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諸君!これがプロである!!~ゲーム実況者の日常~  作者: 椋木美都
中学一年生編

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 第127話『思春期たちの新年』

冬休み終了まで残り四日のある日。敦斗は遊びに来た糸哉と一緒に、山積みになった課題と格闘していた。


「何で二週間しか休みないのに、終わった瞬間テストあるんだよ……」


「ホット前回の期末の数学、ギリ平均超えてなかったでしょ。休み明けテストはちょうどいい復習になるよ」


「テディこのグラフから反比例の式求めるヤツ分かんない」


「あーそれはね……」


糸哉は中学受験の頃から、こうして敦斗の勉強を見る機会は少なくない。もっとも当時のような付きっきりのマンツーマン指導ではなくなったため、現在の敦斗の成績はなかなか極端だった。


国語や英語などの文系科目は八十点から九十点台を安定して維持。数学や理科は平均よりギリギリ上。その一方で音楽や保健体育、美術といった実技教科は『普通科目の点数を下げたくない』という理由で毎回ほぼノー勉。


結果、一桁から平均点以下を行き来するという非常に分かりやすい成績表になっていた。


「英語やりてぇ……疑問詞に現在進行形……『Which do you like b(昼寝かゲーム)etter, gam(どっちが好き?)es or sleep?』とか訳したい……」


「Study!(勉強しろ!)範囲広いんだからぼーっとしてる場合じゃないよ。しっかり勉強しないとだよ」


「ひーん」


泣き言と文句を垂れ流しつつ、敦斗はどうにか宿題を進める。途中で何度も現実逃避しそうになりながらも問題を解き続け――数時間後。


「終わったぁ……!」


「お疲れ」


敦斗はそのままテーブルへ突っ伏す。ふと横を見ると、PCデスクの端に置きっぱなしの年賀状が目に入った。


「……翠羽から年賀状もらったんだけどさ」


「あぁ」


「手書きで『今年も敦斗君の彼女としてよろしくお願いします』って書いてあって」


「マメだねぇ」


糸哉は素直な感想を返す。しかし敦斗は年賀状を見つめたまま、小さく笑った。


「俺、今年も翠羽の彼氏でいれんだなぁ……」


「……ん?」


糸哉の眉がぴくりと動く。その言葉そのものではない。そこに混じった声色が気になった。


敦斗と翠羽の交際は、異性避けという利害の一致から始まったものだ。恋人という肩書きを共有しているだけの『偽装カップル』。本来そこに恋愛感情は含まれていない――そう考えたところで、糸哉はそっとペンを置いた。


「……最後に小椿さんと会ったのっていつ?」


「えーっとクリスマスにデートして、三十日に翠羽とファミレスで宿題やって、三日に初詣行ったから……昨日?」


「めっちゃ会ってる!」


「言うても全部早めに解散したし」


「ほぉ」


「電話は毎日してるけど」


「毎日!?」


糸哉は勢いよく立ち上がりかけた。


これプロメンバーは二十九日から三日にかけて、全員の予定が見事に噛み合わず、通話に集合できる日がほとんどなかった。


それぞれ親戚の家へ帰省したり、家族と過ごしたり、受験勉強をしたり、ゲームをしたり、編集したり、またゲームをしたり――よって糸哉が敦斗とこうして腰を据えて話すのは実に五日ぶりとなる。


――まさかちょっと会わない間にこんなことが……。


敦斗が年賀状を見ながら幸せそうな顔をしているのを見て、糸哉は眉間にシワを寄せる。どうやら想像以上に事態が進展しているようだった。


「テディは何て書いてあった?」


「え?」


「翠羽の年賀状届いてるっしょ?」


そう言われ、糸哉は記憶を探る。まとめてしまった年賀状を思い浮かべながら、一言メッセージの内容を読み上げた。


「えーと『去年は熊本君にいっぱい迷惑かけちゃったから、今年は少しでも助けになりたいです。力になれることがあったら遠慮なく頼ってね!』だったかな」


「ふーん……」


敦斗は短く返すと、たちまち不服そうな表情を浮かべた。


「テディの方が文字数多い……」


「本当にホットどうしちゃったの!?」


――つい叫んじゃったよ!そこ気にするマジ!?


