第180話『明暗を分ける選択』
――こせゆ隊と言えばこのアピールかな。
こせゆ隊最後の一人を前に、 ユイガはあれこれと無茶ぶりを思案する。
「ユイガお願い!分かるよな!?」
「……はい。それではまくれなさん、こせゆ隊メンバーの嫌いなところをどうぞ」
「あははは!ハァ!?悪口アピールマジ!?」
まさかの要求に思わず足を止める。彼は少し考えた後、既に捕まった二人の顔を思い浮かべながら口を開いた。
「えーと……僕より早く捕まってる!雑魚!声が不細工!おもんない!口クサい!二日酔いで撮影するな!寝坊は許すけど納期は守れぇぇぇ!」
このアピールは当然、テディに呼ばれたりょくおーともさ彦も視聴していた。
「はははははは!オイ言いすぎやろ!」
「お前もじゃい!ユイガ早くこのゴミ野郎捕まえろ!」
「息するように七個も……これはプロだなぁ」
ユイガもひとしきり笑った後、一歩踏み出してまくれなとの距離を詰めた。
「っ……えー、まくれなさん。ライン超えオーバーキルなので失格です」
「何でぇぇぇぇ!」
こうして残り時間は三十五分、ランナーは十一名となった。
「…」
その状況と残り時間を確認したキジーとテディは、ほぼ同時に同じ結論へと辿り着く。
「これは……」
「何人か、投票に間に合わず時間切れになりそうだねぇ」
ミッション⑤終了まで残り三分を切り、未投票のランナーはネリス、エルミラ、メアリ、テトヴィの四名。
しかし彼女たちは――投票場所から離れた場所に留まり続けていた。
「(追跡者)消滅させたい……ヒッ!あ、追跡者かと思ったら看板だった……!」
「ここから抜け出すの、めちゃめちゃ怖いですわ……牢屋はあんなに賑やかだったのに。きゅ、急にひとりぼっちになって、誰とも接してない……」
テトヴィやエルミラのように、万が一のリスクを考えて動けずにいる者もいれば――
「私、中学生の頃……夏休みの課題でコンクールとかよくあるじゃないですか。それで選挙ポスター描いて入賞したことあるんですよ……何て書いたっけ。『選挙権は未来のうんたらかんたら……』あ、これ詳細言うとアカンやつですね。特定やめてください?あ、トークに夢中で全然決断してない……」
「どちらもリスキーな選択……だが、有事において百%安全な選択肢は存在しない。『何もしないこと』が最大の敗北だ……さて、どちらのリスクを取るか……」
――メアリやネリスのように、決断を先延ばしにしている者もいた。
そして残り二十秒、投票は依然として同数だった。
「…」
タイムリミット寸前、あるランナーが投票を終える。これにより、赤と青の総投票数は九票となった。
どちらの結果になっても、ゲームの流れは大きく変わる。
「さぁ、結果は……」
「どうなった!?」
キジーとテディが見守る中――無機質な通知音と共に、ミッション⑤の結果が全ランナーへ一斉送信された。
「ミッション⑤終了」
「投票の結果、五票対四票でゲーム時間を十分短縮し、追跡者一体放出……エグ!」
「残り時間二十一分、追跡者は五名……ヤバーイ!これ終わった!?」
「あーもう……えぇー!そんなぁ……」
『ゲーム時間を十分延長し、追跡者一体消滅』に投票したzen9、ファイヴi、イッサ、キティは、より逃げ切ることが難しくなった状況に絶望した。
「てか九票しか入ってないじゃん!味方もっといるよね!?」
「誰だ未投票!」
「テトだ……!絶対テト!アイツー!」
「誰が最後、赤に投票したのかな……」
投票したランナーたちは、棄権した者へ好き勝手に文句を並べ立てる。
「フッフッフッ……」
そんな中――最後に『ゲーム時間を十分短縮し、追跡者一体放出』へ投票したネリスは、駐車場エリアで静かに笑っていた。
「やはりお前がいないと追跡者もたるむだろうからな……ここからが勝負だテディ!」
「……スタンバイ完了。さぁさぁ諸君!追跡のお時間がやってまいりました」
オープニングステージへ召喚されたテディは――八重歯を剥き出しにし、いつもの笑顔とはまるで違う獰猛な笑みを浮かべた。
「――え!短くなってテディが!?」
「……そんなミッションが」
「へぇ。ちょっと会いに行こ」
「ははっ!さらに面白くなってきたじゃねぇか……!」
追跡者四人にもランナー十一名に対し、追跡者は五名という状況が共有される。そして早速――
「やぁやぁ!アルティメット追跡者のテディが来たよー!」
「キャーーッ!まだエミィ全然役に立ってないんですー!」
――テディは空港エリア一階へ向かう途中エルミラを発見し、即座に追跡を開始した。
