第201話『トゥーゴーベンテディソイウィズエクストラハニーソースエクストラ抹茶ソースエクストラベリーソースエクストラホットこれプロラテマイブルータンブラー』
『KP's Coffee』での業務は、ホール担当のユイガまたはナキが注文を受けるところから始まる。
客はコーヒー・エスプレッソ・紅茶・デザートドリンクなどから商品を選ぶ。さらにサイズやホット・アイスの選択、ミルク・シロップなどを細かくカスタマイズした注文をした後、注文番号を発券して席へ向かう。
その注文をキッチン担当のテディとタンドリーが正確かつ素早く調理し、軽食やスイーツならショーケースから取り出してお盆に載せる。完成した番号の商品をホール担当のユイガかナキがテーブルまで運べば、ひとまず一件が成立する。
「ハァ……ハァ……」
ホットは現在、注文の品を作ってテイクアウト用の袋に入れ、窓から手渡すドライブスルーの対応をたった一人で任されていた。
「ホット一旦ピンチか……!?ホールの二人どっちか援護いける?」
「「無理」」
「うぇぇぇぇぇまた客帰ったぁぁぁ」
「ホット泣いちゃった……ごめんもうちょっと耐えて!」
ただし客を待たせすぎれば帰ってしまい、注文を間違えれば低評価となる。
提供までに時間がかかりすぎて氷が溶けたり、ホイップクリームの品質が落ちたりしても低評価扱い――とにかく時間との勝負である。
「レジの行列が途切れないんだけど……バグ?」
「オイ実質ホール俺しかいねぇぞ!キッチン援護しろ!」
ホールの仕事はレジだけではない。客が帰った後には食器やゴミの回収があり、食器は食洗機へ投入する必要がある。
「ブンブン羽音うるせーなこっちだって余裕ねーんだよ!あと回収した皿をその辺に置くな!」
「あー僕が食洗器入れるから!ごめんホット……骨は拾うからね……!」
キッチン側も調理だけでなく材料の補充や在庫管理・仕込みなど、やることは山ほど存在した。
そんなこんなで――過去最低レベルの低評価を叩き出しながらも、収益面は黒字を達成する。
「アァ……ウゥッ……」
「飲食店 火災 バレない……」
どうにか営業を終えたホット、ユイガ、ナキは、スタッフルームの机に突っ伏していた。
「畜生……!忙しい云々よりテディとタンドリーが注文ノーミスで今もケロッとしてんのが一番ムカつくわ!」
疲労困憊のナキは勢いよく立ち上がると、ホワイトボードの前で余裕を漂わせるテディとタンドリーを指差した。
「やー諸君!これが『ティーコーヒーショップ・シュミレーター』の『津波』である!!恐ろしいねー!」
「こんなシミュレーションで重篤患者になるな。現実のピークはこんなもんじゃねーぞ」
『津波』ではホールの人数に対して客やドライブスルーの注文が多すぎるため、どうあがいても完璧な接客が難しい状況に陥りやすい。
一度満席になると、それが永遠に解除されないかのような勢いで客が押し寄せ、注文も次から次へと積み上がっていく。しかも一人の客が二つ三つと注文を重ねることも珍しくない。
そのため、跳ね上がった難易度にホット、ユイガ、ナキの三人はすっかり消耗してしまったが――
「脳汁が止まらない……!」
「逆にハイになってくるよな」
「「へ、変態だ!」」
――テディとタンドリーは、むしろこの忙殺される状況にある種の興奮すら覚え始めていた。
「何か二人とも楽しそう……」
「テディ&タンドリーゲー(ム)なのがおかしい!俺もミスで怒鳴り散らしたいんだけど!」
「何だァ?まさかキッチンの方がホールより楽勝だってのか!?」
「なワケねーだろ」
「どっちもどっちじゃない?」
高難易度ゆえの忙しさと、マルチプレイならではの楽しさから完全にゾーンへ入っているテディ。
飲食が絡むとアクションゲーム並みのポテンシャルを発揮するタンドリー。
この二人のキッチンコンビは、横文字だらけのカスタマイズ注文をここまで一度も間違えていなかった。
「化け物……」
「シゴデキすぎてキモいんだけど……」
「引くわー」
「あはははははは!」
「何でだよ」
難易度『津波』になってから、明らかに間に合わない注文は早めに切り捨てて調整しているが――それでも飛ばした注文はごく僅かだった。
「二人が出来すぎるから客の回転率が上がって一生ラッシュ状態なんだけど!」
「いいじゃん」
「何もよかねぇ!ホールの大変さナメてんじゃねぇぞ!」
