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諸君!これがプロである!!~ゲーム実況者の日常~  作者: 椋木美都
中学一年生編

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 第138話『幸不幸は分かたれる』

後半が読みにくいかもしれません。ご了承ください。

二人は見張り番の牛人間に対して【話しかける】【すくいたての揚げカスを投げつける】【牛を煽るラップをかます】という選択肢を読んで爆笑する。


「このゲームふざけてるよ!」


「死の匂いしかしない……!」


セーブした後、一旦【話しかける】を選択した。


【ハラヘッタ。オマエ、ウマソウ】


牛人間がそう言った直後、寝ぼけた勢いでヒイとメトロに喰らいつき【GAME OVER】となった。


「はい」


「牛さんお腹減ってるって。何か食べ物あげたらどけてくれるんじゃない?」


二人は省エネで対応し、食べ物――アイテムの【ジャガイモ】を牛に与えれば先へ進めそうだと推理する。


「どうせ揚げカス投げてもキレられるだけでしょ?」


「あはは。蹄に胴体貫かれて終わっちゃうかもね」


「じゃあ……ラップいっときますか!」


「これ僕が読むのか……しかもヒイちゃんイメージで……」


ホットは期待に目を輝かせながら【牛を煽るラップをかます】を選択する。すると軽快なヒップホップ調のBGMが流れ出し、ヒイはノリノリで身体を左右に揺らし始めた。


【そこを退いてよデカいだけの牛頭。鈍いステップじゃこっちに届かず!そのツノ飾り?マジ見掛け倒し!焼いてあげる大好きな牛タン!私のパワーは常に満タン!】


「どう!?結構リリック刻めたんじゃない!?」


「おぉーテディ!ラッパーいけるよ!」


「お見事です」


だがそれだけでは終わらなかった。


「……え!?」


「まさかお前も!?」


眠っていた牛人間まで目を覚まし、ビートに合わせて横ノリを始める。


【生身の塊、ここで終わり。所詮は口だけの小娘ラッパー。ここは現世じゃねぇ、終焉のワンダー。マイク一本で送る三途の彼方!怨嗟の天下、買うか喧嘩?俺のライムでお前はフリーズ!運命の輪はspin one's wheels!】


【キャーーッ!】


『ドッカーーン!』


牛人間の暴力的なラップに太刀打ちできず、ヒイは敗北宣言という名の自爆で勝負を終わらせた。


「「えぇーー!?」」


当然、テディとホットは状況を呑み込めず呆気に取られる。それでも笑いながらヒイを動かし、牛人間へジャガイモを差し出させた。


【モグモグ……!!】


【寝ぼけたまま毒ジャガイモを食べた牛は、お腹を押さえながらどこかへ去っていった……】


「牛かわいそ」


【PCはこの部屋の中に保管してあります】


【それって大丈夫なの?冷凍室なのに……】


【こちらは電力が遮断されており、単なる格納庫として機能している状態です。室温が作業場と同一であることを検知したため、PCを設置してもシステム上のリスクは皆無であると判断しました】


ヒイたちが部屋の中央に置かれたPCへ近づく。すると【総菜室に置かれていたPC】と表示され、その下に【使用する】【やめておく】の選択肢が現れた。ホットが迷わずエンターキーを押すと、画面のメトロがPCの操作を始める。


