↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
諸君!これがプロである!!~ゲーム実況者の日常~  作者: 椋木美都
中学一年生編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
160/234

 第148話『針北満士』

「他二人も上手いよ。またいつか対戦する時のお楽しみってコトで」


「へぇ……」


満士は心が一気に奪われそうになるのをグッと堪え、怪しむ気持ちを辛うじて繋ぎ止める。


――ビビってこのチャンス逃したら二度とこんな世界入れねぇよな……クソッ、正直めちゃくちゃ面白そうじゃねぇか……!


「機材は全部こっちで用意する。デスクもゲーミングチェアも経費で落とせるよ」


「マジで!?コントローラーも!?」


「一番がそれって……発言が貧民だなぁ。あと僕たちを支えてくれる大人はメトロだけじゃないんだ。紹介するね。実は最初からいたんだけど……」


糸哉の言葉を追うように――スマホのスピーカーから、満士の耳に馴染みのない男性の声が流れた。


「よぉ。えーとナキか。俺はお前の家を特定した神……」


「お前か!ずっと引っかかってたんだよこのハッカー野郎!」


「名をシェン。これプロを裏から支える『裏プロ』の一人じゃ。メテブラのランクは元『黒穴』。よろしくな」


「「なっ!?」」


三人のリアクションが重なる。最後にしれっと告げられたシェンの実力に、糸哉たちは度肝を抜かれた。


「……そういえばシェン、メテブラもめちゃくちゃ上手かったっけ」


「言われてみれば納得か……相変わらず底知れねー神だな」


「シェン……神……黒穴……!?何なんだよこの組織!」


「昔の話じゃ。俺との対戦権も特典に入れてえーよ」


「…」


満士は頭から湯気が立ち上るような錯覚を覚え、力なく畳に頭を預ける。あまりにも魅力的な条件の連発に、彼の脳内は完全にパンクしていた。


「当然この話はナキ本人の意思と、保護者の許可が必要なんだ。僕ら活動では大人を演じてるけど、実は全員未成年の子供だからね……」


糸哉は立ち上がり、仰向けになって天井を見つめる満士の前へしゃがんだ。


「僕はナキと一緒にゲーム実況がしたい。君がどんな事情を抱えてるのかはまだ知らないけど、不安なことがあるなら一個ずつ解決していく。だから前向きに考えてみてほしい」


「…」


針北満士は、ごく普通の家庭とは少し異なる環境で育っていた。その所為か、言いようのない冷たい不安が思考を鈍らせる。


――自分の責任を、自分で持つ覚悟……か。


知識も経験もない自分が踏み込んでいい世界なのだろうか。そんな不安を抱きながらも、彼は祖父の言葉を思い返した。


やがてむくりと起き上がると、戸棚から土産菓子の箱を取り出して幸樹へ放る。


「……は?」


「これ陽菜莉たちに渡してこい。アイツ等どうせゲーム中だ。人数足りてねぇだろーからお前が入ってやれ」


「ごめんタンドリー!話終わったらすぐ呼ぶから!」


「…」


――俺が来た意味……。


糸哉が申し訳なさそうに手を合わせる。体よく追い出された幸樹は、何とも言えない顔で倉庫に向かった。


その後フレンドリーすぎる陽菜莉姉弟に見つかり、そのままゲームへ巻き込まれることになるのだが――それはまた別の話である。


そして、部屋には糸哉と満士だけが残った。


「責任者はシェンでも、これプロのリーダーはお前なんだろ?」


「そうだよ」


「なら……俺ん家の話、聞いてくんねぇか」


「無理に話さなくていいよ?」


「あの鶏はなーんかウマ合いそうにねぇ。でもテディになら話せそうなんだよな」


「え、何で?」


「何で……俺と似た匂いっつーか……お前とは気が合いそう」


「いや僕ちゃんと父さんも母さんもいるから!一緒には暮らしてないけどさ!」


その反応に、満士は少しだけ口元を緩める。そして落ち着いた口調で、自分の家庭について語り始めた。


母親は満士を産んで間もなく、金を持って蒸発したこと。


父親は地質調査員として全国を飛び回り、長期出張ばかりでほとんど家に帰らないこと。


「金だけは毎月キッチリ振り込まれるが……ぶっちゃけ親父の顔もあんま思い出せねぇな。正月も帰って来なかったし」


「わ、分かる……僕も父さんとのいい思い出なんて皆無に等しいし……」


そんな満士を代わりに育ててくれたのは、今年で七十六歳になる祖父だった。


スーパーで週五日パートをこなし、畑で野菜を育て、車もトラクターも乗りこなす――活力が溢れた人だった。


「俺にとって、世界で一番カッケー自慢のジジイなんだよ。今はオートバイでコケて入院中」


