが滲んだ。


「小椿さんにはどうしよう。俺一応……彼氏だけど」


「彼女がゲーム実況の世界にどれだけ触れてるか分からないし。今は言わなくても大丈夫じゃない?」


「そっか……」


糸哉は右手を離し、並走する敦斗の肩を軽く叩いた。


「もしその関係がずっと長く続いて、敦斗が秘密にしておくの辛くなったら……その時話したらいいよ」


「……うん。分かった」


部活動見学の話を交わして別れた後、冷え始めた風が制服の袖口に触れ――季節の移ろいを感じさせた。


☆彡

『ウルトラメテオメイカー』略称メテメは五年前に発売されたゲームで、糸哉が触れる頃には既に多くの解説・攻略系実況者が取り上げていた。


――ま、それは全てのゲームで言えることなんだけど。


『諸君!これがプロである!!』チャンネルではまだメテメの動画を投稿していない。その理由は前述した内容に加え――


「お前バトルロイヤルゲーム専門じゃけーな。ただ飛んで走ってゴール目指すだけのゲームじゃ満足できんってか」


「そんな全アクションゲーム好きを敵に回すようなこと思ってないよ……!」


――彼自身が、自分のゲームスキルと熱意に自信を持てていなかったからだ。


中学生になって初めての週末。糸哉は幸樹に触発され、シェンの家のリビングでメテオのコース作りに励んでいた。


「鬼畜じゃけど良心的。初見殺しも死因が分かるしタイミングもシビアすぎん……これプロでやるにはヌルいな」


「あ、シェンもタンドリーが作ったコースやったの?」


「公開されとる中で一番クリア率低いのやった」


シェンは自室でクリア率2%コースのクリア画面を眺める。彼はそのままピーナッツの袋に手を伸ばしたが――いくら探っても、目当てのものは掴めなかった。


「テディ。ピーナッツないなった」


「え?今日ちゃんとアーモンド買っておいたよ?」


「今はピーナッツの口」


「……行ってきまーす」


言葉の端に『大人しく今日買ったアーモンドを食えよ』と滲ませてみたものの、シェンの意思は揺らがなかった。糸哉はため息混じりに作業を中断し、上着を羽織る。


――やれやれ。十二歳を二十一時にパシらせる大人がどこにいるんだか……。


エレベーターに乗って数秒後、下の階で機械が止まった。扉が開き、糸哉と同い年くらいの美少女が乗り込む。


――この人も買い物……?一人?大丈夫?


つい自分のことを棚に上げて心配してしまうが、他人に踏み込む理由はなかった。


そして少女が乗ってすぐ、糸哉のスマホにシェンの着信が入る。彼は同乗者に構わず電話に出た。


「なにー?」


「これ食いたい。何か今日発売された――」


「……え?塩キャラメル苺プリンパフェ味のアイス?」


糸哉は要素が多いスイーツに怪訝な表情を浮かべ、思わず聞き返した。後ろで聞いている少女が反応したとは知らずに。


「それって苺は苺なの?イチゴ味のプリンなの?あと塩キャラメル苺プリンパフェなんて聞いたことないんだけど。メジャーな組み合わせなの?」


「知らん。でも美味いらしくてバズっとる。品薄になる前に買っとって」


「それをアイスにする開発者が――って切れた……」


――スーパーに売ってなかったら知らないよもー。


ちょうど一階に到着し、操作パネルの前にいた糸哉は『開』のボタンを押したまま少女が出るのを待つ。しかし彼女は、硬い声で先に出るよう促した。


――あーね。年が近そうでも男の僕が背後に立つの怖いか。


糸哉はとくに引っかかるものもなく、素直に納得して先にマンションを出る。スーパーまでの人気のない道をのんびり歩いていると、背後に気配を感じた。


――多分さっきの女性だよな……同じマンションで行き先も多分一緒で年も近そうで……。


一つ一つは取るに足らない情報でも、重なれば十分な理由になる。糸哉は、そそこまで条件が揃えば話しかけられる性分だった。


――まぁ今回はやめとこう。たった今コンビニ通過したけど、スーパーでしか買えないモノだってあるよね。それに安いし。


少女は深夜の買い物先の定番であるコンビニエンスストアを素通りし、糸哉と一定の距離を保って歩き続ける。その間特に何も起こらず、二人は二十四時間営業のスーパーに到着した。


――さっさと買って帰ろ。


安くて品揃えが豊富な店舗のため、平日の深夜でも店内には客がちらほらいた。糸哉は最初にピーナッツの袋を確保し、そのままアイスコーナーに向かうと――


「……??」


――野菜コーナーでフリーズしている少女の姿が見えた。


「えぇ……」


――あのマンションの住民って情報と雰囲気で察してたけど……さてはこの子ガチのお嬢様だな!?何で未知の世界に迷い込んじゃったって顔してんの!?


糸哉は少女の視界に移る場所に立ち、目の前にあるケチャップを見るフリをして待つ。店内に気を取られて一度彼を見失っていた彼女は、再びその姿を見つけると安堵の表情で近づいてきた。


――もういいか!?話しかけても!いやでもなぁ……!


頭では迷っていたが、足は真っすぐアイスコーナーへ向かう。糸哉は運よくお目当ての商品を見つけ、つい彼女の分まで手に取ってしまった。


「こんばんは。先輩もコレ買いに来たんですか?」


「……!」


とうとう話しかけられた少女は驚きのあまり肯定も否定もできず、思わずぱっと俯く。その視線の先にあったのは『塩キャラメル苺プリンパフェアイス』だった。


「……えぇ」


「SNSで話題みたいですねー」


糸哉はそう言い残してセルフレジへと向かう。当然のように後ろをついてきた少女を横目に、彼の中で一つの懸念が浮上した。


――お嬢様セルフレジ分かる?いや流石に馬鹿にしすぎか。夜勤の店員さんもいるし……。


糸哉はこのスーパー専用の電子マネー機能付きポイントカードでサッと会計を済ませ、恐る恐る少女を見ると――


「…」


――案の定、彼女は人差し指を差したまま固まっていた。


「……先輩、クレカか現金あります?」


糸哉は人として見過ごせず、成り行きで見知らぬ少女の買い物を手助けすることになった。

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