第155話『アノマリーを見逃さないこと』
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ハンターは大量の商品や装飾の中から、小さな異常を見抜く観察力が試される。
「これは……普通か」
ボールにラケット、トレーニングウェアやプロテインなど――スポーツ用品が所狭しと並ぶ店内を模したステージで、タンドリーは光線銃を片手に四つの異変を探し回っていた。
「サッカー用のスパイクと陸上スパイクの区別は流石につかねーぞ」
「そんなシャバい隠れ方しなーいよ。精々ハイヒールを紛れ込ませるとかだね」
「えっテディ何で言うの」
「あっユイガごめんね!ヒントになっちゃったかも」
「やめろ。どうせブラフだろ」
アノマリー側は味方がどこに隠れいてるのかが分かる。ナキはバドミントンのシャトルに紛れて羽根突きの羽に変身し、ホットは――
「何でスポーツ用品店に選挙ポスターが貼ってあるんだよ!」
『バシュウン!』
「ぐぁーっ!」
――卓球コーナーのポスターに紛れ、架空の選挙ポスターに変身していたところをハンターに見つかってしまった。
「はい。ホット開始三十秒で脱落ー」
「あーあ見つかっちゃった」
「何やってんだホット!」
「いやマジで……誰だよ『箱崎たかし』って!馬鹿にしてんのか!」
「舐め過ぎた……」
――絶対スルーしてくると思ったのに!
「だってタンドリーこういうゲーム絶対無理じゃん」
「うるせーな」
脱落したホットは天界カメラで他のアノマリーたちを観戦する。テディはミラーボールへ姿を変え、天井から堂々と吊り下がっていたが――
「これは……いや、ただの登山バックか。俺の気の所為か……?」
――タンドリーは一瞥すらせず、その真下を素通りした。
「ハッ!危ない危ない。音立てるところだった」
「舐めプやめろよ!これは本気の勝負なんだからなぁ!」
思わずミラーボールらしく音楽を流して自ら発光したい衝動に駆られたが、ナキの釘刺しで我に返る。幸先こそ上々だったものの、それ以降は誰一人見つからず――気づけば探索時間は残り半分を切ってしまった。
「くそ……全然いねぇ……!」
「タ、タンドリー!?」
「嘘だろ……」
「ちょっとガバいんだけどー」
「しっかりしろよ!」
タンドリーはナキがいるバドミントンコーナーをくまなく確認する。しかし、シャトルに混ざった白い羽根突きの羽は視界から漏れ、そのまま別の売り場へ向かった。
「♯どうしタンドリー」
「タンドリーマジか」
「節穴すぎんだけど」
「はいクソ雑魚ー!」
アノマリーは自分自身が異物であることを理解した上で相手の視線や思考を読み、最も疑われにくい場所へ身を置く心理戦が楽しめる。
――それでもホットしか見つけられないなんて……。
「僕とユイガはかなり隠れ方ザルなんだけどなぁ」
「タンドリー相手ならこれくらいでもバレないって証明したいんだけど」
「この二人見つけらんねーようじゃ俺は一生無理だな」
「……そろそろ撃ってみるか」
変身中のアノマリー以外へ光線銃を撃つと誤射となり、五回でハンターは強制敗北となる。
残り時間はあと一分。悠長に見極めている余裕はないと判断したタンドリーは、少しでも怪しいものを見つけ次第、撃ち抜くことを決めた。
「タンドリー。一回戻ってさっきのとこ探してみたら?」
「あ……?」
ハンターの動向を天界カメラで追っていたホットの助言を受け、タンドリーはレジ前を再び調べる。そこにいたのは、店内唯一の人間。店の制服を着たおじさんが、真顔でぽつんと立っていた。
「とりあえず撃つ」
『バシュウン!』
「「おじさーーん!」」
おじさんは光線銃の餌食となるが、無敵のNPCのため傷一つ負わない。両陣営とも彼へ直接干渉することはできないが、アノマリーは変身して周囲のレジカウンターや壁に潜伏することが可能だった。
――けどレジに変なのはねーし、壁も時計とカレンダーくらいで何も……。
「もう無理だろ。諦めろって」
「挑発していくねぇ。タンドリー大丈夫そ?」
「あと十秒だけどー?」
「時間が足りねぇ……!」
一点で終わりかと絶望しかけたその時。タンドリーがふと天井を見上げると、そこには銀色に輝く球体がぶら下がっていた。
「「あ」」
ハンターとガッツリ目が合ったテディはすぐ『ブンチャッ♪ブンチャッ♪』と音楽を流して回る。
「スポーツ用品店にミラーボールあるかぁ!」
『バシュウン!』
「ワァーッ!」
タンドリーは勢いよくツッコミを入れながら光線銃を発射し、スコア二点のまま試合終了を告げるブザーが鳴った。
