第169話『ミッション①逃走アイテムを獲得せよ!!』
アイテム捜索の途中、らむらすはコンテナの前にあるトラクターに興味を惹かれた。
「なぁ。この車に乗って逃げれたりしない?」
「らむらす免許持ってないだろ」
「そうだけど……けやは?大型免許持ってなかったっけ」
「……いや。それじゃ運転できない」
かつて物流センターに勤めていたけやは、貨物を牽引することに特化したトラクターをチラッと見る。
「これトーイングトラクターって言って、大型特殊免許とまた別で講習とか受けないと運転ムリ」
「え?大型免許じゃなくて大型特殊免許って言った?」
「そう。フォークリフトとかショベルカー運転するのに要る」
「お前本当に車詳しいな」
「特殊車両も守備範囲マジか」
配信コメント欄も、けやの豊富な車知識に感心する。
「!」
「やべぇ来た!タンドリー来てます!」
その頃、タンドリーは見張り役のばたえるを視認していた。
「ばたえるナイス!」
「逃げろ逃げろ!」
四人は一斉に散開するが、追跡者は迷わず最初に見つけたばたえるの背中を追う。一度コンテナの陰で見失うも、曲がった先で再び姿を捉えた。
「あーそうだなー。タンドリーって本当にメロい!」
「……あんま嬉しくないっす」
「酷い!本当にビジュも良いし声もメロいって思ってんのに!」
「はは。女子高生みてーなこと言いますね」
――これはもう……無理だな。
お互いが数秒後に確保される未来を悟ったその時――
「……!?」
――タンドリーの足がピタリと止まった。
――嘘だろ……どこに行った!?
追いかけた先にばたえるの姿はなく、タンドリーは焦って首を巡らせると――
「……!」
「……クッ」
――黄色いコンテナにへばりつくばたえるとガッツリ目が合った。
「……カメレオンの方がまだ擬態上手いっすよ」
「二秒くらい騙せてたのにぃぃー!」
カモフラージュはあえなく見破られ、ばたえるは無情にも確保された。
「残り三十一か……」
タンドリーは一人きりになったコンテナヤードを冷静に観察する。
――今ミッション中みたいだな。どっかのコンテナに必要な道具が隠されてるから探せって感じか……?
所々開いているコンテナを見てミッションの内容を把握すると、彼は紳士的にその場を離れた。
『ラン・フロム・ザ・KP』開始から十分が経過し、残り百三十分。
「いや初ミッション行きたいけど真反対じゃん。きちぃな……」
個人配信者の布施のように移動距離と発見されるリスクを考慮して見送るランナーもいれば――
「えー必須必須!アイテム絶対いるでしょ!」
――ユニオンストリーム所属の女性ブイチューバー、寺岸神流のように目先の報酬に心を奪われて動いてしまうランナーもいた。
「……よし!急げ急げ急げ!」
そしてここで、ばたえるを犠牲にして生き延びたらむらす、けや、サムろうがコンテナヤードに戻ってきた。
「こん中にあるの!?」
「らむさん!まだ開いてないとこ開けていけばいいですか!?」
「そう!結構音するから周囲警戒して!」
さらに追跡者の目をかいくぐって駆けつけたユニオンストリーム所属の女性ブイチューバー、モコ・ルブランとロクラメンのえんりが加わる。五人は各自の判断で手早くコンテナを開けていき、追跡者が迫るより先に目的のアイテムを発見した。
「あーよかった。一つのコンテナに先着分ある」
「やったー!アイテムゲットだぜ!」
「えんり絶対二個取るなよ」
「取りませんよ!」
「ランナー用チャットにコンテナの特徴送りますね!」
五人は逃走用のお助けアイテムである『煙幕』を一人一つ手に取り、足早にその場を去った。
「えーっと……どっち?」
空港エリア周辺にて。同時刻、プロゲーミングチーム『Quirk Hematite』所属のギバはミッションの途中で迷子になってしまった。
「意外といない……皆隠れるの上手いんだな」
その正面から追跡者のホットが歩いてくる。
「っ!」
あわや正面から鉢合わせという状況だったが――ギバの方が一足先に気配を察知し、身を翻して逃走する。
「いたっ……!」
その動きに反応したホットも、間を置かず追跡を開始した。
「お!ギバさんがホットに見つかったー」
「空港に入ったの偉い!撒けるか!?」
テディとばたえるも牢の中からモニターを見つめ、階段を駆け上がって逃走を試みるギバの様子を観戦していた。
「くっそ……!俺にハンドガンがあれば!」
「ギバさんお久しぶりですー!またゲームしましょう!」
「嫌だ来ないで……っ!」
――ここだ!
