第131話『本人曰く、そこまで怖くない』
殺〇の天使や魔〇の家などのフリーホラーゲームをイメージしてお楽しみください。
操作担当はホット。テディは読み上げ&謎解き担当。そしてメトロが時折補足を挟む形で実況が始まった。
「ではっ!謎解きホラーアドベンチャーゲーム『spin one's wheels』――気を引き締めてまいりまそう!」
「テディ噛んじゃったなぁ。テイク2いっとく?」
「さぁ『はじめから』ゲームスタート!」
通常なら難易度選択が挟まる位置だが、本作はいきなり本編へ移行する。
「メトロ。このゲームって難易度選択なし?」
「現在はノーマル固定です。今後のアップデートでイージーの追加を検討します」
この種のゲームは一般的に三人称視点を採用しており、プレイヤーは常にドット絵の主人公の姿を視認しながら操作を行う形式となっている。
金髪の三つ編みサイドテールに赤い瞳――少女ヒイは自転車に乗り、夕暮れの坂道を勢いよく下っていた。
「この子が『ヒイ』か。可愛い」
「モーション結構細かくない?」
「というか下り坂急だな。原付みたいな速度出てるぞ」
「あ、この先カーブ……」
次の瞬間ブレーキが鳴り、タイヤが甲高い音を立てる。ヒイを乗せた自転車はガードレールを『ガシャァン!』と突き破り――そのまま崖下へ消えた。
「「えっ」」
画面がブラックアウトしてから数秒後。目を覚ましたヒイは、薄暗い廃作業場のような部屋の中央で車椅子に拘束されていた。
【ここは……どこ?確か私ブレーキが間に合わなくて、自転車ごと崖下へ……】
ここで初めてヒイの立ち絵が表示された。ドット絵とは別に用意された美麗なイラストが画面を彩る。
「あ、言い忘れてた。ここのイラストは全部ナイアだよ」
「はい可愛い。うわ死なせたくねぇー」
「ホット次第だよ!頑張れ」
【スマホもないし……どうなってるの!?】
ヒイは何度か身体を揺らしてみるものの、椅子から抜け出せる気配はない。
【車椅子に体と足を拘束され、身動きが取れない……】
「えーヤバ」
「めっちゃデバフじゃん。手で回して進まなきゃいけない?」
ヒイを拘束している椅子は、移動機能を備えた簡易型の電動車椅子だった。バッテリー残量は満充電だが有限であり、進むたびに消費される。
【なるべく誰かの力を借りて移動した方がよさそうだ】
「節約を意識してった方がいいみたいだね」
「っていう意味を持たせといてこの選択肢……」
ホットは【自走で部屋を出る】と【電動で部屋を出る】の選択肢を睨む。
「事情を考えれば手で車輪を回しての移動が望ましいけど……」
「でも電動でどんな感じで走るか一回確認してみたいんだよな……」
「備えあればってヤツだね。ちょっとの距離なら全然使ってみてもいいんじゃない?」
「よし……!」
ホットは操作感を確かめるため【電動で部屋を出る】を選択。すると――
『ウィィィン!ドガァンッ!』
「あっ」
「え?」
――車椅子はロケットのように急発進し、そのまま壁へ激突。ヒイはあっけなく力尽きた。
【GAME OVER】の文字が表示され、その背景には血のような赤黒い染みをまとった車椅子が描かれている。初デスの衝撃にホットは絶句、テディは失笑した。
「あー成程ね?スピード出し過ぎちゃったか」
「俺すぐ左右キー動かしたのに……操作利かなかった」
「えっ動かしてたの!?」
一秒にも満たない、回避不能な死亡エンド。普通のプレイヤーなら『あっ』と思った時には終わっている。しかしホットは得意のレースゲームで鍛えた予測力を発揮し、ヒイがぶつかる寸前まで移動キーを入力し続けていた。
「まぁこれで理解したね。このゲーム理不尽な死が多い感じだ」
タイトル画面に戻された後、【つづきから】を選択する。すると薄暗い廃作業場の中央で目を覚ましたヒイが、車椅子に拘束されている場面からゲームが再開された。
「ヒイちゃん……次こそ俺が守るから!」
――てか俺の一個上なのか……。
齢十四歳のヒイは心細さから一人でいることに耐えられなくなり、人の気配を求めて進む。
「今いる部屋は探索できないのかな」
「後で戻れんじゃね」
ヒイは車椅子をゆっくりと回し、目の前の出入口へ向かった。まだプレイヤーに操作権はなく、その動きはすべて自動で進行している。
やがて彼女が目的地に辿り着くと、画面は再び闇に包まれた。続いてナレーションの文章が流れ始める。
