第120話『ボスオークション開催!』
ヘリコプターで進行・空中警護……こせゆ隊
イッサの見張り・奪還阻止……テディ
深°の見張り・奪還阻止……らむらす・ユイガ
パンダラハーツのプライベートヘリコプターが轟音とともに急接近するが、テディは不敵に笑ってアサルトライフルの引き金を引いた。
『ガガガガガッ!』
正確無比な射撃によってエンジン部分と操縦者が攻撃され、機体は制御を失って傾き始める。彼が射程外になるまで撃ち続けると――ヘリコプターは黒煙を噴きながら左右に揺れ、割れた窓から血飛沫が散った。
「っ、うっま……!」
――ヘリが射程圏内に入る前に動力系とついでに操縦者の頭を破壊して退かせるとか……。
イッサは思わず顔を引き攣らせる。遠ざかっていく仲間のヘリを、歯噛みしながら見送るしかなかった。
無線の向こうではLogiaを中心に態勢を立て直した構成員たちが、報告を飛ばし合いながら奪還作戦を続けている。
『ウチ地上から登るルート開拓してる!』
『ボス今助けに行くぞー!』
「返事できないのツライ……ごめんね皆ぁ!」
「お仲間なんて?」
「谁说呢!笨蛋!」
「あはははは!今ぜったい僕の悪口言ったでしょ」
「オホホホホホ!」
競り落とされるのをただ黙って見ているつもりがないのは、ギルティーポップも同じだった。
「来た来た来た……!いけお前らァ!」
別地点で空を見上げていた深°が声に喜びを滲ませる。らむらすが見上げると、ピンク色に塗装されたヘリコプターがフリーフォールの上空を執拗に旋回していた。
「まくれな。アナウンス頼む」
「ええけど、何て言えばええ?」
「『オークション終了まで進行妨害は禁止です。武力介入した場合、こちらのプロ二名が徹底抗戦します』って」
「はいはい……」
まくれながらむらすの指示の答えた瞬間、二機目のピンクヘリコプターがこせゆ隊の機体に強烈な体当たりを仕掛けた。
「うおっ!?」
操縦していたりょくおーが慌てて距離を取る。だがディパレット所属の女性ブイチューバー、森野キティが操縦するヘリが、獣じみた勢いで再接近してきた。
「キャハハハハ!逃がさないよーっ!」
「りょくおーこれキティさんのヘリや!」
「やばいやばいやばい……!」
アナダン屈指のヘリパイロットとして知られる彼女は、卓越した操縦技術で死角を突き、執拗に機体をぶつけようとする。そのドア横ではロクラメンのにおんが銃を構えていた。
「ボスを返せ!」
『ガガガガガッ!』
「ヒャーッ!?」
「ヤッベ煙出た!」
もさ彦が半身を乗り出して応戦するが一歩遅い。こせゆ隊の乗るヘリコプターが被弾し、エンジンの排気口から灰色の煙が漏れ出した。
「らむたすまん!一回下がるわ!でも堕ちてはない!」
「うわマジかぁ……頼む早く帰ってきて!」
「情けないこと言うなぁ!前回のお前を思い出せ!」
「ひーん」
無線越しの報告にらむらすは弱弱しい鳴き声を発する。迎撃用のライトマシンガンを構えてはいるものの、彼にテディのような勝気な気配は一切ない。それは深°の目から見ても明らかだった。
「おいおい。前の街でマフィアの副ボスだったお前ならいざ知らず……コンカフェ店長には荷が重いんじゃないの?」
「いーや?むしろ俺ぁ、こういうヒリつき求めてたんだワ」
――怖ぇぇ!グラフィック良すぎだろ!俺高いとこ普通に無理なんだけど!?
