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諸君!これがプロである!!~ゲーム実況者の日常~  作者: 椋木美都
中学二年生編

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 第214話『祐東カレンのお土産』

「いっ君」


「んー?」


「…」


「……何ですか……カレン先輩」


糸哉が渋々といった様子でカレンの名前を付け足して聞き返すと、彼女は満足げに微笑んだ。


――まさかすっかり定着するとは……。


そもそも、何故二人は互いを名前で呼び合うようになったのか――話は一カ月程前に遡る。


「――この前の日曜日、白雉さんとお茶をしたのだけど」


「はぁ」


「貴方、彼と話した際……私のことを『カレン先輩』って呼んでいたって本当?」


「…」


――ヤベ。


嘘を吐く余裕もなく、糸哉は無言のまま視線を逃がす。その反応だけで確信を得たカレンは、逃げ道を塞ぐように距離を詰めた。


「どうしてかしら?貴方いつも苗字で呼ぶじゃない。普通に名前で呼んでいたって聞いたわよ」


「……纐纈先輩のときは挑発目的でワザと名前呼びしてました。相手のペースに呑まれたくなくて、反撃のつもりといいますか……すみません」


――馴れ馴れしいって怒るか不快がるか……どっちだ!?


本人の知らないところで名前呼びしてしまったことへの申し訳なさから、糸哉はしゅんと項垂れる。


「……わよ」


「へ?」


「別に……いいわよ。名前で呼んだって」


しかし、返ってきたのは予想外の反応だった。


「はぁ」


「…」


カレンはそれきり、ふいっと顔を背けて黙りこくってしまった。だがこの会話が終わったという雰囲気ではない。むしろ何かを期待するように返事を待っている。


――あーそういうこと?


糸哉は何となく察し、恐る恐る口を開いた。


「……カレン先輩?」


「っ!」


期待していた言葉をもらった途端、カレンの頬がぶわっと朱に染まる。


「わ、私も名前で呼ばせてもらうわ!」


「あぁいいですよ何でも。オススメはテディです」


「それは嫌」


「えっ……」


地味にショックを受ける糸哉をよそに、カレンは顎に手を当てて真剣に考え始めた。


――普通なら私も糸哉呼び……。でもいきなり呼び捨てなんて……糸哉さん?でも彼に『さん』付けは……どう考えても座りが悪すぎるわ!他の人は彼のことを何て呼んでいたかしら……。


「……いっ君?」


その瞬間、ふとライアンの顔が脳裏をよぎった。


「え、いやそれラ……兄さんと母さんが呼んでる愛称なんでちょっと……」


「いっ君……いっ君……」


「連呼して口に馴染ませようとしなくていいです。普通に糸哉君とかでも……」


「……!」


――恥ずかしがってる?ふーん……。


糸哉の珍しい反応を見たカレンは、にんまりと口元を緩める。


「安心して。二人きりの時だけそう呼ぶことにするわ……いっ君?」


「……はぁ」


――まぁいっか。


諸々を諦めた糸哉は白旗を上げ、カレンの好きに呼ばせることにしたのだった。


そして現在。すっかり定着してしまった愛称で呼ばれ、糸哉が渋々ながらも応じる。


「修学旅行の三日目に市場へ行ったのだけど……」


するとカレンは胸の下で腕を組み、鼻高々に話し始めた。


「丁度いっ君に相応しい品が目に留まったから、土産に選んだの」


先日から二泊三日の日程で、大舞学園中等部の三年生は修学旅行に出かけていた。行き先は北端に位置する島――その名も北幌道(ほっぽろどう)だ。糸哉たちも来年に足を運ぶ予定の地である。


「へぇ。市場で買ったお土産……」


――何だろう。


「今日の夕方には届くと思うわ」


「えっ!わざわざ発送してくれたんですか?」


「ええ。クール便で」


――市場……クール便……ってことは海産物?


糸哉は頭の中で候補を絞り込んだ。


「カニは時期外れだし……ウニ?」


「ふふっ。届いてからのお楽しみよ。急で悪いけれど、冷凍庫のスペースを空けておくことをお勧めするわ」


「……ありがとうございます。魚なら何でも普通に好きなんで」


ひとまず礼を伝え、糸哉は何が届くのかと楽しみに待つことにした。


「――こんばんはー。お届け物でーす」


「はーい!」


そして予定どおり北国からクール便が届く。


――本当に何だろう……。


嬉々として箱を開けた糸哉は、目の前の光景を疑った。


「しゃ、鮭……!?」


中に入っていたのは、幻の高級鮭とも呼ばれるトキシラズだった。しかも丸々一尾である。


「……!?」


――え?え?え?確かに今が旬……いやそういうことじゃなくて。一尾?マジで?


