第206話『実はまだいる!紹介したいメンバー!!』
撮影終了後。テディは録画を停止すると、クイズ用の帽子を取った。
「今回は視聴者と皆にルゥーアのことを紹介したけど……実はもう一人いて」
「え?」
「は?」
「何が?」
三者三様の反応をよそに、テディはさらりと続ける。
「この四番勝負のVTR……編集したの僕じゃなくて、新しい裏プロメンバーなんだよね」
「「えっ!?」」
――全然気づかなかった……誰!?
ファン上がりのユイガとルゥーアは、すぐさま記憶を遡る。
――これまでテディが編集してきた動画と比べても……さっきのVTRに違和感は一切感じられなかった……。
自分たちがそれに気づけなかったという事実に、二人は揃って愕然とした。
「新しい編集者……?ライアン?」
「違うよ。ライアンみたいに不定期で手伝ってくれる人じゃなくて、もう正式にメンバー入りしてくれた人……いや人間じゃないけど」
「今度はどの種族を捕獲してきたんだよ」
「じゃあ紹介するね……おーい」
テディが呼びかけた瞬間、その隣に一人の女性が姿を現した。
白髪を高い位置で二つのお団子にまとめ、赤い瞳を持つ女性。鼠色のパンツスーツに身を包んだ彼女は、直立不動のまま一同を見渡す。
「新しい裏プロメンバーのラクト・アイスちゃんです。業務内容は主に編集とレゾクラ撮影時の俯瞰カメラ役。その他諸々の雑務かな」
『皆様はじめまして。ラクト・アイスと申します』
ラクトはお辞儀と共に丁寧な挨拶をチャットに表示する。彼女の職業は検察事務官で、モデルはアルビノのハツカネズミだった。
「え……『ちゃん』!?」
「女!?」
「凄ぇ!アンタが編集してたのか!よろしくな!」
「は、はじめまして……え、いつから裏プロに?」
一同はそれぞれ異なる方向に驚きながら、突然現れた新メンバーを迎えた――
「っ……!?」
――ただし、一人を除いて。
「はあーーーー!?テメェ!!」
激昂したユイガは剣を取り出し、ラクトを目がけて斬りかかった。
――やっぱりガチギレからの一発殺りにくると思った……!
その動きを読んでいたラクトは、用意しておいた盾を素早く構える。
『ガキィン!』
振り下ろされた剣は、紙一重のところで盾に阻まれた。
「コロスコロスコロス……!」
「へ!?ユイガ!?」
「オイ何してんだ!」
周囲が慌てて止めに入ろうとするが、それより早くラクトがコマンドを操作する。次の瞬間、ユイガの動きがぴたりと止まった。
「あ!?急に動けなくなったんだけど!?」
『私が止めた』
「ふっざけんなこのカス……!テディ!何でこんな奴にOP権限与えてんの!?」
「だって裏プロだし……。それよりそんな態度取っていいの?皆の前で」
「は?」
ユイガは殺気立った目を向けると、ホット、タンドリー、ナキ、ルゥーアはやや引きで彼の蛮行を見ていた。
「え?何ユイガ。急にどした?」
「知り合いか?」
「初対面で殺すだのカスだの穏やかじゃねぇな」
「大丈夫……?ユイガさんとラクトさんはどういう関係ですか?」
「っ」
――しまった!冷静に考えたら殺すより他人のフリしておく方が正解だった……!
停止状態が解除されるや否や、ユイガはあたふたと剣を手持ちにしまう。そのまま視線から逃れるようにしてテディの背後へと隠れた。
一方のラクトは、チャットでの会話をいいことに感情の読めない文字列を入力する。
『知り合いじゃないです』
「嘘つけ!誰が見てもだろ!」
「いくらネズミと猫でも、ユイガは会ったばかりの女の子をいきなりブチ殺しに行くような戦闘狂じゃないって!」
「それにラクトの方も盾出すの早かったな」
「顔合わせたら攻撃されるって読んで、あらかじめ準備してたんじゃ……?」
『…』
四人から相次いで指摘を受け、ラクトは口を噤む。やがて、ユイガと同じくテディの後ろへ身を隠した。
「えーっとね、ユイガとラクトは……」
「待ってテディ!当てる!」
「えぇ」
「まさかラクトさんはユイガさんの……」
「あ、ルゥーアもシンキングすんの?」
唐突に推理を始めたホットを見て、ルゥーアも何か思い至ったらしい。二人はそれぞれ思考を巡らせ、ほぼ同時に口を開いた。
「彼女!?」
「元カノ!?」
「『違う!!』」
「ブハァッ!彼女はヤバイしも、元カノはもっとヤバすぎるっ……!あはははははは!」
ユイガの声とラクトのチャットがぴたりと重なる。斜め上どころではない推理を披露した二人に、テディはしばらく笑いのツボから抜け出せなかった。
「テディ笑いすぎ」
