第154話『相克する赤色と黄色』
相克……対立や矛盾する2つのものが、互いに相手に勝とうとして争うこと。
ほどなく戻ってきたナキは、力のない声で自分の名前と立ち絵を受け入れた。
「ガチで覚えてねぇ……俺そんなこと言ってたのか」
「ナキの保育園時代について結構長めに語ってくれたよ」
「コロス……!」
「まぁいいじゃない。昔の話なんだから」
「忘れろ!あと最後三つ目!」
「あ、まだあったんだ」
ナキは耳まで真っ赤になった顔で歯を食いしばり、画面へビシッと指を突きつける。
「俺のカラーは黄色?」
「そうだね!ミツバチだから黒でもいいけど、ちょっと色のバランス悪いし……」
「金のテディと被ってんぞ」
「大丈夫!ゴールドとイエローは全然違うから!」
「俺ぁ赤が好きなんだよ」
ナキの挑発的な声が、ぴりっと場の空気を裂いた。
「タンドリーってアレだろ?モデル印度でカレーキャラなんだろ?じゃあお前が黄色でいいじゃん。俺と変わってくれや」
「……は?」
突然矛先を向けられたタンドリーは、地の底を這うような低い声で返す。オンライン越しでも火花が散っている光景が目に浮かび、ホットとユイガは身を震わせた。
「あわわわわ」
「そこ衝突するんだ。てっきりテディVSナキかと……結構ライバル視してたし」
「まぁまぁ。タンドリーもナキも落ち着いて。確かにナキが赤色でもいいけど……」
「グループの赤って王道で熱血で主人公感すげーじゃん。コイツに赤とか……どう考えてもミスマッチだろ」
「そこはホラ……多様性?俺はタンドリーが赤でしっくり来てるよ。ツッコミも基本激辛だし」
「そこで赤要素出てんのか!?ホットもこじつけんなって。お前も最初聞いた時キャラじゃねぇって思っただろ?」
「俺は……」
――正直そこまでこだわりなかった……。でも急に色変えるのは違うだろ!
「なーんかナキが言ってるけど。タンドリーはどう?」
「ふざけんなよ……蹴り飛ばすぞ」
一触即発の空気が漂う中、テディは満足気に口元を緩める。
「うんうん。ちゃんと赤の自覚が出てるんだね。僕嬉しいよ……!最初『好きな色ある?』って聞いたら『料理以外で色に拘るのってそんな大事か?』って返ってきたもん……」
「タンドリーさん……」
「ヤバ」
「エグ」
思い当たる節があるのか、タンドリーは腕を組んで黙る。彼は他メンバーからの責めるような声から逃げるように、わざと顔を背けた。
「とにかく。もう決まってる席を強奪するとかグリーディーすぎんだろ」
「えー。お前に赤のイメージねぇよ。性格的に黒か青系だろ」
「勝手なイメージ持ちやがって……」
「はいはい。こうなったらあの方法で決めよう!」
「あの方法?」
「ホットとユイガの時にもやったように――『不本意なことがあったらゲームで白黒付けよう!』」
「え、じゃあまた料理対決するの?」
「馬鹿!どう考えてもコイツに有利だろーが!」
――てか料理対決って何だ?ホットとユイガが揉めた時は料理ゲームやったのか?それはそれで気になるな……。
ナキは後でホットVSユイガの件もどちらかに聞こうと決め、今はテディの話に耳を傾けることにした。
「ナキとタンドリー、それぞれがあんま得意じゃないゲームで勝負してもらうよ。勝者の要望は僕が受け入れる」
「俺に苦手なゲームなんざねーよ」
「どうかなぁ。クイズゲームや絵を描く系のゲームでもいける?」
「……クッ」
「ナキも駄目なのか……」
「俺もキツいな……クイズは分野による」
「分かる。でも絵はマジで無理なんだけど」
衝突中の二人がゲームのインストールをしている間、ナキとユイガがトイレへ離席する。ボイスチャットには上機嫌なテディ、胃が痛そうなホット、そしてピリついたままのタンドリーが残った。
「テディどういうつもり!?俺とユイガの一件はともかく、今回はナキの無茶ぶりだろ!メンバーカラーが赤から朱色に変わるとかならまだ分かるけど、いきなりタンドリーの字幕が赤から黄色に変わって新入りが赤って……視聴者が納得するワケないだろ!」
「分かってるよ。でも僕がナキに勝負をしかけてもあまり好転しなそうだから……」
「はぁ?」
テディは「ちなみにこれは独り言だけど」と前置きし、熊のような威圧感を声に乗せた。
「ユイガの時のホットみたいに、ナキはタンドリーを舐めてるよ」
「…」
「君ほどの実力者なら、真骨頂がなくても期待の新人を上回れるよね?」
「焚きつけやがって……言われなくても殺ってやる」
「漢字が変だったけど……素晴らしい敵対心だ!その心意気こそこれプロだね!」
