第18話『脱出せよ!忍兵鬼ごっこ!! 前編』
5人の実況者が好き勝手喋ってます。出来るだけ分かりやすくしましたがフィーリングでどうぞ。
自転車で帰る途中、敦斗は横目で糸哉の顔色を窺う。
「あれ無理なのって甘党界隈では普通?ヤバイ?」
「いや僕が悪い……甘口とハヤシライスに甘えてたから」
ぐったりとした雰囲気をまとった糸哉がどこか新鮮で、敦斗は思わず頬を緩めた。
――昨日のコラボ配信とかめっちゃカッコよくてこれプロだったのに。バターチキンカレーで撃沈してんのおもろ。
「幸樹には『辛いの苦手だけどこのバターチキンカレーは食べれた』って言うから」
「大ウソじゃん」
「どこが。ちゃんと完食したでしょ」
そして二人は帰宅後すぐ撮影し、敦斗は米とぎ離席から戻った糸哉に再度質問する。
「昨日のらむらすさんとこせゆ隊のコラボ配信ホントに動画化しないの?めっちゃ面白かったのに」
「めっちゃ面白かったからこそだよ。特に主催者のらむらすは余すとこなく動画化するだろうし。僕視点の動画はアーカイブ限定にして有料会員の得も積んでかないと」
「ふーん……」
敦斗は唇を尖らせ、人生初コラボ配信――『レゾクラ忍兵鬼ごっこ』をどこか夢見心地で思い返した。
☆彡
アクション脱出ゲーム『忍兵鬼ごっこ』――レゾンクラフト内で開発された、らむらす考案のオリジナルゲームである。
舞台は世にも恐ろしきからくり兵士に占拠された城郭。
参加人数は五~五十人。プレイヤーは忍者とからくり兵士、二つの陣営に分かれて戦う。
◆忍者(五~四十九名)
目的……城郭内を探索して必要なアイテムやギミックを解除し、からくり兵士から逃げつつ宝物庫にある宝を手に入れる。
ただし宝物庫へ行くためには各階層に散らばったキーアイテムを集め、協力行動を前提とした仕掛けを解除しなければならない。
◆からくり兵士(一~二名)
目的……できるだけ多くの忍者を捕まえて地下牢へ送り込むこと。忍者を見つけたら容赦なく追い詰めて拘束するだけ――と聞こえは単純だが、事前にマップの構造を理解しておくことが前提となる。
◆地下牢について
忍者が捕まると、地下牢のアスレチックマップへ強制移動する。
このアスレを突破できれば何回でも復帰可能。ただし、失敗し続ければゲーム終了まで地下牢に閉じ込められてしまう。
◆ 勝利条件
・忍者側……あくまで個人戦のため、制限時間内に宝を持って脱出すれば勝利。
・兵士側……制限時間終了時、地下牢に捕まえた忍者が全体の八割以上で勝利。
今回の参加メンバーはらむらすとこれプロ。そして大手三人組ゲーム実況グループ『こせゆ隊』から『りょくおー』と『まくれな』が参加している。残る四十五人は全てらむらすの視聴者だった。
「もう音入ってる?」
「あ、これプロは今つけました!」
「はいはっ……ヘァックシュン!!」
「……クッ。視聴者諸君!今夜はりょくおーのくしゃみから始まって参りました!」
「よいしょー!」
「ふぁーーあ」
「らむらす欠伸ぃ!これプロが上げたテンション下げんな!」
「まだ二十時ですよお爺ちゃん?」
実況者たちは待機場所である和室の端に集まり、新顔のホットを囲む。
「はじめましてー。こせゆ隊ですー」
「前々から名前は聞いてましたよ!」
「!」
――わー動画で見た人だ!俺も『りょくおーさん、まくれなさん初めまして』って挨拶……!
