第118話『歴史に残る大事件』
そもそも、この場にいるメンバーの立場は絶妙にバラバラだった。
飲食店店長兼ファーマーのらむらす。青果店店長兼ジャーナリストのりょくおー。医療班のまくれな。マフィア構成員のもさ彦。マフィア対策課のテディ。そして無職のユイガ――今回の『BRO・AD』では、もさ彦以外善良な一般市民である。
今日限りのドリームチームとはいえ、銀行強盗だの空き巣だのを堂々とやるには現在の肩書が邪魔だった。
「俺とりょくお、この世界では真っ当に生きるって誓ったからな」
「ま、何かあったらオブ・ジ・エンドの所為にして逃げようぜ」
「オイ責任押し付けようとすんな!」
そんなツッコミが飛ぶ一方でユイガとまくれなは、ホワイトボードを引っ張り出して『イベント候補』を書き始める。
『テディを人質にして対策課へ身代金要求ごっこ』
「ごめん面子でバレちゃうよ。あとごっこでも僕ガッツリ共犯扱いされるよね!?」
『ショッピングカートカーで公道レース』
「……は一旦マズいか」
『テディとまくれなの結婚式プロデュース』
「はははは!それ見てぇ!」
『オブ・ジ・エンドの資金で二階建てオープンバス購入からのミリオレ観光』
「オメェいい加減にしろよマジで!」
ボケとツッコミが入り乱れ、コメント欄も『全部見たい』『倫理観ログアウトしてる』など大盛り上がりとなる。そして散々騒いだ末、最終決定権はユイガへ委ねられた。
「じゃあ……」
それから五分後。ユイガを抜いた五人はいつもの立ち絵服に着替え、りょくおーが所有する六人乗りヘリへ次々乗り込んでいく。
「準備いいかお前ら!」
「俺らで『BRO・AD』の歴史刻むぞ!」
「っしゃぁ!!」
「キタキタァ!」
「やるぞー!」
「おー」
視聴者の中でも倫理観が欠けている層は危険思想に傾き、比較的まともな層は嫌な予感を抱えながら――六人を乗せたヘリコプターは『パンダラハーツ』のアジトへ向け夜空を飛び立つのだった。
☆彡
「えー報告。『パンダラハーツ』は現在、標的の宝物船が目的地を通過するまで待機中」
同業者のもさ彦が『今日合同で現金輸送機を襲撃しないか』と探りを入れる形で連絡し、相手側のスケジュールを聞き出していた。襲撃班はその情報を元に準備を開始。六人は専用無線を繋ぎ、それぞれの配置へ散っていく。
「これプロ配置つきました。始めまーす」
テディとユイガは何食わぬ顔で土産を抱え、アジトの扉をノックした。
「はーい。どちらさまで……」
扉を開けた瞬間、パンダラハーツの構成員であり、個人ゲーム実況者サムろうの顔が引き攣る。
「サムやっほー」
「げっテディ!?何の用だよ!」
「今日だけこれプロの新メンバーが遊びに来たから紹介しようと思って」
「えっ、えええ嘘」
「初めまして。ユイガです」
「あっ、こちらこそ……」
彼が言い切るより早く、テディが背後へ回り込む。『カシャン』と金属音が鳴り、サムろうの両手首に手錠がかけられた。
「は!?は!?えっ何!?」
「終わるまでちょっと待っててねー」
「んむー!」
口も塞がれたまま、サムろうは細い街灯に固定される。二人はまるで友達の家に遊びに来たような気軽さで、旧ネットカフェを改装したアジトへ足を踏み入れた。
「おぉー」
「割と広いね」
建物の内部は妙に本格的な中華風だった。赤塗りの壁、金縁の装飾、簡体字の掛け軸――テディはオブ・ジ・エンドとは毛色の違う個性とセンスに感嘆する。
「――でも半チャーハンはシャバい……って、え?」
ユイガが木製の両扉を蹴って開けると、大広間にはボスのイッサ・ヂーチンや副ボスのLogiaは勿論、サムろうを除くパンダラハーツの面々が勢揃いしていた。
「お届け物でーす」
「「……は?」」
間抜けな空気が流れたのも束の間、テディとユイガは抱えていた大きなせいろを部屋の中央へ放り投げた。
「!?」
空中で蓋が跳ね飛び、中身が爆弾であることを理解した瞬間――イッサの顔面は真っ青になった。
「皆逃げ――」
彼女が最後まで言い切るより早く、二人は即座に廊下へ飛び出す。それと同時に、テディの親指が起爆スイッチを押した。
『ドガァァァァァァァン!!』
「わぁっ!?」
「ギャーー!」
「なんでぇーーっ!」
「キャーー!」
大量のプラスチック爆弾入りせいろ×2が炸裂し、爆炎が大広間を呑み込む。
「うわっ!?」
「っぶな……!」
壁が軋み、窓ガラスがまとめて吹き飛ぶ音が外まで響き渡る。逃げていたテディたちの背中を猛烈な風圧が叩きつけ、二人まとめて床へ転がった。