「テディはホント仲間がぶつかり合ってるとこ好きだなー」
今回も撮影外での勝負である。ホットとユイガは、野次馬半分でことの成り行きを見守ることにした。
「――証明してみせてよ。どちらが赤に相応しいのか……この『アノマリーミックス』で!」
『アノマリーミックス』とは――かくれんぼと異変探しを組み合わせた、非対称型の対戦ステルスゲームである。
舞台となるのは服屋、スポーツ用品店、家具店、スーパーマーケットなど、現実に存在するさまざまな店舗を再現したステージ。プレイヤーは隠れる側の『アノマリー』と、追う側の『ハンター』に分かれて対戦を行う。
『アノマリー』と呼ばれる隠れる側のプレイヤーは任意の物体に変身し、ハンターに見つからないまま制限時間を生き延びることが目的となる。
だが、本作最大の特徴はここにある――アノマリーが姿を変えられるのは、その空間に絶対に置かれるはずのない物体だけ。
例えばスポーツ用品店のステージなら、ゴルフクラブに紛れたバール。野球グローブの隣に置かれた鍋掴み。陸上スパイクの列に混ざる普通のスニーカーなど――アノマリーは、その場にあるはずのない『異物』にしか姿を変えることができない。
「それ……アノマリー側ムズくねぇか?」
「と思うじゃん?野球グローブの鍋掴みとか全然馴染んでたけど」
「ふふっ!ヒルトさんが擬態してたヤツね」
「ガチ!?」
ロクラメンとのコラボ配信で、既にプレイ済みのホットとユイガは笑い声を漏らす。
アノマリーに求められるのは、単純に隠れる技術だけではない。物体の位置や向きを調整し、いかに敵の視線を欺くかが勝利への鍵となる。
対する『ハンター』は広めに作られた店舗ステージを巡回し、その場に紛れ込んだ不自然な存在を探し出す。怪しい物体を見抜き、正確に光線銃で撃ち抜くことでミスマッチを脱落させることが可能。制限時間内に全てのアノマリーを見つけ出すことが目的となる。
「俺そっちのハンターはリーサルドーズより難しかった」
「マップも広いし、上手い人相手だと結構見逃す」
「ハンター側が有利ってワケでもないのか……」
彼等はアノマリーを探すために『この店に本来あるべきではない物や現象』を見抜く観察力が試される。つまり本作はかくれんぼでありながら、同時に巨大な間違い探しゲームでもあった。
「テディも初心者か?」
「そうだね。明日マフィア対策課……他の配信者さんと遊ぶよ。でもユイガ視点のアーカイブ最後までちゃんと観たから、予習はバッチリ」
「よーし。全員この光線銃で撃ち抜いてやるぜ!」
「制限時間は五分。タンドリーとナキは順番にハンター役をやって、より多くのアノマリーを見つけた方の勝利――それでは『アノマリーミックス』ハンター対決、スタート!」
今回の舞台は、説明でも例として挙げられていた『スポーツ用品店』ステージ。アノマリー陣営のテディ、ホット、ユイガ、ナキは百四十秒の準備時間を使い、それぞれ隠れ場所を求めて散っていく。
「同じ初見でも……最初にアノマリー側やってるナキが有利じゃね?」
「そこはバランス調整だね。タンドリーの方が僕らと付き合い長いし。隠れる側のメタ読みで見つける可能性もあるから」
「本気で隠れていいんだよね?」
「無論ガチで!撮影外だからネタに振らなくていいよ!」
ユイガの確認に、テディは心の中でグーサインを作る。スマッチ側は店内の配置や商品の陳列を把握し、異変そのものでありながら周囲に溶け込むよう工夫しなければならない。
「異変を見つけたらすぐに撃て!ハンターとミキサーの技能が試される新感覚ステルスゲーム――諸君!これが『アノマリーミックス』である!!」
「…」
――『変身可能の例。ぬいぐるみ、スマホケース、口紅、トマトのヘタ』……マジ何にでも変身できんじゃねぇか!多すぎてキリがねぇわ!
テディの決め台詞が流れる中、ナキは変身先の膨大な選択肢を前に思考が追いつかなかった。
「検索も出来んのか……うわミツバチの模型もある!オイ変身のバリエーション多すぎんだろ!」
「色も変えれるし角度も変えられるけど?」
「マジ神ゲーだよな」
「あまりにも小さいモノには変身不可能だし、ハンター視点から見えないとこは隠れられないから気を付けて!」
やがて隠れる時間が終わり――ハンターであるタンドリーがスポーツ用品店の捜索を開始した。
絵心ある順(裏プロも混ぜて)
ナイア<テディ<<メトロ(模写限定)<<<ホット(人外限定)<<<<シェン=タンドリー=ユイガ=ナキ(絵心が無い者にしか書けない化け物を生成)