予想の斜め上を行く贈り物に、糸哉はしばらく言葉を失った。


――いやぼーっとしてる場合じゃない!鮭一尾なんて相手したことないよ!


慌ててスマホを手に取り、鮭の下処理や保存方法を調べ始める。


「……ふるさと納税でも一万円台のやつばっかり出てくるんだけど」


定時に帰宅したライアンは、糸哉が大慌てでトキシラズを冷蔵保存用と冷凍保存用に仕分けている様子を眺めながら、隣でスマホの検索結果に目を通していた。


「お嬢ヤバすぎだって……いっ君これはお礼しないと。あ、ウチでトキシラズパーティーする?」


「待って。今アラのこと考えてる」


「ごめんマジでありがとね。えー待って。明日の弁当めっちゃ楽しみ」


糸哉はその後、シェンにも経緯を伝えて鮭をおすそ分けした。そして独自の情報網を持つシェンから、このトキシラズがおよそ一万九千円の高級品だと教えられる。


――く、狂ってる……。先輩の世界じゃ普通なのかもしれないけど!


そんな金持ちのお土産事情を目の当たりにして、糸哉の常識はまた一つ瓦解したのだった。


☆彡

糸哉と敦斗はサバイバルアクションゲーム『ハーシュ』で、最近のアップデートによって追加された裏ボスを召喚するための手順を踏んでいた。


「まず最初に、海釣りでしか手に入らない激レアアイテム『クリスタルクリオネ』を二個釣らないといけないんだよね。とりあえず二人で釣ってみようか」


「激レアって……どんくらいレア?」


「0.4%の確率で出る」


「は?」


「録画回さなくていいよって言ったのはそれが理由」


これプロでは、ゲームによっては動画にしない前準備を行うこともある。



そもそも今回の裏ボスは、アップデートで追加されたおまけ要素のようなものだ。召喚までに踏むべき手順が多く、討伐にも相応の時間と労力が必要になるため、容易に挑めるような相手ではなかった。


「……0.4%って何?」


「えーとね……分かりやすく言うと、宝くじで一万円が当たるくらいかな?」


「あぁ……うーーん……」


敦斗はあやふやな返事をしつつ、海面に浮かぶポイをじっと見つめ――ふっと空気を一変させた。


「……それだったらいけるかも」


「うん。頼りにしてるよミラクル」


「よし任せろ!」


本来なら、目的のアイテムを二個揃えるだけでも最低九十分はかかる計算だ。それでも糸哉は、敦斗の誇る業運を当てにして釣りを続けた。


「……あっ鮭釣れた」


――鮭……。


そのキーワードを拾った敦斗は、ある話題を記憶の底から掘り起こす。


「そういえばテディって……祐東先輩から鮭もらったってホント?」


「誰からその話……」


――シェンは聞かれない限り答えないから……。


「……小椿さん?」


「うん」


糸哉は釣り竿を握ったまま、頭の中で情報の出所を探る。すぐさま答えに行き着いた彼に対し、敦斗はあっさりと頷いた。


「その後テディがお礼したとこまで聞いた」


「おぉ……」


――まさか先輩と小椿さんがそこまで話せる仲になってるとは……。


先日。糸哉はトキシラズのお礼に、カレンとクレープパーティーを開いた。


彼女が住むタワーマンションのゲストルームを借り、二人で材料の調達から調理までを一緒に行ったのだ。


「アレだよ?シェンが『クレープ食いたい』って言ってたからついでに先輩と一緒に作っただけだよ?」


「翠羽は完全にデートの感覚で俺に話してきたけど」


「小椿さんはもう駄目だ……恋愛に脳を侵されてる……」


「で、どーすんの?」


内心頭を抱える糸哉の横で、敦斗はシーラカンスを釣り上げる。そしていつもと変わらぬ調子で尋ねた。


「どうするって……どうもしなーいよ。先輩とはこのままでいい。実際クレープ作った時も何もなかったしね」


「純花ちゃんとも?」


「え?」


「いやこれは完全に勘だけどさ……」


敦斗はそう前置きしつつ、内心では確信に近いものを感じていた。


――純花ちゃんも全然テディのこと好きそう……。


数えるほどしか会っていないとはいえ、純花が糸哉に向ける視線には特別な何かがある――敦斗はそれを、理屈ではなく肌で感じていた。


「……純花ちゃんは『テディ』を推してるらしいよ?僕じゃなくて」


「あぁ……あ」


その瞬間『バシャッ!』と水音が響き――


「え?」


――ホットは三十分足らずで、クリスタルクリオネを釣り上げてしまった。


「早っ……!ナイスホット!その調子であと一匹!」


「よしきた!」


敦斗が得意げになる横で、糸哉は五回続けて空き缶や長靴を釣り上げていた。


――何で僕はガラクタしか釣れてないんだ……隣で釣ってるのに!隣で釣ってるから!?

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