「ごめん……ハァ……ハァ……もう言っていいよね?皆に知り合いってバレたんだし……これ以上誤魔化してたら二人の関係が恋人以上の何かになりそう」
「……テディが言って」
「はいはい。ラクトはユイガの」
『姉です』
「「姉ぇ!?」」
「オォイ!!」
テディが改めて二人の関係を明かそうとした瞬間、純花――もといラクトが発言に割り込む形で堂々と嘘のカミングアウトをぶち込んだ。
「ふざけんな!お前が姉でたまるかボケカス!」
『いつも思ってるけど何で自分が格上ですオーラ出してんの?』
「事実だろ!兄より優れた妹とか存在しないんだけど!」
「あーもう喧嘩しないで!」
テディは二人の間に割って入るように声を上げると、これ以上の応酬を防ぐべく、さっさと話をまとめにかかった。
「まぁこんな感じで……ラクトはユイガの身内だから。直接絡む機会はあんまりないと思うけど、皆よろしくしてあげてね」
そうして、ラクトの紹介はひとまず終了した。
ところが解散する雰囲気になると、普段は通話が終わるギリギリまで居座っているユイガが誰よりも早く通話から抜けた。
「……いつもはギリギリまで通話に残ってるのに」
「ホントに兄妹ならこの後絶対顔合わせて喧嘩してるだろ」
「てかユイガも知らなかったのかよ」
「思春期やってんなぁ」
「でも、そう言われると似てなくもない気が……。これ本人には地雷ですかね?」
五人は口々に感想を述べながら、先程までの騒動を振り返った。
そして、その予想は見事に的中することとなる。
「公私混同するとかマジ信じらんないんだけど!」
「してないし!純花の編集見たでしょ?ちゃんと実力で採用されたんだから文句言わないで!」
「――二人共!今何時だと思ってるの!」
火花を散らすだけでは飽き足りなかった孝太と純花は――洗面所でついにゴングを鳴らし、騒ぎを聞いて駆けつけた母親に叱られるのであった。
☆彡
「……!」
「あ、純花ちゃんだ。やっほー」
翌日の昼休み。階段でばったりと顔を合わせた純花に、糸哉はいつも通り気さくに声をかけた。
「……あれ?何で牛乳瓶のカゴ一人で持ってんの?」
「あ、一緒に運ぶ人が今日休んでて……」
大舞学園中等部では給食が実施されており、献立には必ず瓶入りの牛乳がついてくる。
純花は今週、スチール製のカゴに入った牛乳瓶を給食室まで運び、食後は空き瓶を返却する当番だった。本来は二人一組で行う仕事なのだが、今日は相方が欠席してしまったらしい。
――よりによってこんな時に……何か気まず……。
純花は、空き瓶の詰まったカゴを両腕で抱えるようにして運んでいた。中身は既に飲み終えた瓶とはいえ、四十本近くもあれば相当な重さになる。
――学級委員長だから押し付けられたとかじゃないよね……?
その姿を見た糸哉は、僅かに眉をひそめた。
「空き瓶でも普通に重いでしょ。暇だし半分持つよ。いい?」
「ぇっ、あ……」
――でも用事あるんじゃ……ってさっき暇って言ってた……き、気遣いのプロ!
「ぁ、りがとう……」
「いえいえー。落としたら怖いしね」
――優しい……。えええどうしようどうしよう嬉しいけど怒られる……?
純花は表面上こそ平静を装っていたものの、内心は申し訳なさと歓喜とで叫び声をあげんばかりだった。
「……他の友達も部活の昼練とか委員会の当番とかでいなくて」
――それに頑張れば一人でいけなくもなかったし……。
「なら行きはどうしてたの?」
「行きは……ぉ、お兄ちゃんが手伝ってくれた……」
「声ちっさ。へぇー孝太にねぇ……」
「だって牛乳重いし制服で運ばせると目立つから友達には頼みづらい……」
「なら、あの後喧嘩とかしなかったんだ?」
「したよ!そんでママに凄い怒られて……」
「あちゃあ」
「だからお兄ちゃんに『手伝ってくれたことママに話したら多分機嫌治ると思う』って言ったらやってくれた」
「あははっ!いい交渉したねー」
深夜の兄妹喧嘩から一夜明けても、山根母の怒りは収まらなかった。孝太としても、このまま不機嫌が続くのは勘弁してほしかったのである。
「私とお兄ちゃんの喧嘩でママがブチギレるの意味分かんないんだけど……」
「まぁ……どっちの気持ちも何となく分かる上で言うけど、純花ちゃんが百%悪いワケじゃないから。多分お母さんの機嫌も今日で治るよ」
――多分深夜で面倒くさかったのと、どっちの味方しても恨まれるから理不尽に怒るしかなかったんだろうなー。
「やっぱお母さんにとっての幸せって、家族が仲良しでいることらしいからね」
人の機微を察することに長けた糸哉は、母親の心情を頭の中でなぞった。