勿論テディの移動速度は他の追跡者と同じだ。ランナーが視界に入っている間は、移動速度上昇のバフが付与される。
「ちょーっと出会い頭でしたね!さようなら!」
「アァーッ!」
至近距離から警棒を叩き込まれ、エルミラはあえなく確保された。
「…」
ランナーの退場とともに、空港エリア一階は静寂を取り戻す。テディはエルミラの断末魔を脳裏で再生しながら、ぞくりとするような笑みを浮かべた。
「た、楽しい……!これが追跡者!」
狩猟本能にブーストがかかったのは、テディだけではない。
「ヤバイヤバイ終わる終わる……!」
「万世!あっち逃げよ……って聞いてねぇ!」
空港エリア三階。視界の先にナキを捉えたさがんとかくりは、咄嗟に二手へ分かれて逃げる。
「おいおい。そっちって確か……」
ナキが睨んだ通り――さがんのアシストを聞き逃したかくり辿り着いた先には、行き止まりが待ち受けていた。
「はばばばば……!」
「さがんさんと一緒に逃げてればなァ……あばよ!」
「ぬぅー!」
「っ!万世捕まったか……」
未だ近くで逃げ続けていたさがんは再び屋上のフェンスを飛び越え、駐機場エリアへと降り立つ。
「……あれっ。あれあれあれー?グレーな逃走方法使ってるランナー発見!」
「なぁーっ!?」
しかし、さがんが着地した先にはテディがいた。再び迫り来る悪夢に、さがんは叫び声を上げる。
「さがんの活躍見てたよ!結構ミッション挑んでたよね」
「そうなのよ!だからここで最後まで逃げ切って、俺はヒーローになるってリスナーに誓ってぇ!誓ったんだよ!」
「ミッション③で僕の放出を阻止した後に、自ら檻の鍵を開けた責任……ちゃんと取ってよね!」
「クソッお前……!後で覚えてろよ!」
かくり、そしてさがんが相次いで確保され、残るランナーはらむらす、ファイヴi、ネリス、イッサ、キティ、メアリ、テトヴィ、zen9の八名。残り時間も十六分を切った。
「絶っ対逃走成功するぞ!先に散ってった奴らの分まで……俺は屍を超えて行く!」
「心拍数エグい……もうヤバイ!」
「このゲームは結果が全て……必ず果たしてみせる」
「あと十五分……いけるかな。これ、イッサ行けちゃう!?」
「キティのドーパミンドパドパよもう……!」
「固めますか……逃げ切る決意」
「捕まりたくない捕まりたくない捕まりたくない……テト今日眠れるかな」
「いや厳しいぃ……しんどいってぇ!」
ランナー全員の興奮が最高潮に達し、ゲームはいよいよ最終盤へ突入していた。
「八対五……いつひっくり返るかなー?」
「ビビって固まってくれたら見つけやすいけど……」
「まだまだ捕まえ足りないな」
「オーディションも大詰め……あと何人のアピールを聞くことができるんでしょうか」
「全滅させてやるよ……!」
追跡者たちの士気が高まる中――ランナーたちをさらに揺さぶる新たな通知が届いた。
「ミッション⑥エリア縮小を阻止せよ……うわ。まーた悪趣味なミッション!」
「残り七分になると、空港エリアが立入禁止となる……!?」
「阻止するには、プライベートジェット内にあるボタンを押さなくてはならない……またアレか」
らむらす、キティ、ネリスはミッション④で訪れた『KIZY AIRLINES』を思い浮かべる。
「やるかぁ……!空港が封鎖されたらいよいよ無理ゲーになるって!」
「空港ってここじゃねーか!俺から安置を奪うな!」
「速攻で……メアリ行きます!」
zen9、ファイヴi、メアリもミッションへ意欲を見せる。ミッションが発動すると、ランナーたちは一斉に駐機場エリアへ向かい始めた。
「果たして五名の追跡者をかいくぐって、誰が一番に辿り着くか……」
今回は観戦席から見守るキジーがニヤリと笑う。
「プライベートジェット、何処だ……?」
「……!」
彼の画面には、移動を始めたファイヴiをホットが背後から追う映像が映っていた。
「っ!はぁ!?何でいる!?」
「ファイヴiさーん!俺です!ホットですー!」
「邪魔すんな!俺今からミッション行くから!」
「え?今ミッション中なんですか?どこで?」
「やっべ……!」
当然ながら、追跡者にはミッションがいつどんな内容で始まるのかは知らされていない。
逃げながら自ら墓穴を掘ってしまったファイヴi――その先には、とある人物が走っていた。
投票の内訳。
『ゲーム時間を十分短縮し、追跡者一体放出』……かくり、さがん、らむらす、まくれな、ネリス
『ゲーム時間を十分延長し、追跡者一体消滅』……ファイヴi、イッサ、zen9、キティ
無投票……エルミラ、テトヴィ、メアリ




