第173話『ミッション③追跡者放出を阻止せよ!!』
現在生き残っているランナー――らむらす、けや、りょくおー、まくれな、ヒルト、えんり、ノックス、におん、さがん、ファイブi、歌観月天、寺岸神流、万世かくり、ネリス・ヴォーン、モコ・ルブラン、森野キティ、塩練メアリ、テトヴィ・ライクロフト、佐々來深°、曙ひかり、ワカオミ、バルチャー、布施、zen9。
計二十四名
こうして二人は両端からロッカーを開け続け――四十六個目でようやく搭乗券とパスポートを手に入れることができた。
「普通に運営の入れ忘れ疑ったよね」
「マジでそれ。俺らが見つけるの下手だったわ」
「いや十個目くらいでパスポート見つけたの俺だし」
「何だァ?下手なのは俺だけって言いてぇのか?」
「貴様ら見苦しいぞ!内輪揉めも大概にしろ!」
ここでネリス・ヴォーンが合流し、呆れたように叱責の言葉を浴びせる。
「ヒッ!よりによって女ゴリラかよ……!キティとかの方が良かった」
「そこのゴリラと書いてさがん。何か言ったか?」
「サッ、サーセン!何も言ってません!」
「あ、長官って煙幕持ってましたっけ?」
「いや。長官は持っていない」
「オッケーです。今だけ忍者になりましょう!」
現在地のコインロッカーから二階の国際線搭乗ゲートまでは、およそ百二十メートル。運よく周囲には誰もおらず、三人は迅速に国際線出発ロビーを目指した。
――ん?
ここでアイテムを持っている深°があることに気づく。
「搭乗券とパスポートどっちもスタックしてて……何か五個ずつあるんだけど」
「取った後に捕まった時のための予備とか?」
「え、でも最初から重なってたし」
「一個あれば十分だろう……残りは捨て置くべきだったのか?」
「まーよく分かんないけど、とりあえずミッション進めようぜ」
いまいち状況が飲み込めない三人だったが――さがんの言葉をきっかけに、三人は指定された場所へ向かうことにした。
先頭を行く深°が搭乗券とパスポートを提示し、二人もその後に続く。
『ブブーッ!』
「え!?」
「は!?」
ところが、ゲートを通過できたのは深°だけだった。
さがんとネリスの前では拒否を示すブザーが鳴り響き、ゲートバーが行く手を阻む。
「……あ、これ通る人全員が搭乗券とパスポート見せないと通れないの?」
「だから五個もあったんだ……えーヤバ」
「成程な」
事情を理解した深°は、ゲート越しに二人へアイテムを手渡す。二人も搭乗券とパスポートを提示し、今度こそ無事にゲートを通過した。
そしてミッション③終了まで残り五分。三人は急いで空港ターミナルビルと飛行機を結ぶ、乗客用の搭乗橋――ボーディングブリッジの入口へと向かった。
「えっ凄!外が見える!」
「あの扉を閉めればいいのか……」
「……!?」
扉の脇の表示文を目にした瞬間、ネリスは息を呑んだ。
「『ボーディングブリッジを封鎖するには、五人のランナーの生体認証が必要』……!?」
「だから五つもあったんだ……!」
「エグいって!あと二人要るマジ!?」
あと二人足りないだけなら、近くにいるランナーを呼べば解決する。三人はそれぞれゲーム用携帯電話を取り出し、仲間の召集を試みたが――
「圏外のため現在使用できません……!?」
「ランナー限定チャットも無理!使えない!」
「おのれキジー!なかなかやるじゃないか……合格点をくれてやる」
――この場所には追跡者が入れない代わりに電波の圏外となっており、外部との遠隔通信も遮断される仕組みだった。
「搭乗券とパスポートがまだあるってことは、持ってる限り何回でもこの道を往復できるってことだ」
「こっちが待ってるより呼び行った方が速いか……?」
「一旦、長官は電波あるところまで戻ろう」
新たなミッション挑戦者がここへ辿り着くのを待つか。それとも自分たちから招集をかけに戻るか。
どちらを選んでも時間を消費してしまうリスクは残る。そうした状況で、三人が選んだのは後者だった。
「追跡者来ても、搭乗ゲート通れば捕まんない説」
「その可能性はある。だが、おそらく今だけだろう」
「……あ!チャットいけてる!?送れてるかも!」
三人は国際線出発ロビーまで戻る。電波が復活したのを確認すると、さがんはすぐさまランナー限定チャットへメッセージを送った。
『二階の国際線出発ロビー来れるひと三名募!#ミッション③』
「SNSのゲーム募集かよ」
「一人多いぞ」
「へへっ。念のため募集人数増やしてみました」
抜け目のない募集をかけた上で、三人はさらに近くの仲間へ個別に連絡を取る。
深°はメアリへ、さがんはファイブiへ、そしてネリスは歌観月天へと電話をかけた。
「塩ちゃん遠いけど一応向かってくれるって!」
「天もだ」
「ちょ、イヴにかけたら切られたー!」
「QHの絆もそんなもんか」
「煽ってやるな。近くに追跡者がいたんだろう」
「よーし。イブは後でしばく……!」
そう言いながら、さがんは次の相手へ電話をかける。
――あ、そういえばアイツ……確保情報出てないってことは無事か?
