第179話『ミッション⑤ゲームの運命を選択せよ!!』
現在生き残っているランナー――らむらす、まくれな、さがん、ファイブi、寺岸神流、万世かくり、イッサ・ヂーチン、ネリス・ヴォーン、エルミラ・フェアリウム、森野キティ、塩練メアリ、テトヴィ・ライクロフト、zen9。
計十三名
その頃、エルミラは空港エリア二階の国際線搭乗待合室にいた。そこへ確保情報が届く。
「えんり様が……確かヒルト様と同じグループでしたよね?」
一方、牢獄では――テディとヒルトが、暖かな眼差しで確保されたえんりを迎え入れていた。
「これでロクラメン全滅かぁ」
「うわー、悔しい……!って他は?」
「俺以外の四人は向こうでエアホッケーやってる」
「オイ!もうケイドロと俺に興味持ってないじゃんー!」
牢獄内に、えんりが捕まった時以上の大声がこだました。
「――ミッション⑤ゲームの運命を選択せよ……!?」
その直後、これプロ村空港に新たなミッションが出現する。
「これより、多数決によってゲームの難易度を決定する」
「『ゲーム時間を十分短縮し追跡者一体放出』か『ゲーム時間を十分延長し追跡者一体消滅』か……マジィ!?」
「残り三十二分までに空港エリア一階の国内線手荷物受取所へ向かい、二種類のスーツケースのどちらか一方を国際線チェックインロビーへ預けて投票せよ……あーもう分かんない分かんない」
現在の残り時間は四十二分。究極の選択に、ファイブi、イッサ、さがんを含む十三名のランナーが戦慄する。果たして――彼等はどちらを選ぶのか。
「十分短縮はデカくない?」
「でも追跡者放出もエグいって」
牢獄内でも、新たなミッションを巡ってそれぞれの意見が飛び交う。
「テディが追跡者になったら終わりだろ。モニターでマップ隅々まで見てるし」
「チートじゃん」
「ちょ、僕の悪口じゃなくて投票先について言及してよ」
テディがモニターを指差すように、生き残っているランナーの反応も様々である。
「えーヤダ……延長も増えるのも超怖い……」
怯んで一歩を踏み出せないテトヴィがいる一方で――
「こんなとこにいてもしょーがない……!とにかく行かなきゃ!」
――いち早く投票へ向かおうとする神流もいた。
どちらに投票するか。その前に、リスクを冒して投票そのものに参加するか――それすらもランナーたちに委ねられていた。
「テディ。これどっちも0票だったり同数になったりしたらどうなんの?」
「何も変わらない。そのまま続くよ」
「へぇ」
「でもね深°。あえてそこを説明しなかったってことは……」
テディは言葉を切り、モニターへ視線を向ける。
「……ランナーの心理的に、必ず一票は入るからだよ」
空港エリア一階の監視カメラには、投票場所へ向かう万世かくりの姿が映っていた。
「えっと国内線手荷物受取……あっちだ!」
最初に到着したかくりは、ベルトコンベアを流れていく赤と青のスーツケースを見つめる。
「うおぉ……すっごいカラフル」
それぞれのスーツケースには選択肢が記されていた。
『赤のスーツケース――ゲーム時間を十分短縮し追跡者一体放出』
『青のスーツケース――ゲーム時間を十分延長し追跡者一体消滅』
「ややこしいなっ……!でもどうしよ。この先のこと全然考えてなかった。あははっ!」
かくりはしばし逡巡する。そして――
「かくり意外と逃げれてるよね……!?このミラクル、絶対追跡者が増えても続く!」
――赤のスーツケースを手に取り、そのままチェックインロビーへ預けた。
これで『ゲーム時間を十分短縮し追跡者一体放出』に一票が入る。
「もう早く終わらせたいよ……!かくりは結果がどっちになっても恨まないから!」
驚異的なスピードを持つ追跡者から逃げ切るのは容易ではない。それでも彼女は自分自身を信じ、ゲームを少しでも早く終わらせることを選択した。
一方、駐機場エリアにて。
「ちょっと、まずは電話してみるか……もしもし、まくれな?俺俺」
「……僕の現在地を知りたい方は1を。頼みたいことがある場合は2を……」
「馬鹿この状況でボケんな!ブチ喰らわすぞ!」
「ふはははは!バチギレで草……だってらむさんが先にオレオレ詐欺してきたやん!」
投票を前に、らむらすはまくれなへ意見を聞くことにした。
「投票どうする?」
「あー。え?これ言っていいヤツ?」
「選挙じゃないからセーフセーフ!ここだけの話にするから!」
「あー僕は……消滅させたい寄りです。やっぱここまで来たら最後まで逃げ切りたい」
「あぁ……俺どっちかって言ったらゲーム短くする派だった」
「あ、じゃあ僕そっち投票しますよ」
「え?」
