第152話『リーサルドーズ 前編』
山と海が近い住宅街の地域を想像しながらお楽しみください。
時計の針が零時を指す。山と海に囲まれた住宅街は、不気味なほど静まり返っていた。テディたちは各地点へ散開し、動画のオープニングを撮り始める。
「――この動画をご覧の諸君!これがプロである!!のテディと!」
「ホット~?」
「タンドリー」
「ユイガだけど……何で急に挨拶?」
「正月以来じゃね?いやしたっけ」
「コラボの時くらいしかしないのにな」
「よし。皆、落ち着いて聞いてくれ……」
テディは何故か電気が生きている空き家へ入り、古い引き出しや戸棚を次々と開けていった。勿論土足である。
「……実は僕らがいるこの町に、とんでもないシリアルキラーが潜伏してたんだ!」
「な、なんだってー!?」
「おい。ホット忘れたのか?俺たち、あいつの犯行現場を見て……」
「しかも近所の大人たちは皆、町内会の旅行に行ってる……自力でこの町から脱出するしかないんだけど」
やや芝居じみたゲーム導入を語り終えると同時に、一つの人影がテディのいる家へ忍び込んでいた。しかし彼は動画用の進行に気を取られ、その存在にはまだ気づいていない。
「……このゲームって五人用なんだけど」
「一人足りねーな。コンピューターか見ず知らずのプレイヤーで埋めてんのか?」
「いや身内しかいないと思う。俺とタンドリーとユイガが逃げる側で……え、テディも味方だよね?」
『俺たちは誰に追われている……?』という空気が漂う中、テディは棚から大型懐中電灯を回収した瞬間――
「さぁシリアルキラーよ!この会話を聞いてるなら名乗り出て……」
「ナキだぁ!!」
「わ゙ーっ!」
「「テディー!?」」
――背後にいたシリアルキラーに切り裂かれてしまった。
「痛いぃ……それっ!」
「ぐあっ!」
振り向きざまに懐中電灯を最大光量で照射し、彼の視界を奪う。その隙にテディは傷口から血を滴らせながら家を飛び出した。
今回実況するゲームは『リーサルドーズ』――一人のシリアルキラーと四人の目撃者に分かれて戦う非対称型マルチプレイホラーゲームである。
プレイヤーは殺人現場を偶然目撃してしまった四人の少年少女、または彼らを口封じのため執拗に追い続けるシリアルキラーのどちらかを操作する。
「テディ見つかったか」
「よし。今のうちに探索……!」
目撃者側の目的は、マップ内を探索して脱出に必要な物資を集め、バイクや水上バイクを走行可能な状態にして脱出すること。
またはマップのどこかに隠された切符を見つけ出し、午前五時に発車する電車で逃げるという方法も存在する。
「テディ待てよぉー。遊ぼうぜぇー?」
一方でシリアルキラー側の目的は、制限時間内に目撃者全員を始末すること。彼の武器は投げナイフと大ぶりのダガーナイフ。さらに特殊な薬剤を体内へ投与すると、一時的に驚異的な速度で目撃者との距離を詰めることができる。
「…」
ユイガはテディが飛び出してきた隣家で息を殺す。逃げる側は彼のように物陰へ身を潜めるか――
「アレ(バイクの鍵)あった」
「俺も今アレ(ガソリン)をアレ(運んで)してアレ(給油)してる!」
「ホット何言ってるか分かんないんだけど」
――仲間と協力してシリアルキラーの目を稼ぎながら、脱出条件の達成を目指さなければならない。
「一瞬の判断が生死を分ける!圧倒的な恐怖が迫る究極の隠れ鬼ごっこ――諸君!これが『リーサルドーズ』である!!」
「え、まだ捕まってないの?」
「意外と余裕だな」
「そのまま逃げて!テディなら一時間チェイスできる!」
「今回のっ……シリアルキラーは……新入りのナキ・ツラニハチ君だよ。よろしくね!」
「もう息切れてる!」
「それが遺言かァ?」
「じゃあ僕死ぬね!バイバーイ!」
「テディ死んじゃ嫌だー!」
ユイガの悲鳴もむなしく――彼は最後まで木製バットで応戦したものの、シリアルキラーに刺殺されてしまった。
「そんな……どうしてホットが生きててテディが死ぬの……」
「それはもう……俺が見つかる運命をテディが肩代わりしてくれたとしか」
「ナキ!ホット今マップ西いるからそっち行って!」
「よしきたァ!」
「オイィィィー!?」
今回はシリアルキラーと目撃者が同じ通話に入っているという状況を逆手に取り、ユイガは味方もとい生贄の居場所を積極的に売ろうとする。
本来であれば陣営ごとに通話を分けるべきなのだが――シリアルキラー役でノリノリの立ち回りを見せているナキは、本作をまだ数回しか遊んだことのない初心者だった。
