閑話⑩『CAFE REFLECT ホット×ワカオミ』
『CAFE REFLECT』は、バーチャルなカフェ空間を舞台にしたトーク系のNico・Tube動画配信チャンネルである。
定期的に新しい回が公開され、毎回異なるゲスト同士による、そこでしか交わされない会話が楽しめる。エンタメやカルチャーの話題を軸にした、実験的なプロジェクトだ。
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その店は、駅前の喧騒から一本外れた路地にあった。看板の灯りは弱く、初見では営業しているのかも分からない。
カウンターに腰を下ろすと、視界の端に見覚えのある横顔が映った――。
今回訪れた客はゲーム実況者グループ『諸君!これがプロである!!』ホットと、個人で活動しているゲーム配信者のワカオミだった。
ホット(以下:ホ)「……まさか偶然入ったカフェでワカオミさんに会えるなんてラッキー。あ、すみません。りんごジュース一つ。ワカオミさんもう頼みました?」
ワカオミ(以下:ワ)「いや。じゃあ……泡盛を」
ホ「ワカオミさん!?ここカフェ!あとまだ十五時です!」
ワ「だってぇ!こんなバチバチホストがりんごジュース頼むと思わんやん!俺もボケなと思うやん!あ、ブレンドお願いします……」
ホ「店員のお姉さん眉一つ動かしてなかった……流石接客のプロだな」
ワ「ホットさんは……テディんとこの人?で合ってる?」
ホ「はい!これプロのホットです。まだ活動歴一年未満の子犬なんで、ホットって呼んでください。全然普通に!フランクに話してもらえると嬉しいです」
ワ「ド新人でヤバい……初対面だよな?」
ホ「そーですね。俺がワカオミさんのこと知ったのも、実は先月の『BRO・AD』配信で……」
ワ「ど、どの部分を見たんだい?あそこにいる俺は俺であって俺じゃない誰かであって……」
ホ「テディを職務質問してるとこからです」
ワ「そうかそうか!エリートモードの時か!なら良し!」
ホ「その後テディの配信でワカオミさんがメイドさんとキャッキャウフフしてるとこも見ました」
ワ「うん。それは変態モードの俺だな。忘れて?」
ホ「ふふっ……差がエグい。でも俺、こんな面白い配信者いるんだって感動しました!そのあたりの界隈まだ詳しく知る機会がなくて」
ワ「ちょっとー。そんな褒められたらオジサン嬉しくて寝れなくなっちゃう」
ホ「寝かしませんよ?折角こうして会えたワケだし」
ワ「キュン……」
ワ・ホ「「あははははははははははははは!」」
ワ「はぁ……いやでも、テディ君には結構よくしてもらったなー。対策課辞めてベビーマフィアになった後も結構会ったし」
ホ「犯罪現場でですよね」
ワ「人質が途中で逃げちゃって終わったと思ったらテディ君が人質役引き受けてくれたし」
ホ「あ!そこ二窓(テディとワカオミの配信同時視聴)して観ました!その後のチェイスめっちゃアツかったです!」
ワ「俺が成功させちゃった所為でテディ君ごっさ怒られたらしいね?」
ホ「めちゃめちゃ絞られてましたよー。ワカオミさんが副局長に煽りの電話いれたから」
ワ「ははははは!癖になっちまってんだ。人を煽ってマウント取るの……」
ホ「あははは!ホント悪でズルなんだから」
ワ「話しは変わるが、俺には妻がいてね」
ホ「そうなんですか!?」
ワ「妻も『BRO・AD』は全部観たらしくて……テディ君からこれプロを認知し始めたと」
ホ「え!」
ワ「それで今……ホット君と話してるってメッセージ送ったら何て返って来たと思う?」
ホ「ん?もしかして修羅場?今ワカオミさん修羅モード入ったかこれ」
ワ「『えーーっ!いいなーー!黙ってたけど最近ホット推してる。あんたの湿気た話はマジどうでもいいからホットの話いっぱい引き出して!」』と……」
ホ「あーね?テディ→これプロ→俺って流れで……」
ワ「俺は誰をおしまいにしたらいい?」
ホ「待ってください」
ワ「お、いいところに店のペーパーナプキンが」
ホ「それで俺をどうするつもりですか!?ちょ、ワカオミさん落ち着いてください。じゃあ今日で俺がイメージダウンして、ワカオミさんの奥さんを蛙化させるのはどうですか?」
ワ「俺の家庭の為に変態になってくれるって……コト?おいおいまだ十五時だぞ」
ホ「それは俺がテディにごっさ怒られるんで……どうしようかな。急に怖い話したらワカオミさんの奥さんもドン引きします?」
