第174話『減っていくランナーたち』
まさか届くとは思っていなかった二人は揃って目を見張る。
「……どうやら追跡者は、溜めるとジャンプ力が上がるみてぇだなぁ!」
だが先に我に返ってニチャア……と口元を歪めたのはナキの方だった。
「犯罪者は牢屋行きだぜ!」
「有り得ないッ……ぐわぁー!」
ノックスが最後に見たのは――自分と同じ高さまで跳躍し、警棒を振りかぶるナキの姿だった。
「これ他の奴らにも共有してあげねぇとな!どーせまだ見つけてないだろ!」
こうして、ミッション③中に残りランナーは二十三人となる。しかし追跡者による確保ラッシュはまだ終わっていなかった。
☆彡
一方、駐車場エリアとは真反対に位置する駐機場エリアにて。
「撒いたか……!?」
ミッション③成功のため、自ら囮となって先程までユイガに追われていたらむらすはようやく追跡者を撒いたことを確認する。
「――けやさん煙幕は?煙幕使わないんですか!」
「ちょっと前にお前に使ったー!」
「じゃあ牢屋行かないと!サムろうさんもいますし!」
「なお嫌だ!あんな奴と一緒のとこなんて!」
「ちょ、本人が聞いたら傷つきますよ!」
「…」
ホットに追われていたけやは、生身の状態で逃走を続けていた。
――けや煙幕ないのか……!
そのやり取りをコンテナの影に隠れて聞いていたらむらす。手元には未使用の煙幕が一つ残されていた。
「俺やれるか……?間に合うか……!?」
今なら助太刀できると思った次の瞬間――
「横取りにゃー!」
「あーユイガ!挟み撃ちは助かるけど俺の獲物ー!」
「俺をネズミ扱いするな!」
――けやが逃げた先にユイガの姿が見えた。
「けや。今までありがとう……お前のこと忘れないよ……!てかこれで(らむらす)ランチメンバー俺一人じゃん!」
らむらすはマウスのホイールを回して煙幕をインベントリに戻し、そっと気配を消したのだった。
そして時は現在に戻り、残るランナーは二十二名となる。
『――ピーンポーンパーンポーン』
「えっ」
「何……?」
「ミッション?」
前触れもなくマップ全域にアナウンス音声が鳴り、テディの声が流れ始めた。
『やーやどうも。放出を阻止された五人目の追跡者、テディでーす』
「えぇ」
「何だ何だ」
「…」
――あれっ。何か嫌な予感……。
「聞きたくねぇ……」
鋭い第六感を持つホットとナキは、冷や汗を感じながら続きの言葉を待つ。
『残り時間七十八分でランナーは二十二名……ここで追跡者リーダーの僕から一個お知らせがあるよー』
「「なーにー?」」
万世かくりとモコ・ルブランがノッて相槌を打つが、テディは一転して声のトーンに圧をかけた。
『ホット、タンドリー、ユイガ、ナキ……腕鈍った?』
「「…」」
当然この放送を聞いている四人はビタッと動きを止める。
『もう制限時間半分切るよ?ちょーっと確保率悪くない……?三匹と一羽もいるのに』
「はい……頑張ります……」
「……俺は結構捕まえてる方だぞ」
「さ、索敵は十分頑張ってるんだけど……」
「俺ぁ一切ランナーに甘くしてねぇ!」
『多分今ワンワンコケコケニャーニャーブンブン言ってるんだろうけど……』
テディはあたかも四人の言い訳が聞こえているかのように一拍置いて、皮肉気な声色を発する。
『ランナーの命乞いや茶番に付き合うなとは言わないよ?寧ろ積極的に乗った上で全滅させにいくくらいじゃないと……これプロじゃないよねー』
『それはそう』
『確かに』
『これプロなら当然だよなぁ』
テディのマイクを通して牢屋組のヤジが飛び、テディはその流れに乗じて追っ手を煽り立てる。
『牢屋にいる諸君はどうですかー?安全圏からコメントどうぞ』
『やーいやーい!ヘナチョコ追跡者ー!』
『所詮は動物と虫かぁ』
『これプロ大丈夫そ?退化した?』
『一発芸のネタ考えとけー』
『何かしょーもねぇなー』
『ざぁーこざぁーこ』
「オイやめろ!その挑発こっちにとっては損しかないぞ!」
「モコの首絞めないでー!」
「俺らが割を食うだけなんだが!?」
zen9、モコ・ルブラン、えんりが慌てて声を張り上げるが――
「成るか……猟犬」
「チッ……ボケが」
「コロス……!」
「アレだろ?今以上にギア上げてけばいいって話だろ……やってやんよ!」
――油は既に火に注がれた後だった。
『最凶の追跡者目指して、ランナーを畏怖させてこー!』
