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諸君!これがプロである!!~ゲーム実況者の日常~  作者: 椋木美都
中学一年生編

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 第97話『先生、今日は何をしやがってくれましたか?』

――え、何で!?近くで見てたけど、油以外はほぼレシピ通りだったのに……。


動揺するテディの視界に、赤いスープの中で不自然な形がちらりと見えた。細長く節のある、妙に生々しいそれ。


「ユイガこの」


「あーん」


「!?!?」


言い終える前に、スプーンが口へ押し込まれる。


――油の重さとは別の違和感。香ばしいはずのコクに野性味というか……妙に尖った苦みと鉄っぽい風味が混ざってる。触感もおかしいよ!


「明らかに野菜じゃない何かが紛れて……ゴペッ!」


「「テディーー!?」」


激しくむせたテディは、そのまま力なく倒れ込んだ。


「ただレシピ通り作るだけじゃインパクト足りないと思って……」


ぽつりと呟いたユイガの指が調味料棚に触れる。


「……隠し味にカラスの足とタランチュラの頭を入れただけ」


『『ギャーー!?』』


「メトロの方が馴染み深いかな。土竜だし……」


『危険レベルが恐怖領域に到達!危険レベルが恐怖領域に到達!』


ゲテモノカポナータがメトロの口元に迫ろうとしたその時――


「ちょっと待ったー!俺が食う前に審査員全滅させるなって!」


「チッ」


――間一髪で、厨房に飛び込んできたホットが制止する。


「気絶すんなら俺のニューイングランド風クラムチャウダーを味わってからにして!」


ホットは自信のある足取りでテーブルに課題料理を置く。シェンとメトロは、先ほどの惨劇の余韻を引きずったまま恐る恐る覗き込んだ。


『……見た目は、普通のクラムチャウダーじゃな』


『具材構成を解析した結果、野菜およびアサリの組み合わせは許容範囲内と判定されました。ただし――』


「量が絶望的に少ねぇ……」


タンドリーがぼそりと引き継ぐ。皿ですらない、スプーン一杯にちょこんと乗せられたクラムチャウダーに一同は呆れを隠せなかった。


「盛り付けのときにほぼ零しちゃって……ワンスプーン料理になっちゃった」


『前菜気取りか……オラッ喰らえ!』


『ムグッ!?』


シェンが隙を突いてスプーンをメトロの口へねじ込む。抵抗する間もなく彼はそれを飲み――一秒後。


『ピピピ……加熱プロセスの均一性に欠陥があり、各野菜の火入れ状態が非同期的に分散しています。さらに香り付けアルゴリズムにも整合性が見られず、タイムやローリエの代替として、主張値の高いハーブが過剰に混入しています。加えて出汁ベースにおいてはクラムジュースおよびチキンブイヨン比率が過剰。全体の塩味強度が上振れしています。総合評価☆2。完成度は低水準……ガガ、ピーー』