【この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件などとは一切関係ありません。また、本作には一部ショッキングな表現が含まれています。あらかじめご了承の上、お楽しみください】
「はいはい。いつものね」
【この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件などとは一切関係ないません。また、本作に一度足を踏み入れれば、戻ることはできません。どうか、ご自身の正気と相談の上でお進みください】
「ん?」
【この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件などとは一切関係ありませせせせせせせせせせせ】
「おぉー。それっぽいそれっぽい」
二人はテキストが乱れる不穏な演出にも動じることなく進む。ヒイが足を踏み入れたエリアには車掌服を着た黒髪アフロヘアーの男性が床に伏し、何かを呟いていた。
【……本作には理解を超えた出来事や、説明のつかない不気味な現象が多数描かれています。自己責任の上、お楽しみください】
「お前が言ってたんかい!」
【意味不明な言葉を繰り返している……】
ヒイとホットのツッコミが重なる。ナレーションだと思われていた文章が、実は倒れている人物の台詞だったのだ。
そこへ追い打ちをかけるように選択肢が現れる。
【声をかけて起こす】【車椅子で轢いて起こす】【そんなことより歌う】
テディは耐えきれずに笑い声を上げた。
「ホットどうする?」
「待ってリスク管理する。セオリーは【声をかけて起こす】じゃん?」
「まぁ安牌だね。もし轢いたらメトロ……かはまだ分かんないか」
「いやもう確定だよ。まぁメトロは未成年の女の子に車椅子で轢かれてもキレて殺したりしないか……」
「(o^―^o)」
「あぁメトロもチャットで笑顔になってる……」
「ここでヒイが死亡した場合、作業場を出た地点から再開されます」
「じゃあまだ戻れるか……」
ホットの中の実況者魂は【そんなことより歌う】という選択肢を見逃せなかった。
「歌声を聞いたメトロが発狂して殺しにかかるか、敵が寄ってきて即死するか……」
そんな展開を予想していた。
【――プッ、ツカッ、ププッ、ツカッ、ドゥクドゥク、カッ!】
「「ボイスパーカッション!?」」
しかしヒイは小さく身体を揺らし、本格的なビートを刻み始めた。
【重低音の始動 高鳴るこの鼓動 スリープから浮上 覚醒する思考……】
メトロもまた、うわごとのようにライムを生み出す。
「ちょ俺ボイパやるからテディラップやって」
「ホットボイパニストだったの!?」
見よう見まねとは思えないほど形になったホットのボイパに合わせ、テディが即興のフローを展開する。メトロからもまずまずの評価が返ってきた。
「このヒップホップ皆にやって欲しー」
「タンドリーとユイガ選んでくれるかなー」
ここでの選択肢はどれを選んでもメトロが普通に目を覚ます。ともあれ、二人はまず自己紹介を交わすことになった。
「折角ここにいるんだし、メトロの台詞はメトロが呼んでよ」
「畏まりました」
「メトロのCVメトロとかアッツ……!」
【自己紹介を実行します。私はメトロ・ポリタンです。メトロと呼んでください】
【レトロ?】
【対象を誤認しています。私のモデルはサメではなくモグラです】
「何言ってんの?」
「本当にね」
「テディごめん俺これ分かんない」
「そのままでいて。全く問題ないから」
何の拘束も受けていないメトロは、彼女の歩行を封じている車椅子に関心を示す。
【ピピピ……簡易型電動車椅子の拘束具には特殊なロックベルトが使用されています。物理的な破壊、または外部ツールによる強制解除を試みた場合、貴女に危険を及ぼす恐れがあります】
【そんな……】
【ただし、ネットワークに接続されたPC端末を使用すればロック解除が可能となる場合があります】
「おぉ!」
「メトロめっちゃ頼りになるキャラじゃん!」
――アンドロイドっぽく喋る車掌服着たアフロのおっさんなんて現実で会ったら不審者以外の何物でもないのに!
【バッテリー残量を確認……現在百%です。ご希望であれば、私が貴女の拘束解除を補助します。また、移動の際は私が車椅子の操作を担当します】
ここでヒイの返答となる選択肢が表示される。
【本当にいいんですか?】【貴方は一体何者なんですか?】
「俺リアルでのメトロのこと全然知らないんだよな……」
「まぁ裏プロの三人は等しく謎多き存在だよ」
ホットは迷うことなく、メトロの正体について尋ねた。




