第202話『ルゥーアとナイア』
撮影終わり、ホットとタンドリーはずっと胸の内に抱えていた疑問をついに口にした。
「え、ちなみにさ。裏プロのナイアもイルカなんだけど……」
「同一人物か?」
「えーっと……」
ルゥーアの加入に際し、遥――もといルゥーアがテディに頼んだことが一つあった。
『表では、裏プロのナイアとこれプロの新メンバーは別人ってことにしてほしいです』
『ほぉ』
名前の統一は、後ほどテディから意向を聞くつもりでいた。しかし本人の方から、変更したいと申し出が来たのだ。
――まぁ遥の性格を考えれば何となく察してたけど……。
テディはそう思いつつ、とりあえず話を聞く姿勢を取った。
『でも今後、絵を使うゲームに誘われたら優先的に参加メンバーに入れるよ?』
『それは多分大丈夫です。作画なんていくらでも変えれるし……』
『おぉ流石プロ……。そういうことなら、今度は『これプロのメンバー』として命名し直さないとね』
そんな具合に、テディはあっさりと要望を受け入れた。
そして直感的に与えられた新たなキャラクターネームが『ルゥーア』である。だがその事情を知らないホットとタンドリーからすれば、当然ながら疑問は残る。
「ナイアは裏プロで、僕は……」
「さっき確認したんだけどさ。スカイコードのフレンドも……ナイアが消えてルゥーアになってんだよ!」
「うっ」
「えぇ。サブアカウント作ってなかったの?」
「だって僕、スカイコードはこれプロの人たちとしか使ってなかったし……」
「あちゃあ」
「ならもう決まりだな」
ホットとタンドリーに逃げ道を塞がれ、ルゥーアは言葉に詰まる。
――他の三人は……助けてくれないよねぇ!
「ナイアは……その……っ、し、死んだというか……」
「「死んだ!?」」
「じゃあもうナイアのイラスト見られないの!?」
「いや、たまに復活するというか……」
「なにそれ」
「……ホット。もう分かっただろ」
「何が?」
ここで助け舟を出したのは、意外にもタンドリーだった。
「ネットの世界でも、名前の一つや二つ使い分けるものなんだよ」
「あぁ……」
「はは。タンドリーが言うと説得力あるなぁ」
タンドリーもかつては、らむらす視聴者としての顔とこれプロとしての顔を使い分けていた。そんな彼の言葉を聞いて、ホットもようやく納得する。
「ナイアの声は表では出してないし、絵を描くゲームの時だけ気をつければまぁ……視聴者も核心には至らないんじゃない?」
「疑惑は残るだろうな」
「何でルゥーアもイルカにしたの?」
そこへトイレから戻って来たユイガが素朴な疑問を投げかける。
テディは過去の定期配信でナイアについて触れた際、彼のことを『絵が描けるイルカ』と紹介していた。そのためナイアの種族がイルカであることは、視聴者が知る数少ない情報の一つだった。
「そりゃールゥーアはイルカじゃないと!本名聞いた時からもうそれだけは譲れなかったんだ……!」
「……あ、ルゥーアも名前から種族決められたんだ」
「そゆこと。これでようやく念願の六人実況ができる……!感無量だよ!」
「テディ最初から六人組ゲーム実況者になりたいなりたいって言ってたから……」
「ずっとロクラメン羨ましい羨ましいって言ってたね」
よよよ……と泣き真似をするテディを、ファン上がりのユイガとルゥーアは慈しむような眼差しを向ける。
「何でそんなに六人に拘ってんだ?」
「「……!」」
グループの人数について尋ねたのは、同じくトイレから戻って来たナキだった。ホットとタンドリーもあえて今まで聞かずにいただけで、その答えにはしっかり関心を寄せる。
「最近はマルチプレイゲームも増えてきたからね。四人だとギリギリだし、五人だとチーム戦になった時に一人あぶれるから……偶数の六人がちょうどいいなーって。昔の六人組の実況者グループを見てそう思ったんだよね」
「昔の?」
「うん。とっくの昔に解散してて名前も忘れたけど」
「じゃあ今後メンバーが増えることはないの?」
「皆と同じくらいの縁があったら……?成り行きだねー」
その返答をもって、この話はひとまず落ち着いた。
☆彡
数日後――五人は改めて、レゾンクラフトの世界でルゥーアを囲んでいた。
「警察?」
「いえっ。これプロ村の警備員です!施設警備、交通警備、輸送警備から身辺警備まで。一般市民と同じ範囲で安全を守ります!」
「おぉー」
一同から感心の声が上がる。