【USBインターフェース接続完了。拘束システムのロック解除を開始します。処理完了までお待ちください】


【うん。分かった(待っている間、暇だな……)】


「ぇっ」


ホットは【メトロにお礼を言う】、【自分のことを話す】、【何もせずじっと見つめる】の選択肢に目を瞬かせる。テディも言葉を失い、含み笑いを浮かべた。


「どうしよう!」


「どれでもいいんじゃない?」


「うーん。ならお礼……いや待って」


「うん」


「メトロは今作業中……シェンには半ギレで『明日』って通話ブツ切られて、編集中のテディには食い気味に『週明け』って言われて通話ブツ切られたことある……」


「ぶふっ……忙しい時に話しかけちゃったヤツね?」


「ご安心ください。私がホットさんに怒りを示すことはありません」


「嘘だよ絶対バチギレて罵声飛んでくるよ」


「ひぇぇ」


ホットは今は話しかける場面ではないと察し、ヒイは【何もせずじっと見つめる】と――


『ボファンッ!』


【え!?】


【申し訳ございません。拘束具の解除に失敗しました】


――メトロは手元を狂わせ、目の前のPCを盛大に破壊してしまった。


「ちょっとメトロー」


「集中できなかった?」


【ピピピ……進行先の事務所にPCが設置されている可能性は極めて高いと判定しました。現地到着後、解除処理を実行します】


【う、うん……ごめんね。メトロに任せっきりで……】


【問題ありません。また、この部屋には反対側にも扉が設置されています】


総菜作業室を出る前に冷凍室も隅々まで探索したが、これといった収穫はない。ヒイたちはバックヤードの通路へ出ると、視線の先には新たな部屋へ続く扉が待ち構えていた。


「鮮魚、精肉、青果、総菜……スーパーの作業室ってもう無い?事務所で最後?」


「一応ベーカリー部門がある店もあるけど、ここは無いみたい……かな?」


「レジは?」


「最後の最後でサービス部門出てくるかね」


【事務所】の鍵を開けると、ホットはすぐにセーブする。


六畳ほどの手狭な室内には、壁際に数台のPCが並んでいた。


【どれも型が古い。起動できるのだろうか】


「スーパーの事務所あるある。定時前後になるとPCの順番待ちが起こる」


「スーパーの事務所あるあるその二。初夏(6月)はクーラー無しで耐えがち」


「確認します。その情報は事実と一致していますか」


「「や、適当」」


「返答の同期を確認。メンバー仲が良好でなによりです」


『何だコイツら』と思うメトロをよそに、ヒイたちは探索を再開する。天井近くには複数の監視カメラ映像を映し出すモニターが設置されていた。


【画質はやや悪いが、各作業場の映像がここで見られる】


「ホット。拘束解いてもらわなくていいの?」


「あー。もうやっちゃうか」


ホットはいつもの癖で部屋を隅々まで調べてから解除に取りかかろうとした。しかしテディの指摘を受け、まずはメトロに車椅子の拘束システムを任せることにする。


【USBインターフェース接続完了。拘束システムのロック解除を開始します。処理完了までお待ちください】


【お願い(待っている間、暇だな……。あの引き出しの中には何が入ってるんだろう)】


「開けれる?」


「いけるわ!」


ヒイは拘束されたままで自由に動けない。しかし、手の届く範囲にある未探索の引き出しだけは開けられることに気づいた。


【読めない文字の紙束やチラシがたくさんある……これは何だろう】


「お」


【タイムカードを手に入れた】


続いて隣の引き出しを開けると【新入社員の日誌】を発見。


【……背筋が這うような気配がする】


「えっ【本当に読みますか】って……」


「後回しにする?」


「でもこれ以上何も出来ないしな……読むか」


ヒイは一拍置き、ペラリと紙をめくった。


【私の足はもう動かない。二度と元には戻らない。 取り返しのつかない人生になってしまった。

 滑り止めで入った会社だったけど『やれるとこまで頑張ってみよう』って、本気で思っていた。

 少しずつ仕事を覚えて、いつか笑って『ここに入社してよかった』って言える日が来るかもしれないって。


 そんな未来は、一つの事故であっけなく終わった。


『あの時こうしていれば』『あの時あっちを選んでいれば』『あの時立ち止まっていれば』そんな『もし』を何千回考えたって、右足は戻らない。もう二度と。

『命が助かってよかったね』『きっと乗り越えられるよ』『前向きに考えよう』って綺麗ごとで励ます人ばかり。その言葉を言う人は、何も失ってない。

 会社の人たちは最初だけ哀れみの目を向けて、今じゃ腫れ物扱い。結局、私の代わりなんていくらでもいるんだ。ただのスーパーの新入社員いくらでも替えが効く。


 みんな少しだけ悲しんで。少しだけ心配して。少しだけ気を遣って。そして忘れる。皆私を忘れる。私は忘れられないのに。

 事故の日も。病院の匂いも。車椅子に初めて座った日も。全部覚えているのに。忘れたいのは私の方なのに。

 時間が解決する?そんなの嘘。時間は傷を古くするだけ。古傷になったって、痛いものは痛い。

 心が潤わない。いくら泣いても喉の奥がカラカラに乾いて、呪う気持ちだけが込み上げてくる。 もっと馬鹿になれれば楽だったのに。何も考えず素直なまま生きれたらどれだけよかったか。

 誰かを恨んでも足は戻らないし時間も戻らない。自分を責めても意味はない。全部分かってる。分かってるのに。それでも普通に幸せに生きている人間を憎まずにはいられない。


どうして私だけ。どうして私は止まったままなの。


いつも通りあのスーパーも、街も、世界も回っていく。それが一番耐えられない。

消えたい。でも消えるだけじゃ足りない。この辛さも。この傷も。誰にも伝わらないまま終わるなんて嫌だ。


どんな形でもいいから。私を、この辛さも傷も、誰かに刻み付けたい。


忘れられないくらい深く。一生消えないくらい深く。私だけが苦しいなんて嫌。


ねえ。お願いだから私を置いていかないで……誰もここから逃がさない】

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