――だから今回は通話一緒にしたけど……。
「ナイフも全然避けれなかったしチェイスでも撒けなかったし……まさか僕が真っ先に死んじゃうなんて」
「それ俺も思った」
「オイオイんな褒めんなって!」
――油断してなかったつもりなんだけど……やっぱナキは侮れないな。
脱落したテディは天界カメラとなり、上空から仲間たちの行動や脱出までの過程を見守る。
今回は山と海に囲まれた、人気の少ない住宅街を舞台としたステージ。住宅や空き家、路地が複雑に入り組み、方向感覚を失いやすい地形となっている。
「僕の初期位置が悪かったな……これも運かぁ」
特にテディとユイガがいる北側から北東エリアは要注意。シリアルキラーがこの周辺から行動を開始するため、ゲーム開始直後に立ち入ると鉢合わせる危険性が高い。直線の道や行き止まりも多く、一度追跡が始まると逃げ道を失いやすい危険地帯だ。
「ホットとタンドリーは順調そうだね」
「いや……」
――バッテリーがない……。
「そうでもないな」
――ヘルメットも見つかんねぇ……そろそろ北行くか。
装備や脱出に必要な物資が十分に揃うまでは、北側の探索を後回しにするのがこのステージでの定石だ。探索中は行き止まりに追い込まれないよう、常に退路を意識しながら立ち回ることが生存への鍵となる。
「さぁ時刻は深夜一時。調子が良ければ最初の脱出者が出始めても良い頃だが……」
「~♪」
「……ん?ユイガさん?」
「え?」
「いや……え?じゃなくて」
テディがユイガ視点へ切り替えると、工具箱で修理したスケートボードに乗ったユイガが、町の外を目指して颯爽と走っていた。ここまではごく普通のプレイなのだが――
「えーっ!?何か全身マリーゴールドの変質者がスケボーで逃げようとしてる!」
「おいホット!バラすな!」
――彼は帽子や服のあちこちにマリーゴールドの花をこれでもかというほど身につけていた。
「走ってたら寄せ植えに突っ込んじゃっただけだけど」
「にしても花のチョイスがマズいよ!」
「いやっ!でもいい擬態になんじゃない?ナキのモデルってミツバチでしょ?」
「逆に目立つだろ。それにさっきの口笛……意味が生まれちまう」
「スケボーは聞き捨てらんねぇな!」
薬剤で身体能力を引き上げたナキは、強化された聴覚でスケボーの音を探知。その音を頼りに全速力で追いかけ、逃げるユイガの背中を視界に収めた。
「見つけたぁ!」
「うにゃっ!?空飛ぶのはズルない!?」
「飛んでねぇ……よ!」
ナキは自分の肩ほどしかない身長のユイガへ投げナイフを放つ。
「ヒラリ」
だがユイガは、まるで飛んでくることを見越していたかのようにスッと躱した。
「は!?マント使うのは無しだろ!」
「使ってないん……だけど!」
――この距離ならまず飛び道具で動きを止めるって思考になるよね!
シリアルキラーの心理を読んで誘導したユイガは――ここぞというタイミングで振り返り、消火器を噴射した。
「グッバイ!」
『ブシュゥゥゥゥ!』
「うわっ!?」
直接攻撃こそ受けないものの、シリアルキラーにとって光や煙で視界を奪われる妨害は想像以上に鬱陶しい。
ようやく視界が晴れた頃には、ユイガはスケボーだけを残して忽然と姿を消していた。
「クソッあのガキ……!」
ナキは足元に散らばるマリーゴールドを踏みつけ、再び目撃者の行方を追い始める。
「タンドリー!」
「こっち来んなユイガ!」
「何で!」
「さっきまでシリアルキラーに追いかけられてただろ!」
「ちゃんと撒いたし!」
ユイガの逃走先にいたタンドリーは、彼を厄介者扱いする。
一方その頃。ナキは薬剤を投与し、ホットの気配を掴んでいた。
「オイオイオォーイ!ホットじゃーん」
「犬違いかもです!?」
「その手に持ってるバッテリーは何だテメェ!」
「あ痛ーーっ!?」
荷物の重さが足枷となり、ホットは投げナイフの直撃を許してしまう。ナキはその好機を見逃さず、心臓へ刃を突き立てようと襲いかかった。
「顔は勘弁してやんよぉ!」
「イャーッ……え?」
突然ぴたりと止まったナキに、ホットは思わず目を見開く。
『ガウガウ!』
すると足元から熊の鳴き声が聞こえた。正確には熊ではなく――
「何だこの……離しやがれ!」
「まさか……テディ!?」
『ホット!ここは僕に任せて逃げるんだクマワン!』
「「語尾おかしいだろ!」」
――犬に憑依し、生存者たちをサポートする立場となったテディだった。




