第168話『賞金がなくても楽しい』
「はーい!補欠要員のテディです!僕は今、牢屋にいまーす!」
「……え!?」
「これが!?」
テディの視界には、音ゲーやシューティングゲームなど、多種多様なミニゲーム筐体が並ぶゲームセンターが広がっていた。しかしその出入り口は頑丈な鉄格子で封鎖されている。
「確保されても配信画面が終わらないようにという配慮ですねー。ヨッ!流石キジーさん!」
「媚びるなー!」
「胡散臭ぇなぁ!」
「うわ。音声届いてないけど今ランナーから総ツッコミ喰らってそう。僕は本音を言ったまでですよー!だって見てくださいこの奥!テニスコートやアスレチックもあるよ!」
「スポーツも出来んの!?」
「完全にアミューズメントやん」
「ボウリングある?」
「隣のコート何?」
「僕がいるとこではバドミントンやバレーが遊べて、隣はハンドボールやサッカーが出来るみたいです!あ、向こうにはボウリング場もありますよ!」
「何で地味に会話成立してんだよ」
「こっちの音声聞こえてるだろ」
何故か言葉を交わさず意思疎通を果たしたテディは、手短に中を紹介すると左手に警棒を握った。そしてマイクをキジーに戻す。
「……はい!御覧の通り、ランナーはテディが持ってるコレで殴られると牢屋に転送されます。テディが追跡者になるのか、それともこのまま牢屋のスタッフになるのかは今後のミッションの結果によって決まります。彼の実力については皆さんもよくお分かりかと思いますので、選択は慎重に行ってください」
「アイツだけは野に放っちゃ駄目だ」
「絶対協力しましょう!?」
ここで質問タイムが始まり、キジーとそこそこ付き合いが長い『こせゆ隊』のりょくおーが挙手する。
「賞金は?」
「ないっ!」
「ははははは!語気強っ……えー何もないの?」
「キジー。俺『BRONZE ATTIC』公式グッズの新作欲しいー」
「あ、僕パーカーとスウェット!」
「そんなの台本にないし……困るし……」
こせゆ隊の三人が我儘を言い始めたのをきっかけに、他の参加者たちも次々と金やグッズプレゼントをねだり始める。
「分かった分かった。じゃあこれでどうだ!」
やがてキジーの口から、名案のふりをした最悪の提案がこぼれ出た。
「逃げ切ったランナーの数だけこれプロが一発芸しまーす!!」
「「うぉぉ-ーっ!」」
「あっはははははは!」
「いやいやいやいや。キジーさん!」
爆笑しているテディをよそに、残りの四人は揃ってキジーに詰め寄った。
「何で俺らが罰ゲーム……」
「そんなの台本に書いてないんだけど!」
「大人しくグッズ贈呈しろや!」
「じゃー逃走者ゼロで終わらせなきゃ。それにこれプロって一発芸も強いって聞いたし」
「それは編集って強い味方が……」
「キジーさんがノーダメなのエグいな」
「生放送でやれるのはテディだけなんだけど」
「要するにアレだろ?俺たち追跡者が負けたら罰ゲームが待ってるって話だろ?上等じゃねぇか……!」
「これで追跡者がガチることが決定したね……!血が騒ぐなぁ」
黒スーツに金ネクタイを締めたテディは『罰ゲームだろうと全滅させれば問題ない』という意識で固まった四人をモニター越しに眺め、獰猛な笑みを浮かべた。
オープニングが終わり、ランナーたちはエリア内へ散開する。
「ちょ、一緒に行動せん?いや全然、生贄とか考えてないんだけど」
一分後に追跡者が解放されるという緊張感が漂う中、寂しがり屋のらむらすは早くもチーム作りに動き出していた。
「どこ行く?」
「そうね……やっぱ室内かな」
けやとサムろうがそれに応じる中、こせゆ隊の三人もひとまず固まって行動しようとする。このゲームでは近距離の人とだけ会話できるボイスチャットが採用されており、途中ではぐれると終了まで二度と話せない恐れもあった。
「五……四……」
個人配信者のワカオミは素早く建物の陰に身を隠すと、追跡者放出までのカウントダウンを始める。
「ホット駐車場行きます」
「俺は滑走路」
「じゃあ俺とナキが空港内ね」
「っしゃあ!行くぞ!」
「三……二……一……!」
箱の中で待機中の四人が最初の捜索場所を決める中、個人勢の女性ブイチューバー曙ひかりはゼロへ近づくカウントダウンに怯えていた。
『追跡者が放出されました』
花火が打ち上がると同時に箱が開き、四人の追跡者は猛スピードで散っていく。タンドリーとは逆方向の駐車場エリアに向かったホットは、開けた視界を頼りに周囲を丹念に見渡した。
