第160話『村人と反逆者、どちらかが滅ぶまでは……』
彼はポケットから鍵を取り出したかと思うと、次の瞬間には右手にトンカチを握っていた。
「俺は『鍵番』だ。昨日の夜はメトロが外に出られないよう、家のドアをベニヤ板で封鎖した」
「いや『鍵番』なら南京錠とか使えよ!トンカチ握ってんじゃねぇ!」
「ベニヤ板て。普通そこは外付けロックじゃろ」
「どうりで……昨日トンカンうるさくて眠れなかったんだけど」
『鍵番』は夜に一人の住民を監禁し、その夜の移動と役職行使を封じる能力を持つ。対象が外出しなかった場合のみ『相手は外へ出ていない』という情報を得られる。そして監禁された本人は、自分を閉じ込めた人物の正体を知ることはできない。
「私の役職も『鍵番』です。しかし昨夜は監禁状態だったため行動できませんでした。この事実は、タンドリーの能力が正常に実行された証拠になります」
「おぉー!いいね」
「そこ繋がるんじゃ」
「二人とも反逆者でグルって可能性もあるんだけど?」
「でも他に『メトロへ鍵を掛けた』って奴いねぇんだろ?ならタンドリーは本物の鍵番で見ていいんじゃねぇか」
「ですね」
続くユイガとナキは――
「役職は……まだ伏せておきたい。それに昨日の夜は家から出なかった」
「俺もだ。最初は大人しくしとくのもアリだろ?」
――あえて何もせず大人しくしているという選択を取った。
「俺とナキの思考、かなり村人寄りじゃない?」
「いや本当はホット殺しに行ってたクセに嘘ブッこいてるかもしれねーだろ」
「ホットが死んで一番喜ぶ動物……ハッ!」
ふと何かに気づいたテディが、ハッとした表情でユイガに意味ありげな視線を送る。
「私怨ってことですか?」
「興味深い指摘です。それは盲点でした」
「違うんだけど!?俺の役職一回しか使えないから!誰か俺の家来てないの!?」
必死に弁明するユイガを見て、次は自分の番かとシェンが話を先に進める。
「俺も役職は伏せるわ。まだ自分が『幻覚持ち』か分からんし。でも昨日はテディん家行った」
「あー!あれシェンだったんだ!」
「本当か?」
「来てた来てた。フード被ってたから誰か分からなかったけど、すぐ帰っちゃったよね」
他に名乗り出る者はいない。シェンが昨夜、テディに対して何かの役職を使ったのは確かなようだ。
「最後は僕ですね」
ナイアは周囲を見渡してから静かに告げる。
「僕は『掘削者』です。昨日はナキさんのお家の前に落とし穴掘ってました」
「オイ!」
「タンドリーもナイアも人殺しが起きた深夜にやることじゃない……!」
『掘削者』――それは選択したプレイヤーの家の前に落とし穴を掘る役職である。落とし穴が設置された家を訪れた人物は侵入を阻まれ、その夜は家の中へ入ることができない。
これにより訪問者は役職の使用ができず、殺害などの行動も取れなくなる。ただし同じ家に複数の訪問者がいた場合、落とし穴に落ちるのは最初に到着した一人のみとなる。
「僕の役職はナキさんの家に誰かが来たことしか分からなくて、ナキさんが外出していないことの証明にはならないんですけど……。落とし穴には誰も引っかかりませんでした」
「訪問者ゼロってこと?」
「確かに俺んトコには誰も来なかったけどよぉ……俺もまだグレーってことか」
「勿論、僕が『幻覚持ち』で偶然そう見えただけの可能性もありますが……」
「っ……ナイアかタンドリーかメトロ!誰でもいいから俺の家守って!俺ガチ村人だから!」
「ナイア、可哀想じゃけぇ次はあの子猫見守っちゃり」
「子猫じゃないんだけど!」
「あははっ!分かりました」
全員の証言が出揃った。もちろん、この中には嘘もあるかもしれない。『幻覚持ち』によって、本人すら本気で勘違いしている情報も混ざっている可能性がある。
――まぁそれを疑い続けたら埒が明かないから……。
それでもテディは一旦全てを事実だと仮定し、頭の中で整理を始めた。
「ここまで整理すると……ホット殺しに直接関わってなさそうなのは、タンドリーとシェンとメトロか」
「シェンも?」
「俺はホットが殺された時テディの家おったけーな」
「あぁそっか」
「容疑者はテディ、ユイガ、ナキ、ナイア……まだ全然分かんねぇな」
「現時点において、全ての証言には『幻覚持ち』による誤認、または虚偽の可能性が残存しています。断定的な判断は危険です」
「結局、全員どこかしら穴があるってことか……」
