第108話『諸君!これが制圧である!!』
アナーキー・ダウンタウンにおいて、銃に込められた弾は鉛玉ではなくゴム弾です。当たり所が悪いとめっちゃ痛くて気絶します。血はちょっとしか出てません。
ホット「じゃあ前作みたいに『口から鮮血が溢れ出る』とか『胴体から赤黒い液体が流れた』なんて描写がいきなり出ることないんだ!」
タンドリー「ここでグロ発言するな」
「ナイスナイスナイス!」
「テディ!お前味方だったの!?」
「そのとーり」
「っぱこれプロだわ……!」
「え、新人さん?」
「初めましてー。テディ・ベアと申します!お気軽にテディとお呼びくださいませ!」
礼儀正しく頭を下げるテディ。こうして彼は無事二人を医療班の元に引き渡し、試験条件そのものは達成した――のだが。
「……ん?何で俺のサブ銃取ってんの?」
「貸ーしーてー」
テディは笑顔のまま、治療中のオルトスのホルスターからハンドガンを引き抜いた。ついでに手錠、包帯、止血剤まで回収していく。
「いやガッツリ持ってくじゃん!?俺まだ復帰する予定なんだけど!?」
「待って君まだ新人でしょ!?一旦長官の許可を……」
「行ってきまーす!」
「あっ、ちょっ――!」
バルチャーの制止を聞こえないフリで突破し、テディは再び裏口へ駆け戻る。配信コメント欄は既に大盛り上がりだった。
「『絶対やると思った』?いやぁ、でも視聴者諸君なら分かってくれるよね?」
安全装置を外しながら銀行外壁沿いを走る。すると屋上の敵が真下を取ろうと身を乗り出し、テディは笑顔のまま銃口を向けた。
『パァン!』
敵のゴム弾はアスファルトを砕き――テディの一発は正確に相手の額を撃ち抜く。屋上の男はそのまま後ろへ倒れた。
「上の敵処理しました。残り四人です」
『『ナイス!』』
無線から歓声が飛ぶ。コメント欄も『ワンショットキル!?』『うめぇぇぇぇ!』『これプロー!』と一気に加速した。その熱気に背中を押されるように、テディは裏口へ突入する。
『パパパパパパッ!』
中に入った瞬間、散弾銃の乱射が廊下を薙ぎ払う。壁材が砕け、火花と粉塵が跳ねた。
テディは反射的に床へ身を投げ、左へ転がる。そのまま片膝をついた姿勢で銃口を向け――
『パァンパァンパァン!』
「っ……!」
――ゴム弾は敵の胸元に命中し、男はその場に崩れ落ちた。
「痛たたたた」
だが無傷では済まない。耐久値が高い制服が衝撃を殺していたとはいえ、散弾のいくつかは肩と脇腹を掠めていた。テディはすぐ止血剤を打ち込み、建物の奥へ進む。すると足元から聞き覚えのある声が飛んだ。
「テディっ……!?裏警戒裏警戒!とんでもねぇ奴が突入してる!」
「あ、ノックスだったんだ。先日はどーも」
軽い調子で返しながら、テディはゲーム実況グループ『ロクラメン』所属のノックスに手錠をかけて肩に担ぐ。
「お前帰れぇ!何してんだよこんなとこで!」
「分かった分かった。一緒に帰ろう」
「イヤーッ!エッホエッホされるーー!」
ノックスを担ぎ上げ、そのまま裏口へ向かうと『ダダダダダダッ!』と外側から銃弾が叩き込まれ、ドアが激しく震えた。
「……逃走役と伏兵かな」
「ボス!こいつテディです!回収無理っす!逃げてください!」
テディは眉間にシワを寄せたままドア横の壁に身を寄せる。ノックスは味方を視認し、苦悶の表情で叫んだ。
「……あごめん。多分殺れたかも」
「え?」
彼が報告している間、テディは一瞬だけドアを開けて銃口を差し込み――外で銃を構えていたボスを一発で仕留めた。
「エグいてマジで!」
テディは外へ出ると、倒れた男――逃走車両で指示を飛ばしていたボスに手錠をかけ、軽い足取りで護送を開始する。すると『ギルティーポップ』のボスであり『ディパレット』所属の男性ブイチューバー、佐々來深°は挑むような笑みを浮かべた。
「おいおい。中にはまだ三人残ってんだぜ?金の回収も続けてる。手錠かけた俺ら連れてる場合じゃなくねぇか?」
「いやー僕まだ厳密に正式採用されてないから。これ以上目立つの良くないかもなんだよね」
「待って若葉マークまじか!えっ何してんの?」
「お前絶対上司の命令無視して突っ込んだだろ。あー知ーらね。お前死んだわ」
「ちょ、口プロレスやめて?」
テディは自身の出来ることを着実にこなし、正面側で戦っていた部隊も敵を押さえ込むことに成功する。
ポモドーロ銀行強盗事件は対策課の完全制圧で終結し、初動から大きく貢献したテディは視聴者と同僚からヒーローのように称えられたのだった。
そして現在――護送車の中。
「ねぇ、ギルティーポップは何でこんなことしたの?」
