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諸君!これがプロである!!~ゲーム実況者の日常~  作者: 椋木美都
中学二年生編

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 第198話『家入遥とテディ』

そして遥の学校が春休みに入る直前。ゲーム画面を眺めていた姉がふと思い出したように口を開く。


『えーてかさぁ、見るだけでいいならゲーム実況とか配信見ればよくない?』


『?』


『そういえば遥が動画サイト開いてるとこって見たことないかも……あっ。パソコンをちゃんと調べものとして使ってる異常小学生だったの忘れてた……』


『それでいいでしょ!僕何も悪くないし!』


ムキになって言い返す遥を見て姉は楽しそうに笑う。そして彼女は、お詫びの意味を込めて彼に動画サイトの『Nico・Tube』の存在を教えた。


――別にニコチューブは知ってるけど……。


そこには姉の言葉通り、同じゲームを何時間もプレイする実況動画が山のように投稿されていた。


――しかも他タイトルの動画も……!?それにサトナは動画の方が解像度高い!


『モンスターバスター』は家庭用ゲーム機が元祖だったが、『サートナイト』はPCを主体とするゲームだ。


家庭用ゲーム機よりも画面が滑らかで、グラフィックも格段に美麗なPC版の動画に遥は深く心を奪われた。


そして翌日――忘れもしない三月十九日。その日は遥の学校が春休みに入った日だった。


その日の勉強を終えた遥はいつものようにNico・Tubeを開き、サートナイトの検索画面を開く。


――ん?何この『ライブ』って……。


すると結果の一番上に、見慣れない表示があった。


――サートナイトのオンライン大会の生配信……?


遥が興味本位でクリックした次の瞬間、ソロ部門の一戦がちょうどクライマックスの盛り上がりを見せていた。


実況席の画面には『TEDDY_KP』という参加者の視点が映っている。


遥が見始めてからほんの数秒後。テディは抜群の命中精度で、中距離にいた敵を2ショットで仕留めた。


『!?』


――単純に銃で敵を狙う(エイム)のが上手いで片付けるには……凄すぎる。みたいなこと実況解説の人たちも言ってるし。


反射的に息を呑む。ゲームに詳しくない遥の目にも、この選手の腕前が並外れていることは伝わってきた。


『……綺麗』


テディは敵の動きに応じて自分も立ち位置をずらし、相手の着地点を先読みする。そこへ寸分違わず照準を合わせて頭を撃ち抜いた。


――高台取るの早っ……!?移動上手ぁ!?


サートナイトでは戦闘中、攻撃・移動・防御を補助する装置を展開する『ビルド』というシステムを駆使する必要がある。


テディは姉と違い、安全確保のためだけに『ビルド』しているのではない。自分が戦いやすい状況を整えるために足場を組み、撃つべき瞬間には少しも迷わず引き金を引く――彼の動きには、無駄の欠片もなかった。


――お姉ちゃんもリコイル(銃の反動)がどうとか、照準合わせてても全然当たんないって愚痴ってたな……。


銃撃戦で求められるのは、距離に合わせた弾道の判断と相手の進路の予測である。それをテディは、まるで呼吸するかのように軽々とこなす。


敵を見つけてから、体力を削り切るまでがとにかく速い。正確なエイムに加えて――戦闘中の判断、ビルド、位置取りまでもが完璧に噛み合っていた。


――凄い……凄い凄い凄い!この人が優勝するんだ……!多分!


気づけば遥は画面に釘付けになっていた。鮮やかなだけでなく、プレイそのものを楽しんでいる気配まで伝わってくる。


高所に陣取ったテディは、敵が右へ照準を振った刹那の隙に狙いを定めた。最後の敵も死角を突いて一気に肉薄し、ショットガンを炸裂させる。


『#1 Crown Triumph』


その表示が出た瞬間、テディはソロバトルを制した。


「……やった!」


思わず歓喜の声が漏れ、遥は慌てて口元を押さえる。


『テディ選手、相手が潜んでいる場所を完璧に読んでいましたね!』


『見事な索敵でした。○○選手が高所を取ってからの対応も非常に早かったです』


「…………」


――体熱っ……僕がプレイしたんじゃないのに……。


そんな高揚感にしばらく浸っていると、やがて優勝者インタビューが始まり――落ち着きのある男性の声が流れてきた。


『――実は僕【諸君!これがプロである!!】略してこれプロっていうチャンネルでゲーム実況やってます!というか始めます!初投稿はなんとこの後十九時!是非見てみてください!』


『ええっ!?今日から実況者デビューするんですか!?』


『ははははは!これは最高の宣伝になりますねー!皆さん是非テディ選手のチャンネル登録をよろしくお願いします!』


『…』


遥は迷うことなく検索欄を開く。そして先程記憶したばかりの言葉を一文字ずつ入力していった。


――あ、十九時って……じゃあ一時間後か。


『これプロのテディ……』


こうして遥は、異例ともいえる大会中の宣伝をきっかけにテディのファンになった。


――今日はサトナの新武器の解説……僕も真似してやってみようかな……。


テディが教えてくれる攻略法を、そのまま自分のプレイに取り入れてみることもあった。


――もっと……もっとテディがゲームしてるところを見たい!