その後も役職や行動も照らし合わせ、盤面を整理する。しかし決定的な矛盾も、反逆者だと断言できる証拠も見つからない。
疑心だけが膨らんだまま――誰も追放されることなく、二日目の夜が訪れた。
一日目夜の行動とそれぞれの役職は以下の通り。
・テディ(張り込み)→ホット(張り込み)
・ホット(観測者)→死亡
・タンドリー(鍵番)→メトロ(鍵番)
・ユイガ(不明)→在宅
・ナキ(不明)→在宅
・シェン(不明)→テディ(異常なし)
・メトロ(鍵番)→外出不可
・ナイア(掘削者)→ナキ(落とし穴掘ってた)
「残り七人で、うち二人が『反逆者』……やっぱり役職を明かしてないユイガとナキとシェンが気になるかなー」
テディは部屋の中央に立ったまま、今夜どこに張り込むかを検討する。
「ぶっちゃけ次に殺されそうなのは『幻覚持ち』=『確実に村人』な僕だけど……下手に確定『幻覚持ち』が外出して場を引っ掻き回すのもよろしくないか」
テディの視点では誰も家に来なかったはずだが、朝になると家主が殺されていた。もはやAIによる誤情報を見せられていたことは疑いようがない。そこで今夜は自宅待機を選んだ。
☆彡
「さーて。今夜あたり死にそうな奴のとこ行くか」
一切迷わずテディの家に向かったシェンは、落とし穴の気配がないことに安心して中へ入る。
「!?」
しかしそこにあったのは――胸をナイフで貫かれ、倒れ伏す家主の姿だった。
「……大当たり」
ニヤリと口角を上げたシェンは魔導書を開いた。
彼の役職は『死霊使い』――夜のフェーズに自分以外の住民の家を訪れ、その者が死亡していれば蘇生させて生存状態に戻す能力を持つ。ただし訪問された側は、生死を問わず『死霊使い』の正体までは見抜けない。
「うぇぇぇぇ!?えっえっえぇーーっ!」
「どうしました!?」
「何のリアクションだよ」
「また変な声出してんだけど」
外にまでテディの蘇生する声が届く中、シェンは役目を終えると足早に家を出た。
「後出しで『反逆者』の行動を無駄にする乙な職業――諸君!これが『死霊使い』である!!いやーファインプレーやっちまったか」
シェンを除く住民にとって緊張に満ちた夜が明け、三日目の朝を迎える。
「やっぱりか……」
「テディ……」
広場の中心には、息絶えたテディの亡骸があった。
「……は?」
シェンの口から、心の底から驚愕したような声が零れ落ちる。
――嘘じゃろ!?確かに俺はテディを生き返らせた……まさか俺も『幻覚持ち』!?
「シェンの挙動に不自然な変化を検知しました。動揺の原因について情報提供を求めます」
「え?シェン?」
「……っ」
目ざといメトロに勘づかれ、考える余裕もないままシェンは正直に事の顛末を語る。
「俺の他にテディの家に行った奴は……」
「「……」」
「そりゃ行っとらんって言うよな……!」
しかし彼の予想通り、テディの家を訪問したと言う者は彼の他に誰もいなかった。
「シンプルに考えたら、シェンがテディを殺したか……」
「シェンが『幻覚持ち』で適当なこと言ってるか」
「いや……えぇマジぃ……!?よーできとるなこの人狼ゲーム!」
「おいおいシェン。無粋なこと抜かしてんじゃねぇよ……お前なんだろ?『反逆者』ってのはよぉ!」
ナキがぞっとするような酷薄な笑みを浮かべる。その覇気に呼応するかのように、広場の中央へ処刑台が出現した。
「これは……」
「この村『独裁者』おるんかよ!」
『独裁者』――朝から昼の間、一度だけ任意のタイミングで行使できる村人限定の役職だ。発動と同時にその日の議論は強制終了となり、独裁者は疑わしい住民を一名指名する。
「例え神でも、俺ぁ疑わしきは罰するタチなんだよ!」
そして、他の住民による投票を無視して処刑を実行すること可能である。
「このバカ蜂!もっぺん考え直せ!」
冷静になったシェンは処処刑台の上から無実を訴えるのではなく、代わりに自分が死んだ後に待ち受ける状況について説得を図った。
「俺が死んだら五人になって、次の夜『反逆者』は確実に二人殺す!そうしたら四日目の朝は何人になる!?」
「……引っかけか?」
「三人じゃアホ!このゲームは『反逆者』の数が『村人』と同じか、それ以上になった時点で敗北確定!村人陣営の俺を追放すると負けるぞ!」
「って言って惑わそうとしても無駄だぜ!」
「お前っ……!おい知能高い組!何とかせぇ!」
このままポンコツ独裁者に処刑されてしまうのか――残されたタンドリー、メトロ、ナイアは苦笑混じりに考えを巡らせた。




