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諸君!これがプロである!!~ゲーム実況者の日常~  作者: 椋木美都
中学一年生編

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 第107話『テディはマフィア対策課に就職したい』

テディは自分が初心者であることを伝え、さがんからこの街の一般的な物価について教えてもらう。


「そう考えると治療費高っ……これは命大事にしないとなー」


「でも対策課の時給って五十万っしょ?」


「でも僕まだ研修中というか……正式加入前だから」


「このまま対策課やんの」


「まぁ今のところは」


「いいじゃーん。そういや症状の中に打撲あったけど、何したの?」


「ネリス長官にヤキ入れられて」


「やっぱり?」


さがんは医療鞄のチャックを閉じてケラケラ笑う。


「あの人マジで女ゴリラ――」


『ドガァン!!!』


「ぐあーーーーっ!」


「さがーーん!?」


突如吹き飛んだドアがさがんの背中へ直撃する。そのまま彼は壁へ叩きつけられ、床に沈んだ。


「――いいか、テディ」


破壊されたドアの向こうから、()()えとした空気を身に纏ったネリスが入ってきた。


「調子に乗ると、この愚かなゴリラのようになる」


「肝に銘じておきまーす」


ネリスが顎をしゃくるだけで察したテディは、彼女の蹴りでドアごと潰されたさがんを引っ張り出す。


「うぅ……テディ。医療班から一個アドバイス」


「うん?」


「この世界の服かなり硬いよ。よくあるじゃん。普通の服に見えるけど、特殊繊維がどうこうで超頑丈みたいな」


「あーバトル漫画とかであるやつ」


「特にマフィア対策課の制服はティア高いよ。車に轢かれてもバイクに撥ね飛ばされても、しばらく走れるくらい耐久値ある」


「へー、いいね」


「俺もここ来るまで三回轢かれたけど」


「え?」


「遊ぶな」


テディは何があったのかと目を丸くし、ネリスもどこか呆れたような表情を浮かべた。


「そっちの新人に跳ねられた後、切り返しミスって更に轢かれた。マジ鍛え直しといてください」


「テトヴィだな。全く」


「テトヴィ・ライクロフトさんも対策課なんだ」


テディの脳裏に、ベージュ髪のミディアムパーマと灰色の瞳をした少女の姿が浮かぶ。彼女もユニオンストリーム所属の女性ブイチューバーだった。


「医療班の服は装甲高くないの?」


「市民の服と同じ。当たり所が良かったら二回くらい撥ねられても耐えれる……」


「ん?」


――待って。二回まで耐えるってことは……。


テディの顔つきが変わる。それとほぼ同時に――


『ドサッ』


「あ」


――さがんが力を失ったように倒れ込んだ。


「……マジで気をつけろよ、お前……」


「さがーーん!」


「ま、待て!長官はそこまで強く蹴っていないぞ!というか何故テトヴィに撥ねられた直後に自分で治療しない!」


「テトの前で格好つけちまったぜ……」


「本当にお前という奴は……」


ネリスは額を押さえながら低く唸る横で、テディはその時のシーンを脳内で想像する。


――こんな感じかな。


さがんはしきりに謝るテトヴィを片手で制する。そして痛みに顔を引き攣らせたまま、無駄に爽やかなキメ顔を作った。


『へーきへーき。こんなん唾つけときゃ治る』


実際には重傷の身で平然と現着した彼は、そのままテディを治療したのだった。


「医療班の鏡だよさがん……!じゃあワンチャン僕のパンチで倒れてた可能性あったんだ」


「その時はお前に治療費請求してた」


「危な……」


テディは素直に青ざめる。結局ネリスは追加の医療班を要請し、テディとさがんの治療費をまとめて自腹で払う羽目になった。


「む……」


「ん?急に怪我人の通知が増えた……何か事件起きてます?」


新たに到着した医療班――ゲーム実況グループ『こせゆ隊』のまくれなが、瀕死のさがんを治療しながら医療班の無線に触れる。


「あー銀行強盗か。しかもかなり派手にやってんな。まくちゃん治療終わったらそのまま現場向かおう」


「了解でーす」


淡々と次の仕事を決める二人の横で、ネリスは腕を組み険しい顔になる。数秒考え込んだ後、彼女はふっと真顔に戻した。


「よし、テディ。我々もこれから応援へ向かう。ついでに採用試験も同時に行うぞ」


「はーい」


「あ、テディまだ対策課じゃなかったんや」


「ごめんまくれな。ちょっと慣れるまで僕に話しかけないで」


「なんでやねん!」


彼は男性にもかかわらず、ミニスカナース服を(ひるがえ)しながら医療班としての職務をこなしていた。他の二人が特に触れないため、テディも笑いを堪えつつ口を閉ざす。


「いや初現場で銀行強盗ぶち込むん!?」


