第203話『ルゥーアの実力試し!』
三人が移動した場所は、フィールド前面に芝が敷き詰められた広大なゴルフ場マップだった。
「ルゥーアがナキに挑むということで……今回用意したのはこのミニゲーム!」
「ゴルフ対決ってか……!?」
「レゾクラってゴルフも出来るんだ」
「二人はリアルでゴルフの経験は?」
「「ない」」
「結構結構……なら実力は完全イーブンだね!ルールは簡単!先に一ホール取った方が勝ち!てことで先行はナキからどーぞ」
ゴルフとは――静止したボールをクラブで打ち、できるだけ少ない打数でコース上のカップへ入れることを競うスポーツである。
緑豊かな芝生に木々や池、砂地まで作り込まれたレゾクラ内の配布ゴルフゲームワールドは、まるで本物のゴルフ場にいるかのような臨場感を味わえるマップとなっている。
「おっしゃいくぜ!」
「が、頑張ります……!」
そんなリアルなゴルフ場を舞台に、仁義なきルゥーアとナキのゴルフ対決が始まろうとしていた。
「オラァッ!」
「おぉー!結構飛んだねぇ」
ナキが打った球が二百五十メートル先へ落ちた瞬間――
「うぉっ!?」
――彼は強制的にその落下地点へテレポートした。
「あ。言い忘れてたけど時短で、打った後はプレイヤーも球の落下地点へ転送される仕様だから」
「へぇ。楽でいいじゃねぇか」
「…」
――それってショットによっては……まぁ命まで取られるワケじゃないか。
ルゥーアの頭を不穏な考えがよぎる。だが彼は黙ってショットの準備に入った。
「よいしょっ……!」
「ルゥーアもナイスショット!」
一ショット目では二人共フェァウェイをキープし、ナイスショットと呼べる位置に球が落ちた。
「参ります!」
ゴルフの二ショット目以降は、ゴールとなるカップから一番遠い位置に落ちた方のプレイヤーから順番に打つと定められている。そのため、ナキより三十メートル後ろに落ちたルゥーアから二打目を打つことになった。
『カシュンッ!』
やや右に曲がった球は安定したコースの上に落ち、カップまで二百メートル先という場所まで落ちた。
「ルゥーア上手くない?」
「経験者……?」
「やってる?」
観ている側のホット、タンドリー、ユイガも、安定したルゥーアのショットに感心していた。そして画面の中のナキも負けじと二打目を放つ。
「「あっ」」
だがルゥーアを超える飛距離を記録したそのボールは、一直線に池へ。それとほぼ同時に、ナキ自身も強制テレポートによって池に落ちてしまった
「は!?ゴボゴボゴボ……!」
「あ、これマズいかも」
「え?」
「ナキも僕と同じで泳げない勢だ!」
「じゃあ死んじゃうじゃないですか!」
テディはレゾンクラフトでもカナヅチという設定を頑なに守っており、海を渡る際には必ずボートを利用する。
そしてミツバチがモデルのナキにも同じ縛りを課していた――というより、テディはわざとレゾクラでの泳ぎ方を教えていなかった。
「ナキ上がってこないんだけど」
「浮き方すら知らねーのか?」
「正規のゴルフゲームで人が死ぬことってあるんだ……」
いざとなれば泳げる三人が固唾を呑んで見守る中、イルカがモデルのルゥーアが迷わず池へ飛び込む。
そして、今にも力尽きそうなナキを無事に救出した。
「うぅ……」
「あ、良かった。ギリギリ生きてる」
「何も良くねぇよ!」
「怒鳴る元気があるなら大丈夫だ。いやー水に強いルゥーアがいてよかったねー」
「テディ……俺が溺れて死にかけてる時もテメェ黙って見てやがったよな?お前も落ちるか?あぁ?」
「ナキ!ぬいぐるみも水に大変弱いので!」
奇しくもペナルティエリアへ入ってしまったナキは、そこからも果敢にショットを重ねていく。
しかし、打つたびに着実に腕を上げていくルゥーアとの差はなかなか縮まらない。
「クソ……」
――ルゥーア上手すぎんだろ!これはもう……。
ゴルフスコアは、コンドル>アルバトロス>イーグル>バーディー>パー(基準)>ボギー>ダブルボギー>トリプルボギー>クアドラブルボギーの順で成績がつけられるが――果たして。
「それでは結果発表……ルゥーアがパー、ナキがダブルボギーということで、ルゥーアVSナキは……ルゥーアの勝ちー!」
「やったー!」
「畜生……!敗因は池ポチャかよ!」
ここでルゥーアVSナキの映像が終了。すると機を待っていたかのように、ホット、タンドリー、ユイガがナキの元へ一斉に押し寄せた。
「ナキ負けちゃったのー!?」