二階に続く吹き抜け階段の途中。ギバは咄嗟に手すりを蹴って跳躍し、天井から吊るされた飛行機の模型へギリギリ飛び移った。
「えーっ!そこ行けんの!?」
「お?どうしたこれプロ。ここ来れんか?」
「ぅ……」
運よく優位な位置を確保したギバは、余裕の表情でホットを挑発する。すると彼は低く唸り――3メートルほど離れているであろうその距離を、ギバを真似て跳び越えようとした。
「あぁっ無理ー!届かない!」
「ははははははは!」
しかし飛距離が足りず、そのまま床に着地してしまう。
「タンドリー!交代してー!」
「お?逃げんの?そうやってすぐ得意なヤツに押し付けんの?」
「ぐぐぐぐ」
ホットが弱音を零しながら再び挑戦しようとしたその時。
「たまたま強ポジ来れたからってイキってんじゃねぇ!」
「あぁぁぁぁぁぁぁ!」
二階の通路を巡回していたナキが、空中に跳んだ姿勢のままギバを警棒で殴りつけた。
「ナキナイス!でもギバさん大先輩!」
「あー。まぁいいだろ。煽られてたし」
「それもそっか」
二人の連携によってギバが確保され、残り三十人となる少し前。
「あったあった……!モコたんチャットマジ神!」
寺岸神流がアイテムを手に入れ、その後を追うようにさがん、佐々來深°、塩練メアリがコンテナヤードへ辿り着いた。
「もう時間ヤバいで!」
「水色コンテナの奥にある灰色……あれか!?」
「どうかまだ残ってますように……」
ミッション終了まで残り二分を切った時点で、残っているアイテムはあと二つのみ。人数的には一人余る形となるが、そんな状況でいち早く動いたのは――
「じゃ、お疲れー」
「オォイ!」
――強欲なクズこと佐々來深°だった。
「後輩の前ですよ!少しくらい譲る精神を見せたらどうですか」
「塩練さァ……この組織入る時に教わっただろ?この世界は活動歴の長さが正義!したがって一番先輩の俺に敬意を表せ!」
「リスペクトの欠片もない主張やめてださい」
「その理屈なら俺だって佐々深と四ヶ月しか離れてねーから!ほぼ同期ってことで俺が取る!」
「いいんですか?カメラ回ってますよ……炎上しろ」
「冗談ですやん!塩練はん!」
「ホンマ勘弁してください!生放送中ですがな!」
コロッと芸人のようなおどけた言い回しでアイテムを箱へと戻した二人は、まるで炎上を気にしているような素振りで笑い合った。話が振り出しに戻ったことにメアリはそっと安堵する。
「炎に弱いタイプのクズで助かりました……時間がありません。ここは平等に『塩の名前』古今東西で」
「どこが平等!?」
「自分の得意分野に持って行こうとすんな!」
三人がアイテムを巡ってワーワー揉めている間、こちらに向かって近づく怪しい影があった。
「……!」
「……ん!?あっ……!」
駆け足でコンテナに近づいてくるその存在に、最初に気づいたさがんが声を上げる。
「え?」
「追跡者!?」
つられて他の二人も振り返る。コンテナの入り口に立っていたのは――
「よっお疲れ!俺のアイテムある?」
――時間切れ寸前でアイテムを狙って現れた、個人配信者のバルチャーだった。
「「帰れぇ!」」
「えーーっ!」
「この世界は活動歴の長さが正義じゃなかったんですか。お二人の遥か上にいる御方が推参しましたよ」
「どう考えてもこの二つは俺たち三人の誰かだろ!」
「黙ってジャンケンずっぞ!」
そんなバルチャーを尻目にジャンケンが始まり、お助けアイテムは深°とメアリが獲得することとなった。
「くっそー。一足遅かったか……俺どっちかについてっていい?」
「じゃあ俺メアリさんで」
「え゙」
「ぇっ……」
「「ぶははははははは!」」
メアリからガチトーンで『え゙』と返され、さがんはショックを受けたようなリアクションを返す。その一幕に、深°とバルチャーは堪らず爆笑した。
「先程の先輩マウントを忘れたとは言わせません。私、横暴ゴリラかハゲタカなら断然ハゲタカ派です」
「誰がゴリラだゴルァ!」
「あんまその二択で悩むことないけど」
「塩練さん……!俺は君を守る!」
本来なら三人以上が固まって動くのは、追跡者に見つかるリスクを高めるだけの愚策である。だが今回は大型コラボということもあり、あえて分散せずに行動を共にすることにしたのだった。