今回の舞台『これプロ村空港』は、大きく『駐車場エリア』『空港エリア』『駐機場エリア』の三つに分かれている。
広さ、遮蔽物ともに優れる三階建ての空港エリアが隠れ場所としては最有力だが――一方で視界が開けた駐車場エリアや、追跡者の解放地点から最も遠い駐機場エリアを選ぶランナーも少なくなかった。
「追跡者放たれたよ……」
「怖い……!」
「流石にまだここまでは来ませんよね」
プロゲーミングチーム『Quirk Hematite』所属のさがんとディパレット所属の男性ブイチューバー佐々來深°、同所属の女性ブイチューバー塩練メアリは、吹き抜けの二階から出入り口付近を見下ろしていた。
「あっ来た!入ってきたっ!」
「誰?」
「金髪……ナキさんですね」
三人が国内線側の入り口から入ってきたナキを見たその時。
「――『これプロ村へようこそ』……あ、凄い。これプロの絵と年表が展示されてますわ」
「!」
国際線の入口をくぐった瞬間、ユイガは奥の食堂にランナーらしき人影を見つけた。
――さて……だーれだ。
ユイガはすかさず速度が増した足で追跡する。見つかったのは『ユニオンストリーム』所属の女性ブイチューバー、エルミラ・フェアリウムだった。
「お、ユイガ一番じゃーん。このまま確保なるか?」
牢屋内にあるモニターに映し出されたユイガの視点映像を、テディは笑いながら眺めていた。
一方のエルミラは展示物に目を奪われ、まるで気づく様子がない。
「ぁっ……ヤーーッ!」
彼女がようやく気づいたのは、追跡者が食堂に入った直後だった。会話が届く距離まで近づいたユイガは無表情で言葉を発する。
「では愛称エミィさん。アピールをどうぞ」
「は……あ、アピール?」
「特に無いならこのまま……」
「いえっあります!言わせてください!」
――アピール……とにかく何か言わないと!
目をくるくると渦巻き状に回転させたエルミラは、迷った挙句――パステルグリーンのフィットネスウェア姿のまま、自信たっぷりに胸を張ってみせた。
「私、エルミラ・フェアリウム……バストサイズはGカップですわ!」
「品が無……淑やかじゃないので失格」
『バシッ』
「きゃんっ!」
そのような結論に至った後、ユイガはテーブルの上に乗って距離を詰め――エルミラを牢屋へ転送した。
『エルミラ・フェアリウム確保。残り三十二人』
「エミィが最初の確保者か……」
「うわマジか。エミィさん……」
空港エリアの三階にいるユニオンストリーム所属のネリス・ヴォーンと個人配信者のzen9は、最初の確保者を思って心を痛めた。
「やぁやぁエルミラさん。いらっしゃいませ」
開始六分にして捕らえられたエルミラを、テディは温かい声で迎え入れた。
「あぁぁっ……!」
記念すべき第一号の確保者となった彼女は悔し気に顔を伏せる。
「どうして……ユイガさんは平坦なお胸がお好みでしたの?」
「いやそんなことないですよ。何か『淑やかじゃないので失格です』とか言ってました。ユイガは日本男児ですから」
「成程。もっと大和撫子っぽく……確かに先程のアピールは、恥じらいが欠けていましたわ」
テディが笑って牢屋内を案内する中、これプロ村空港では最初のミッションがスタートした。
「ミッション①逃走アイテムを獲得せよ……」
「残り百二十五分以内に空港内に設置された救援用コンテナを探し出し、アイテムを獲得せよ」
「ボックスの中には、逃走に有利となるアイテムが入っている……こりゃ行くべ!」
「レッツゴー!」
運よく駐機場エリアにいたらむらす、けや、サムろうとロクラメンのばたえるは、スーツケースや貨物を積んだコンテナヤードめがけて一気に走り出した。
「ただし救援用コンテナの場所はランナーには公開されない。だから探索中に追跡者と遭遇する危険がある……」
「おまけにアイテムは先着八名、早い者勝ち……さぁ動き出すのは誰だ?」
追跡者はこのミッションの存在を知らない。一方で、ランナーだけでなくテディとキジーもその内容を把握していた。
「コンテナはあったけど……多すぎ!?」
「開ける音デカッ!」
「ばたえる!ちょ追跡者来るか見張って!」
「了解です!」
らむらすたち四人はドーリーという台車に載せられたコンテナを片っ端から開けていく。シャッター式のコンテナからは『ガラガラガラ!』という大きな開閉音が、レバー式からは『ガチャンッ!』という頑丈な金属音が駐機場エリアに響き渡る。
「……あ?何か変な音したな」
その物音に反応したタンドリーは、ゆっくりと音のする方へ近づいてきた。




