第181話『ミッション⑥エリア縮小を阻止せよ!!』
ホットとファイブiのチェイス中、彼等の進行方向には――
「オイ何ホット連れて来てんだよ!」
「ごめーん!」
――らむらすがおり、彼もまた逃走劇に巻き込まれてしまった。
「流石にイヴだよな!?そうだよなホット!」
「はい!イヴさんがらむらす抜かさない限り!」
「えっ……」
「ガチお前シ……ざけんな!」
危うく乱暴な言葉を吐きそうになったらむらすはすぐさま横道へ逸れる。これで無事二人の逃走劇から離脱した。
「らむらすは安全圏に行っちゃったか……でもこれでQH確保完了!」
「アァーー無理ぃーー!」
ファイヴiはなおも爆走するが、その逃走も長くは続かなかった。追跡者の魔の手に捕まり、残るランナーは七名となる。
その頃――zen9とイッサは、駐機場エリアにあるプライベートジェットへ到着していた。
二人は機体を見て思わず笑う。そして機内へ入るための入り口を探し始めた。
「え……?これ?」
「入れんやん!」
しかし、飛行機へ上がるタラップの下には、四桁のデジタルロックが設置されていた。途方に暮れる二人の脇には、一枚の説明書きがある。
「えーなになに?中に入るには四桁の暗証番号が必要。ヒントとなるキーワードは、追跡者五名の背中にある」
「ただし、チャンスは一度だけだ。byキジー。か……ねぇzen9さん」
「何イッサちゃん」
「このゲーム終わったら後でキジーボコボコにしません?」
「大賛成。リンチの署名募ろうぜ」
「…」
モニター越しに二人の会話を聞いていたキジーは健闘を祈る気が一気に失せ、背筋に悪寒を走らせた。
「おーい!」
「あ、テト来た!ちょっと聞いて!」
「待って近くにテディいます!一旦離れましょう!」
そこへ援軍のテトヴィが到着する。しかし追跡者の襲来を恐れ、三人はプライベートジェットから距離を取った。
「テト聞いて。クリア条件に――」
イッサがテトヴィへ説明する一方、zen9は一か八か、物陰から顔を出してテディの背中を確認しようとする。
「……!」
だがすぐに引っ込み、トレーラーの影へ身を隠す。
「確かに何かあるけど……流石に遠すぎて見えんな」
「追跡者に近づかないといけないってことですか!?」
「五人分!これ本気で皆の力合わせないとキツいて……!」
詳細を知った三人は、早くも悲観的なムードに包まれる。
一方その頃。駆け足でミッションへ向かっていたネリスは、ナキの背中を二度見した。
「……何か張り紙が……『日』?ミッションに関係があるのか?」
彼女は足を止め、怪訝そうに呟く。また別のエリアでは、ホットとタンドリーが合流していた。
「……あ、タンドリー」
「空港エリアいたか?」
「まだ結構いると思う。あとファイヴiさんがポロってたけど、今ミッション中らしいよ」
「そうか」
二人はそのまますれ違い、再び捜索へ戻ろうとする。しかし――
「おいホット」
「え?」
――タンドリーが振り返りざま、ホットを呼び止めた。
「お前……」
「…」
「……何人捕まえた?」
「途中から分かんなくなっちゃって数えてない……後でキジーさんに教えてもらう」
「分かった」
それ以上の言葉を交わすことなく、二人はそれぞれの捜索を再開した。
「ヒントとなる五文字のキーワード……追跡者の文字はランナーにしか見えない。さぁ勇敢なるランナーたちよ。今まで離れていた追跡者に近づかなくてはならないリスクをとくと味わってくれ」
今回は観戦席にいるキジーが、モニター越しにほくそ笑む。そして、ミッション⑥終了まで残り五分を切ろうとしていた。
「……ん?イッサちゃんからメールだ」
「なになに……」
「え!ボタンの前に暗証番号!?」
「追跡者の背中を見るって……あ、でもナキは見なくていいのか」
事情を知ったネリスの指示を受け、イッサは残るランナーたちへメールを送信する。
「なら今あそこ(駐機場)に行っても意味ないのか。ホットまだ屋外出てないよな……」
プライベートジェットへ入るためのギミックを理解したらむらすは冷静な判断のもと、来た道を引き返していた。
「……!」
危険を承知で追跡者を探すと、視界の先にタンドリーを発見した。らむらすは息を殺しながら慎重に距離を詰めていく。
「そうだ。捕まってもいいように……」
「……!店長からです」
らむらすはヒントとなるキーワードをすぐ共有できるよう、メアリと通話を繋いだ。
「なんだかんだでまだ塩アメと会ってない気がする」
「私は何度か姿をお見掛けしましたけど、これが初会話ですよ店長」
「俺タンドリーの文字見たら、お前と合流してハイタッチするわ」
「死亡フラグを建設しないでください」
一縷の望みにすがりながら、らむらすはタンドリーとの距離を縮めていく。
「……!」
そしてついに、その背中を捉えた。
「来たっ……来たあぁぁぁぁぁぁぁ!」
しかし、見渡すために振り返ったタンドリーとらむらすの視線がぶつかる。次の瞬間、二人のチェイスが始まった。
「声デカ……その『来た』はどっちの意味ですか!?」
「ごめんどっちも!悪ぃ俺死んだ!」
「店長ー!」
スピーカー越しに、メアリの悲痛な叫びが響く。
――らむらす……!
