第205話『どうしてルゥーアは闘い続けるのか』
「PVPかよ……」
「これ負け確……?あ、でもマシンガンなら下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるって言うし……」
「アイツのミラクルショットで何回戦況が引っ繰り返されたか……」
銃での戦闘において――ホットは他メンバーにやや劣り、弱いと見られることが多い。だが時として奇跡的な腕前を何度も発揮するため、侮れない印象を与えていた。
「まだルゥーアの実力も知らないしな」
「テディや俺の技術コピーしてたら絶対無理なんだけど」
「でも見ろよアイツの目……死線くぐってきた奴の目ぇしてるぜ」
「そんなことないです」
「ブハッ!クッフフ……」
どちらが勝つのか三人にはまるで予想がつかない――そんなルゥーアとホットの勝負が、今まさに始まろうとしていた。
「それでは……『ニードルゲーム』スタート!」
「よーっし!」
そしてテディの開始の合図と同時に、ホットは勢いよく駆け出した。
――ルゥーアは……何となくこっちだ!
「…」
対するルゥーアはすぐには走り出さず、手にしたニードルガンの銃口を地面へと向ける。
――まずは銃の動作確認を……。
『パパパパパパパ!』
「わぁっ!?」
引き金を引いた途端、連続した銃声が森林に響き渡った。反動の大きさは予想以上で、ルゥーアの身体はつい後ろへ下がってしまう。
「ヤバ……」
ほんの数秒撃ち続けただけだというのに、着弾地点の地面には細長い針がびっしりと突き刺さっていた。その光景は、まるでまち針が大量に刺さった針山のようである。
「針は針でも、強度的にはウニの針に近い……?」
「さぁさぁ!ルゥーアが冷静に銃の分析を進めている一方、ホットは着々と索敵範囲を広げていくぅ!」
――いた!
銃声を頼りに走り続けたホットは、開始から僅か三十秒でルゥーアの背中を捉えた。
『パパパパパパパ!』
「っ!」
銃声に気づいたルゥーアは、咄嗟に近くの木の陰へと飛び込む。ほぼ同時にホットの撃った針が、彼が盾にしていた木へサクサクッと音を立てて刺さった。
「危な!」
「おっ、ルゥーア間一髪で回避!しかしホットも止まらない!」
両者は一本の木を隔てて睨み合った。ホットが攻勢に出ればルゥーアは遮蔽に身を潜め、ルゥーアが反撃に転じればホットもまた木の陰へ身を投じる。
『パパパパパパパ!』
『パパパパパパパ!』
そして二人は、制限時間が尽きるその瞬間までひたすらニードルガンを撃ち合い続けた。
「――はい!そこまで!」
「「っ!?」」
テディが終了の合図を送ったと同時に、ホットとルゥーアが構えていたニードルガンが消滅する。
「さぁさぁ……ブフッ!」
刺さった針の本数を集計する前に、テディは二人の惨状を見比べて吹き出した。
「あははははは!ルゥーア全身針まみれ……特に頭!ハリセンボンみたいになってる!」
「ホントじゃん……!ははははははは!」
「そんでホットは何でほぼ後ろ半身にしか刺さってないの!?」
「えぇ!?あれ!?」
「ハリネズミみたいになっちゃった……というか僕がしちゃいました……」
ルゥーアは頭のてっぺんからつま先まで針が刺さり、まるで全身が針で覆われた人間のような有様になっていた。一方のホットはというと、綺麗に後ろ半身へ被弾が集中している。
「さぁさぁ!『ニードルゲーム』では、刺さった針の本数が多い方が負けとなりますが……」
「ぱっと見じゃどっちが少ないのか分かんねーな」
「これ……どっちも同じくらい刺さってない?」
「ホットもワンチャンあるぞ!」
ホットにも勝ち筋が残っている――そのことに気づいた瞬間、勝負を見守っていた三人の空気が一変した。
「果たして結果は……」
「「…」」
「……ホット五十二本!ルゥーア四十九本!ということで……ルゥーアVSホットは、ルゥーアの勝ち~!」
「ウァーーッ!」
「やったーー!」
実力は拮抗していたが、惜しくも三本及ばず、勝負はルゥーアの勝利に終わった。
「ということで!『フーアの実力試し!レゾクラ四番勝負の結果予想クイズ』の正解は……『三勝〇敗一引き分け』でしたー!」
「ルゥーアすげー!」
「ガチったな」
「正解者ゼロなんだけど」
「畜生やられたぜ!」
「ありがとうございます……。僕の実力はこんな感じです」
仲間からの賞賛を受け、ルゥーアは控えめに喜びを噛みしめる。
――よしよし。ここで『これからもルゥーアをよろしくお願いします!!』みたいな字幕いれたら完璧……。
段取りを頭の中でざっと思い浮かべたテディは動画を締めようとしたのだが――
「てかここまで負けたんなら……テディも戦ったってよくない?」
「え?」