「頭が高ぇな……本来フード提供もそっちの役目なんだが」
「だとコラァ!」
「喧嘩やめて!だったらナキは俺とドライブスルー変わる!?」
「だとコラァ!ホットが無理な仕事をこの俺ができるワケねぇだろ!」
「開き直ったー!」
自分より有能なメンバーに憤慨するユイガと自虐でブチギレるナキ――この二人は横文字の注文がてんで読めず、早々にホール固定となった弱小コンビである。
「でもまぁ、ドライブスルーがワンオペなのは『津波』じゃ厳しいかもね。実際、今日のミスの五割はホットが生んでたし……」
「自分、もうやれません……」
「だからもう一人召喚するかー」
「「え?」」
「入っていいよー」
テディが外に向かって声をかけると――『ガチャッ』とスタッフルームの扉が開き、黒地のエプロンの下に青いシャツを着た青年が入ってきた。
「「誰???」」
「では……自己紹介をどうぞ」
「……ルゥーア・ドルフィンです!この店の警備員だったところをテディに引っ掴まれました。若輩者ですが、今日からよろしくお願いします!」
「「ルゥーアーー!!」」
「わぁーーっ!」
いち早く反応したユイガとナキがルゥーアに駆け寄って抱きつく。
「……え?あれ?」
――この声って……。
「…」
――ルゥーア・ドルフィン……あ?ナイアもドルフィンじゃ……ってか本人……?
対して、これがガチ初対面となるホットとタンドリーは明らかに困惑していた。
――二人とも困惑してる……でも我慢して!視聴者はナイアの声知らないから!
テディは二人の本心を察しながらも、素知らぬ顔で実況を進めていく。
「ななな何と!この動画から新メンバーのルゥーア・ドルフィンが参加してくれましたー!」
「この動画をご覧になっている諸君!そして先輩方!六番目のルゥーア・ドルフィンです!よろしくお願いします!」
「ホホホントにぃ!?」
「マジか」
「「よいしょーーー!」」
こうしてゲーム最大人数となる六人が揃い、『KP's Coffee』は二日目を迎えることとなった。
ルゥーアはテディの指示通りドライブスルーを担当する。すると早速、好奇心旺盛なホットから質問攻めに遭った。
「ルゥーアはこのゲームやったことあるの?」
「今日インストールしたばかりで……でも、外で交通誘導しながら皆さんの仕事を見てたので大体頭に入ってます!」
「えっ」
「キッチンに窓ねーぞ。何でコーヒーマシン使えてんだよ」
実は五人の撮影が始まった時から、ルゥーアはテディ視点の画面共有で『ティーコーヒーショップ・シュミレーター』のプレイを視聴していた。
そのため、既に基本的な操作方法や仕事の流れは頭にしっかり入っていたのである。
「ホットさん!このシェイク、キャラメルソースがエクストラなので足してください!」
「危なっ!ナイス!」
「テディこれ14番のミルクレープ!」
「ついでにありがとうー!」
「おいホール!レジ並んでるぞ!」
「あ、僕行きます!」
「ルゥーアお前っ……!」
「マジ神店員なんだけど!」
初心者には見えないルゥーアの動きに助けられ――開店と同時に始まった最初のラッシュを、注文ミス一つ出さずに乗り越えてしまった。
「絶対ルゥーア警備員からカフェ店員に転職した方がいいだろ」
「初プレイで『津波』乗りこなしてるマジ?」
「ユイガとナキの六千倍使える」
「ホント楽だったっ……!こう振り返るとドライブスルー俺一匹とかホント終わってた……!」
「イルカの学習能力恐るべし……!またとんでもない期待の新人をスカウトしてしまったみたいだねぇ!」
「いやっ……皆さんも十分凄いですよ!」
次のラッシュが来るまでの束の間の余白で、メンバーはこぞってルゥーアを讃える。
『ブシャッ!』
「……あっ」
「あ」
「はいー!ルゥーアがスチームミルク零したー!」
「おいルゥーア!」
「はい食品ロスー!」
「すぐ作り直しますー!」
「あははははは!」
だが期待の新人ならぬ新イルカは、褒められた途端に手元を狂わせるという、決まらない一面までしっかり披露した。
「これカットだけど、いつ投稿すんの?」
「タンドリーと同じ六月一日にする!分かりやすいから」
「三週間後か……」
「うわ楽しみー!」
「ヤベェ……うっかり口走ったらゴメンな」
「生配信の時はマジで気をつけてください!?」
こうして六人で挑んだ初めての実況動画は、かなりの再生数を叩き出したのだった。