「ふぃー生き延びたぁ」
「思ってたより爆発デカかったんだけど」
呆然としていたサムろうを肩に担ぎ、再び大広間へ戻っていく。
「……エグイエグイエグイエグイ!え、え、え、え、何々!?襲撃!?」
「ふふふふふふふっ!」
「……クッ」
テディとユイガはりょくおーから借りたガスマスクを装着し、その唇に邪悪な笑みを刻んだ。
部屋の手前にある自動麻雀卓は脚ごとひっくり返り、牌が爆風で散弾のように壁へめり込んでいる。いかにも高級そうな本革ソファは裂け、黒煙を上げながら中のクッション材を吐き出していた。
テーブルは真っ二つに割れ、天井からは照明が千切れてぶら下がっている。壁際に並んでいた酒棚は爆風でガラス扉が粉々に砕け、火花を浴びた高級酒がところどころ青白く燃えていた。
「あーあー燃えてる燃えてる」
「大変だー」
他人事みたいな声とは裏腹にパンダラハーツの面々は見るも無惨な状態だった。
自慢の一張羅は黒く焼け焦げて全身煤まみれ。髪は熱で縮れてアフロヘア―になり、床でピクピク痙攣している。
「バケモンやって!」
「テディ!?お前ぇ!」
「マジかテディおーい!」
「テロじゃねーか!」
「テロリストかお前ら!」
「痛いよーっ!」
「死んだぁ……」
「ねぇアナーキーすぎるって!」
だがこれはボイスチャット有りのゲームであるため、身体はボロボロでも声帯だけは元気だった。
ユイガは騒ぐ構成員を無視し、ボスのイッサを無造作に肩へ担ぎ上げる。その横で、テディは一酸化炭素と粉塵でダウンしたサムろうを床に下ろした。
「やーどうでした? 僕のお礼」
ディが笑みを深めると、パンダラハーツは一斉に口を閉ざし、室内に静寂が落ちた。
「僕、今日は対策課じゃなくて……『第二回BRO・ADに歴史を刻む会』の一員として来ました」
「えっゴメン何て?」
「それと、そちらのボスには個人的な因縁もありまして。今回ターゲットに選ばせてもらいました!」
「いやそれはっ……!違うジャン!」
イッサが必死に弁明する。初心者だったテディに違法薬物を押し付け、そのせいで四十万の罰金を背負わせてしまった経緯を説明すると――構成員たちの反応は真っ二つに分かれた。
「それは……イッサ君が悪いね」
「でも初心者騙すのは文化やろ!」
好き勝手に飛び交う意見を、テディは微笑み一つで聞き流す。早く汚いイッサから手を離したいユイガはくるりと背を向けた。
「あ、間もなく医療班来ますんで。このままイッサちゃんお借りしますねー」
「イヤーーッ!」
「ボスー!!」
「おい待て!」
「テディーッ!」
「マジ覚えとけお前ぇ……!」
熱烈な罵声と悲鳴を背中に浴びながら、テディたちは外で待機していたヘリコプターへ乗り込んだ。
「はいいらっしゃーい」
「どーもどーも」
「らむさん!?りょくさん!? れなちゃん!?もっさん!?何でレゾクラ界隈集結してんの!?最近イッサ(レゾクラ)配信してたから!?」
「それは知らんけど」
「てかもっさ……もさ彦ぉー!お前グルか!」
「ふははははははは!」
もさ彦の豪快な高笑いをきっかけに、機内は爆笑に包まれた。
ただ一人、イッサだけは笑えない。全身火傷でまともに動けないまま、彼女は救いを求めるようにまくれなを見る。
「れなちゃん!まずイッサ治して!?てか先に仲間治したげて!?」
「もう他が喜んで向かっとるで。今は医療班も暇しとるから」
だが今日はナース服ではなく、いつものダボダボワッペンシャツで笑っていた。
「俺ら今からこの街の暇人救いに行くから」
「はぁ……!?さっきテディも言ってた『第二回BRO・ADに歴史を刻む会』って何!?新手のテロ集団!?」
怪訝そうに眉をひそめたイッサだったが、数分後には別の意味で悲鳴を上げていた。
「ねぇ怖い!本気で言ってる!?」
ヘリコプターは巨大観覧車最上部のさらにその上。鉄骨の頂点へピタリとホバリングしていた。
地上の灯りは遥か眼下に広がっている。システム上風こそ吹いていないものの、観覧車のゴンドラから眺める景色とは比べ物にならないほどの開放感だった。
「ヘリの中じゃ治療できないから」
「じゃあしなくていい!」
「でも困るでしょ」
「観覧車のテッペンで治療する意味がどこにあるんだよっ!」
りょくおーは器用な操縦でヘリを安定させたまま、まくれなとテディを降ろす。三人が頂上へ着地したのを確認すると、他三人は和やかに手を振った。
「じゃ俺ら行くねー」
「はーい。またねー」
「え……置いてくマジ!?」