ホットは緊張を押し隠し、そつのない挨拶をしようとしたが――
「よろしくお願いします!りょくおーさんまくれさん……」
「は?」
「えっ」
「え?」
「はい?」
――肝心な言葉が抜けてしまった。
「アハハハハ!『りょくおーさん、まくれなさん』が『りょくおーサンマくれ。さん……』になった!」
「ハハハハッ!さん……て何?三匹?」
「りょくおーサンマくれ三匹?」
「ッフフフフフフ!じゃあお前今日『サンマくれ三匹』やん」
「あ、ホットさん僕のことはサンマと呼んでください」
「失礼いたしました……!じゃあサンマさんで」
「まずいですよ!」
「ホットー?本当にやめろー?」
オープニングトークもそこそこに、最初のからくり兵士はらむらすの視聴者がやることになった。
「ホットはルール分かる?」
「はい!ちゃんと予習してきました」
「偉っ!」
「じゃあテディの初体験も見た?」
「りょくおー!?『忍兵鬼ごっこ』が抜けてますよ!気づいて!」
当然ホットはらむらすチャンネルに投稿されているテディの『忍兵鬼ごっこ』初見プレイ動画を視聴していた。その内容が……。
――らむらすが張り切って先導してコツとか裏ワザとか教えたのに、テディがらむらすを見捨てて初脱出したやつ……。
「もうこれプロには二度と教えない」
「フッ。拗ねんでもろて」
「そうだよ。ホットは僕と違うから」
「ガチ?ホットだけは違う?俺の味方?」
「……あ、この人!前らむらすがパワハラしてた人だ」
「おい!」
「アハハハハ!ホットらむさんの扱い分かってるやん」
ホットがアヒルスキンのらむらす視聴者に関心を向けると、こせゆ隊は揃って爆笑する。少しだけメンヘラ化が進んだらむらすは、勢いに任せてスタートボタンを押したのだった。
☆彡
城壁の影には闇よりも濃い気配が溜まっている。ただ今潜入中の城はただの建造物ではなく、侵入者を拒む意思を持った巨大な防衛施設だった。
各自で一階に配置されている木箱を開けまくり、二階に通じる扉の鍵を探す。その音が罠の作動音にも敵兵の足音にも聞こえ、忍者であるホットの背筋を冷たく撫でた。
姿を見せぬ敵が、確実にこちらの動きを把握している――そんな確信だけが、重くのしかかる。
「!」
そんな緊張感が漂う中でも、ホットの豪運は健在だった。一階の探索中、五本ある鍵のうち二本を立て続けに発見する。
「鍵二本あった!」
「ナイスナイス!誰か扉見つけた?」
「右端の階段!ホット行け!」
「オッケー向かいます!」
――何か順調じゃん?
ホットの気が緩んだ刹那、脇の通路に異変が生じた。
『…』
――え?
重厚な鎧に身を包んだからくり兵士は、一見すると鈍重な置物のようだった。だが動き出した瞬間、その印象は裏切られる。鎧の重みをまるで無視したような疾走――それは生身の兵よりも速く、迷いも慈悲もなかった。
「ポゥ!!」
「ぶはっ!えぇ!?」
「ホットー!?」
「ジャイケルマクソンさん!?」
「ホット兵士に会った場所教えて!鍵が近くの木箱に湧く仕様だから!」
ホットが甲高く叫んですぐ、全体チャットに『Hot_KPは地下牢に送られた』と表示される。即座に察知した実況者たちは思い思いのリアクションを返した。
「らむた。ジャイケルマクソンて誰?」
「りょくおジャイケルマクソン知らんの?あのキングオブポップダンサーを?」
「え。ダンサーなん?ジャイケルマクソン」
「超有名なエンターティナー、ジャイケルマクソンをご存じでない?」
「まくれな知ってんのマジ?そんな有名なんか……ジャイケルマクソン」
「あれっ。ジャイケルマクソンさんってアーティストじゃなかったっけ」
「ダンサーでエンターティナーでアーティスト……!?だからジャイケルマクソンて誰!?教えてテディ先生!」
「シンガーソングライターでポップの帝王だよ」
「いや情報過多ぁっ!?アゥ!!」
『Ryokuoは地下牢に送られた』
りょくおーが廊下に出た瞬間、目の前にいたからくり兵士に殴られ――独特な高音の叫びに四人は爆笑した。
「ちょっと似てた……!」
「りょくお分かってるやん。ジャイケルマクソン」
「なーんだ。あえて知らないフリしてたのか」
「ちょアスレできない……あ。りょくおーさんどうも」
「もおぉぉぉぉ!!」
今回の企画で視点配信しているのはらむらすとまくれなとテディ。なのでりょくおーとホットは地下牢のアスレチックマップをクリアしない限り、画面に姿を映せない立場に置かれていた。
――しかも別の場所にいても通話はそのままだから……!
「らむさん二階行かへんの」
「それはまくれなが古いね」
「じゃ、兵士一階に連れて来るねー」
「おい馬鹿テディやめろ!」
「僕もいるから!って本当に来たんですけど!?」
「…」
――あっち大変そう……。
ホットは少しだけ疎外感を覚えたが、口数を減らしてアスレチックに集中した。
二階はダッシュ禁止エリアで、少しでも走れば壁から矢が放たれる。木箱から五本の鍵を探す点は変わらないが、忍者たちはより厳しい状況の中でからくり兵士から逃げ回ることになった。
「よし復活した!」
「え!?」
りょくおーはらむらすと古くからの付き合いがあり、『忍兵鬼ごっこ』の参加経験も豊富である。地下牢アスレチックを何度も経験した彼と違い、ホットは今日が正真正銘の初挑戦だった。
「ホットどう?」
「え、このアスレ難しくない?」
――ヤバイそろそろ復帰しないとコメントで叩かれる……!?
同じポイントで三連続ミスをしたホットは、テディに進捗を聞かれて内心大焦りしていた。
それぞれの呼ばれ方
テディ:全員同じ。
ホット:まくれな……ホットさん。それ以外……ホット。
らむらす:りょくおー……らむた。まくれな……らむさん。それ以外……らむらす。
りょくおー:ホット……りょくおーさん。らむらす……りょくお。それ以外……りょくおー。
まくれな:ホット……まくれなさん。それ以外……まくれな。
一人称『僕』……テディ・まくれな。 それ以外……『俺』




