第170話『どちらも超大変なことには変わりはない』
ここでミッション①が終了し、全参加者に向けて通達が届けられる。
「お助けアイテムを手にしたのはらむらす、けや、サムろう、えんり、モコ・ルブラン、寺岸神流、佐々來深°、塩練メアリの八名……神流ゲットできたんだ!」
二階の出発ロビーエリアに身を潜めていたユニオンストリーム所属の女性ブイチューバー歌観月天は、すぐさま専用携帯で神流に連絡を取る。
「……あ、もしもし神流!?今どこにいる――」
彼女が一緒に逃げたいと交渉を持ちかけているその頃、お助けアイテム『煙幕』の詳細を読んだこせゆ隊の三人もまた、携帯電話を手に取った。
「えっ。『煙幕』めっちゃええやん」
「やっぱらむらすランチなんだわ……!合流しようぜ!」
「……あっ!しもしも~?」
『煙幕』は追跡者に向かって投げつけることで視界を奪い、三十秒間その追跡を封じることができる。移動速度が増している彼等を直線で振り切ることがまず叶わないランナーにとって、これは重要な一手となるアイテムだった。
「まだ十六分しか経ってないマ?体感一時間くらい経ってんだけど……(パキキッ!ごくごくごく……)」
こうして残り時間百二十四分、生存ランナーが三十人となった状況で――ロクラメンのろきはんは喉を潤していた。
「えんり煙幕持ってんだよな……アイツこっち来てくんないかな」
駐車場エリア内にある二階建ての立体駐車場にて。柱を隠れ蓑にしたろきはんは『無敵だろこれ、手堅い!』と自画自賛する。彼はこの五分間、画面映えなど二の次で本気の隠れっぷりを見せていた。
「車が無いから隠れにくいけど、絶対ここら辺にもいるよな……」
だがその裏で、ホットが着実にその付近へと接近しつつあった。
☆彡
同時刻。空港三階の送迎デッキでは、ユニオンストリーム所属の女性ブイチューバー、イッサ・ヂーチンがユイガに見つかっていた。
「それではイッサ・ヂーチンさん。子供の頃の夢を教えてください」
「え……え?」
「アピールをどうぞ」
「えーっと?夢って言ったよね?んん……イッサねー。実は警察になりたかったの。カッコよくない?」
この情報は過去の配信で明かしており、いち視聴者のライアンもリビングで頷いていた。
「意外……ですが今は……」
「今……」
小学校低学年の頃からずっと憧れていた『警察官』という夢。それが大人になった今では家に引きこもり、ゲームや雑談、その他イベント活動で日々の生計を立てる生活に変わっている——そんな方向性のまるで違う身の削り方に、イッサはふと現実を突きつけられた気がした。
「ァ……ウァァ……」
「実はさ、俺知ってるんだけど……さぁ後ろを振り返って」
「だッ、駄目だイッサちゃん!部屋を見るな!」
彼女以上に彼女のことを知り尽くしたライアン含む視聴者が揃って制止に入る。掃除が家事の中で一番苦手なことで有名なイッサ。彼女の部屋はユニオンストリーム内でも屈指の汚さらしい。
「ィァ……」
ちらりと後ろを見れば、空のペットボトルやコンビニ袋のゴミ、脱ぎ捨てられた服で床が見えなくなっているその惨状に――家主の心はトドメを刺された。
「……自首……します……」
「絶望したので失格です」
「アァ、アァァァァァ……」
「イッサちゃーーん!」
捕らえられたイッサは、牢屋に送られてもなおショックから立ち直れずにいた。
「あ、イッサちゃん来た……何で心壊れてんの?」
「イッサなんてもう……全部ダメなんだ……」
「これはユイガだな……後で切り抜き見よ」
「イッサちゃん。あちらにバーカウンターが併設されてますの。エミィでよければお話聞きますわ。同じくアピールに失敗した者として」
テディはイッサのメンタルケアをエルミラに任せ、ホット視点の映像へ目を移した。
「イージーイージー。いいペースで捕まえてるんじゃない?」
イッサの確保情報に気を取られたホットは、ばたえるが潜んでいる場所を素通りし、そのまま別のエリアへと向かってしまった。
「……よしよし。悪は去った……」
首の皮一枚繋がった彼は、新たな潜伏場所を探そうとマップを広げる。
「――えぇ凄いな!レゾクラで飛行機の時間見るアレまで作れんだ……」
一方、空港エリア二階の国際線出発ロビーにて。個人配信者の布施は時刻に行き先、便名まで細かく表示された電光掲示板を見つけ、感心したように声を上げていた。
