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諸君!これがプロである!!~ゲーム実況者の日常~  作者: 椋木美都
中学一年生編

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 第119話『やっちゃってる六人組』

『バババババ……』


ヘリはそのまま夜空へ飛び去っていく。観覧車の最上部。逃げ場のない鉄骨の上へ追い詰められたイッサは思わず息を呑んだ。


「ねぇこの二人ヤーダ!イッサにツッコミさせないで!」


「まるで僕らがボケ担当みたいに言うじゃん」


「あのパンダラハーツのボスの前でおふざけなんて……ようできませんて」


不信感を隠そうともしないイッサを前に、まくれなは医療鞄を開ける。


「じゃ治療しますねー」


「お願いします……」


――やっと治る……でもここじゃ落ちたらまた即死しちゃうけど。


彼女が安心した矢先、まくれなが手に取ったのは消毒液でも包帯でもなく――デンタルミラーとカルテだった。


「えー右下8が〇、7がCO、6から4が/……」


「ほらボケだした! 歯科検診始めた!」


「あっちょっとすいませんね。喋らないでもろて」


「虫歯ナメてると死にますよー」


「もう死んどるわいっ!」


「「あはははははははは!!」」


渾身のツッコミが夜空に響く。テディとまくれなは腹を抱えて爆笑し、ちゃんとイッサを治した。


一方その頃、らむらす、りょくおー、もさ彦、ユイガは――


「頑張れ頑張れー!」


「りょくおー!もうちょい右流せる!?」


「そのままもっと右から被せてほしいんだけど」


「ふおぉぉぉぉ!」


――もう一人のターゲットであるギルティーポップのボスを追いかけ回していた。佐々來(ささらい)深°(しんど)は黄色のスーパーカーを唸らせ、道路を蛇のようにに縫って逃走している。


「…」


ユイガだけは無言で半身を機外へ投げ出し、スナイパーライフルのスコープを覗き込む。だが照準は安定しない。ローターの震動と車の速度もあって、十字線は細かく跳ね続けた。


