第124話『諸君!単独制圧のお時間がやってまいりました!!』
「えー実行犯はトゥルピネ。ヘリ一台含め十人程度。現在三名の構成員が行動不能。引き続き対応中です』
「え、もう三人やってるってこと?」
「や、何か元々一人は金庫開けるための爆弾で倒れてたっぽいです」
「我々が到着するまでそのまま持ち堪えろ。メアリがいるとはいえ無理はするな。命を優先しろ。いいな?」
「了解」
慎重にという命令だったが、テディは怯まず引き金を引く。通路の先で短い悲鳴が上がり敵が倒れる。すかさず地下への階段へ向かうが、下方から放たれた銃弾が彼の身体を掠めていった。
『ピシュピシュピシュピシュ!』
「あわわわわわ」
「くぅ……マジでか今ので殺れないの……!?」
「やれやれやれ!早くテディ殺れ!」
敵四名が戦闘不能となったが、まだ終わっていない。増援が来るまでこの現場をテディ単独で対処する必要があった。
「いちマフィアの人数上限は十名。外部からの雇われ戦闘員は二名まで。合同ではない。でも……」
テディは地下から地上へと続く隠し通路を抜け、前方にいた敵を反撃される前に仕留める。
「畜生が……!」
金品を回収し、逃走を図っていたヒルトの足を撃つ。続けて待機中の回収車へ狙いを定めた。
『ダダダダダダダ!』
乾いた発砲音が連続し、四輪は次々と潰される。テディがワンマガジンを使い切る頃には、車はもはや逃走に使える状態ではなくなっていた。
「……これは『トゥルピネ』フルメンバーによる犯行かな。じゃあこれで終わり?」
「オイふざけんなっ……!」
「テディ……!クソォ!」
「マジかよ……!」
「ねえー!助けてー!」
「キモすぎぃ!」
「終わってる終わってる終わってる……」
「はぁ!?テディ一人だけ!?」
「そんなっ……テディ一人に全滅……?」
「ガチエグいだろ……」
「キイィー!」
逃走手段を失った犯人たちから罵声が飛ぶ。だがテディは褒め言葉として正面から受け取った。
「テディ大丈夫かー!?」
「生きてるー!?」
そんな時だった。折よく駆け付けた対策課の仲間たちと合流するため、テディは一旦その場を離れる。
「……塩練さんお願いします!助けてください!」
「犯罪者の治療は基本、留置所内で行うのが規則……」
「頼む!ボスだけでも!」
「ですが……」
「一千万!治療費に一千万払うから!」
「…」
死屍累々の惨状にもかかわらず、彼らはまだ『フェイフォーチュン』を諦めていなかった。メアリは短く笑い、ジェノの前へ膝を折る。
「……まぁ、テディのやってること普通にヤバいですからね」
「あざす……!」
あくまで金ではなく懇願に負けたという体でジェノの治療を始める。しかし――
「はい何やってんのー?」
「きゃー」
――返り血だらけのテディが、汚した張本人たちをあっさりを回収してしまった。
「オイお前何してんだテディー!」
「やージェノさんの頸動脈から血が噴き出てらぁ。早く牢屋の中で治してもらいましょうねー」
「嫌だ!触るな!塩練さん助けて!」
「ジェノ様……どうかお達者で」
「見捨てないでぇぇぇー!」
テディはジェノとヒルトを抱えて空いている車に乗ると、運転席にはネリスが座っていた。
「やー長官。さっきは車の窓割ったあと逃げちゃってすみませんでした」
「全く……お前は本当に調子が良いな」
テディは『お前何してんの』という顔をしているジェノとヒルトに軽く説明する。
「だから張り切って俺ら殺しまくってたの?」
「少しでも罪を滅ぼすために?」
「僕にとってはマフィアより長官の方が恐ろしくて……」
「「クソが!」」
事件解決後、対策課本部では今回もテディを称える声が飛び交っていた。大事件が起きる度に繰り返される、もはや恒例行事である。
「全滅!?」
「お前強っ!」
「マジで強すぎ……!」
「お前バケモンすぎ」
「え無敵?」
「一人でいちマフィア全滅!?」
「カッコいいー!」
「かっけぇ……」
「マジちょっとヤバすぎ」
「最強なんだよね……」
「テディすげぇよ!」
「毎回なんだよ!」
次々と集まるファンボーイ、ファンガールたちを前に、彼は照れ臭そうに頭を掻いた。
「いやぁ……諸」
「諸君!これがプロである!!」
「「あっ」」
お決まりの台詞を奪われ、テディが笑顔のまま固まる。声の主は、対策課本部へ遊びに来ていた飲食店『おむらむらす』店長のらむらすだった。
「…」
「ププッ……ってオイ!何で逮捕!?」
「事件終わって暇だし。ちょっと僕死のうかな」
「ごめんごめん冗談冗談!誰か助けてぇー!」
「暇潰しに心中するな」
叫び声をあげるらむらすを脇に抱え、正気を失ったテディが強い力で屋上の扉を開ける。すると上から一部始終を盗み聞きしていたネリスが、呆れたツッコミで二人を追い出した。
そうして迎えた最終日。最後まで大勢の人々に囲まれ、笑いに包まれながら――