「十時にこれプロ国、KP0319便、一番ゲート……十時二十五分に日本、YG1017便、二番ゲート……」
「ゲートが二つしかないのと、出発時刻の間隔が空いてるのは地方空港らしいな」
布施が細かく作り込まれた表示を読み上げていると、近くにいたzen9も電光掲示板を見上げる。
「……ん?」
すると、布施が何かに気づいた。
「便名の横にあるTDとかHTってアルファベットは……メンバーのイニシャルか?」
「え?テディでTD……でも数字が違うTDもあるな……あ、タンドリーもTDか」
「ははは!ややこしいな」
「……あれ?テディとホットとNK……ナキの数字、0319で一緒だ」
「本当だ……あれも何か所縁のある数字なんだろうな」
「何だ……?誕生日とか?」
「流石に三人一緒は嘘だろ。これプロ……KPも0319ってことは……」
その時――『ピリリリリ!』と布施の言葉を遮るように、新たなミッションが始まった。
「ミッション②位置情報公開を阻止せよ……」
「残り百分までに四人以上六人以下のグループを作り、全員が映ったスクリーンショットを一枚撮影せよ」
「その後、グループの代表者がスクリーンショットを指定された場所へ送信すればミッションクリア」
「ただし一度撮影したランナーは、以降このミッションで別グループと撮影しても人数にカウントされない……!?」
「ミッションに失敗した場合、 捕まるまで発光し続けるペナルティが科されるゥ……!?ひぇぇぇぇ」
別々の箇所に一人でいるロクラメンのヒルト、えんり、ノックス、ろきはん、におんは俄かに焦り出す。このより多くのランナーと協力する系のミッションは、隠れている者を動かす目的も含まれていた。
「スクショ撮った後にランナーが捕まっても有効だけど、上手くやらないと絶対あぶれるよー」
主催者のキジーは『丁度四人じゃん!撮ろ撮ろ!』と並ぶバルチャー、さがん、佐々來深°、塩練メアリを見る。
「らむらすランチは丁度解散した後だったからアンラッキーだねぇ」
複数のランナー視点をザッピングしたテディは、四人以下のグループで固まっている面々を確認する。彼等は隠れていたポジションを捨て、なんとか仲間と合流しようと必死だった。
「……!」
――あれは……どっかで見たことあるな。名前なんだっけ。
駐機場エリアを捜索していたタンドリーは、視界の端に人影が横切った瞬間、猛然と追跡を開始した。
「誰か誰か写真……っ!ヤァァー!」
見つかったのは――ユニオンストリーム所属の女性ブイチューバー、万世かくり。彼女はダッシュで逃げながら叫ぶ。
「レゾクラまともに触ってないんです!ほぼ初心者なんです!」
「確かに。逃げ方がちょっと……素人っすね」
「うるせーっ!上手い人狙った方がいいですよぉ!」
「じゃあ最期の言葉も言ったことだし……」
「待って待って待って待って待ってーーー!」
――あぁ全然時間稼ぎ出来なかった……。
かくりが心の中で観念したその時。
『ドムッ!』
「っ!」
「え!?」
炸裂音とともに白煙がタンドリーの視界を遮り、彼は一時的に身動きが取れなくなった。
「かくり!こっち来て!」
「神流……ほまに神!!」
颯爽と駆けつけた神流は、先程のミッションで入手した『煙幕』を迷わず投げ――仲良しの同期を追跡者の手から救い出した。
「寺岸……!何だコレ煙幕か!?何も見えねー!」
「ドリーごめんねっ……!今のアタシたちは敵同士……!」
「急にヒロインぶるじゃん。神流どした?」
こうして逃げ切ることに成功した二人は、ネリス・ヴォーン、歌観月天、曙ひかり、森野キティと落ち合い、六人揃って女子だけのスクリーンショットを撮った。
一方、空港エリア二階にある特別待合室にて。個人配信者の布施とワカオミ、プロゲーミングチーム『Quirk Hematite』所属のファイヴi、ディパレット所属の男性ブイチューバー鬼形ラセツ、ロクラメンのヒルト――計五人がミッションの為に集結していた。
「……ムサいわー」
「分かる」
「あと一人いけるのか……女の子呼びます?」
「飲み会か。面子が悪いよ……女の子サイドも『クッサ!無理無理!』って断るって」
「オイ言い過ぎ!」
青年と中年がほどよく混在する男だらけのメンバーが、とうとう諦めて写真を撮った直後。
「「間に合えぇぇぇ!」」
ビジネスクラスやファーストクラスの利用者しか入れない特別待合室に、複数の影が雪崩れ込んできた。