メトロは白目を剥き、そのまま糸が切れたように倒れ込んだ。


『メトロー!お前のことは忘れん!』


『異常を検知。異常を検知。味覚センサーに深刻なストレス反応を確認。許容限界を超過。排除プロセスを実行します』


「ぁい。じゃあ……審査結果の発表です」


メトロがチャットでぶつぶつ言っている中、高い捕食能力と回復力を持つテディが進行を再開する。


奇抜さ全振りで隠し味がまったく隠れていないカポナータを作ったユイガか。


味の方向性が迷子になったクラムチャウダーを極少量で出したホットか。


勝敗は唯一無事なシェンに託された。彼は無言で二人にガスボンベを手渡す。


『負けた方は爆発してそのまま料理になってもらう』


「丸焼きの刑!?」


「罰ゲームの域超えてる!」


「このビストロ・シュミレーター料理対決を制したのは……!」


『ドゥルルルルル……』


「ドラムロール……セルフSEかよ」


運命の一瞬――


『ポチッ……ボガーーン!!』


「「ぐわーーっ!」」


――爆発したのはホットとユイガ。二人同時だった。


「は!?死んだんだけど!」


「何で俺まで……!」


『ゲテモノとドジは爆ぜとけ!比べるまでもねーわ!』


「えー今回の優勝者は『テンダーロインステーキ。ローストパンプキン添え』を作ったタンドリーでしたー!おめでとうございまーす!」


「ありがとうございます」


タンドリーは空き時間に作っていた完成度の高い一皿の前で丁寧に一礼する。


「えー審査員からのコメントを――」


「待て待て待てぇい!!」


その直後、即復活したホットとユイガが同時に詰め寄った。


「何でタンドリーも参加してんだよ!」


「しかも普通にメイン料理仕上げてるんだけど!」


「カボチャで季節感出してるのも腹立つ!」


「自分の得意分野に持ってこうとするなんてプロの風上にも置けないんだけど!」


「お前が言うな」


「あはは。ホットとユイガ息ピッタリ」


文句を言いながら前に出た二人は、いつの間にか同じ側に立っていることに気づき、気まずそうに一歩引く。


「オチが茶番すぎ……」


「結局何だったんだ……」


その様子を見て、ナイアとメトロの介抱を終えたテディが軽く手を叩いた。


「――で、頭は冷えたかな?」


「冷えるどころか、爆炎でむしろ暑ぃ……」


「……っ!」


ユイガははっとしたように視線を落とし、言葉を飲み込む。それはどこか歯切れの悪い、引っかかりを残した表情だった。


――俺は間違ってない。ホットにぶつけたのは身勝手な意見じゃない。ネトゲ歴が浅い割に上達が早いことも分かってる。並よりは上だって……でも。


料理の最中に一度冷静さを取り戻したことで、先ほどホットに投げつけた言葉がやや過剰だったと自覚していた。


――紛れもない本心だけど……わざとキツい言い方したし。その部分だけ謝るならまだ……。


そう決めて顔を上げかけたその時。


「じゃあ撮影しよっか」


「ぇっ」


あまりにも自然な一言に思考が止まる。そこでようやくユイガは気づいた。


この料理対決そのものが、最初から撮影のために仕組まれた前座だったのだと。


☆彡

「今回は!『メテオカートζ(ゼータ)』の完全新規12コースの解説、おすすめカートの紹介をやっていきたいとー」


「「思います!」」


『メテオカートζ(ゼータ)』――略してメテカζとは、ダイナミックな環境変化が特徴のレーシングゲームである。一つのレースの中で多彩なアクションが求められる、立体的なコース設計が特徴。進行するごとに景観やギミックが大きく変化し、まるで長距離を旅するかのようなレース体験が楽しめる。


レース中は多彩なアイテムが登場し、順位を大きく左右する逆転要素も健在。テクニックだけでなく状況判断や運も勝敗を分ける重要な要素となっている。


最大十五人での対戦に対応しており、白熱したオンライン・オフラインバトルが楽しめる。スピードと戦略、そして予測不能な展開が交錯する、新感覚のアクションレースゲームだ。


今回の撮影ではテディが指定したコースを指定のカートで走り、NPCたちと混走しながら可能な限り上位を狙っていく形式が採られている。


最初の舞台に選ばれたのは、大都市をモチーフにしたコース――『パノラマアーバン』。


高層ビル群を思わせる巨大な背景パネルの下、スタートグリッドには十五台のマシンが整然と並んでいた。多種多様なカートとバイクが並び、ライトを反射して鈍い輝きを放っている。


「実はですね、このチャンネルでレースゲームを解説するのはこれが初なんですよ。タンドリーどうしてか分かる?」


「人を撃ち殺せないから」


「ハズレ。次ユイガ」


「人を殴り殺せないから」


「殺害方法がハズレって言ったワケじゃないから。じゃあホット」


「それは俺はレースゲームが……殺せないから」


「正解言いかけてたのにボケないでよ。変な意味になってるし」


テディがやれやれと肩をすくめながら促すと、ホットはハンドルを握る手に力を込める。


「メテオカート――つまりレーシングゲームは、俺が三人に唯一勝てる可能性があるゲームである!」


「おぉ!」


「言ったな?」


「……へぇ」


スターティングライトが赤く点灯する。規則的な点滅に合わせ、機械音のカウントダウンが『3』から始まった。


「俺のジョブは配達員……無論、ドライブテクで遅れを取るつもりはないんだけど?」


「それでも俺が勝つ……!」


そしてカウントが『1』を刻んだ瞬間、全車が一斉にエンジンを吹かした。


この瞬間にアクセルを合わせることでスタートダッシュが成立する。成功すればスタート時に大きく加速できるが、タイミングを外せば通常発進となる。


このテクニックはメテオカートではもはや常識であり、今ではNPCですら当たり前のように使いこなしていた。これを外して出遅れるのは本物の初心者か――


「あミスった」


「タンドリー!?」


――タイミングを誤ったうっかりさんくらいだった。

タンドリー「本当の料理ってヤツを教えてやるよ(皿コトッ)」

テディ「タランチュラのフライとカラス肉カレー!?」

シェン『タンドリーが作ったんなら間違いないわ……(もぐもぐ……ビリィィィィ!!!)』

ホット「シェンの手術着がーー!?」

ユイガ「弾け飛んだんだけど……」

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