「四天王の中でも最弱か?」
「俺の予想早くも崩れたんだけど!」
「あーあーうるせぇ!お前らの結果次第ではマジ覚悟しとけよ……!」
「どうだいルゥーア見返してみて。感想とかある?」
「ゴルフなんて生まれて初めてやったんですけど……これなら僕、これプロの中で随一を取れるかもしれません!」
「それはどうかな?」
「甘いんだけど」
「なっ……!」
思わぬところから飛んできたホットとユイガの言葉に、ルゥーアが目を丸くする。
「あはは!スポーツゲームはホットとユイガもかなり上手いからねー。今度六人でゴルフ対決しよっか」
こうして気を取り直し、第二試合――ルゥーアVSユイガの戦いが始まった。
「ルゥーアとユイガにはこのゲームで勝負してもらうよ!」
三人が移動したステージは、レゾンクラフトの落下型アスレチックマップ『バーチカル』――高所から飛び降り、障害物に当たらず最下層にある『一マスの水』の着水を目指すゲームだ。
落下中には壁から突き出たブロックや複雑な地形が待ち受けており、それらを空中制御で回避する必要がある。
「題して『フォールゲーム』ということで……四種のバーチカルマップがあるこの第四ステージを先にクリアした方が勝ち!」
「アスレ対決!?」
「何で俺じゃないんだよ!」
「ふっ……タンドリーユイガと同じこと言ってる」
画面では、ユイガもゲーム選択を間違えているのではないかとぶつぶつ文句を垂れていた。しかしテディは、そんな声など毛ほども気に留めない。
「僕の見立てだと、ルゥーアのアスレ力はユイガと競るから。ここで実力差はっきりさせておこうよ」
「そういうことなら……」
「よろしくお願いします!」
二人は合図と同時にスタートを切り、森林をモチーフにした四種類のバーチカルマップを次々と攻略していく。
「にゃぁーっ!」
「痛っ!えっ!?」
「これムズいんだけど!」
「……ここですっ!」
建築物に激突しては即死し、落下しながら次のルートを見極める。一度失敗するたび二人の動きから無駄が削ぎ落され、少しずつ洗練されていった。
「……俺このバーチカルやったことあるな」
「あ、タンドリー既プレイだった?まぁこれもゴルフマップと同じで、無料で配布されてるマップをお借りしたからね」
そして後に投稿された動画では、画面下に『皆も遊んでみよう!』というテロップが表示された直後。
テディが待つゴールへ、一人のメンバーが降り立った。
「……よっし行けた!」
「はい、ユイガもクリアー!早かったね」
「……え?『も』?」
自分が先にゴールしたと信じ切っていたユイガは、恐る恐る背後を振り返る。
「……えーっと」
そこには――既にゴールしていたルゥーアの姿があった。
「今回は僕の勝ちのようで……」
「チートだぁぁぁぁ!」
ユイガの絶叫が響く。
「もっかい!ワンモアワンモア!」
「えぇー。ルゥーアVSユイガはルゥーアの勝ちで決まったのに?」
「どーせナキも舐めプ(レイ)した挙句みっともなく負けて泣きの一戦頼んだんでしょ!?俺も俺も俺も!」
画面では、ユイガが必死になって再戦を要求しており――
「ユイガコラァ!」
「ただの交渉なんだけど!?」
――回答席では、激怒したナキが謝る素振りすら見せない彼と喧嘩を始めていた。
「まぁまぁ。ユイガをボコすのは後にして。まだ続きがあるから見てよ」
映像ではユイガに甘いテディとルゥーアが、武士の情けのつもりで再戦を受け入れていた。
「ユイガだけズル……」
「これで負けたら本当に恥ずかしいな」
二人が次に挑戦するのは、海をモチーフにしたステージ6だった。
「えっルゥーア……」
「……!」
「さらに上手くなってねぇか!?」
同時に映し出された二人の視点を見て、ホット、タンドリー、ナキが揃って驚愕する。
先ほどまでとは動きがまるで違った。ルゥーアは初回の挑戦で掴んだものを即座に生かし、ずっと少ない挑戦回数でバーチカルを次々とクリアしていく。
「タンドリーさん直伝!バーチカル攻略のコツを意識してますから!」
「何ッ!?」
「そう!ルゥーアの二つ名をつけるとしたら――『高度な学習イルカ』!これプロ全員のテクニックを現在進行形で習得中なのさ!」
「そんな大層なもんじゃないんですけど……現在投稿されているこれプロの動画……全千百五十二本全て視聴済みです!」
「ヤバ!」
ルゥーアは気恥ずかしげに微笑し、落下の最中に驚くべき事実を明かした。