「ユイガいける!?」


もさ彦が風とエンジン音に負けじと叫ぶ。ユイガはスコープ越しのまま、口元だけで笑った。


「ここで決めるのが……プロだけど?」


『――パァン!』


銃声はローター音に掻き消え、結果だけが残る。スーパーカーのサイドガラスには弾痕が穿たれていた。車はなおも疾走しているが、少しずつ道路から外れていく。


「えぇ当てた!?」


「やったか!?」


「これは……殺れてますね。深°死んだわ」


らむらすは双眼鏡で確認を取った後、落ち着いた声で報告した。


「一発マジ!?」


「ナイスナイスナイス!」


運転手を失ったスーパーカーはガードレールを擦る。火花を散らしながら道路を外れ――


『ゴシャッ!』


――巨大な岩へ真正面から突っ込んだ。ボンネットが潰れ、コンマ数秒遅れて『ドガァァン!』と車体が綺麗に爆発する。炎が空へ膨れ上がり、黒煙が夜明け前の空を汚した。


「――おいマジで何だよぉっ!」


燃えた車の下敷きになった深°の絶叫がこだます。ヘリは炎から少し離れた場所へ着陸し、らむらすともさ彦が笑いながら深°を引きずり出した。


「悪いね。ちょっと歴史に名を刻むための駒になってくれよ」


「お前らっ……!?もう本当に仲良しだな!」


深°はヘリへ押し込まれるなり、機内の面々を見回して噴き出す。


「マジ何で集結してんの!?暇人!?」


「そだよ」


「もっさんの肯定ヤバい」


そのまま流れるようにユイガ紹介タイムが始まる。


「へーテディんとこの新入り……何か随分チビガ……若くね?」


「今チビガキって言おうとした?」


「いーや?声若いなーって」


「お前そのガキにヘッショ抜かれたんだよ」


「ガキ強ぇ……片手で持てそうなサイズの癖に」


「ブチギレよっかな」


ユイガの目が据わると、深°は即座に両手を上げた。


「冗談だって!俺とユイガの仲じゃん!」


「まだ出会って数秒やろがい!」


「今会うたばかりやろ!」


りょくおーともさ彦のツッコミがシンクロした頃、観覧車の頂上では同一内容の会話が進行中だった。


「――あのさ。一人だけイッサが知らない人いたんだけど」


「あーそれ僕のグループの新メンバーです」


「え!?こせゆ隊四人になったの!?」


「まくれなに取られた……違いますよ。ユイガはこれプロのメンバーです」


「いえこせゆ隊です」


「どっち?ってそんなこと今はどうでもいいわ。何が目的?」


「別にそんな難しいことはしなーいよ」


観覧車の頂上とヘリの機内。それぞれ別の場所で、イッサと深°は揃って胡乱げな顔をする。


「お前等の暇潰しに付き合う余裕ねーから!忙しいんだワ」


「俺、マフィア側の絆ってヤツを見てみたくて……」


ニヤッと笑い、テディとユイガは揃って鋭い犬歯を見せた。


「「パンダラハーツとギルティーポップで競(せ)りバトルをけしかけたいだけ」」


「「……は?」」


そして――とうとう歴史に刻む出来事の全貌が明かされようとしていた。


☆彡

協議の結果『後から怒られても一番ギリ許されそう』という理由で、医療班のまくれなが司会進行役へ抜擢された。


「――あーあーマイクテスト、マイクテスト」


ヘリコプター上空から拡声器のノイズが響く。眼下に広がるミリオレの街では、らむらすが裏で細工したスピーカー群が一斉に起動し、町中へその声を拡散していた。


「皆様こんばんは!本日二十時より、ミリオレ遊園地にて特別企画――『ボスオークション』を開催いたします!」


歓声とざわめきが膨れ上がる中、まくれなは慣れた調子で続ける。


「今回競い合いますのはこちらの二名!退屈も秩序もぶち壊す、享楽主義の暴徒集団『ギルティーポップ』ボス!佐々來深°!対するのは無垢な笑顔に凶牙を隠した、甘く獰猛な捕食者ファミリー『パンダラハーツ』ボス!イッサ・ヂーチン!」


軽い通知音と共に、『ボスオークション公式』がSNSに新たな投稿を公開した。内容はイベントの説明とボス二人の顔写真である。


「参加方法は簡単!お手元の端末から応援したいボスと任意の金額を入力し、指定口座へお振込みください!二十時二十分時点で、より多くの金額を集めた側の勝利となります!なお勝者に振り込んだ方には賭け金総額に加え、敗者側へ投じられた金額の一部を分配して還元!そして……」


わざとらしい溜めを作ったまくれなの横で、運営のもさ彦が追加情報を投稿した。


「……敗北したボスには罰ゲーム!『ブイチューバー危機一髪』へ挑戦していただきます!」


「「な、なんだってー!?」」


別々の場所で、らむらすとテディが大袈裟な悲鳴を差し込んだ。


「敗者には樽へ入っていただき、希望者が順番に剣を一本ずつ刺していきます!ただし、その穴の内一つは起爆装置に直結!見事そこを避ければ生還……ですが、引き当てれば即ドカーンです!」


「アナダンにそんなバラエティーに使うような道具あるの!?」


「あるよ。確か遊園地の倉庫に保管されてたような……」


マフィア対策課のオルトスとテトヴィは、あまりにも堂々とした誘拐と賭博のイベント内容に困惑しつつも、とりあえず最後まで話を聞くことにした。


「それでは開幕前に、両陣営の意気込みを伺ってみましょう!」


もさ彦が音声回線を切り替える。朝日に照らされた観覧車の天辺にて。拘束されているイッサへ、テディがにこやかにマイクを向けた。


「……音质好吗(音質は良いですか?)?」パンダラハーツのボス、イッサ・ヂーチンです。何とは言わないけどぉ。イッサはさっさーより活動歴も登録者数も上よ?」


「はい出ましたクソマウント。ありがとうございます」


テディがすかさず茶々を入れ、マイクは次の中継先へ向けられる。


フリーフォール最上部の鉄骨上にて。まくれなによって治療済みの深°は、後ろ手に手錠をかけられた状態で声を張る。


「どーもー。佐々來深°です。皆!特にギルティーポップ!頼むからカジノで溶かす金あったら俺に入札してくれ!俺に危機一髪やらせても茶番にしかならん!せめて絵面的に映えるイッサちゃんにしよう!?俺が勝った暁には入札者全員にベロチューしに行きまーす!」


「うっわ!えー深°さん、激烈にキショい公約ありがとうございました」


アナーキー・ダウンタウン内のSNSでは凄まじい勢いで『♯ボスオークション』が拡散されていく。その投稿内容は『やめろ』『通報』『入札やめます』で埋め尽くされていた。


「という訳で!歴史に残るスリリングな大型企画……スタートです!」


あちこちでどよめきと笑いが巻き起こる中、ミリオレの街は加速度的に狂い始めていた。


「……あのさぁ。アンタら誰を捕まえてエンタメに利用しようとしてるのかちゃんと分かってる?」


観覧車の天辺。鉄輪の上で、イッサは拘束されたまま胡坐をかいていた。すぐ傍らに立つテディの姿が小豆色の瞳に映る。


「今すぐこんな汚職やめなよ……死にたくなければね」


「いやここまで来たら最後までやり遂げないと。観覧車の上に立つ機会なんてそうないですよ」


「もう飽きた」


「結構よくないですか?射線が通る構造物が周りに無くて……奪還するなら上から来るしかないとことか」


二人の頭上では運営や見物客のヘリが旋回している。その中に混じり、一機だけが猛烈な勢いで接近してきた。

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