第145話『諸君!これが黄金ルートである!!』
上スマ横スマの概念はあえてふわっとさせてます。予めご了承ください。
「まぁやったら分かるよ。僕のことは偶然マッチした野良だと思って対戦よろしくどうぞ!」
「さっきみたいなヌルゲーは勘弁しろよ?」
少年は挑発するように口角を上げ、魔王を選択する。幸樹は糸哉のファイター選択画面を険しい顔で見つめていた。
――テディって実況映え気にしてコロコロ変えてるからな……ガチ選出見れるか?
「じゃあこれっ」
「「……は?」」
そして『3……2……1……Fight!』の合図と共に魔王と第一村人の対戦が始まった。
第一村人は、トリッキーな立ち回りと高い攻撃性能を兼ね備えた遠距離・罠ハメ型のファイターである。リーチの長いクワやピッチフォーク、猫車を飛ばして相手との距離を保ちながらダメージを蓄積し、じわじわと追い詰める戦法を得意とする。
農機具を武器に戦う牧歌的な見た目とは裏腹に、崖下へ重量級の肥料袋を落としたり猪を召喚して一直線に突進させたりと、一撃で試合の流れをひっくり返す強力な技を数多く持つ。
「テディがそれ使うとこ初めて見た」
「いや割とメインだよ?まぁ最近は(動画用で)新しいキャラばっか使ってたけど……」
「おい舐めてんのか!?久しぶりに見たわ村人使ってる奴!」
魔王やスーパーヒーローに比べ、第一村人はどうしても瞬間火力で劣ってしまうファイターだ。歩行速度もダッシュ速度も遅く、一度相手に懐へ潜り込まれて近接ラッシュを浴びると、そこから切り返すのは容易ではない。こうした致命的な弱点から、第一村人をメインキャラとして使い続けるトップランカーはごく僅かだった。
「あははは!舐めてんのはどっちかなー?」
互いに間合いを測りながら試合が始まる。
「オラッ!」
「わーヤメテー!」
先手を取ったのは魔王だった。鋭い連打で村人を押し、序盤の主導権を握る。
しかし糸哉は慌てない。しゃがんで脛を執拗に蹴り続けて魔王を場外へ追いやると、自らも迷わずステージを飛び出した。
「!?」
「さぁ!撃墜の時間だー!」
そして懐から干し草用のピッチフォークを取り出し、頭上から豪快に薙ぎ払う。
「ぐあーーっ!何だコイツ!」
「魔王はなー、強いんだけどなー。復帰がなー。復帰だけは弱いんだよなー」
「ッざけんな!」
「……!」
――やっぱテディ上手いな……配信で視聴者相手に四十連勝したのも頷ける。
魔王は遠く彼方へ吹き飛ばされ、そのまま場外へ落下する。なんと試合開始から十秒足らずで、魔王の残機が一つ消えてしまった。
第一村人はドローンによる復帰技で、余裕たっぷりにステージへ帰還する。
「さっきナキのプレイを観戦したばっかりだからね。いくら得意キャラだからって、僕の前で手の内を見せちゃうなんて甘いなぁ」
「ほざけ!まだまだ負ける気なんざこれっぽっちもねぇよ!」
魔王は復帰直後から猛攻を仕掛ける。鋭い打撃を連続で浴びせ、第一村人との衝撃ゲージの差をみるみる縮めていった。
「オラオラオラオラオラ!」
「ぬー!」
第一村人は横薙ぎのピッチフォークを振るう。魔王はガードで攻撃を受け止め、その隙に足を掴もうと手を伸ばした。
「危な!」
しかし一瞬早く第一村人が跳び上がり、彼の手は空を切った。その隙を逃さず、第一村人が頭上から重量のある肥料袋を叩き込む。魔王はそのまま場外へ拭き飛ばされた。
「やべぇ……テディやるじゃねぇか!」
――こんなヒリついたの何戦ぶりだ……?しかも第一村人て何だよ!意味分かんねぇって!
「面白くなってきた?」
「うるせぇ集中させろ!」
魔王は空中で跳躍し、第一村人の背後へ着地する。そのまま鮮やかな回し蹴りを炸裂させ、吹き飛んだ彼に追撃の拳を繰り出すが――
「ぬー!」
「なっ!?」
――スコップを振り回した第一村人の迎撃に阻まれ、攻撃は相殺された。
「からの相打ちか……!どっちも強ぇな」
「お待たせ……ぇっ」
そこへ、糸哉たちを連れてきた少女が戻ってくる。彼女は先ほどの試合で満士と『負けた方が母屋の台所にあるリンゴを剝く』という約束を交わしており、その約束をきちんと果たしていた。
「痛てぇかコラァ!」
「助けてー!いじめられるー!」
「……!」
――この人たちの分も剥いてたから時間かかったけど……めっちゃ盛り上がってるじゃん。
茶髪マッシュヘアの少女は皿を棚の上に置き、息を殺して満士と糸哉の戦いを見守る。そして、目の前で繰り広げられる光景に目を見開いた。
――0ー1で……みっつ負けてる!?大体誰とやっても3ー0なのに!