――普通に考えて無茶だろ……新人が行ったら即死して終わりじゃねぇか。


回復したさがんがそう口を挟もうとすると――


「テディなら余裕やろ!試験頑張りや!」


「うん!もし怪我したらまた治療お願いしまーす!」


――のほほんと笑うまくれなとテディを見て呆気に取られる。あまりにも緊張感のない空気に、さがんは毒気を抜かれたように息を吐いた。


「……はは。まぁえっか」


☆彡

『アナーキー・ダウンタウン』に存在する代表的な犯罪の一つ――『ポモドーロ銀行強盗』。


現場となる銀行は、正方形に近い平屋建ての中型施設だ。出入口は正面玄関と裏口の二箇所のみ。周囲に高層建築は無く、身を隠せる遮蔽物も少ない。屋上へは外壁を伝って登ることが可能で、そのスペースはヘリコプターの着陸にも十分な広さがあった。


「つまり……屋上を取った方が圧倒的優位な構造ですか?」


「そうだ。現在屋上はマフィアが占領している」


現在この銀行には、新興マフィア『ギルティーポップ』が立てこもっている。


構成員達は正面入口、裏口、そして屋上を完全制圧。先行して突入したマフィア対策課は、各入口で迎撃を受けて壊滅状態に陥ったらしい。


「ちょっ!?二百キロ出てませんこれ!?」


助手席でテディが悲鳴を上げる。ネリスは赤色灯を回しながら、片手でハンドルを切った。


「ミリオレではサイレンを鳴らせば治外法権だ!飛ばすぞ!」


猛スピードで車列の隙間を縫うように走り抜けるパトカー。信号を無視して交差点へ突っ込むたび、テディの身体がシートに押し付けられる。


「うわぁー!」


タイヤが甲高く鳴き、車体がドリフト気味にカーブを曲がった。だが不思議なことに、事故の気配は一切無い。


「あ、でも運転めちゃくちゃ上手いな……」


「当然だ。対策課は運転技術も命だからな」


ネリスは平然と言い切り、再びアクセルを踏み込む。メーターは二百キロ近辺で震えていた。


一分後。ミリオレ市街から少し離れた区画に建つ『ポモドーロ銀行』が見えてくる。


既に周囲には無数のパトカーと装甲車が展開され、銃声が断続的に響いていた。


屋上ではギルティーポップの構成員がライフルを構え、地上を睥睨(へいげい)している。正面側の遮蔽物には負傷した対策課員が伏せ、裏口方面からは発砲音が絶え間なく聞こえていた。


「うわぁ思ったより戦争だぁ」


「犯人は全部で七人。内六人は銀行内外で金を回収しつつ迎撃。だが一人は既に戦闘でダウンしている」


「ふむふむ」


テディは軽く相槌を打ちながら頭の中で整理する。


――今暴れてるのは実質五人。加えて伏兵が一人いる可能性あり……って感じか。


「残る一人は逃走用車両で待機しながら、外部から指揮を執っていると思われる。現在、正面入口前に三名、裏口側に二名の対策課員が倒れている――」


ネリスはシートベルトを外し、腰のホルダーから手錠を一つ取り出した。


「試験内容は単純だ。現場へ行き、ダウンする前に味方の救助あるいは倒れている犯人一名の護送を行え。達成条件はどちらか一つでいい」


そして鋭い目でテディを見る。


「死んだら即不採用だ」


「了解しました」


『厳しくない?』

『ギルティーポップ強いよ』

『これいける?』


コメント欄には不安の声が流れ始める。だが当の本人は全く気にした様子も無い。テディは手錠を受け取ると、そのままドアを開けて車外へ出た。


「倒れなければ何回チャレンジしてもいいんですよね?」


「犯人が逃走した時点で時間切れだ」


「はいっ!」


軽い調子で返事をし、裏口方向へ駆けていく。その背中を見送りながら、ネリスはサブマシンガンを構えた。


「……ジェノサイドの異名持ちだ。てっきり丸腰は無理だと武装要求してくるかと思ったが……杞憂だったか」


次の瞬間にはもう意識を切り替え、正面制圧部隊へ加勢するため走り出していた。


一方その頃。裏口側へ回ったテディは、遮蔽物越しに倒れている二人を見つける。


――うわぁ。ハゲタカと双頭の犬が仲良く転がってらぁ。


個人配信者のバルチャー(ハゲタカ)と、プロゲーミングチーム『ストロニアンサイト』所属のオルトス(双頭の犬)は、揃って完全に行動不能となっていた。


「問題は屋上か……」


テディがタイミングを窺っていると――


『ギルティーポップ!このネリス・ヴォーンが全て終わらせる!』


――正面側から長官の張り詰めた声が響き渡った。


その瞬間。屋上、正面入口、双方の敵意識が一斉にネリスへ向く。


「長官ナイス!」


テディは小声で叫ぶと同時に飛び出した。一気に距離を詰め、倒れていた二人を両腕でまとめて抱え上げる。


「うおっ!?」

「えっ!?」


そのまま全力で走り抜け、敵の射線圏から一気に離脱した。

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