第183話『BROレゾクラ~閉幕~』
すっかりノリノリのテディが振り下ろした警棒がネリスへと迫る。
「……!」
だが彼女は、紙一重で初撃を避けた。
「ふっ!ほっ!」
「んな……!」
その後も警棒による攻撃は連続で繰り出されたが、ネリスはただ己の身のこなしだけで次々とその軌道を躱していった。
「どうした!お得意なのは射撃だけか!?そんなぬるい素振りでは当たらないぞ!」
「嘘でしょ……!?えっバグ!?」
――この人レゾクラの操作も上手いのかよ……!
まさかの苦戦に、テディが珍しく焦りを見せたその時。
「あぁっ!長官止まって!」
「は!?」
テディの一声を受けて、ネリスは思わず動きを止める。その直後、背後に何者かが着地したような気配を感じ取った。
「テディ!テメェどっちの味方だコラァ!」
ネリスがバッと振り向くと――一階に着地したばかりのナキが、警棒を片手に立っていた。テディの一声がなければ、彼女はそのままナキによって牢屋送りとなっていただろう。
「……!」
「いやぁ、ゴメンゴメン。だってさぁ……」
ネリスが事態を理解するより先に、テディはニヤリと笑う。
「ネリス長官を捕まえるのは僕じゃないとね!」
「しまっ……!」
完全に虚を突かれたネリスの肩に、『トンッ』とテディの警棒が置かれる。瞬く間に追跡者だけとなった空港一階で、ナキは不満そうに声を上げる。
「だっても何もねぇよ!俺が先に見つけたんだぞ!」
――これがラスト記録かもしれねぇのに……!
「分かった!これ貸しにするから……また近いうち返すよ。何でも言って!」
「……言ったな?ならしょーがねぇか……」
こうしてネリスが確保され、残り時間は三分五十秒。残るランナーは――
「これが一秒一秒の重み、そして三十名分のランナーと視聴者の期待ですか……こんな経験生まれて初めて……」
――これまで冷静に危険を回避し続けてきた塩練メアリか。
「緊張がヤベェ……これが『ラン・フロム・ザ・KP』か……」
勝負どころで幾度もミッションに貢献してきたzen9か。
果たして逃げ切ることができるのか――ランナーの命運はこの二人に託された。
「うわぁ、近い近い……追跡者近いっ……!」
駐車場エリアにて。立体駐車場の柱の陰に身を潜めたzen9は、素通りしていくタンドリーを息を殺してやり過ごす。
「けど、中に入られたら終わんだよな……うわどうしよう」
ここに留まるか、それとも動くか――彼は最後の最後で、勝負の選択を迫られていた。
「いや……でもココに賭けるか……!」
そう決断した次の瞬間。
「最後にここ見とこー」
「……!?」
絶妙なタイミングで、ホットが立体駐車場へ侵入してきた。
――来るな来るな来るな……!
zen9は無言のまま柱に張り付く。
レゾクラでは視点を一人称から二人称、三人称へ切り替えることもできる。だがそんなことすら頭から吹き飛び、zen9は一人称視点のまま必死に身を隠していた。
「…」
「…」
やがて、足音が聞こえなくなる。
――音がしなくなった……行ったか!?
物音一つしない駐車場で、zen9は震える指先をそっと動かし、ゆっくりと視点を回すと――
「こんばんはー」
「ウァーーッ!」
視界いっぱいに、ホットの顔が映り込んだ。
「助けてぇーーっ!」
「あぁzen9……」
「これはいかれたな」
モニター越しに生還を願っていた布施とがるども、ついに諦めムードへ入る。
「ここまで来たら生き残れや!って思いとアイツが逃走成功しても『チート使っただろ』って思いがある」
「それな。俺も複雑だ……こっちに来たら拳で労ってやろうじゃないか」
二人の中では、もはやzen9の確保は時間の問題だった。
「いや、俺はまだ捕まらん……!捕まらんぞこれプロ!」
しかし本人は、そこからもしぶとく逃げ続けていた。
「っ……!ジグザグに逃げてて当たんない! 何ですかその小技!」
「はっはっは!これが活動歴十七年の逃げ方だ!」
「その言い方で合ってますか!?」
「……誤解が生まれると思うんだけど」
少し離れた場所で二人の会話を耳にしたユイガも、声を頼りに現場へ向かう。
しかし、彼が追いつくよりも早く――
「あれzen9さんは?」
「何か警棒ブン回してたら終わった」
「雑ぅ……ホット酷っ。コメント欄荒れろ」
「ユイガの方が容赦ない!?」
――zen9はホットによって牢獄送りとなった。
「……え?あっ……私だけ、ですか……!?」
これで残るランナーは、塩練メアリただ一人。
「あと八十秒……お願い……!」
「頑張れメアリ……!」
「頼むぞ、俺たちの希望……!」
牢獄内でもメアリの視点が映し出され、確保された三十二名が固唾を呑んで見守る。
