第146話『感動の再会シーン』
魔王の上段回し蹴りに対し、第一村人は手斧で迎え撃つ。そこからクワへと華麗にコンボを繋げ、再び魔王を場外まで弾き飛ばした。
「よしっ……!」
「っく……!」
ステージ端で肥料袋を落されることを警戒した魔王は、更に高く跳び上がって復帰を狙うが――第一村人が下から勢いよく飛び上がり、渾身の頭突きを叩き込んだ。
「いっけぇー!」
「あ゙ぁ゙ーーっ!」
その一撃が魔王の急所を貫いた瞬間、画面いっぱいにフィニッシュ演出が弾け――
『The winner is First Villager!!』
――六分にわたる激闘の決着を告げた。
「テディ強すぎんだろ……!」
「アタシもさっき復帰さえミスらなけりゃ……!」
「おい再戦だ再戦!次は頭カチ割ってやる!」
「あはははは!次もサンドバッグにしてあげるよー」
――とか言ってみるけど、多分タイマンでナキに勝てるのは最初で最後かも……。
連勝記録を止められて悔しがる満士をよそに、糸哉は心の声で呟く。糸哉は格闘ゲームにおいてもこれプロ内で最強と評されているが――その真価を発揮するのは一対一ではなく、三人、四人が入り乱れる乱戦だった。そのことは、あえて誰にも明かしていない。
「キャハハハ!みっつが負けてるとこ久しぶりに見た!今めっちゃ気分爽快!」
「るせぇ性格ブス!とっととリンゴ寄越せ!」
「アンタたちの分のリンゴも剥いたから、温くならないうちに食べちゃいな」
「ありがとうございます」
「……どうも」
シャクッとリンゴをかじる音だけが響き、のんびりとした空気が場を包む。やがてその静けさを破るように、満士と少女が同時に口を開いた。
「「で、誰?」」
「「今更だな!」」
糸哉と幸樹も同時にツッコミを入れ、ようやく本題へ入ることになった。
「僕らが普段お世話になってる人が君と話をしたがってて……」
「話?」
「そう。もう通話繋がってて……」
満士の幼馴染である女子高生、陽菜莉が首をかしげる。糸哉は頷くと、スマホを彼女へ差し出した。
「メトロって言うんだけど」
「メトロ!?」
「えっ?」
糸哉はバッと顔を上げる。強い反応を見せたのは陽菜莉ではなく、彼女の隣にいた満士だったからだ。
「――お久しぶりです。満士さん。メトロです」
「メトロ……!?っ、生きてた……俺より先に死んでたのに……」
「ご心配をおかけしたことをお詫びします。情報を照合した結果、我々が経験した出来事は現実世界では悪夢を見ていたという形で整合性が保たれるようです」
「ははっ!何だよ……相変わらず人型ロボットみてーに喋るのかよ……!」
いつの間にか糸哉のスマホは満士に奪われ、残る三人はポカンと口を開けて固まった。
「そっち!?」
「女の方じゃなかったのか!?」
「えっ何?マジで」
陽菜莉だけが状況を理解できず怪訝な顔をしていると――外からバタバタと足音が近づき、倉庫のドアが勢いよく開いた。
「お姉ちゃーん!来たよー!」
「みつ君お邪魔しまーす!」
「ねーねー!あたしカラオケやりたい!」
「は!?皆お昼から来るんじゃなかったの!?」
陽菜莉の兄妹三人がどっと雪崩れ込み、一番上の彼女は素っ頓狂な声を上げる。
「……悪ぃ後任せた。お前等ついて来い」
「えぇっ!ちょっと……もぉーー!」
その隙に、満士は糸哉たちを連れてそそくさと母屋へ移動したのだった。
☆彡
針北家の母屋にて。糸哉たちは居間にあるこたつに入り、満士とメトロのやり取りを眺めていた。
「メトロが俺を庇って、牛の化け物にガッツリ斬られて……俺、車椅子で必死に逃げた。でも、行き止まりに追い詰められて、そこでもう、死ぬまでボッコボコに殴られて……っ。でもよ、ハッ!てなって起きたら普通に家の布団の上だった」
「ピピ」
「メトロそれ相槌のつもりか?」
「ずっと夢だろって自分に言い聞かせたけど、どうしてもただの夢で片付けらんねぇ……こんなこと誰にも話せなかったし、誰にも信じてもらえないだろ……。ずっと辛くて、っこ、怖くてたまんなかった……」
「ピピピ」
「メトロその相槌やめな」
「それなのに爺ちゃんは先週オートバイで転んで入院しちまうし、家には俺一人だしさ……。怖くて、全然眠れなくて……め、目ぇ閉じたらまたあの化け物が出るんじゃねぇかって……俺、頭おかしくなっちまったのかなって……マジで、どうしていいか分かんなかった……」
