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諸君!これがプロである!!~ゲーム実況者の日常~  作者: 椋木美都
中学一年生編

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 第110話『テディベアのたくらみ』

テディがかくかくしかじかと説明すると、一旦納得したまくれなは負傷者のテトヴィを手際よく治療していく。


「テトヴィさん。ここは僕が何とかするから。治ったら現金輸送車の事件に行ってあげて」


「分かりました……!」


そしてテディは両手を上げ、依然(いぜん)銃を構えているモコと相対した。


「テディ助けて――モコさん。さっきのテトヴィさんみたいに後ろからこう……俺のこめかみに銃突きつけてくれませんか」


「えっ……セクハラ?」


りょくおーが突然、欲望を隠し切れていない小声を漏らすが――全然小声になっていなかった。


「うわキショ。絶対モコさんの胸見てたやん」


「モコさん!嫌なら遠慮なく撃っていいですからねー!」


「はぁ?ちげぇし!人質としての役目を全うしようと思っただけだし!」


前から飛んでくるブーイングに、りょくおーはムキになって反論する。


「……ふふっ、あははは!」


「よかったな笑ってもらえて」


「うぜー!何でよりにもよってまくれなが来んねん!」


モコが控えめに笑っていると、無線からボスの声が入った。


『あとちょっとで終わる!もうちょっとだけ待って!』


――よしよし!あと少し時間を稼げれば……!


「そっちどう……って、は?」


モコが表情を引き締めたその時、現場へ駆け込んできたゲーム実況グループ『こせゆ隊』のもさ彦が思わず足を止めた。


「「あ」」


「え、何これ。何でこんな綺麗に身内勢揃いしてんの?」


彼の視線の先では、何故か一般市民のりょくおーが人質ポジションに収まっていた。


「もさ彦はマフィアだったんだ」


「あれ?おかしいな……テディのそっくりさんがおる」


「もっさん交代!」


「「え」」


モコがそう声を上げると、男性陣の声が綺麗に重なる。そしてあっと言う間にもさ彦の腕はりょくおーの首へ回り、こめかみには冷たい銃口が押し当てられていた。


「おーいー!お前だけは嫌!」


「俺も無理!何でテトヴィさんが人質じゃないねん!」


「ちょ後ろから喋んな!お前口クサ!脂くせぇ!」


「ハァ!?オメーこそちゃんと髪洗ってんのか!?うーわ頭皮くっさ!下水くせーぞ!」


「…」


「…」


「そんな傷つくなら言わなきゃよかったのに……」


りょくおーともさ彦は揃って心に深刻なダメージを負い、その場で膝を抱えて塞ぎ込む。テディは呆れ顔のまま近寄ってりょくおーの拘束を解くと、続けてもさ彦を取り押さえた。


「何この地獄絵図」


まくれなも二人へ何とも言えない憐れみの視線を送り、周囲に耳を傾ける。


遠くでサイレンが鳴っているが、広大なコンテナヤードには人影ひとつない。彼の耳に届くのは潮風の音だけだった。


「ねぇテディ。こっから急患増えそう?」


「うーん……向こう次第かなぁ」


テディは拘束したもさ彦を連行し、そのままモコがしれっと逃げていった方向へ歩き出す。りょくおーとまくれなも自然と後に続いた。


「僕がマフィア側だったら人質交換とかそれっぽい流れ作って、死角から対策課を撃つけど……それが無いってことは、今回かなり少人数で挑んでたんじゃない?」


「クッソ……対策課がお前って分かってたら俺も迷わずそうしてたのに……!」


「つまり認めるということなんですか!?」


「あれぇ?何か顔真っ赤っすよコイツ!」


「帰れまくれなお前!もうここで怪我人出ねぇから!」


もさ彦の悪態は、図星だったことを何より雄弁に物語っていた。


本来なら五人は欲しい麻薬の不正取引――それを今回は、神流・モコ・もさ彦の三人だけで回していた。


「――テディ、一回こっちの話聞いてもらってもいい?」


「いいよ」


抵抗の意思を見せるモコを制し、コンテナの中からひょこっと顔を出したのは新興マフィア『オブ・ジ・エンド』のボス――ユニオンストリーム所属の女性ブイチューバー、寺岸神流だった。


