第171話『ミッション②位置情報公開を阻止せよ!!』
「俺だけでもいいから入れてくれ!」
「僕……じゃなくてアタシ女の子にどうすか!?」
「お願いします助けてください!」
ミッションの条件まであと一人が足りないがるど、まくれな、けやの三人は、運よく見つけた五人に縋るような視線を投げかける。しかし彼らの方は、より男臭くなった室内の空気にテンションが下がっていた。
「何でだよ!ここは可愛いブイチューバー来いよ!」
「こっちもあと一人しか入れられないし」
「百歩譲ってまくれなさんか……」
「キャー嬉しい!早く撮りましょう!」
「「待てコラァ!」」
わざとらしく女声を作って媚びるまくれなに、がるどとけやがすかさず食ってかかる。
「いや……」
「ていうか」
一歩離れたところから成り行きを見守っていた鬼形とヒルトは、至って冷静な様子で口を挟んだ。
「二、四、六……ここ八人いるんだから」
「四人四人で撮ったらよくないすか」
「「あ」」
まさに目からうろこが落ちた六人はゲームそっちのけで大笑いした後、記念撮影のノリで無事に写真を撮ったのだった。
残り時間は百五分。ミッション②終了まで残り五分というところでzen9、らむらす、ノックス、テトヴィ・ライクロフトが位置情報開示を回避した。
これで未達成のランナーはりょくおー、もさ彦、サムろう、えんり、ろきはん、におん、モコ・ルブランの七名となったが――
「…」
「…」
――ろきはんは現在、追跡者のナキと急接近していた。
出発ロビーで仲間を捜していた彼はナキが入ってきた瞬間、反射的に座席の下へ身を隠す。
――辛うじて、か……!?即バレは免れた!
角度次第では丸見えの状態であり、いつ見つかってもおかしくなかった。
――頼む来るな来るな来るな……!
「……!っ……」
――右半身だけ隠れてるランナーいる……!
背中越しにナキが鼻で笑ったような気配が伝わってきたが、ろきはんはそれでも最後まで隠れきる未来を信じてやまなかった。
「っ、えーと、ろきはんさんっすよね?ロクラメンの」
「あ……あー。ナッキーじゃん!喋るの初だー!嬉しー!」
「ナッ……何してたんですか?ひょっとしてお取込み中?」
「いや小銭落としちゃって……全然大丈夫よ」
「そーですか。じゃあ……」
「じゃあ……じゃあねー?」
「はい。向こう満喫してってください」
「っ……!」
低い姿勢のまま後退するろきはんに対し、ナキは微笑んで警棒を構える。彼がここで咄嗟に行った行動は――
「……一緒に写真撮らん!?」
「は?」
――更なる時間稼ぎだった。あえて追跡者の隣に立ち、視点を切り替えてスクリーンショットの準備をする。
「……めっちゃ嬉しいっす!何気に俺、レゾクラでスクショ撮ったの初めて……」
「そ、そうなんだ……はーいパシャッとな」
――何か普通に写真撮れた……もうこれでミッションクリアでよくね?
ばたえるの頭には撮影の瞬間を狙って捕まる展開も一瞬よぎったが、根が純粋なナキは嬉々としてツーショットに応じてくれた。
「えへへ。後で送るわ!」
「あざっす!」
「えへへへへへ」
「はははははは……見なかったことにしてやるかどうかは別問題でしょ」
「ヒギャー!」
こうしてろきはんが捕まり、残りランナーは二十八名となった。
「まだ達成してないランナーはりょくおー、もさ彦、サムろう、えんり、におん、モコ・ルブランの六人……」
モニターに映る神出鬼没の追跡者を眺めながら、キジーはニヤリと口角を上げる。
「六人全員が揃ってクリアできたらアツいけどねー」
テディもランナーを追跡中のユイガを見て、心が躍るのを感じた。
「それっ!」
『ドムッ!』
「にゃーっ!」
サムろうの煙幕を喰らい、ユイガはその場に静止する。
「煙幕ばっかで全然アピールしてくんないんだけど……!」
「あーくっそー!」
――もう駄目か……。
煙幕を使って追跡者を振り切ったが、そのタイミングでミッション②が終了となり――もさ彦とサムろうの体が発光してしまった。
「ぶねー」
「ギリでしたね……五回連続で断られた時はもう俺以外いないと思った……」
「うわ。あの二人が発光確定したの俺たちの所為じゃん」
「もっさん……」
りょくおー、えんり、におん、モコ・ルブランの四人は終了間際に撮影を終え、最悪の事態は回避できたと胸をなで下ろした。
「うわぁーー!」
「あはははは!光ってる光ってる!」
もさ彦とサムろうの近くにいる追跡者が一斉に動き出し、彼等の確保に向かう。