対するタンドリーは歓喜していた。ランナーの中でも特に捕まえたい相手――その一位に挙げていた標的をようやく発見したのだ。
「らむらす……!やっと会えたな!お前は悪運で生き残ると思ってた!」
「悪いな!俺はお前無視して塩アメと雑談すっから!」
「塩アメ……?」
メアリのあだ名を知らないタンドリーは、若干困惑した様子で聞き返す。だがここで会ったが百年目と言わんばかりに警棒を構えた。
「じゃあならむらす!」
「塩アメ『開』だ!ドアが開くのッ!」
「……店長!?店長ーーー!」
らむらすが牢獄へ転送されると同時に、通話が強制終了する。一人残されたメアリは心の底から叫んだ。
「……」
普段ほとんど表情筋を動かさない彼女も、今回ばかりは顔を青ざめさせる。
「っ……た、タンドリーは……『開』だって言っ、言ってましたよね……急いで皆に伝えないと……!」
震える声で呟き、メアリは涙声のまま走り出した。一連の光景を目にした視聴者にも、ただならぬ緊張が走る。
追跡者の背中に隠された五文字。それを知るためには、命懸けで追跡者へ近づかなければならない。
最後のミッションがいかに危険で恐ろしいものなのか――ランナーたちは、ここに来て改めて思い知らされることとなった。
「――これで判明したキーワードはナキの『日』、タンドリーの『開』、ホットの『動』、か……」
ミッション⑥終了まで残り三分。ホットのキーワードを発見したキティはzen9、イッサと合流し、三人で暗証番号の謎を解こうとしていた。
一方、ネリスはまだ確認できていないテディとユイガを探している。
三人の中ではこれプロと比較的交流があるイッサが、必死に記憶の引き出しを漁っていた。
「キーワードをこれプロの挨拶順で並べるとしたら……多分ホットが二番目、タンドリーが三番目、ナキが五番目で……」
「当てはめると『○動開〇日』……『活動開始日』ってこと?」
「活動開始日ィ!?でも多分それじゃない!?」
キティとイッサの推理に、zen9の声が裏返ったその時。
「…」
三人のすぐ近くまで、テディが迫っていた。
「あぁぁ、いるいるいる!」
いち早く気づいたzen9の声に、三人は一斉に散開。
「ややっ!」
気づかれる前に距離を取ろうとするが――テディは離れた場所からイッサを発見し、猛然と追い始めた。
――この距離なら逃げ切れるけど……。
そう思った矢先、イッサの口から別の言葉が漏れる。
「あーあ!何でらむさん捕まっちゃったの……!」
イッサは悟っていた。生き残っているランナーの中に、これプロの活動開始日を知っている者はいないだろうと。
――イッサも分かんないし……!なら本人に聞くしかねぇ!
「あのさ!これプロって今チャンネル何周年!?」
「…」
「無視!?あ、じゃなくて聞こえてない!?」
テディとの距離は開いており、こちらの声が届く範囲ではなかった。
――もうこうなったら……!
「イッサは復活で救われた身……やるか!応援してくれた皆ごめん!」
イッサは覚悟を決め、乗り物やコンテナを利用してテディを撒く選択肢を捨てる。
「!?」
――えっ。何でこっちに……。
テディは突然方向転換したイッサに驚く。そして彼女が会話の届く距離まで入ってきたところで、彼は警棒を持つことすら忘れて一言。
「……何してんの?また自首?」
「うるさい黙ってド新人」
「えぇ当たりキツ……どうしたんですか」
「まず背中見せて」
「はぇ?」
駐機場エリアの、周囲を一望できる開けた場所――そこでイッサは堂々とテディのキーワードを確認する。
――『活』……やっぱり暗証番号は『活動開始日』……!
そこに記されていた文字は、仲間たちの予想と一致していた。