あっさりと意見を変えたまくれなに、らむらすは思わず拍子抜けする。
「僕にとって一番嫌なのが同数になって何も変わらないことで。折角ならどっちかになった方が面白くない?」
「はいはいはい……分かる。じゃあ投票してこのゲーム早く終わらせようぜ!」
「おぅっ!テディ如きが野に放たれても怖くねぇや!」
そう言い残した二人は、周囲を警戒しながら投票場所へ向かう。
「……あ、イヴ!イヴこっち!」
駐車場エリアでは、さがんが投票へ急ぐ途中でファイヴiを見つけ、すぐさま駆け寄った。
「お前、投票どうする?」
「あぁ……それについて、ちょっと思うところあって」
「ん?」
返答の前に一拍置いたファイヴiへ、さがんは訝しげに相槌を打つ。そして彼は、重々しい口調で告げた。
「それ……わざわざ俺が行く必要なくない?飲まなくてよくない?」
「wow wow……って馬鹿!」
「あ痛ッ」
まさかの無投票宣言に、さがんは堪らずファイヴiの肩を小突く。
「こんなゲーム縮めてサクッと逃げん?オラ行くべ」
「えー、でも追跡者増えるー」
「何?イヴ消滅派?」
「でも時間延びるの嫌……」
「どっちだよ!」
勢いのままツッコむさがんだったが、ファイヴiが抱える葛藤も分からないではない。
「とにかく着く前に決めるぞ。二人の方が逃げやすいし」
「分かった」
こうして、さがんは『ゲーム時間を十分短縮し、追跡者一体放出』に一票。ファイヴiは最後まで迷った末、青のスーツケース――『ゲーム時間を十分延長し、追跡者一体消滅』をチェックインロビーへ預けた。
ゲームの結末を左右する一票が、また一つ投じられていく。
その頃。ミッションへ走る寺岸神流は、慌てて空港エリア二階の土産・特産品ショップへ駆け込んでいた。
「いるいる!いたいたいたよ……!」
移動する先々で追跡者を見つけ、神流は身動きが取れず気を揉んでいた。
「すぐ下なのに……」
――でもまだ時間あるし、余裕あるかな。
しばらくの間、店内で身を潜める。そこには『これプロ村に来たよ饅頭』や『テディとナキで百枚食った蜂蜜クッキー』など、この空港でしか見られない土産物や特産品がずらりと並んでいた。
「もういいかな……行ける?」
そろそろ通路の安全を確かめようと、神流が店の外へ顔を出したその時。
「……!」
「ヤッバ……!嘘ぉ!」
すぐ近くを捜索していたタンドリーとガッツリ目が合った。
「……ドリー!アタシと小一時間お喋りしない?」
「いや。大人しくお友達のところに向かってください」
「まずいまずい……!」
距離の近さが災いし、逃げ切れる保証はどこにもなかった。それでも神流は必死の思いで走り出す。
「くぅっ……!」
「…」
「……あれ?」
――まだ捕まらないの?
半ば諦めた勢いのまま走った結果、彼女は二階の行き止まりまで来てしまった。するとタンドリーはさも当たり前のような口調で呟く。
「いや……お喋りって言うから、何か話題振ってくるのかと思った」
「え……っ!」
その言葉だけで神流の周囲にブワッと花が舞い、脳内に都合のいい補正がかかる。
「ドリーごめんねっ!じゃあ今から朝まで好きな異性のタイプについて語」
「無理」
ぞっとするほど冷たい声で一蹴され、神流はなすすべもなく散っていった。
「寺岸神流確保、残り十二名……神流はどっちに投票……てか投票できてたのかな」
『ゲーム時間を十分延長し、追跡者一体消滅』を選択したイッサは、親しいランナーの確保情報を目にして肩を落とした。
これで現在の投票状況は、赤の『ゲーム時間を十分短縮し、追跡者一体放出』が四票、青の『ゲーム時間を十分延長し、追跡者一体消滅』が三票。
「消滅消滅~」
そこへzen9が青のスーツケースを預け、投票は四対四の同数となった。
「あーもう逃げたくない……めっちゃ怖いねんけど」
既に投票を済ませ、弱音を吐くまくれな。そんな彼のすぐ近くへ――ユイガが音もなく近づく。
「……!?」
――あぁヤバい!ヤバイかもこれ……!
一足先に気配を察したまくれなは停車していたランプバスを遮蔽物にしながら、追跡者とは逆側へ回り込もうと動く。
「あ」
「ヒッ!」
だが運悪く進行方向を誤り、まくれなとユイガは真正面から鉢合わせしてしまった。
「ハァーッ!待って嘘でしょ!?ヤメテーッ!」
「プッ、女子のリアクション……脳バグるからやめて欲しいんだけど」
本気で嫌がるまくれなに対し、ユイガは薄ら笑いを浮かべて追跡を開始した。
投票状況
『ゲーム時間を十分短縮し、追跡者一体放出』……かくり・まくれな・らむらす・さがん
『ゲーム時間を十分延長し、追跡者一体消滅』……イッサ・ファイヴi・キティ(実は投票済)・zen9




