第153話『リーサルドーズ 後編』
メンバーが増えて誰がどの台詞か分かりにくくなりつつあります。以下メンバーの口調の特徴。
テディ→何かほわほわしてて伸ばし棒よく使う。
ホット→一番普通。年相応な言葉遣いとリアクション。
タンドリー→主にツッコミ。冷ややかで剣呑さがある。
ユイガ→生意気なガキ。語尾に『だけど』がよく付く。
ナキ→ヤンキー口調。血気盛んな物騒さがある。
『犬』とは――先日アップデートされた新要素である。
『リーサルドーズ』では最初に命を落としたプレイヤーだけが犬として復帰し、生存者たちをサポートできる。素早い移動速度と小さなヒットボックスを誇る一方、攻撃を一度受けるだけで倒れてしまう脆さが弱点だ。
「サンキューテディ!俺は何としてでもこのバッテリーを……!」
「クソッ!まずはこっちの犬からだ!」
『この犬はねー。シリアルキラーの攻撃を避けてジャンプすれば肩に乗って……左クリックで噛みつけるよ!』
「痛ってぇ!コイツ俺の首に……!」
「よく分かんないんだけど、クマ科の犬が相手してる?」
「ナキも手こずってんな」
「クッソ……!もう許さねぇ!」
そう言いながらも、彼は犬を傷つけぬよう凶器をしまう。ゲームと割り切って躊躇なく攻撃するプレイヤーもいる一方、良心が勝ち、薬や手刀で気絶させる程度に抑えるプレイヤーもいた。
「オラァ゙!犬ぅ!」
『ギャンッ!』
「痛がってる悲鳴ヤメロ!今すげー優しく首トンってやったぞ!」
動物好きなナキは、時間がかかると分かっていても後者を選んだ。
「あー折角復活したのに死んじゃった……まだ午前三時か」
「はぁ……はぁ……」
ホットはどうにかバイクへバッテリーを取り付け、すぐ近くにいたタンドリーとユイガと合流する。
「あーもう俺の背中血まみれ……」
「ホットこれ。今落とした」
「ナイスナイス!」
タンドリーが応急キットを投げ、拾ったホットは応急処置を済ませて再び走れるようになる。
「さて……どうする?」
三人の前には走行可能なバイクが一台。希望はあったが、定員は二名という残酷な現実が立ちはだかる。
「俺……後部座席乗るから、運転はホットかタンドリーでいいよ」
「奇遇だな。俺も後部座席がいい」
「あ、じゃあ俺運転するから一旦乗るね?」
「黙れ」「死んで」
「うぇっ……グスングスン……」
「あーあホットべそかいちゃった」
テディは再び天界カメラを通して、醜い争いの行方を見守っていた。
「――まず鍵持ってる俺は絶対……ヤバい!」
「いるいる来てる来てる!」
「あれは誰だ……?くたばれぇぇぇぇ!」
「あぁぁぁぁぁ!」
決着がつく前にシリアルキラーが乱入し、ホットの首を掴む。
「この……喰らえ!」
タンドリーは逃走をやめて踵を返すと、舌打ち混じりに竹製の布団たたきを犯罪者の背中へ叩きつけた。
「おいおい……何ですぐ散っちまうんだ?取って食ったりしねぇよ……殺しはするがなぁ!」
「このシリアルキラー怖すぎなんだけど……」
――早くどっか行けどっか行け……!
真っ先に逃げ出したユイガは近くの路地に身を隠す。ナキがホットとタンドリーを追ってくれることを期待し、その隙に一人だけバイクで脱出する算段だった。
「そういや、俺の一個前に入ったのがユイガなんだっけ?」
「うん……たった四か月の差だけど、全然いいよ?敬ってくれても」
「ははっ!ハナからナメてねぇよ。テディからユイガの凄さは死ぬほど聞いてっから」
「ふむ……」
「……っ」
「テディやめて耐えて……!」
まんざらでもなさそうなユイガの反応に、テディとホットは笑いを堪える。これプロでは何かと番号が近い者同士で組むことが多くなりがちなので、ユイガとナキが案外気が合いそうな様子に他メンバーはひと安心した。
「ユイガってアレだろ?こういうゲームだと隠密がエグいくらい得意なんだろ?」
「まぁ……他の獣よりは」
そんな中ボイスチェンジャー越しの大人びた声で、ナキが嘲笑を漏らす。メンバー随一の広い視野と動体視力を誇るナキは、ホットを攻撃している最中でさえ、脇道へ逃げたユイガを視界の端に捉えていた。
「仲良くやってこうなァァァ!」
「あ゙ぁーーっ!」
そして次の瞬間、ユイガの視界にはシリアルキラーの残忍な笑みが映った。
「待って待って待って!見逃して!」
「お前は一度気配消されたらメンドくせぇって聞いてっからよぉ……ここでくたばってもらうぜ!」
「嫌だ嫌だ嫌だ待ってぇーー!ホットとタンドリーが近くいる!」
「なに?」
「あっ」
「オイ!」
ユイガを勢い余って殺してしまったナキは、その身体を掴んだまま路地から姿を現す。目の前では、戻ってきたホットとタンドリーがバイクで逃走しようとしていた。
「俺死んだしーー!もうその二人も殺して!」