「チクショー!」
「殺るなら一思いに殺れ!」
「バイバイもさ彦さん!」
「じゃ、お疲れ様でした」
残るランナーは二十六名となり、ゲームはこれからも続いていく。
「へー。二階はお好み焼き屋さんなんだ」
ディパレット所属の女性ブイチューバー、テトヴィ・ライクロフトは空港エリア二階にあるお好み焼き屋に初めて足を運んだ。
「テトさー実はまだ晩御飯食べてないの。あーお腹減ってきたなー。そう言えば最後にお好み焼き食べたのいつや……?たこ焼きはね、この前……先月?メアリたちとたこパしたけど。えーちょっと食べたくなってきたじゃん!今日お好み焼き頼んじゃおっかなー」
テトが呑気に壁に貼ってある短冊メニューを眺めていると、入り口の方で何かが動く気配があった。
「今日はもう終わったよ!」
「どぅえぇ!?店主いたー!」
レジカウンターの陰で追跡者を警戒し息を潜めていたzen9が、いきなり店長気取りで姿を見せる。お互い味方であることに安堵し、流れでお好み焼きの話題が始まった。
「……あれ?何かいる」
「いらっしゃいませー。お連れの方ご来店ー!」
「えー!」
ここで歌観月天が入店する。zen9は配信者魂に火が付き、接客ロールプレイを始めた。
「ご注文お決まりですかー」
「あれっ。さっきはもう終わったって……」
「……んー。天はミックス焼きの麺入りで!」
「分かってますねー。麺の種類はいかがいたしましょう」
「うどん麺お願いします!」
「テメェコラァ!お好み焼きの麺は中華麺一択じゃい!」
「はぁー!?そっちが分かってないわ!そばとはひと味もふた味も違うよねぇテトヴィ!?」
「テテテ、テト、テトは明太マヨ焼き麵無しで……」
「「お好み焼きは麵入りが基本だろうがぁ!」」
「ひーん!」
我の強い二人の間に立たされたテトヴィは、後日このメンバーで否応なくお好み焼き屋に行くことが決まってしまった。
一方、一階の到着ロビーにあるコンビニには――
「いらっしゃせーい」
「……何をふざけている」
「ンぐっ!?ゲッホゲホゲホゲホ!」
――店員に扮したファイヴiがユニオンストリーム所属の女性ブイチューバー、ネリス・ヴォーンに捕まっていた。
「随分と肝が据わっているな。だがこの戦場は甘くないぞ」
「すんませんっ……!俺今日でバイト辞めます!あ、何か、折角なら何か買いますか」
「……あ」
「え?」
「あんまんを……所望する」
「ヒュフッ……」
――嘘だろ!?
『鉄血の女長官』の異名を持つネリスがまさかあんまんを選ぶとは思ってもみなかったファイヴiは、思わず手で口を覆う。
――『BRO・AD』のコンビニでテディに店員役を担わせる計画だったが、コンビニ強盗が襲撃した所為で機会を逸してしまってな……。その時に残った不完全燃焼、ここで消火させてもらう!
当のネリスはとある歌ネタの金字塔を再現したかっただけだったのだが――
「はいっ!かしこまりました!」
「じゃあ肉……え?」
「こちらどうぞ!ありがとうございましたー!」
――彼はすんなりあんまんを出してしまった。
「…」
――足音!?
ネリスは一瞬フリーズしたが、すぐに誰かの気配を察して振り向いた。
「副店長ー。オメー全然分かってへんな……代われ。俺がやる」
「店長……じゃなくてりょくおー!」
『BRO・AD』で青果店を営んでいたりょくおーは、部下のファイヴiを押しのけてレジカウンターに立った。
「……肉まん一つで二百二十円です」
「……!」
「え?あんまんじゃ……」
「素人は黙っとれ!」
――コイツ……おちゃらけグループかと思っていたが、やはり万人から支持される玄人だな。
ファイヴiを一喝するりょくおーを見て、ネリスは内心で彼への評価をぐっと引き上げた。
「なら……一万円から」
「小銭ないんかい!」
「カラシもつけてくれ」
「かしこまりました」
「レシートは不要だ」
「いちいちうるせーなァッ!?ネリスさんネリスさん!台本と違う!」
「……すまん。つい手が」
ネリスの放った右ストレートを紙一重で躱し、りょくおーが文句を叫ぶ。たとえ彼が再現通りに演じていたとしても、無表情で悪態をつく店員の振る舞いだけは、ネリスにとって我慢ならないものだった。
「一旦落ち着いて……トイレを貸し」
「っ!追跡者!」
ファイブiの報告は短かったが――それだけで二人を現実に引き戻すには十分だった。
テディ「知らない人は『コンビニ 曲』で検索!」