「あはははは!最後ナイス!」
「でも二点って……これは勝てるだろ!」
「結局俺のこと見つけてくんなかったし……折角ホットがヒント出してたのに」
ナキの隠れ場所を教えてもらった後、タンドリーはユイガが隠れていたレジカウンター周辺をもう一度見渡す。
「だから異変なんてどこにも……この店って菓子類も売ってんのか?」
「売ってるよー」
「チョコとか売ってる」
「売ってんだけど」
「お前……もうちょっと興味持った方がいいぜ」
「……全っ然分かんねぇ」
タンドリーがついに白旗を上げると、ユイガから「壁だよ壁」とヒントが飛んできた。
「壁……?そもそも時計とカレンダーしか……」
「何月の?」
「は……」
タンドリーは壁に掛かった二月のカレンダーを凝視すると――
「二月三十日って何だよ!」
――現実には存在しない日付が、堂々と印刷されていた。
「気づいちゃったかー」
「二月が三十日まであるって異変ね?」
「やっぱユイガうめぇ……!」
ユイガの芸術点を褒め称えた後、ハンター役はナキへと交代した。
「五分以内に三人見つければ勝ちだね」
「ナキいけんの?」
「フッ……勝ったな!」
今度のステージは、小規模なホームセンター。木材や金物、洗剤、園芸用品、自転車など、多種多様な商品が売り場を埋め尽くしている。
「タンドリーここ!ここでこれに化けて……」
「いや無理だろ」
「いけるいける!えっ逆にいいの?タンドリーもナキみたいに小っさいのに化けて紛れるやり方で勝っていいの?」
「……この位置で変身したらいいんだな?」
「おぉい!何か企ててやがんなぁ!」
タンドリーとユイガがそれぞれ近場で変身を済ませ、残る二人も潜伏の準備を整える。そして――ハンターのナキがホームセンターの捜索を開始した。
「よぉーし!皆殺しの時間だぁ!覚悟しとけよケツの穴が青いガキ共!」
「ナキが言う?」
「あはははは!」
「一歳しか違わねーだろ」
「精神年齢はそっちのが下だけど?」
意気揚々としていたナキだったが、意外と広いマップを前に早くも気圧される。
「……いなくね!?」
「あはははは!いるよー」
「早い早い早い」
「まだ十秒も経ってねぇ!」
「よかったー。入ってすぐのとこに隠れないで」
――そうだ!まずは上!
前ステージのミラーボールが脳裏をよぎり、彼はバッと上を向く。だが、天井には蛍光灯が規則正しく並んでいるだけだった。
「と見せかけて潜んでんだろ!?」
『バシュウン!』
「ちょっハンターさん!?五回誤射したら即敗北だよ!?」
「脳筋で草なんだけど」
「ッチ……分かってる!」
ナキはダメもとで光線銃を撃ったものの、当然ながら誰にも当たらない。成果といえば、防犯対策ポスターに化けていたテディをヒヤリとさせたことくらいだった。
「えっテディの……上手っ!」
「わぁっ!怖い!」
「これは間違いなく異変だな」
「何だよ!クッソ気になる!」
味方三人はテディの変身を見た瞬間、何も知らないナキを置き去りにして騒然となる。
テディが化けたのは、レジ奥のサッカー台付近の壁に貼られた防犯対策ポスター。笑顔の少女モデルが写る、ごくありふれた一枚だ。だがナキが横を通るたび――少女の瞳だけがキョロリと動き、彼の姿を追いかけていた。
「このゲームやべぇな……!?」
「あれだけ煽っていたナキは何処に……」
「ホントやばい」
「ざまぁねーな。二度とディスってくんなよ」
「見逃しエグいんだけど」
タンドリーとナキは静態視力――完全に静止している風景の中から違和感を見抜く能力が他のメンバーより低い。景色に溶け込まれると脳の認識が追いつかず、見落としを連発してしまう。そのため、この勝負ではナキがどれだけホームセンターを熟知しているかが肝となった。
「やっぱ違う気がする……除草剤こんな色じゃねぇだろ!」
「え?」
園芸コーナー捜索中、ナキは除草剤売り場に光線銃を向ける。彼は一つだけ混じった緑色の除草剤を非常に怪しんでいた。
「除草剤ってのはなぁ……黄色なんだよ!」
『バシュウン!』
しかしこれは異変ではなかった。
「なにーーっ!?」
「青緑系の液体除草剤もあるらしいよ」
「へー」
ネジ・ボルトコーナーでナット型のチョコに変身し、商品に紛れていたホットは生返事を返す。そんな彼のすぐ近くで、ナキが棚の端から端まで念入りに確認し始めた。
「どーせ色の似た消しゴムにでも化けてコソコソ隠れてんだろ?」
「おっ」
「テディ『おっ』やめて」
「悩め悩め」
「一回引き返しとく?」
「いーや引き返さねぇ!」
とうとうナキは、ホットが化けたナットの目の前で足を止めた。