後部座席に押し込められたノックス、におん、深°へ向け、テディが何気なく問いかけた。
「ちょっと銀行強盗ってカッケーなって……」
「インパクトあるし一回は憧れるじゃん」
「つーかテディが邪魔しなきゃ、上にいたギバさんが全員片付けて俺ら勝ってたんだよ」
「やっぱ強盗ってハイリスクハイリターンなんだなぁ……」
テディがしみじみ頷くと、深°もフッと笑う。
「五千万の為に命を賭ける……若気の至りってヤツ?」
「深°はもう若くないでしょ」
「ッだぁテディコラァ!咽び泣くぞ!」
「ボスに何てこと言うんだ!」
「そうだそうだ!新人の癖に態度デケェなぁ!」
「――いや。それでいい」
低い声で割って入ったのは、運転席にいるネリスだった。
「アイツらはゴミカスの犯罪者だ。遠慮する必要などない」
「何気に長官も禁止カードだろ……この街でもイカれっぷりが霞んでねぇ」
「あ゙?」
「ヒッすいません!」
深°は即座に背筋を伸ばした。ネリス・ヴォーン――周囲の彼女への印象は、大体二種類に集約される。
『恐ろしい仁王のような存在』か『気高くて近寄りがたいお姉様』か。なお深°や、彼女ではなく副局長に報告して退職したワカオミと曙ひかりは当然前者だった。
「これで全員か」
ネリスが資料端末を確認する。
今回の逮捕者は七名。その中でもテディは佐々來深°、ノックス、におんの他にプロゲーミングチーム『Quirk Hematite』所属のギバと『ユニオンストリーム』所属の女性ブイチューバー、歌観月天を見つけて表情を緩めた。
「わぁ知り合いがいっぱい」
「……テディ。お前の能力は腹立たしいが評価に値する。マフィア対策課への正式採用をここで決定しよう」
「ありがとうございます……いやそれはそれとして」
テディは鉄格子を掴んだ。
「何で僕まで犯罪者と一緒に護送されてるんですか!?」
「当然だ」
ネリスは面倒臭そうに親指を後方へ向ける。そこではオルトスが険しい声で違反内容を入力していた。
「窃盗に銃刀法違反……えー罰金二十万っす」
「ちょっ待ってください。僕なりにちゃんと考えたんですよ!この組織どうせ、じゃなくて結果主義っぽかったので!」
「おい今本音出たぞ!悪い意味の言葉言おうとしてたぞ!」
「騙されないでください!コイツ正義ぶった殺戮マシーンです!」
「そんなことなーいよ。正義感しかない」
「一個二個持ってりゃいいって話じゃねぇんだよ!」
騒がしい牢屋部屋に、ネリスはこめかみを押さえる。
「あぁうるさい……銃の使用を禁止だと明言しなかった私にも非はあるが」
「あと僕『貸してー』って言ったらオルトス先輩『イイヨ!』って言ってました」
「言ってない!?」
オルトスが勢いよく振り返るが――
「何だ、合意の上か」
「上司にチクんなよ」
「紛らわしい」
「いいよって言ってたのかよ」
――全員テディの裏声モノマネに騙されていた。
「言ってないのにっ……!」
――こいつら全員クソだな!?
オルトスはしょげた様子のまま、テディを牢屋から出して事後処理の手順を教える。その後も現場は終始わちゃわちゃした空気のまま進み、ようやく一区切りついた頃――テディは改めてマフィア対策課の面々の前へ立たされた。
「こちらが新入りのテディ。愛想の良さと対人戦だけは一丁前の大馬鹿野郎だ。皆で愛してやってくれ」
「なんて紹介を……まぁ、そんな感じでよろしくどうぞ!気軽にテディって呼び捨てしてください!」
「よろしくー!」
「テディ愛してるー!」
「気張りすぎんなよー!」
「困ったら誰かしら助けるから!」
「ボクのデカい背中見て育ってー」
――何人か聞き覚えのある声が紛れてる……僕も知り合い増えたなぁ……。
そんな新人歓迎ムードの中、次に始まったのは備品支給だった。
「オルトス。コイツに備品の支給と使用説明をしておけ」
「はい……あ、ちなみに今エリート犯罪者WAKAって人から電話で『これから金融会社襲うから俺を捕まえてみな!』って来たんですけど……」
「…」
「っ」
苦労人ポジのオルトスはスマホを耳から離してげんなりした顔をする。テディはネリスの顔が般若のように険しくなったのを見てクッと笑った。
「……その件は私が行く」
「え?」
「ゴミムシ駆除は私の担当だ。いいな」
「りょ、了解!」
ネリスは黒いヒールブーツを響かせて去り、残されたオルトスは胸を撫で下ろした。
「おっかねぇ……テディよく長官相手に普段のノリでいけるな」
「あはは。で備品どこ?」
その後テディは、手錠、警棒、正式支給の拳銃、無線機などの説明を一通り受けることになった。