「そうなんだ……満士は一人っ子?」


「姉貴がいるっちゃいるけど……俺が幼稚園の頃、寮がある中学に行ったっきり会ってねぇ」


「えっ一回も!?」


「あぁ。一応元気でやってるらしいわ。俺には陽菜莉がいるしな。姉貴面する奴はアイツ一人いりゃ十分だ」


八歳上の長女は満士が五歳の頃に全寮制の中高一貫校へ進学して以来、九年近く顔を合わせていないと言う。


――また僕とは違う意味で闇が深そうだな……。


そんな針北家の事情を知る近所の住民は高齢者ばかりで、他人の家庭に首を突っ込むような人はいなかった。


「陽菜莉の家だけは昔っから世話になってて……あの一家にはマジで頭が上がらねぇ」


「ふむふむ成程……逆にどこで十四歳で金髪ピアスになるきっかけがあった?」


「髪はカッケーから染めてるだけ。ピアスは最初、両耳一個だけだったのに陽菜莉が『位置ズレた!』とか騒ぎ出して、バランス取るためだっつって何回も穴開けやがって……」


「やっちゃってるなぁ」


糸哉は最後まで耳を傾けた。話を総合すると、確かに複雑な家庭ではある。


――それでも……『憎しみ』が植わってないだけずっとマシじゃん。


糸哉の目には――満士は不幸な生い立ちの少年ではなく、多くの人の支えを受けて成長してきた少年として映っていた。


「あれ、でも何でメトロにバイトしたいって言ったの?何か欲しいモノでもあるの?」


「進路相談で思ったんだよ。俺、高校行く気ねぇわって。早く稼いでジジイに楽させてぇし。『将来自分がやりたいこと』なんて大層なもんじゃねぇけど……さっさと人に頼らなきゃ生きらんねーような情けねぇ自分から卒業して、ジジイと陽菜莉の家に恩返ししねぇと……」


「うん。それ話したら怒られたんじゃない?」


「ボロ屋にジジイのでけぇ雷落ちた。『ガキがそんなこと考えてんじゃねぇ』ってよぉ……」


満士が無意識に左の頬を抑えたのを見て、糸哉は心の中で同情した。


「じゃあ高校は行くんだ?」


「行くしかねぇよ。十六になったら速攻(ソッコー)で原付の免許取って、スーパーかコンビニでバイトする」


「……クフッ。そんな君に朗報です!」


糸哉はぱっと人当たりのいい笑顔になると、チャンネルページが表示されたスマホを掲げた。


「そこでこちらをご覧ください!これプロでは完全在宅ワーク!通勤距離ゼロ!学業、健康最優先!撮影時間は柔軟対応!無理な深夜収録なし!機材トラブルや思わぬアクシデントで困った時は裏プロが全力サポート!」


「何だその通販みてぇな説明」


「しかも月収は……」


「ブーーッ!」


糸哉は耳元で金額を囁くと、満士は飲みかけのお茶を勢いよく吹き出した。


「ゴホッ……それっ、年収の間違いじゃ」


「いや月収」


「はぁ?」


「普段の撮影だけじゃなくて生放送やコラボ、カジュアル大会とか……頑張ってくれたら色つける場合もあるよ」


絶句する満士を尻目に、糸哉は笑顔を崩さないまま続ける。


「この話は僕らにとっても、ナキにとっても悪くないと思ってる……君の実力と、楽しそうに敵をボコボコにしていく姿勢に惚れました!僕の仲間になってください!」


「何だその告白みてぇな勧誘……もし入るとして」


「うん」


「陽菜莉には何て言えばいい」


「基本的に他メンバーも家族にしか正体明かしてないよ。できればナキも、お父さんとお爺さんだけにした方が安全かな」


「いや……機材届いた瞬間バレる未来しか見えねぇ」


「あぁ……」


確かにゲーミングPCやマイク、防音材などがいきなり部屋に置かれていたら、部屋に入られた時点で隠し通すのはほぼ不可能である。相談した結果、陽菜莉にだけは事情を話すこととなった。


「そうそう。僕らシェンが手配してくれたタクシーで来たんだけど、お昼一緒に食べない?メトロが電子マネーで奢ってくれるって」


「注文対象に制限はありません。希望するものを選択してください」


「っしゃあ寿司だ!すぐ行くぞ!」


その後、糸哉は陽菜莉兄妹と遊んでいる幸樹を回収する。満士は陽菜莉へ適当な理由を告げ、その場を逃げるように個人タクシー『スフィンクス』へ乗り込んだ。


「あ、この運転手さん守秘義務は完璧らしいから、活動の話して大丈夫だよ」


「……テディ」


「うん?」


後部座席に座った満士は、隣でシートベルトを締めている糸哉に拳を向ける。


「俺を選んだこと、絶対後悔させねぇ……ガチで頑張るわ」


「ナキ……うん!よろしくね!」


糸哉は満面の笑みを浮かべ、自分の拳を軽くぶつけたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。