「あとメアリさんだけ?」
「どこだ……!?」
「……もう追跡者しかいないだろ」
「絶対見つける……!」
「逃げられると思うなよ!」
追跡者五人も、最後の一人を仕留めようと焦りを見せる。そして残り四十五秒。
「ぐうっ……この有能追跡者め!」
「……あんたがラストランナーか」
空港エリア三階の展望デッキにて。屋根上に潜んでいたメアリを、タンドリーがついに発見した。
「見つかっちゃいましたか……」
彼女はふっと声を落とし、センチメンタルなムードを展開する。
「荒い足音が迫ってくる……。あの夕日が沈むまで、あと少しだったのに……」
「瞬殺してぇ……」
「お、おかしい……!情に訴えればいける保険に入っていたハズなのに……!」
しかし、相手はメンバーの中でも群を抜いて冷酷なタンドリーである。情けの欠片もない返答にメアリは泣くしかなかった。
「塩アメ……!いやでも!お前はよく頑張ったよ!」
「いや、らむらす見ろよ……!アイツの目はまだ死んじゃいねぇぜ!」
「本当?目の前が真っ暗になりかけてない?」
らむらすと深°も見守る中、残り三十五秒でタンドリーが確保へと動き出す。
「どうにかなりませんか!?何とかしてくれませんか!?」
「こっちは十秒待った」
「何かっ……何かこの人怖い!初対面なのにー!」
タイミングを見計らい、タンドリーが屋根上に上がりきる直前でメアリは飛び降りる。そのまま三階の廊下を全力疾走した。
当然、タンドリーもすぐさま後を追った。みるみるうちに、二人の距離は縮まっていく。
そして残り二十四秒で――
「……っ!こ、ここまで生き残れて幸せでした……」
「「あぁーっ!」」
――メアリは惜しくも捕らえられ、ゲームオーバーとなった。
これにて『BROレゾクラ~ラン・フロム・ザ・KP~』は終了。エンディングへと移行する。
「いやー皆さんお疲れ様でした!最高のドラマを観させてもらいましたよ!」
「黙れー!」「うるせぇー!」「次はお前もコッチやれー!」「メッチャ惜しかったんやぞー!」
キジーからの暖かな労いも、全滅したランナーたちには皮肉にしか聞こえない。
周囲から散々野次られても、最後までハラハラさせられた展開に大満足のキジーはただただニヤニヤと笑うばかりだった。
「いやでも……」
「こっちも結構ギリだった……」
「俺が屋上行ってなかったら終わってたな」
「ふぅー。一発芸回避ー」
「スゲー楽しかった!またやりたいっす!」
オープニングステージからエンディングステージへと転じた壇上で、五人はようやく肩の力を抜く。
「はい皆さん!今回ランナーを全員仕留めた追跡者に盛大な拍手を!」
「強かったー!」
「マジ速すぎ!」
「もう二度と敵に回したくなーい!」
「次は覚えてろよー!」
「勝利の一発芸やれー!」
キジーの呼びかけに、ランナーたちから拍手と歓声が巻き起こった。五人は照れながらもその声援を受け止める。
こうして『BROレゾクラ~ラン・フロム・ザ・KP~』は、追跡者五人によるランナー全員確保という結末を迎えたのだった。
おまけ『感想戦』
ホット「ミッション⑤で追跡者消滅選んでたらまだ違ってたかも」
ヒルト「絶対そっちのが生存率上だったって。ランナーの中にスリルシーカーが沢山いたのが良くなかった」
さがん「あーネリス長官!コイツ長官のことスリルジャンキー言うてましたよ!」
ネリス「お前もだろゴリラ」
タンドリー「追跡者目線で言わしてもらうと、何人かレゾクラ自信ある勢がグレーな逃走経路開拓してた気が……」
ノックス「誰だよ木の上に隠れてた奴」
ナキ「お前だよ!」
歌観月天「あーそれ!天もやろうとして止めたヤツ!」
ギバ「誰だよ飛行機の模型の上に乗った奴」
ナキ「それもお前だよ……ってあんま『お前』とか言わせないでください」
もさ彦「お前が勝手に言ってるだけだろがーい!」
ユイガ「屋上から飛ばれるのも嫌だったけど、煙幕マジ鬱陶しかった」
万世かくり「こっちは神アイテムだったよ!」
けや「あのミッションがもうちょい後で来てれば……!」
えんり「いや本当に。全然温存できなかったの悔しい……」
曙ひかり「途中でテディから追跡者に喝入ったよねー」
モコ・ルブラン「ねぇ。あれビックリした」
鬼形ラセツ「俺たちが知らないテディ出てたよな」
ワカオミ「やっぱメンバーには普段からあんな感じなの」
がるど「やはりこの笑顔は仮初か……」
テディ「いやいや。別に裏でパワハラしてるとかないですよー。愛の鞭ってヤツです」
布施「あははは!まるで説得力ない」
テディ「そんなー!僕の曇りなき眼を見ても同じことが言えますか!」
ワカオミ・ひかり「「いや糸目なんよ」」




