第177話『復活者は誰か』
絢爛豪華な調度品が並ぶプライベートジェットの機内で――キジーは重厚なソファに腰を下ろし、結果発表を告げる。
「ディパレットを代表する昆虫食好きの森野キティさん」
「はい……!美味しい虫さんいらっしゃい!」
「……ユイガさんとのオンライン昆虫食試食会を希望します!正解!」
「にゃーーっ!えっ……うぇぇ!?」
正解のSEが鳴り響く。キティは信じられないとばかりに言葉を詰まらせ、そのまま固まった。
「どうぞ!こちらが復活チケットです!」
「あ、あぁ……!ありがとうございます!」
「オープニングステージまで持っていくのが遠足ですよ!お気をつけて!」
「はい……!あり、ありがとうございました!」
興奮冷めやらぬまま、キティはキジーの元を後にする。彼女はどうにか心を落ち着かせようとしながら、復活チケットを見つめた。
「やったやった……!これキティが復活させたい人を一人だけ選べるんだって! 絶対持って行かないと!」
自らフラグを立てるような発言に、視聴者が一抹の不安を覚えた直後。キティと入れ違うように、今度は別のランナーがキジーの前へやってくる。
「貴様のことだ。どうせタダでは寄越さんのだろう……長官に何を望むのか言ってみろ」
「へ、へぇっ……!恐縮ですが、今から出すこれプロクイズにお答えいただければと!」
主催者とは思えないほどの平身低頭ぶりで、キジーはネリスへクイズの説明をする。すると彼女は、余計な時間を削ぐかのようにジャンル『テディ』を選んだ。
「お!ジャンル『テディ』……即答ですか」
「復活チケットがかかっているのでな。一番勝率の高い選択をするのは当然だろう」
「ひゅー!いいっすねぇ、テディと長官のコンビ!」
「早く問題を出せぇ!」
「はいーっ!す(い)ません!ではジャンル『テディ』で――第一問!」
キジーが高らかに宣言した直後『デデン!』とクイズ番組さながらのSEが鳴った。
「三択クイズです。次のうち、テディが非課税の百万円をもらったらやりたいことは次のうちどれでしょう。①こせゆ隊に札束ビンタして一番反応が良かった人に贈呈、②高級食材を買い揃えてタンドリーにフルコースを作ってもらう、③引っ越す」
「む……!」
ネリスの眉がピクリと動く。
「あはははは!この問題が来ちゃったかー」
モニタリング中のテディも笑って場の成り行きを見守っていた。
――何だこのふざけた問題は……。
その問いに、ネリスは険しい表情で立ち向かっていた。
「どれも全然有り得るな……特に①だ。メンバーではなくこせゆ隊を選んだ点に、強い真実味を感じる」
「やはりレゾクラ界のリアクション集団と言えばこのグループ。一家言ある三人も、今はまくれなしか生き残っておりません」
「助けたいけど動けない……!自分リタイアいいすか……?」
そんなまくれなはプライベートジェットの近くにいるにもかかわらず、追跡者への恐怖から動くことができずにいた。
「どの選択肢も見事な精度だ……全部が正解じゃないのか」
「正解は一つとなっております」
ネリスは続いて、③のシンプルながら妙に現実味のある選択肢へ視線を移す。
「あくまで自分の利益になることにしか使わないのも、実にアイツらしい」
「ニコニコほのぼの笑顔はガワだけですからねー。本人も『寄付』や『メンバーと小旅行』なんて言ったら偽善呼ばわりされるから正直に言おうと仰っていました」
「仰ってないよ!?だって普通だったらつまんないと思ってっ……!」
音声が届かないのをいいことにボロクソに言われていたテディが、思わず声のトーンを上げる。
「僕はテディ君らしくて良いと思うけどね?」
「配信気にして面白さに振っちゃったかー」
「これ全部正解やろ」
その横では、ガヤという名のハイエナアンチたちが一斉に重箱の隅を楊枝でほじくりまくっていた。
「どれも解像度高くない?」
「俺①は普通にやってみたい」
「まぁ……もっさーどう?」
「アリやな」
「ちょ、二人が乗り気ならそれがこせゆ隊の総意になっちゃうって」
確保者たちも一緒にクイズの答えを考えていると、不意にネリスが声を震わせた。
「クックックッ……」
「ど、どうされました?」
「……残念だったなキジー。長官は既にその答えを知っている!」
「「なにぃーっ!?」」