らむらすは強がるように語尾を上げるが、内心では半泣きだった。
「おら来るぞ来るぞ!」
「くっ……!」
自分たちが陣取るフリーフォールの頂上へ鉄塊のようなヘリコプターが突っ込み、弾を避けるように距離を取り直す。らむらすは辛うじて持ち堪えるが、こせゆ隊を追い払った機体までもが増援に回ったのを見て――彼は寿命が縮む感覚を覚えた。
『ドガァンッ!』
「おっ!?」
「なにっ!?」
しかし横合いから新たなヘリが強引に参戦する。白い機体の側面には、マフィア対策課のステッカーが貼られていた。
『あーあー、聞こえておりますかー!』
スライドドアが開き、オルトスが銃を構えながら姿を現す。操縦席にはテトヴィが座っており、ヘッドセットを拡声器モードに切り替えていた。
「おい対策課ァ!誘拐拉致!賭博!殺人!このバカ共しょっぴけ!」
『え?同意の上じゃないんですか?』
深°がいち早く訴えると、テトヴィがきょとんと首を傾げる。
「同意ですよー」
「ふっざけんならむらすコラァ!どう見てもテロだろ!ヘリじゃないと届かねぇ場所で籠城してんだから!」
『んー』
「え?何その反応……オルトスさんも!ヘリ撃つ前にまず店長撃って!」
『んー』
オルトスもまた真顔でギルティーポップのヘリコプターに照準を合わせている。
『どれだけ企画内容が終わってようと、ボスオークション運営のまくれなさんとらむらすさんは真っ当な一般市民なので……』
「はぁ!?ヤバッ!いやいやいや!運営の中にもマフィアいるぞ!オブ・ジ・エンドの奴いるって!あとお前等の同僚も!」
深°の脳裏にもさ彦の顔が浮かぶが――
「人違いじゃない?」
『そんな人……いました?』
――テトヴィとらむらすは綺麗に惚けた。
「ガチで終わってるって!」
『とにかく!重武装したマフィアが一般市民へ発砲した瞬間、対策課には市民を守るという絶対的職務が発生します!』
「いいぞテトさん!対策課助けてぇー!マフィアのヘリ怖いよぉー!」
「こっちが怖ぇわ!」
らむらすが嘘の涙声で叫ぶのに対し、深°は魂を震わせるように本気で喚き散らした。
「はぁーもう終わってるこの茶番!」
対策課のヘリコプターが空中で急旋回し、マフィア側の機体へ反撃を開始する。もはや市民保護という便利ワードを免罪符に、完全な空中戦へ突入していた。
「クソ。せめて動ければ……落ちれもしねぇ!」
「絶対落ちんなよ?もー俺下見れないよ。怖すぎ」
「へー。らむ高いとこ苦手なんだ。一生覚えとくね?」
「そうして?ずっと忘れないで?」
「キィッ!こいつ……!てか対策課がそっち側立ってんのイカれすぎだろ」
「ちなみに俺ら何も言ってないよ。テディもちゃんと非番だから」
「はーもう最悪最悪。全員汚職だ」
深°は嫌悪を隠しもせずに顔を歪め、明らかに消耗した声を漏らす。
「おいマジで誰でもいいから助けてくれー!」
「深°さーん!」
その声に応えるように、フリーフォールの下方からゴンドラが勢いよく上昇してきた。
「ギバさん!頼むこのクソを殺ってくれ!」
「任してくださいよ!」
『Quirk Hematite』所属のギバを見た途端、深°の顔が一気に明るくなる。
『バシュバシュバシュバシュ!』
「なんだと……ぐあっ!?」
この街でも変わらぬ脅威として、ギバの二丁拳銃が火を吹いた。高速で放たれた弾丸が、身を乗り出していたらむらすの脇腹を抉る。
「っ、ぅぐ!」
だが致命傷へ至る前に、数秒間最上部で停止していたフリーフォールが――
『ガコンッ!』
「殺すっ……え?」
――真下へ向かって垂直落下を始めた。
「あぁぁぁぁぁぁー!」
「おいギバァ!遊ぶなァ!」
絶叫が午前中の青空へ虚しく吸い込まれていく。らむらすは死の恐怖に追われながら、急いで止血剤を注入した。
「あっぶねぇぇ……あと一発貰ってたら普通に死んでたわ……」
「悠長に治療してる場合かぁ?ほらほら高ーい下見ろよ。おー怖っ。流石アナダン。グラフィックえぐ」
「それ俺さっきやった。心の中で」
「いや知らねーよ」
深°がニヤニヤ煽ると、らむらすは青ざめた顔で呟いた。
「三人称視点だからギリ耐えてるわ……」
「一人称に視点変えろ!」
「絶対無理……あれ?」
再び、ギバが乗るゴンドラが最高地点へ到達しようとしていた。らむらすは一旦ギバの射線から外れる位置へ避難する。だが視界の端に映った彼の様子へ、妙な違和感を覚えた。
「何かアイツ……死んでね?」
「は?」
角度的に見えていない深°へ、らむらすは彼を引っ張って下を向かせる。すると――
「すいません……やられました……」
「えーー!?」
――ギバが口から血を流し、ぐったりゴンドラへ凭れ掛かっていた。
「ギバさん!?高い所ダメだったの!?」
「違います……」
「フリーフォールヤバすぎてショック死した!?」
「違……アァーー!」
「はははは!」
「おい急に消えんな!」
またしてもゴンドラが途中で落下してしまう。二人が爆笑している間に、ギバは下で待機していた医療班に回収されていった。
「あとちょっとだったのに……どーしてだよぉ……!」
「俺が撃ったからだけど」
「うおぉっ!?」
「わっビックリした!」
後ろからいきなり声をかけられ、らむらすと深°は声を上げて驚く。
「お前は……」
「ユイガ!」
いつの間にか鉄骨をよじ登ってきていたユイガが、作業着についた汚れをパンパンと払った。
「……え?待って。どういうこと?」
「お前がギバ殺ったの?」
「うん。ギバって人が乗るの見えたから、俺も向こう側座ってた」
「え?」
ミリオレ遊園地のフリーフォールは、タワーの四面にそれぞれ六人が横一列で座る構造である。ずっと地上で見張っていたユイガはギバの左側の面に座り、隙をついて彼を暗殺したのだった。