「もしもし生きてるー?」
『はい、もしもし?』
「ん?」
『あれ?』
顔を上げたさがんの耳に、同じフロアのどこかから通話相手の声が届いた。
「おーいこっち!」
「え!?」
「らむらす……!」
「皆ー!無事かー!」
――ラッキー!よかった合流できた!
「ちゃんと撒いてきたぜ……!待たせたな!」
らむらすは携帯電話をしまうと、情けない安堵を気取られないよう努めて凛々しい声を出した。
「で、あと何人だっけ?」
「一人!」
「近くに誰かいた!?」
「見てない。二階マジで誰もいないの!?」
「まずいな……あまり猶予がない」
ミッション終了までのカウントが残り二分を切り、四人の様子にも明確な焦りの色が滲み始める。
「やー、そろそろ僕も出勤準備始めよっかな」
その様子を、テディはモニター越しに眺めていた。
「飛行機から登場するって何だよ。ハリウッドスターかよ」
「テディのクセに」
「ぬいぐるみは手荷物受取所から出て来いよ」
「ははは!ベルトコンベアでな」
「ゴウンゴウンされるとこ実況しろ」
「……そろそろこんな敗者と一緒にいるのキツくなってきたし。僕も追跡したーい」
テディは眉間にシワを寄せながら、警棒の試し打ちを兼ねて牢屋にいるガヤを小突いていく。
その時、モニターの中でらむらすたちが搭乗ゲートをくぐった。
「あぇ!?」
「揃ってる!」
「いつの間に!」
さがんのチャットを読んで馳せ参じたヒルトが合流し、五人はボーディングブリッジを全速で駆ける。
「残り六十秒じゃん!」
「間に合う!?」
牢屋の中も大盛り上がりの中、五人は順番に生態認証をしていく。
「生態認証はまだか!?」
「今やってる!はい次の人!」
「早く早く早く……!」
「落ち着け落ち着け……」
「慌てるな!あと二十五秒ある!」
そして――残り二十秒の時点で五人全員の認証が完了した。
同時に、テディが乗る飛行機へと続くボーディングブリッジが完全に封鎖される。
「っしゃー!」
「成功!?」
「やったー!」
「危ないところだったな……!」
「あ、何か急いで出ろって言われてますよ!」
ヒルトの言葉に他四人は永遠にここにいたい空気を出すが、キジーから『別にいてもいいよ。追跡者も通れるようにするから』という警告で渋々元のエリアに戻る。
「ミッション③結果……」
「佐々來深°、さがん、ネリス・ヴォーン、らむらす、ヒルトの活躍により、ミッションクリア」
「追跡者放出は阻止された……!ナイス!」
ミッションの現場から遠く離れた駐機場エリアで、りょくおー、におん、バルチャーも五人の健闘を称える。
「やーいやーい!ミッション成功乙!」
「テディはずっとイッサたちと一緒ー!」
「やーめーてーよー!」
一方その頃。放出されそびれたテディは、牢屋の中で確保者たちにもみくちゃにされていた。
これで追跡者の人数は四人のまま、残り時間は八十分を切る。ミッション③で深°たちが奮闘している間、確保者が――
「ノックスさーん。早く降りてこーい。怖くないからー」
「嫌だ!もう俺ここに住む!」
――一人もいない訳がなかった。
レゾクラアスレの腕に自信があるロクラメンのノックスは、 密かに各所で地面を使わずに移動できるルートを開拓していた。
その中の一つが、駐車場エリアの立体駐車場から隣の木へ飛び移るルートである。
――また素人が辿り着けない逃げ場所を生み出してしまった……。
ノックスがそう悦に浸っていた矢先、ランナー捜索中のナキに見つかって今に至る。
――これ地味に埒が明かねぇな……。
ナキが立体駐車場から木の方へ行けば、ノックスは木から飛び降りて逃げる。
ならばとナキが周辺で待ち構えている間も、ノックスはずっと木の上にいるだけ。グレーゾーンすれすれの戦法に、ナキは苛立ちで歯を食いしばった。
「これアリか!?なぁ視聴者はどうだ!?白けてるか!?冷ややかな目向けてるか!?」
「ナキがどっか行ったらすぐ降りるから!流石にもうここ行かないから!今回は見逃して!」
「っ……!俺に飛ぶ力があれば……オラァッ!」
手詰まりの状況に業を煮やしたナキは自棄になって腰を落とし、勢いよく地面を蹴る。
「……え?」
「え、え、え?」
「「え??」」
すると不思議なことに、その身体はぐんぐん高さを増していき――ノックスがいる木の天辺まで届いた。
スタックとは……ゲームなどで同じ種類のアイテムを複数個まとめて、インベントリの1つの枠に重ねて所持する仕組みのこと。