――ユイガの唐突な無茶ぶりによって、事態は思わぬ方向へと転がり始めた。
「いやユイガさん。テディは動画の収まりをよくしようと……」
「そうだそうだー。テディもルゥーアと勝負しろー!」
「何お前だけノーダメで終わるつもりだ?」
「シェン!何か互角に戦えるミニゲームねぇか!?」
「ちょ!?折角ふんわり和やかに終わろうとしたのに!」
『しばし待て』
「シェンも乗っからないで用意しないでー!」
勝負に敗れたホット、ユイガ、ナキは負けた悔しさをテディにぶつけるように盛り上がる。そこにシェンが悪ノリで便乗した結果、ルゥーアVSテディのおまけ試合が急きょ開かれた。
「――えー今回おまけとしてシェンが用意してくれたミニゲームは……題して!『ワンパンチゲーム』ー!」
「「いよっしゃあーー!」」
「何で皆そんなに元気なのさ!」
「撮影が始まってから今が一番声量出てた……」
舞台は、回答席ステージの前に用意された簡易バトルフィールド。テディに代わって、ホットがルール説明を読み上げる。
「えーと。クリックを連打するとパンチのパワーが溜まっていき、十秒後にお互い相手に向かってワンパンチを繰り出します!最終的にクリック数で相手のパワーを上回った方が勝ち!」
「連打ゲーかぁ」
「うーーん」
説明を聞いた二人は、それぞれ考え込むような声を漏らした。
「どうですかお二人は。自信のほどなど」
「ウチだと連打ゲーはユイガがダントツで、他は結構競る感じだけど……」
「テディは連戦するとすぐバテるしね」
クリック連打の回数を競うタイプのミニゲームでは、ユイガが頭一つ抜けている。残る四人の実力は比較的拮抗しており、誰が勝ってもおかしくない程度の差だった。
「まぁルゥーアが自信なさげな雰囲気じゃないってコトは……僕に敵うと思ってるんじゃない?」
「いやっ!自信は全くないですけど……でもやってみます」
完全なフィジカル勝負に引っ張り出された二人は――四人が見守る中、それぞれ利き手の人差し指を左クリックのボタンへと添えた。
「それでは『ワンパンチゲーム』……スタート!」
『カチカチカチカチカチ!』
『カチカチカチカチカチ!』
「うあぁぁぁぁぁ!」
「……っっ!」
開始と同時に、二人の指が猛烈な勢いで動き始めた。高速で連打されるクリック音が重なり合い、繰り出す拳にみるみるパワーが蓄積されていく。
「――二……一……ゼロ!さぁ結果は!?」
十秒間のカウントが終わった瞬間、二人は倒すべき相手へ拳を突き出した。
「喰らえっ!テディパーンチ!」
「いっけぇぇぇー!」
「おぉ……!」
「どうだ!?」
『ドドドドドドドド!』
金色と青色、二色のパワーオーラがバトルフィールドの中央で激突する。
互いの力が真正面からぶつかり合い、どちらも一歩も譲らない。観戦する四人も、どちらのオーラが相手を呑み込むのかと固唾を飲んで見守っていた。
「あっ……!」
「えぇ!?」
五秒経過しても、二人のパワーは衰える気配を見せなかったが――十秒後、青色のオーラが一瞬金色に押し負けた。
その隙を待っていたかのように、金色のオーラが一気に膨らんだ。ルゥーアは抗う術もなく、その輝きの中に呑み込まれていく。
『ドカァァァン!』
「うわ゙ーーーッ!」
「「ルゥーアーー!?」」
テディのワンパンチが直撃した直後、フィールド一帯が大爆発に包まれた。ほどなくしてルゥーアの死亡ログがチャット欄に表示される。
続いて、バトルフィールドに今回の勝敗と戦闘力が表示された。
「えぇ……ルゥーアの戦闘力百十一対テディの戦闘力百二十七……!?」
「圧勝じゃねーか」
「だから一瞬で決まったんだ……てかルゥーアも十分強いんだけど」
「十秒間に百二十七クリックだと!?テディやってんなぁ!」
四人が驚愕の表情を浮かべる中、テディは酷使した左手を振って笑う。
「……はい!テディ・ベア対ルゥーア・ドルフィン!テディ・ベアの勝ち~!でしたー!」
「完敗です……」
「いやー魅せちゃったねー!『諸君!これがリーダーの矜持である!!』ってね!」
勝利の余韻に浸るテディだったが、観戦していた四人の反応はどうにも釈然としないものだった。
「ルゥーア。多分もう一回やったら勝てるよ」
「えっ」
「この一回に全て注いでた感あるもんな」
「BO3やる?」
「いやBO5だろ!」
「はい終わり終わりーー!」
再戦を望む声が後を絶たず、四人は図々しくも動画を延ばそうとする。それをテディは強引に断ち切り、半ば無理やり終わらせたのだった。
BO3……Best of 3の略。最大3試合を行い、先に2勝した方が勝利。
BO5…… Best of 5の略。最大5試合を行い、先に3勝した方が勝利。