「俺も分かんない……!でもなんか年賀状のメッセージ見てちょっとグッと来てから……いやそれより前?元から可愛いとは思ってたけど、クリスマスに会った時とかヤベー可愛く見えたし……!」


敦斗は赤面した顔を両手で覆う。その様子を見て、糸哉は思わず核心に迫る内容を言いかけた。


――小椿さんのこと異性として好きになったんじゃない?気づいてないだけで。って言ってもいいけど……一旦ブレーキかけとこっかな。


「敦斗それは……」


糸哉は咳払いを一つし、神妙な顔で言う。


「……思春期マジックだよ」


「思春期マジック……!?」


糸哉はノートを開き、さらさらと丸顔の小学生っぽい女の子を描く。そして矢印を書いた先に少し背が伸びた中学生風の女の子を追加する。


「僕らの身長が伸びたり声変わりしたりするように、女子も成長する。小椿さんって元から大人っぽいけど、今も成長途中なんだよ。つまり魅力ステータスが継続的に上昇してる」


「ステータス」


「ホットは今、その上昇した魅力の影響を受けている可能性がある。しかも今回はクリスマスに初詣……これだけのイベント効果が重なったら、小椿さんが特別印象に残るのも当然だよ」


「成程……」


すっかり見違えた女の子のイラストに、敦斗の瞳が輝く。


「今でこれなら今年どうなっちゃうんだよ……翠羽が可愛すぎて怖い……」


「言っとくけど、その思春期マジックは敦斗にも当てはまるからね」


「俺にも?」


「無論」


「確かに……!じゃあ翠羽が可愛くなったのも、俺が翠羽を可愛く感じるようになったのも、俺と翠羽が成長してるからってコト!?」


「まぁ……そういうことになるね」


糸哉は曖昧に頷く。もちろん厳密には違う気がするが、目の前の少年はすっかり納得した顔をしていた。


――まあいっか。


少なくとも今日のところは。彼はそう判断し、静かに話題を切り上げるのだった。


☆彡

冬休み明けの始業式当日。糸哉は登校してきた翠羽を見つけ、半ば強引に空き教室へ連行した。


「これこれこういう経緯があって。敦斗が小椿さんのことを確実に意識してる気がするんだよ」


一通り説明を聞いた翠羽は小さく唸る。


「私も夏休みの頃より連絡頻度増えたなーとは思ってたけど……」


「うん」


「年賀状のメッセージがそんなに敦斗君の心に刺さっちゃったの?」


「あとクリスマスに何かあったとか」


「んー」


思案顔の翠羽を眺めていた糸哉は、ふとある事実に気付いた。


「小椿さん……肥えた?」


「普通に『太った?』って言われるより酷い!」


彼女は反射的に言い返す。しかし俯いたことで、顎下の肉が正直な答えを示していた。


「だ、だって仕方ないじゃん! この時期ってママとお婆ちゃんの誕生日とクリスマスと大晦日……お正月まであるんだよ!? 美味しい物だらけなんだもん!」


「言われてみれば終業式からその兆候があったような……」


「思い出さないで……」


翠羽は毎年この時期になると少し丸くなり、春頃には自然と元に戻るらしい。


頬は以前よりふっくらとしており、首回りにも柔らかな丸みが見て取れる。スカートのアジャスターは最大まで緩められていた。


「小椿さん。驚かないで聞いてほしいんだけど……」


糸哉は腕を組む。そして一つの仮説に辿り着いた。


「敦斗は……デブ専ならぬぽっちゃり好き男子かもしれない」


「そっ、そんな……!」


デブ専とは、肥満体型やぽっちゃり体型の人に恋愛感情や性的魅力を抱く傾向を指す俗称である。


「ま、まだそうと決まったわけじゃ……」


翠羽の顔から血の気が引いたその時。『ガラッ』と空き教室の扉が開き、敦斗が当然のように中へ入ってきた。


「「敦斗(君)……」」


何食わぬ顔で背後に立ち、そのまま翠羽を抱きしめた。


「ふぇっ!?」


「さっき三年の先輩の告白断ったら無理やりキスされそうになった……」


敦斗は翠羽の肩へ額を押し付ける。大型犬が飼い主へ甘えているような光景だった。


そして糸哉は見逃さなかった――敦斗の腕がしっかり翠羽の胴回りに回されていることを。


「敦斗君。クラスの松屋(まつや)さんが夏からダイエット始めた理由知ってる?」


「いや?」


「『敦斗君のお目汚しになるから』だって」


「何だよそれ……」


敦斗は露骨に顔をしかめた。そして小さく呟く。


「……俺が見過ぎたのかな」


「んんっ(熊本君。私痩せる)」


「ぅん……(応援するよ)」


「んーっ!(ずっとお腹ボヨブヨの状態でいて欲しいなんて言われたら私生きていけない!)」


「ゴホン!(それは一部に叩かれるから慎(つつし)むんだ小椿さん!)」


「さっきから何二人でテレパシーしてんの?」


敦斗だけが訝しげな表情を浮かべていた。その間にも彼の指先は無意識に翠羽の頬をつついている。


「ぅー」


「敦斗もうそろ止めたげたら?」


「あ、ごめん」


「全然いいよ……」


翠羽と糸哉は視線を交わし、静かに頷くのだった。

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