ルゥーアの衣装は、ネイビーを基調としたフォーマルなスーツだった。青いネクタイを締め、胸元と同色の制帽には金色の竜のワッペンがあしらわれている。モデルはバンドウイルカで、メンバーカラーは青色だった。
「ユイガ、ナキと来てマトモ枠のルゥーア……テディ調整した?」
「ううん。これが運命……ってね!」
ロマンティックに言い切ると、テディは頭にクイズ番組用の帽子を被る。
「今回はクイズ企画!題して『ルゥーアの実力試し!レゾクラ四番勝負の結果予想クイズ』をやっていきたいとー!」
「お」
「思い……」
「ます……?」
「いやちょっと待てや!」
いつもなら綺麗に揃うはずの『思います!』という掛け声が、今回は見事なまでにちぐはぐだった。
「今からルゥーアには、ホット、タンドリー、ユイガ、ナキと、レゾクラ内で一対一の勝負をやってもらうよ。君たちにはその勝敗――つまりルゥーアが何勝するのかを予想してもらいます!」
「だから俺たち回答席に座らされてんのか……」
タンドリーが三人称視点に切り替え、周囲を見渡す。
これプロ村の外れに建てられたクイズ番組用のセット。建設を担当したのは当然ナイア――もといルゥーアだったが、誰もそれには触れなかった。
「テディはやらないの?」
「僕は司会者だから」
「尺の都合……」
「ユイガ!それ以上言うんじゃねぇ!」
「え。じゃあ僕は、自分でこの四人相手に何勝できるか予想するってこと……?」
「イクザストリー!」
「0勝に決まってるじゃないですか!」
ルゥーアは首を横に振りながら、露骨に後ずさる。
「無理無理無理!ミラクルのホットさんにアスレ猛者のタンドリーさん、高エイムのユイガさんに対人戦S級のナキですよ!?僕が逆立ちしたって叶いっこな」
「ガチでやっても?」
「…」
テディの笑顔が、ほんの少しだけ圧を増した。数秒の沈黙の後、ルゥーアは無言のまま回答パネルへ手を伸ばし――『四勝』と入力した。
「早速パワハラしてる!」
「リーダーが率先して脅すな」
「ふーん?ルゥーアは全勝する気でいくんだー。へぇー」
「いいぜ……その心意気買ってやんよ!」
「あ、勢いで予想しちゃったんですけど……勝負の内容は何ですか?」
「それはまだ内緒」
他メンバーも続けて回答し、ホットは『二勝』、タンドリーは『四勝』、ユイガとナキは『一勝』と予想した。テディは各々の回答を見比べ、司会らしくホットから順番に焦点を当てていく。
「ホットは何で二勝に?」
「ルゥーアってレゾクラ歴長めなんでしょ?なら結構実力あると思うんだよね……。だから少なくとも引き分けには持っていくんじゃないかと」
「堅実な予想ですねー。実を言えば、僕も割とその予想がアツいと思っております!続いてタンドリーは?」
「ルゥーアが四勝するって言うなら四勝するだろ」
「タンドリーさんっ……!」
――その期待はちょっと重い!まだ一戦もしてないのに!
ルゥーアの顔が引きつる。嬉しさと重圧が胸の中でせめぎ合い、わずかにプレッシャーが上回っていた。
「おーっとタンドリー!ここでルゥーアに全振りの信頼を寄せていく!」
「絶対考えんの放棄しただけ……」
「絶対それだな」
「オイ」
「と、タンドリーに対して信頼ゼロのユイガとナキは何故一勝に?」
「俺はルゥーアはホットにだけ勝つって予想だけど?」
「え?」
「えっ」
「どうせアレだろ?レゾクラに自信ありげのタンドリーだけ負けて、他三人が勝つ流れになんだろ?」
「テディ。今からこの害虫駆除するからタイトル名を三番勝負に変えてくれ」
ホットとルゥーアが同じタイミングでユイガに注目する傍ら、タンドリーは鼻で笑うナキに鉈の切っ先を向けた。
「はいはいはい。皆落ち着いて」
テディは話が脱線する前に、さっさと最初の勝負の準備に入る。
「ここからは一旦録画を止めて、全勝負が終わった後、結果を皆で見ていく流れにするよ。最初はルゥーアVSナキ。二人は別マップに移動して……他の皆は呼ばれるまで自由に過ごしててー」
「「はーい」」
ここで動画にはカットインが入る。そして四勝負の録画の編集後、六人は再びクイズセットへ集結した。
「てことで!全勝負が終わりましたー。結果発表のお時間です!」
「「うぇーい」」
「皆どうだった?」
「…」
「……まぁ」
「結果、見よっか」
「そうだな」
「お願いします」
「ふふふふふふ!皆の微妙な反応が聞けて先生とっても嬉しいです」
結果発表前のコメントをもらい、テディは早速最初の勝負の内容を画面共有で映し出した。