「いやー楽しかったな」
「対策課おもろかったぁー!」
「お疲れー!」
――テディの十二日間に及ぶ『BRO・AD』は、大盛況のまま幕を閉じたのだった。
おまけ『ネリス・ヴォーンの弱いツボ』
三日目の夕方。カスタムエンジニアのけやに社用バイクを修理してもらった帰り、テディは対策課本部へ戻ってきた。
「いやー助かった。やっぱりけやさんの仕事は早……」
そこまで言いかけた時――
「はぁ……はぁ……」
――廊下の壁に、見覚えのある金髪がもたれかかっていた。
「ちょっ、ネリス長官!?」
テディが慌てて駆け寄ると、ネリスは今にも倒れそうな顔でこちらを見上げた。
「食べ物……餓死する……」
「まーた食事忘れて仕事してたんですか?これで三回目ですよ」
「空腹で倒れそうな時に限って毎回お前と遭遇する……」
「え僕の所為?」
テディは鞄を漁る。取り出したのは『おむらむらす』の数量限定商品。その名も『小豆は植物だから実質カロリーゼロ?エルミラとメアリのメガビッグ塩あんパン』だった。
「さぁ、僕のパンをお食べ」
「助かるテディパンマン……言いにくいな」
ネリスはすぐボリュームのあるパンに食らいつく。両手でないと持つのが難しいほど巨大な塩あんパンが、みるみる彼女の口の中に消えていった。
「ふぅ……生き返った」
数秒後、ようやく人間らしい顔色になったネリスを見て、テディは安心したように笑う。
「よかったよかった。それ幻のパンなんですよ」
「幻?」
「一個食べると一日空腹で倒れないらしいです」
「道理で爆弾みたいなサイズだった訳だ……礼を言う」
「いえいえー」
テディが笑う。するとネリスが何か思い出したように口を開いた。
「そうだ。前から気になっていたことがある」
「何でしょう」
ネリスはウェットティッシュで手を拭きながら尋ねる。
「テディは誰にでも『僕』なのか?」
「へ?」
「一人称の話だ」
「あぁ……ですね」
「メンバーにも?」
「はい。よそ行きとかじゃなくて素でこれです。僕ぬいぐるみなんで」
「お前のどこがぬいぐるみだ」
「そんな!」
真顔で切り捨てられ、テディは『ガビーン!』と分かりやすくショックを受けた。
「射撃、運転、格闘。どれを取っても化け物みたいな成果を出しておいて、一人称だけ可愛くして誤魔化せると思うな」
「いや別に誤魔化してるワケじゃ」
「一回『俺』と言ってみろ」
「それはご勘弁ください……僕のアイデンティティ、いやアイデンテディなんです!」
テディは両腕で大きなバツ印を作るが、腕を組んだネリスは退かない。
「コメントを見てみろ。視聴者も長官と同じことを言っているだろう」
『慣れたよ』
『アイデンテディだもんな(笑)』
『一回だけ頼む』
「……言ってないですよ!皆もう『僕』を受け入れています!『嘘つくな』やめて!『虚言罪ですか?』そんな罪ないから!」
視聴者は面白半分に俺呼びを強要するばかりで、この場に彼の味方は存在しなかった。
「皆酷いが過ぎる……僕にだってブランディングがあるんです!長官だって突然一人称を『アタイ』にしろって言われたら困るでしょう!」
「ほぉ。長官の下着を見た男がまだそんな口を利くのか」
「なっ!何故それを!?トップシークレットなのに!」
「オススメ動画の切り抜きで見た」
「オーマイガーだ……」
テディが飛び上がって頭を抱える。数秒悩んだ末――ついに観念した。
「分かりました。ちょっとイメトレします」
――とはいえ俺は絶対嫌だ……よし。
「――オレハテディ!」
「!?」
苦肉の策として、テディは裏声で一人称を『俺』に変えた。
「オレ普段ボクナノニ無理矢理言ワスナンテ長官酷イ!オレ遊覧船ガ欲シインデ臨時ボーナスクダサイ!」
「ふふっ……ふはははははは!」
彼女の年相応な笑い声が施設内に響く。期待していた以上の反応に、テディは誇らしげな表情を浮かべた。
「じゃあ僕、麻薬密売の通報対応行ってきまーす」
「ハァ……あっ待て!逃げるな!」
「じゃあねー」
手を振りながら走り去る。
「……『俺』なんて言う僕はもう僕じゃないからね」
夜風に乗せてそう返し、軽やかに駆けていく。テディの姿は、いつものように夜のミリオレの街へと馴染んでいった。
最終日『おむらむらす』にて
歌観月天 (マフィア)「対策課の中だったらテディが一番好きかも」
テトヴィ・ライクロフト(対策課)「えっ」
ハボック(運び屋)「分かる!俺麻薬持ってるとこ見つかるたび何回も『今回だけですよ』ってブツの押収だけで済ましてもらえた」
ファイヴi(青果店定員)「えっ汚職……」
万世かくり(カスタムエンジニア)「おっさ……男にも優しいんだ」
テディ「いやぁそんな……うへへでへでへっ」
ファイヴi「喜ぶな!」
歌観月天「ごめん。ちゃんときしょいかもです」