「その割には俺をノリノリでボコってたけどな」
「ごめん」
「!」
「え」
年上でありながら、満士は驚くほど素直に謝った。しかも激しく泣きじゃくりながらである。とりわけ満士を快く思っていなかった幸樹は、肩透かしを食らったような気分になっていた。
「夜まともに寝れねぇしクソ不安だったしよ……けど周りの前ではいつも通りでいようとして、逆にピリついてたわ……。こんなとこまで来てくれたお前等に礼儀を欠いた。すまねぇ」
「気にしないーで。ねぇ幸樹」
「……あぁ」
――そこまで終わってるヤツじゃねーみたいだな……。
顔をぐしゃぐしゃにして謝る満士を前に、幸樹は複雑な心境になる。
最初は何となく気に喰わない相手だと思っていた。しかしここまで弱々しい姿を見せられては、流石の幸樹も印象を改めざるを得なかった。
「あんなワケ分かんねぇデスゲームに巻き込まれた後すぐ、それ題材にしたゲーム作ってるとか……マジで意味分かんねぇ」
「それはそうだな」
「もっと早く会いに来いよ!俺がどれだけ不安だったか、少しは考えろよ……!」
「本当にそうだね。折角シェンが三日でパパっと特定してくれたのに」
「完全版『spin one's wheels』の配信を待ってから会いに行く流れになったから……実質二週間くらい伸びたな」
「チェイス時の調整、および追加難易度『イージー』ならびに『Secret End』の実装処理に想定以上の時間を要しました」
「バカじゃねぇの!?追加コンテンツ云々の前に来いや!」
満士は乱暴に袖で涙を拭うと、今度は泣き怒りフェーズに移行する。糸哉のスマホのスピーカー越しに彼の怒声が響いた。
「メトロテメェ……俺がキレるって分かってて電話にしやがったな!?お前がその気なら今度はこっちから行ってやる……住所吐けコルァ!」
「その要求は承認できません。複数の制約条件が存在するためです。代替案として連絡先を交換し、今後も良好なコミュニケーションを継続することを提案します」
「どの部分で『良好』が出てくんだよ!っとに調子いいAIだな!ったく……」
「あれどこ行くの?洗面所?」
「俺のスマホ取りに行くんだよ!」
「いってらっしゃーい……」
満士は泣き腫らした顔でギロリと糸哉たちを睨む。彼はメトロと連絡先を交換するため、倉庫に置いてきたスマホを回収しに向かった。
「やー最初はヤンキーだ!って思ったけど……中身は普通の中二みたいだね」
「あれがヒイのモデル……?メトロのCPUどうなってんだ」
「謎解きホラーアクションアドベンチャーゲームでの主人公はローティーンの少女って相場が決まっとる」
「そんなこと……あるの?」
「義務みたいに言うな」
メトロからも主人公が十代前半の少女であることは至上命題だと断言され、二人はそのジャンルの真理を垣間見た気がした。
「……遅くない?ナキ戻ってこないね」
「また泣いてんだろ。てかテディ」
「ん?」
「アイツに『ナキ』ってあだ名……」
「うん!やーっとメトロが僕に行けって言った理由が分かったよ!」
――キタキタ五人目候補……申し分ないんじゃない!?
糸哉は思いもよらない縁で出会った新メンバー候補――満士をどう口説いて仲間に引き入れようかと、糸哉は胸を高鳴らせていた。
「シェンも調べた時点で性別分かってたんなら言ってよー」
「俺もアイツがメテブラの上位勢ってことまでは知らんかった。メトロ何で黙ってたん?」
「デスゲーム中、双方の自己紹介および雑談によって緊張を緩和する工程が必要であると判断しました。その過程で、対象が格闘ゲームを継続的にプレイしているという情報を取得しています。また幼馴染との対戦では無敗であるというデータも記録済みです」
「普段は陽菜莉さんって人をボコしまくってんだ……」
「…」
――やっぱりアイツ性格終わってんな……。
と言いかけて、幸樹は口を閉じる。自分もメテブラでは三歳下の蓮夢を容赦なくボコボコにしている側だと気づき、その言葉を寸前で飲み込んだ。
「ちょっとトイレ探してくるー」
「ん」
糸哉は軋む木の床を、音を立てないよう慎重に歩く。最初に通った狭い廊下にはトイレらしき扉は見当たらない。
次の角を曲がると、その先は玄関へと続いていた。
――僕のお婆ちゃん家とちょっと似てるかな……で、も……。
彼の思考が途中でぷつりと切れる。視線の先――玄関口では陽菜莉が満士の頭を抱きしめ、優しく撫でていた。