「やっば……!」
少女が『最初から見たかった……』と悔しがる一方、魔王が怒涛のラッシュで村人を高く打ち上げる。だが、あと一歩のところで撃墜には届かない。 村人は辛うじて生還し、空中でクワを振り下ろそうとする。 だが魔王が防御を固めたのを見て、無理には攻めず着地を選んだ。
「ラァッ!」
「わ゙ー!」
直後、魔王が第一村人を掴んで投げ飛ばしてからの鋭い蹴りが炸裂。衝撃ゲージを一気に押し上げ、村人の残機を一つ奪った。
「これでイーブンか……」
「でも衝撃ゲージの分、村人が有利……」
「まぁ一旦ね?」
「そろそろイラついてきたか?笑顔ピキってんぞ!」
魔王は黒い炎をまとった拳で一気に距離を詰め、猛烈な連打を叩き込んだ。さらに空中へ追いかけ、下から追撃を狙う。
「吹き飛べやぁ!」
「や゙ぁーっ!怖っ!」
しかし村人はドローンによる空中移動で軌道を変え、紙一重の差で攻撃を回避した。
魔王はなおも連続蹴りで場外へ運ぼうとするが、村人はぎりぎりで耐え抜く。
「しぶてぇ!」
「お返しだよ!」
第一村人は釣り竿を振るい、魚を釣り上げるように魔王を自分の元へ引き寄せる。続けざまに頭上からたらいを落とす確定コンボを決め、その隙に薪割り用の手斧で何度も叩き込んだ。
「それそれそれー!」
「あ゙ぁ゙ーっ!」
勢いのまま魔王を場外へ押し出し、自らも追撃のためステージ外へ飛び出す。さらに上空からクワを振り下ろし、脳天へ痛烈な一撃を叩き込んだ。
「ッチ!」
落下しながら魔王も拳を振るって反撃と復帰を狙う。しかし、渾身の一撃を繰り出そうと力を溜めた一瞬の隙を突かれ、再び手斧で殴り飛ばされた。
「これはっ……!」
「最初のパターンに持ってったな」
「近接がヘボいファイターで魔王戦を乗り切るコツは空中戦に持ち込むことだならね!」
「「だならね?」」
「噛んじゃった……」
「ははははは!やめろって馬鹿!」
第一村人はドローンで無事ステージへ復帰。対する魔王は大きく場外まで吹き飛ばされ、二度の空中ジャンプを使っても足場には届かない。
「はい迎撃ー」
「チックショ……まずいまずいまずいまずい」
――俺の四十九連勝が……!
そのまま虚しく奈落へ落下。魔王の残機はついに残り一つとなった。
「これで1-2……みっつの残機ないなった……!」
「本当に復帰脆いんだな」
「気持ち悪ぃー!雑魚ティアの第一村人がよぉ!」
「でも今の僕もかなり脆弱だよ……魔王の一撃一撃が重すぎる!」
――衝撃ゲージ九十八%……いつ撃墜されてもおかしくない!
糸哉は少しでも相手の耐久値を擦り減らそうと攻め続ける。しかし魔王の衝撃ゲージが三十%の場面で、彼が繰り出した飛び膝蹴りが第一村人にクリーンヒットした。
「「あ!」」
「耐えるかな……いや無理かぁ!」
「よしよしよし!はい互角ぅ!」
村人の残機もついに残り一となる。そこからは互いに一歩も譲らぬ、生身同士の勝負となった。
「ウォラァーーッ!」
魔王は上、下、横からの拳、かかと落とし、ムーンサルトキックと圧倒的な近接ラッシュを仕掛ける。
「あ痛い……!とりゃーっ!」
対する第一村人はピッチフォークと手斧を状況に応じて使い分ける。さらには魔王を猫車に乗せて場外まで運ぶという変則的な戦法で対抗した。
「クソダリィな!」
「マジか今ので決まんないか……!」
またしても第一村人が背後へ回り込み、釣り竿で魔王を引き寄せる。そのまま頭上からたらいを落とし、怯んだ隙に手斧を叩き込んで場外へ吹き飛ばした。
「出た確定コンボ!」
「アツい!」
幸樹と少女が湧く中、糸哉はあえて深追いを控える。
「ナキ……これで終わってくれ!」
ステージへ這い上がろうとした魔王へ肥やし袋を叩きつけ、再び落下させる。そして今度は自らも飛び降り、追撃のクワを振り下ろした。
「やったか!?」
「やってねぇよ!お前が死ねぇーっ!」
だが満士はもう同じ失敗を繰り返さない。
第一村人の一撃を読み、一度目の空中ジャンプで躱す。続く二度目のジャンプで相手より先にステージへ復帰すると、戻ってきた第一村人へ容赦なく連続蹴りを叩き込んだ。
これで互いの衝撃ゲージは百%を超え、さらに十%ほど上昇する。
「まだ決まんねーのか……」
「どっちも頑張れ!」
両者とも撃墜圏内へ突入。今や一撃でも攻撃が命中すれば、そのまま場外へ吹き飛ばされてもおかしくない。勝負を分ける運命の一撃を受けるのは――果たしてどちらか。