キジーと牢獄にいる面々の声が綺麗に重なる。ネリスは横を向き、窓の外に広がる空港を眺めた。
「今回のマップは『これプロ村空港』……。特に空港内の各所には、これプロにまつわる要素が点在していた。その中でも一階の食堂には、これプロの年表と……メンバーの簡単なプロフィールが展示されている。そうだろう?」
「あ……!エミィそれ最初に見ましたわ!」
エルミラも思い出したように声を上げる。
キジーがさがんとらむらすに告げた『答えはマップ内のどこかに隠されている』という言葉――その答えは、空港エリア一階の食堂に隠されていた。
「確かテディのプロフィール欄には『百万円あったら何をする?』という質問に『材料費百万円でタンドリーに料理を振舞ってもらう』と書いてあった……。よって答えは②だ!」
「よくぞお気づきで……!ということは長官、追跡者の目を逃れながらテディのプロフィールを隅から隅まで確認し暗記したという解釈でよろしいでしょうか」
「早く正解を言えぇ!」
「はいーっ!ファイナルアンサーということで……ネリス長官!」
キジーはネリスの雷を浴びながらもしっかりと溜め、彼女の強い瞳を見つめる。
「……貴女にはテディマスターの称号と、復活チケットを与えましょう!正解です!」
「前の称号は要らん!」
ネリスが一喝しながら復活チケットを受け取る一方、牢獄のボルテージは最高潮に達していた。
新たな復活チケット獲得者が誕生したその直後。
「やったやったやった……!」
最初のチケット獲得者である森野キティが、ついにオープニングステージへ到着したのである。
「おっと……森野キティさーん。僕の声、聞こえてますかー?」
「はーい!これで一人復活できるんですよねー!?」
「左様でございまーす!」
テディはステージに設置されたマイクとスピーカーを通じて、キティと会話を交わす。そして誰を復活させたいのかと尋ねると、キティは改めて悩むような素振りを見せた。
「えーどうしよう……!ずっと悩んでたんですけど……」
「助けてくれー!」
「出してー!」
「外出たいよー!」
「誰にするんだ……!?」
「お願いお願い……!」
テディのマイクを通じて確保者が懇願する声が届く。キティは少し躊躇うが、やがて意志を固めた。
「……ここはやっぱ、最初に捕まっちゃったエルミラ・フェアリウムさんで!」
「え……っ!?」
「エミィ!キティと一緒に逃げ切ろ!」
「……オッケーです!それでは……復活チケット一枚を消費して、エルミラさんを復活させます!」
「「ありがとうございます!」」
「「おぉーっ!」」
歓声と拍手に包まれる中、ミッション④終了後のエルミラ復活が確定した。
☆彡
「残り二分……ギリギリだな」
ネリスは残り時間を確認し、またしても一刻の猶予もない状況に焦りを覚えた。
現在地からオープニングステージまでは、およそ八百メートル。最短ルートを全速力で駆け抜けて、ようやく間に合うかどうかという距離だ。
「必ず間に合わせてみせる……!」
危険を承知で駆け出すランナーがいる一方で――
「あれ。テディが追跡者に発破かけてから露骨に味方見なくなったな……」
――zen9のように、仲間の復活よりも自分の安全を優先して身を潜める者もいた。
「……あれzen9さん。お疲れ様です!ミッションやらないんすか?」
「わっビックリした……!お前かよ」
そこへ、空港エリア三階の階段からさがんが姿を現した。
「いや人助けはしたいよ?でもホラ、他の動向というか様子も見たいし」
「いや急に饒舌……まぁ後二分しかないし。うわ俺zen9さんがチキるとこ見たくなかったわー」
「うるさい静かにして。お前行ったの?」
「はい。キジーにこれプロクイズ出されて惨敗しました」
「クイズゥ?」
さがんは実際に挑戦した者にしか分からないミッション④の詳細を説明していく。彼自身もまだ、キジーが残した『答えはこのマップ内にある』という言葉の真意に辿り着いていなかった。
――ん?
だが話を聞いていたzen9の脳裏に、何かが引っかかる。
「それって……」
「えっ!何か知ってます?」
「あー。えーと確か……アレよアレ」
「ははは!なんすか」
「ちょっと待って……いや適当言ってるワケじゃないから」
彼はさがんに急かされるように、記憶の隅から思い当たるものを引っ張り出した。