しかし新人であるテディの活動は、初出場した大会と自分のチャンネルが中心だった。遥の中で膨らんでいく『もっと見たい』という欲求は、あっという間に供給を追い越してしまう。


――他のプロゲーマーの実況を見ても……何か違う。


そんなある日。姉が隣でサートナイトをプレイしているのを横目に、遥はふと思い出したように自由帳と鉛筆を手に取った。


『……あら遥』


そこへやってきた母は、意外そうに目を丸くする。


『もう筆休めは終わったの?』


『……え?』


――筆休め?


『だってアンタここ一週間くらい絵じゃなくてゲームの動画ばっかり見てたよ。だから画家によくあるインスピレーションの時期なのかなって……』


『……!?』


驚きのあまり、喉の奥で声が詰まる。


――一週間……!?僕一週間も絵を描いてなかったの!?


『えっ……私何か変なこといった?』


――そんな驚かなくても……。あえて筆や鉛筆を持たないのも、制作の一部なのかと思ってそっとしておいたけど……。えっまさか無自覚だった?


それと同時に、母も息子が気づかぬうちに別の何かへ夢中になっていたことを察した。


『う、嘘……』


遥は慌てて床に自由帳を置いた。そして、これまで何十回と描いてきた母の肖像を描き始める。


「アッ!ちょっと今ノーメイク!」


それに気づいた彼女は逃げるように部屋を出ていった。周囲の騒ぎをよそに、姉は我関せずといった態度で対戦に集中している。


それから三十分後。自由帳には、母の怪訝そうな表情まで描き込まれた肖像がおおよその形になっていた。


――描けなくなったワケじゃないんだ……。


『…』


遥の手は自然と新しいページをめくり、鉛筆がさらさらと紙の上を走る。


――僕が今、一番描きたいのは……。


頭に浮かぶのは、先ほどから何度も画面越しに見てきたものだった。動画の中で使われている立ち絵や、テディがゲームで愛用する銃器――遥はそれらの輪郭を、丁寧に一本ずつ線を重ねて描いていく。


――完成したら本人にも見てもらいたいけど……どうやって送ればいいんだろう。


遥は三十六色の色鉛筆と、大事な絵を描く時にしか使わないスケッチブックを勉強机の上に置く。


そして、これまでの努力を一枚に凝縮した絵を描いた。


☆彡

――そこから一ヶ月くらいかけて完成した絵をテディだけに見て欲しくて、お姉ちゃんのSNSアカウントからこれプロのDMに送ったのが……。


「まさかこんなことになるなんて……」


遥は『#1 Crown Triumph』と表示された画面を見つめ、サトナのロビー画面に戻る。


テディと直接知り合ってからちょうど三年。遥は当時の記憶に思いを馳(は)せながら、全てのきっかけとなったサトナをプレイしていた。


そこへ部屋の扉をノックする音が響く。


「遥ー。一(・)階(・)に(・)こ(・)れ(・)プ(・)ロ(・)来(・)て(・)る(・)よ(・)ー(・)」


「……は?」


――えっ何?いやまさか……!?


母の声を聞いた瞬間、遥は弾かれたように部屋を飛び出した。『ズドドドドドッ!』と階段を駆け下り、勢いよくリビングの扉を開ける。


「あ、お邪魔してまーす」

「まーす」

「おー」


「な、何かいっぱいいるーー!?」


リビングでは糸哉、孝太、満士の三人がまるで以前から住んでいたかのような顔でくつろいでいた。


「まずお父さんの隣で一緒にメジャーリーグ観てる人は誰!?」


遥はまず試合中継に夢中な父と、その横で同じく試合を観戦している満士を指差す。


「いやーよう抑えたな今の」


「耐えましたねー」


「試合に夢中すぎてフルシカト!?」


次に遥が視線を向けた先では――ソファーに座った姉が、足の間に孝太を座らせたまま抱きしめていた。


「そんでお姉ちゃんが捕獲してる人は!?」


「えー?お姉ちゃんがユイガ君推しなの知ってるでしょー?」


「…」


「この子がユイガさん……?憑りつかれたみたいな目でスマホのパズルゲームやってるの何で?何かした?」

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