第204話『ルゥーア・ドルフィン対これがプロ』
知識として蓄えたものを、ただ覚えるだけではない。
自分なりの技術として応用し、己のものにしていく――ルゥーアはそうやって未知のジャンルのゲームでさえも、着実に実力を伸ばしていた。
「じゃあ俺は、タンドリーのスキルを学習したルゥーアとバーチカルで戦ってたってコト……!?」
その言葉を聞いたルゥーアは、少しだけ申し訳なさそうに目を伏せる。
「あの時言えなくてすみません……でも僕は、お手本を見て覚えないと上達できないんです」
「まぁそれが一番の近道」
「効率的だな」
「これプロにとっては、これ以上ないほど最高に嬉しい視聴者だねぇ」
「やっぱルゥーアってヤベェ……」
解説や攻略動画を中心に投稿している『諸君!これがプロである!!』にとって、自分たちの動画が誰かの役に立ち、実際の結果へ繋がったという報告は――単なる『面白かった』という感想以上に大きな意味を持っている。
――それこそが、活動を続ける上での何よりの原動力だからねー。
これプロの動画を活動初日から一日も欠かさず追い続けてきたルゥーアは、紹介されたゲームを裏プロの報酬で全て購入しては実際にプレイしてきた。
――テディに誘われた時は『無理』が占拠してたけど……『嫌』じゃなかった。ホットさんを皮切りにどんどん六までの席が埋まっていって……もしもまた誘われた時『実力不足なので無理です』とか言って逃げるのはダサすぎる!
これプロの動画で得た知識を糧にしてルゥーアは力をつけていった。その成長こそが、動画への何よりの恩返しだったのだ。
「改めて……ルゥーアVSユイガはルゥーアの勝ち~」
「何で……何でッ!」
「や、やったー」
二回とも先にゴールへ到達したルゥーアは、悔しがるユイガの隣で遠慮がちに飛び跳ねた。
「ユイガさんよぉ!情けでチャンスもらった挙句この様かよ!恥ずかしいなオイ!」
「黙れぇ……」
「まさか本命二人がどっちも黒星になるとは……」
「所詮レゾクラだとこんなもんか」
「って、ホットとタンドリーはさも自分は勝ってますからみたいに言ってますが……」
テディが見透かすような笑みを浮かべると、ホットとタンドリーは綺麗に黙り込んだ。
「果たしてどうなっているのか!三番勝負の映像を……ポチっとな!」
映し出されたのは、レゾンクラフトに生成された湖畔。そこにはテディ、タンドリー、ルゥーアの三人が立っていた。
「ルゥーアとタンドリーにやってもらうゲームは……題して『チキチキ!サンマ釣り耐久レース』~!」
「釣り?」
「耐久?」
困惑する二人に、テディは釣り竿を手渡しながらルール説明を始める。
「この湖では様々な生物が釣れるんだけど、一定確率で釣れるサンマを釣った瞬間、体が爆発して死にます」
「「何で!?」」
「タンドリーがいるならチキンレースでしょ!ということで二人は一匹ずつ同時に釣っていって、先に死んだ方が負けです」
「なら……一回目で勝負が決まる可能性もあるってことですか?」
「ある。ゲームに運はつきものだからね!」
「これホット用のゲームだろ。マジかよ……何で俺」
チキンな一面もあるタンドリーと根っから臆病なルゥーアは、怯えながらも釣り竿を水面へ沈めた。
「さてさて。第一投はどうかなー?」
「っ!来た……」
最初に浮きが沈んだのは、タンドリーの釣り竿だった。
「…(ザパッ)」
ワンクリックで引き上げると――釣り針にはサンゴが掛かっていた。
「おかしいだろ!」
「タンドリー、第一投はセーフ!」
「何で湖なんだよ!一回見逃したけどやっぱ我慢できねーわ!別に海でもよかっただろ!」
「ってツッコミをタンドリーから聞きたくて……」
「キメェ……」
「……あ!」
「おっと、ここでルゥーアもヒット!」
――お願いお願いお願い……!