床には鞄に詰められた大量の粉末。彼女はそれらを死守するより先に、捕縛されたもさ彦と銃を向けるテディ見て完全に抵抗を諦める。


「ちょっとウチ今ワンボックスカーとか犯罪道具いっぱい買ったばっかでさぁ。お金ないの」


「カツカツなんだ?」


「そう!粉は置いてくから……もっさん銃持った?」


「持った……けどそれモコさんから借りたやつ」


「エ」


「その辺の臭いおっさん人質に取って公務妨害したのも全部モコさんの命令でやった」


「エーーッ!?」


「じゃあ今、一番アウトなのモコだけかぁ」


「ボス!?」


神流ともさ彦は、麻薬は全部渡すからモコへの罰金だけで済ませてくれと必死に空気で訴えていた。


「テディ。まず一旦もさ彦の持ち物検査からでしょ」


「あと俺への暴言罪で逮捕して」


「オォィ!」


りょくおーとまくれなが揃ってもさ彦へ非難の視線を向ける。だが二人の目は正義感というより、単純に身内が不幸になる様子を楽しんでいる人間のそれだった。


「じゃあ麻薬はそのまま押収するね。モコさんの罰金は寺岸さん持ちで」


「何で!?」


「ボスだから」


「ッ……!」


神流は悔しそうに顔を歪める。だが三人分の逮捕が無しで済むなら破格だ。結局、彼女は大人しく請求を受け、モコは露骨に顔を輝かせた。


「テディ……!良い人!いや良いぬいぐるみ!」


「今回だけだよー?」


そんな和やかな空気の中、テディはふと思い出したように口を開く。


「あとマフィアの皆に一個お願いがあって」


「え?ウチ来るの?」

「マジ!?」

「歓迎歓迎ー!」


「えっちょ」


「テディ闇堕ち!?」

「逆にアリやろ!」

「いやもうしたっていい!」


「待って喋らせて!」


一瞬で五方向から詰め寄られ、テディの笑顔が強張る。


流石ににコンテナヤードで騒ぎ続けるのはまずいと判断し、一行は海沿いの埠頭へ移動することになったなお、まくれなだけは追加の医療要請で離脱している。


「僕この街来てまだ二時間くらいなんだよね。だから街案内してほしくて。あと連絡先交換したい」


「いいよー」


「するするー!」


テディがどんどん友達を増やしていく中、もさ彦がりょくおーに胡乱げな目を向けた。


「このクソジャーナリストは案内役にならんってこと?」


「あー案内っていうのは……僕マフィアのアジト知りたくて」


テディが悪びれもせず笑うが、マフィア三人の表情は凍る。最速で地面へ額を擦り付けたのはモコだった。


「こ、この通り……!カチコミだけは……!」


「しないしない。ただどのマフィアがどこを拠点にしてるのか知りたいだけ」


「それを俺が横で写真撮って記事にして金を稼ぐ」


「やめろぉー!」


「ふざけんな!」


「海沈めたろかワレ!」


「ちょ、待っ……うわっ、落ちる落ちる落ちる!ヴェーーッ!」


マフィアの前で舐めた口を利いたりょくおーはオブ・ジ・エンドから猛攻撃を受け、危うく海のもずくになるところだった。そんな騒動の末。


「じゃ、一番近いとこから案内するか。っつったら俺らのアジトやな」


「邪魔すんでー」


「邪魔するなら死んでー」


「はいよ……って危なぁ!?クソっ入り口から巧妙なトラップ仕掛けやがったな!?」


「あはははは!りょくおーじゃなきゃ引っかかってたね」


「ガッツリアウトだろ今の」


奥から現れたのは、プロゲーミングチーム『ストロニアンサイト』所属にしてオブ・ジ・エンド構成員のIMIだった。


見知らぬ部外者をぞろぞろ連れてきた身内へ、彼は片眉を吊り上げる――当然の反応である。


「アタシ、パンダラハーツのアジトの番地分かるよ。師匠のとこだから」


「ギルティーポップもこの前合同で犯罪やった時アジト行ったわ」


「だから後は『トゥルピネ』だけなんだけど……」


ここで部屋にいるマフィアたちがIMIを見る。


IMIは元々トゥルピネのボスであるプロゲーミングチーム『Quirk Hematite』所属のジェノから直々にスカウトを受けていた男だった。


だが契約寸前『最推しの寺岸神流がマフィアを作った』という情報を聞きつけ、あっさりオブ・ジ・エンドへ加入した――という逸話で有名である。


「みすみす情報渡すの癪なんだけどなぁ」


「IMIっ。教えてあげて?」


「教えましょう!」


「……っ」


「キツ」


IMIは神流の甘ったるい声を聞いた瞬間、彼の態度は百八十度反転した。テディは吹き出しそうになるのを必死に堪え、肩を小刻みに震わせる。


結果として彼は、驚くほどスムーズに各マフィアのアジト情報を入手することに成功した。


「テディちょっといい?」


「ん?」


そんな中、連絡先交換を終えたIMIが急に距離を詰めて声を潜める。


「アイツは来ないの?」


「アイツ?」


「タンドリーだよ!」


「あー」


テディも何となく釣られて小声になった。


「今回は来ないですね」


「絶対?」


「絶対……え、タンドリー何かしました?」


「いーや別に?」


――よし……神流さんとタンドリーの接触なし。


IMIは平静を装いつつ、内心で静かに安堵する。彼は一部界隈で盛り上がっている『タンドリー×神流てぇてぇ』という謎の関係性解釈に断固反対する派閥の人間だった。


そしてその頃。


「ハイりょくおーさんザコー」


「ぐっぞぉぉぉぉぉ!」


「音圧ヤバ」


少し前、神流の甘い萌え声に対してこっそり『キツ』と漏らしていたりょくおーは、半死半生で地面に転がっていた。

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