「最後の最後で売ったねぇ」
「あの暴露猫は後でしばく……!ホット急げ!」
「オッケー!ナビゲートよろしく!」
幸い一発でエンジンがかかり、ヘルメットをかぶった二人は急発進してシリアルキラーとの距離を広げる。
「逃がすかァ!」
「うわーっ!」
「怯むな!飛ばせ飛ばせ!」
しかし、薬で身体能力を強化した彼は猛スピードで追いすがってきた。
「はぁ!?ホット運転上手くね!?」
「テディから聞いてない!?レースゲームは俺の真骨頂だ!」
「クソッ……!」
運転が難しいとされるバイクでの逃走だったが、後部座席からの的確なナビゲートにも助けられ――ホットとタンドリーは生きて脱出することに成功した。
「ナイスー!」
「チクショウ……!全員まとめてナイフの錆にしてやりたかったんだけどな……」
「初心者なのに実力トップクラスの俺とテディを倒したんだから、十分頑張った方じゃない?」
「自分でゲーム上手いとか言うなよ」
「ナキめっちゃ怖かった……良かったー逃げれて」
ナキの実力や犬の小技が光る試合がひと段落し、テディは満足げに録画を止める。すると絶妙なタイミングで、ナイアから発注していたイラストが届いた。
「お!ナキの立ち絵キター!見て見て!」
テディがスカイコードの画面共有でイラストを映し出す。画面には、短い金髪と鋭い三白眼が特徴の男性が描かれていた。
白いTシャツに紺色のエプロンを重ね着し、胸元には黒と黄色のボーダー柄のポケット。黒いジャージには黄色のサイドラインが入り、足元には子ども受けのよさそうな鮮やかな黄色のスニーカーを履いている。モデルはミツバチだった。
「おぉー!エプロン似合ってる!」
「ガッツリヤンキーじゃねーか」
「これ職業……保育士?幼稚園の先生?」
「保育士だね。本来ならもっとアップリケとかゴテゴテ貼って可愛い感じにしたいんだけど……単純に描くのが手間だから省いた」
「色々言いてぇことはあるけどよぉ……」
ナキは画面の向こうで頬杖をつき、しかめっ面で睨む。
「まず一個目。何だ俺の名前『ナキ・ツラニハチ』て!ふざけてんのか!」
「それには深い事情があって……最初は『ナキ・ビー』でもいいなって思ったんだよ?」
「いいじゃねーかナキビーで」
「確かに。短いし……」
「だよなぁ!」
ナキとホットは心で肩を組み、候補の一つだった名前を推す。しかしテディは苦い声で続けた。
「陽菜莉さんが『ツラニハチ』がいいって……」
「…」
「お、おぉ……」
「なら仕方ねーな。俺は良いと思うぞナキ・ツラニハチ」
「クソが!面白がってんじゃねぇタンドリー・チキンが!」
ナキが特別な想いを寄せ、この活動のことも知る陽菜莉については、ホットとユイガも事前に聞かされていた。
――僕が『ナキ・ツラニハチの方がモテなそうですよね』とか言ったばっかりに……。
テディは陽菜莉の希望もあり、ナキの設定を固める段階から彼女と話し合いを重ねていた。顔立ちから服装に至るまで彼女の意見が反映されており、双方が納得のいくデザインに仕上がっている。
「もう名前はいい!二個目!」
「まぁ言いたいことは分かるよ」
「だったら話は早ぇわ!何で保育士になってんだよ!?俺がいつそんなこと言ったか言ってみろやコラァ!」
「ピンポン!」
「はいユイガ!」
「ガラ悪いイメージをカバーするため!」
「ブブー!それが一番の理由じゃなーいよ」
「俺のどこがガラ悪く見えんだ?アァン?」
「その台詞が全てだろ」
ユイガがセルフピンポンで答えると、それを合図に他のメンバーもクイズ大会のようなノリで回答していく。
「ピンポン!」
「ホットさん!」
「更生したヤンキーがなる職業だから!学校の先生が定番だけど、テディがいるから保育士になった!」
「ブブー!スライドや消去法で決まったとかでもなーいよ」
「誰が更生したヤンキーだ!てか俺はヤンキーじゃねぇ!」
「鏡見ろ。てか最初にテディが答え言ってただろ」
「お、タンドリーいく?」
「……ピンポン」
司会役のテディに指名されると、タンドリーは嫌々ながら回答の効果音を口にした。
「あの女のチョイスだろ」
「ピポピポーン!正解は『陽菜莉さんがナキの保育園時代の夢を覚えていたから』でしたー!」
「陽菜莉ィィィ!」
「ナキ!せめて電話にして!まだもうちょっとやりたいから家凸しないでー!」
急にナキの声がマイクから遠のき、テディは慌てて呼びかける。他の三人は、その何ともいたたまれない理由に笑うこともできなかった。
ユイガ「顔も強面に寄せてるよね」
テディ「ナキごめん……陽菜莉さんに『普通の好青年にしたらナキの顔ファン増えるかもです』って言ったばっかりに……」
ホット「絶対わざと煽っただろ」
タンドリー「キャラ被らせたくなかっただけだろ」