ワ「もれなく俺のヤベェ奴認定がもらえる。でも続けて?」
ホ「まぁ短いんですけど。この前……先週かな。起きて水飲もうとしたら、キッチンの上に包丁が出しっぱになってて」
ワ「包丁だけ?」
ホ「はい。ポツンと剥き出しで。昨日豆腐切った時しまわなかったっけーって思いながら、軽く洗って元の場所に戻したんですよ」
ワ「他に誰かいた?」
ホ「一人暮らしで、その日は誰も家呼んでないです。半分寝ぼけてたのもあって、その後普通に忘れて仕事行ったんですけど……ひと息ついた時、あることに気づいて」
ワ「…」
ホ「あの包丁にべっとりついてた血っぽい液体は、洗う前に写真撮った方がよかったのかな……って」
ワ「ほほ……ほぉーう。その包丁……は……」
ホ「ありますよ」
ワ「OH NO!NO!NO!NO!NO!!捨てなサイ!?」
ホ「えー!まだ使えるし……包丁が枕元に来たらまた考えます」
ワ「寝首かかれるて!ホットやば!日常生活に潜む異常こわっ!何で何も考えず洗った!?」
ホ「ガチボーっとしてて……ワカオミさんは朝弱いんですか?」
ワ「苦手って認識ないな……明け方に寝る時以外は、妻が決まった時間に叩き起こしてくれるから。それで慣れた」
ホ「いいですね!明け方寝る時って配信とか?」
ワ「そうそう。ホット『リズコレ』やってる?」
『リズコレ』――正式名称『リズムコレクション』は、音楽に合わせてタイミングよくボタンを押すだけで誰でも気軽に楽しめるリズムゲームである。曲に合わせてキャラクターを動かしたり、タイミングよくジャンプしたりと、ゲームごとに異なるリズムと操作方法が用意されているのが特徴。
ホ「最近皆やってますよね!俺はちょっとやってないですけど」
ワ「楽しいのとか可愛いのとか嫌いなのとか無理すぎて諦めたいのとか台パンしたくなるのとか色々あるよ」
ホ「あははっ!楽しいと辛いでギリ辛いが勝ってる感じですか」
ワ「そーそー。これプロではどう?」
ホ「多分昨日……あ、やっぱり。テディとユイガがやってる。難しめのゲームをピックアップして攻略動画上げてますね」
ワ「マジ?ハードルのある?」
ホ「どうだろ……聞いてみます」
ワ「いやっ!いいよいいよ!ユイガって名前聞いたことあるな……あ!『人質オークション』の奴か」
ホ「ふふふふっ!そうです。首謀者の一人で。ユイガリズムゲームめっちゃプロなんですよ」
ワ「妻も俺より上手くて。配信外で二人プレイのゲームやったんだけど、何故かやった後キレられるっていう」
ホ「あはははは!何したんですか。聞きますよ」
ワ「だだ俺の方が上手くプレイできた時ドヤったり、失敗するたび『見た?』って顔で振り向いたりしただけだけどなぁ……」
ホ「あはははは!かなりウザいか。それは奥さん怒ります!えっ毎回?」
ワ「一ゲーム五、六回を十セット」
ホ「部活の練習メニューみたいに言うじゃないですか……ちゃんと奥さんのストレス解消しました?」
ワ「た、多分……でも終わった後いきなり服めくられて……『へそ周りの毛っていらないらしいよ』って言われた」
ワ・ホ「はっはっはっはっは!」
ホ「いやワカオミさんは笑い事じゃない!」
ワ「自慢の妻です」
ホ「あ、そういうところが好きなんだ……」
ワ「『俺のへそ毛は金運の象徴だから抜かないで!』って言っても束でつまんでくる人と結婚できてよかった」
ホ「金運の象徴……!っい、良い夫婦っすね……」
ワ「ホットはある?」
ホ「へそ毛ですか?俺は生えてないですね。生えてたとしても剃るかも」
ワ「エーーッ!」
ホ「職業柄どうしても……そんなショック?」
ワ「どうにかなんない?妻に『ホットが生えてないならアンタもへそ毛いらないね』って言われちゃう」
ホ「奥さんどんだけへそ毛に執着してんすか!じゃあまぁ……今日こうしてお会いできた記念ってことで『ホットはへそ毛が生えてる』ってことを公式設定にします」
ワ「ッフフフフフフ!一旦まずいか。妻とホットファンに叩かれる前に訂正と謝罪を……」
ホ「あ、俺もうそろ行かないと……ワカオミさんは?」
ワ「俺も帰る。ついでにホットが働いてるホストクラブ寄っていい?」
ホ「ワカオミさん顔出ししてるじゃないですか!連鎖的にバレて終わる!」
カラン、と軽い音を立ててバーのドアが閉まる。
カウンターに残ったグラスと、途切れた会話――二人のトークは、そこで静かに幕を下ろした。