テディはここまで煽れば四人の気迫も高まっただろうと判断し、アナウンスを締めくくる。
そして迎えた後半戦、追跡者たちの本気度は一層研ぎ澄まされていた。
「――ワカオミさんワカオミさん!お久しぶりです!どうして逃げるんですか!?俺たちあんなにカフェで喋ったじゃないですか!」
「く、来るな!誰かー!保健所の人ー!狂犬にベッタリ懐かれてますー!」
空港エリア一階の国内線チェックロビーにて。ホットはグランドスタッフの影に隠れたワカオミを目敏く見つけると、執拗に追い回し始めた。
「――ヒルトさん……!あんただけは絶対に逃がさない!」
「えっ俺追われてる!?やめてよ……やめてよぉ!誰かー!お巡りの人ー!粘着ストーカーに追われてますー!」
駐機場エリアでは、タンドリーに見つかったヒルトが貨物輸送用コンテナの周囲をぐるぐると回りながら追跡を撒く術を模索していた。
「――それでは佐々來深°さん。命乞いをどうぞ」
「アピールじゃなかったっけ!?くっそが……っ!」
また空港エリア三階の通路にて。ユイガは深°を逃げ場のない場所まで追いつめ、辞世の句を求めようとしていた。
「――よしナキ行けっ!まくれなだ!」
「はぁー!?カスカスカスー!」
ナキに見つかった布施は秒で近くにいたまくれなを売り、罵倒を背に受けながら逃げおおせようとしていた。
「おいおいおい!トキシックプレイヤーじゃねーか!」
「いや生贄制度作ったのお前っ……ブェー!」
「よかった……」
立て続けに四人が捕まり、ミッション④を前にしてランナーは一気に十八名にまで減ってしまった。
「また確保情報……」
「深°さんが……!?そんなバカな」
「何かの間違いだぁ……」
空港エリア二階の保安検査場に潜んでいた万世かくり、塩練メアリ、曙ひかりは残り時間が半分を切っても、追跡者への恐怖と不安は募る一方だった。
「ミッション④牢屋にいる仲間を復活させよ……えっ!」
しかしここで嬉しいミッションが始まり、テトヴィ・ライクロフトは驚きに目を見開いた。
「「キターーーー!」」
「う、うるさっ……」
牢屋のランナーたちも待ってましたとばかりに大歓声を上げる。テディが何十人分もの声量に眉をひそめる中、エルミラ、ばたえる、ギバ、イッサが順番に内容を読み始めた。
「現在、牢獄には十五名のランナーが捕らえられている」
「残り五十分までに駐機場エリアに停まっているプライベートジェットまで向かい、キジーの元を訪れよ」
「彼から渡される『復活チケット』は全部で五枚」
「このチケットをオープニングステージまで持っていけば、チケット一枚につき牢屋にいるランナーを一名復活させることができる……」
残り時間は六十五分。この時点で確保されたランナーは復活対象から除外されるが――果たして十八名のランナーのうち、誰が獲得できるのか。
「んん……これ生き残りが体張って助ける系か……」
立体駐車場の裏で足を止めたバルチャーはミッション④の内容に目を通すと、渋い声で唸った。
「えー確保者はと……」
復活対象である確保者は――けや、サムろう、もさ彦、ヒルト、ばたえる、ノックス、ろきはん、ギバ、イッサ・ヂーチン、エルミラ・フェアリウム、佐々來深°、鬼形ラセツ、ワカオミ、布施、がるどの十五名。
「……特に全員助ける義理は無……いはマズいな。ミッション②爆速でクリアしたし、一個くらいやってみるのもアリか……?」
葛藤を抱えながら動けずにいる彼に、背後から追跡者がじわじわと距離を詰めていく。
「恩を売るか我が身の安全を取るか……」
「……!」
そしてユイガが角を曲がったすぐ先には、こちらに背中を向けて立つバルチャーの姿があった。
「…」
ユイガは驚愕のあまり声を失い、その場に凍りついたように動きを止める。数秒間、相手が気づくのを見守っていると――バルチャーは振り向きざまに、このミッションには加わらないという意向を告げた。
「どうせまだミッション残ってるだろ……」
だがその声は目と鼻の先に立つユイガと目が合った瞬間、不自然に途切れる。
「ヒャーッ!」
「ワァーッ!」
「「ヒャワーッ!」」
悲鳴が重なり合う中、ユイガは怯えの抜けきらない顔で一言。
「っ……驚かせたので失格!」
「ウォワァァァァァァァーー!」
そのまま勢いで、警棒による一撃を喰らってしまった。