ルゥーアは心の中で必死に祈りながら釣り竿を引き上げる。釣り針に掛かっていたのは――サンドダラーだった。
「何ですかコレ!?」
「ウニの仲間だな。食用にならない方の」
「ウニ!?これウニなんですか!? こんな平べったいのが!?」
「あれ。ルゥーアは餌として認識してない生物には興味ないタイプ?」
「うっ。不勉強で恐縮です……」
最初の一投は、二人とも無事にセーフ判定だった。続いて二投目へと移る。
「一応ここでギブアップしてもいいけど……どう?」
「俺はやる」
「なら……僕も続けます」
「オッケー。じゃあ……どうぞ!」
二投目以降も、二人は順調に釣果を伸ばしていった。
サンゴ、サンサイフグ、サンゴアマダイ、サンドダラー――幸いにも、サンマだけは一向に姿を見せない。
そして迎えた四投目。タンドリーがフグの仲間であるサンサイフグを釣り上げる一方で――
「こ、これは……」
「ん?」
「な、何ですか!?」
――ルゥーアはまたしても、見覚えのない魚を釣り上げていた。
「サンノジ……?あぁニザダイか。時期と徹底的な下処理が必要だから扱いが難しい魚だな……」
「いつもながら何でそんなスッと出てくんの?」
「タンドリーさんの食材に関する知識が凄すぎる……!」
釣りが趣味の父親の影響を受けたタンドリーは、魚の知識もやけに豊富である。その食材に関する知識の深さには、他のメンバーも舌を巻いた。
「五投目……そろそろ潮時かもしれないけど、二人はどうする?」
「……やる」
「ハァ……ハァ……!」
「ルゥーア大丈夫そ?」
一投一投に全力で祈りを込め続けてきたルゥーアは、精神的にもそろそろ限界が近づいていた。
「……まぁ戦略的にもここでストップするのは全然アリだろ」
「そうなったら、タンドリーが五投目セーフだった時点で勝負決まるよ」
「っ……いえっ!やります!」
――でもこれでラストにする……!
「ルゥーアよく言った!」
「タンドリーを勝たせるなー!」
「お前等そっち側かよ」
回答席では、ナキとユイガもルゥーアの勝利を願っていた。
サンマを釣った瞬間、爆死する――そんな理不尽な運命に抗うべく、ルゥーアは意を決して釣り糸を垂らした。
「……!」
そして数秒後、先にルゥーアの浮きが沈んだ。
「頼むッ……!」
「あ」
テディの声に反応して、ルゥーアの目が釣り糸の先を捉える。
針に掛かっていたのは――サンマだった。
「ぇっ」
『ボカーーン!』
「ギャーーーッ!」
「「ルゥーアーー!」」
理解が追いつくよりも早く、ルゥーアの体が爆ぜた。幽体と化した彼の姿は、そのまま画面から消えてしまう。
「逝っちまったか……」
『ドプン』
「!」
そう呟いたタンドリーだったが、浮きが沈んだ音を聞いた瞬間、反射的に釣り竿を引いてしまう。
「……あれ?タンドリーが今釣ったのって……」
「あ?」
タンドリーが改めて釣り針を確認する。
その先でビチビチ躍っていたのは――近年、不漁が続いているはずのサンマだった。
『ボカーーン!』
「ぐわぁーーっ!」
「タンドリーさーん!?」
「あはははははははは!まさかのタンドリーもアウト!?」
爆発の煙が晴れた後、湖畔に残っているのはテディだけとなってしまった。
「……はい!ルゥーアVSタンドリーは引き分け!でした~!これで二勝〇敗一引き分けだね」
「マジか」
「引き分けって何!」
「予想できるかよ!」
「まさか五投目で同時にサンマ引いちまうとは……」
「思いませんでした……」
抗議や感想が飛び交う中、テディは最後の勝負の映像を再生した。
「さぁいよいよ最後の勝負!ルゥーアVSホットの戦いを……どうぞ!」
この結果次第では、ホットが事前に予想した『ルゥーアが二勝する』という予想が的中することになる。
レゾンクラフト内の森林バイオームへと移動したホットとルゥーアは、張り詰めた面持ちでテディの説明を待った。
「ルゥーアとホットにやってもらうゲームは……こちら!『ニードルゲーム』~!」
「……どっちが早くカップ麵作れるか勝負すんの?」
「それヌードルゲーム。レゾクラにカップ麵無いから」
「ぷふっ……ニードルゲームですね。針を使うんですか?」
テディは頷き、二人にゲーム専用の銃を手渡す。
「二人にはこの……銃弾の代わりに針が装填されたマシンガンで戦ってもらうよ。今回はどれだけ当たっても死なないけど、制限時間三分以内に刺さった針が多い方が負け」
「あぁ……避けつつ当てろってコト?」
「そ」
「弾は有限ですか?」
「無限に撃ちまくれるよ」
「分かりました」
ルール説明が終わると、ホットとルゥーアはそれぞれ森の中へ転送される。二人の間には、それなりの距離が置かれていた。
「他の三人がどうなってるかは知らんけど……ここからは遊びじゃ済まねーぜ!?」
「う、受けて立ちます!」
「この企画自体がお遊びだけどな」
「野暮なこと言わないでよ」
画面越しに火花を散らすホットとルゥーアを眺めながら、タンドリーが冷静にツッコミを入れる。
「勝負内容を聞いて三人はどう?」
「「…」」
テディがそう尋ねると、タンドリー、ユイガ、ナキの三名は一様に声を曇らせた。
PVPとは――『Player versus Player』の略。ゲーム内においてプレイヤー同士が対戦・戦闘することを意味する。




