第8話【死の誕生】(後編)
前回、 塔の最上階の手前まで上り詰めた清火はボス部屋の前を守る二人の騎士と戦う事となった。
『……いざ参らん! 』
二人の騎士は清火に襲い掛かる。
二人の騎士は二手に分かれ、 清火の左右を挟むように剣を振りかぶった。
しかし清火はたった一本の大鎌で二人の剣を止めた。
『なんと……』
『たった一人の人間らしからぬ力だ……我らの剣を同時に受け止めるとは……』
「私も正直自分が人間かも怪しくなってきてるよ……」
そう言うと清火は思いきり大鎌を回転させ、 二人の騎士の剣を弾いた。
……見える……剣の動き……二人の姿が……
すると清火は鎌に青白い炎を纏わせた。
『その能力……まさか……』
「そう、 アンタ達の能力を吸収させてもらったよ……」
武器エンチャント能力……初めてやってみたけど中々便利そう……
次の瞬間、 清火は青白い炎で尾を描きながら高速移動し、 二人の騎士に突っ込んでいった。
二人の騎士は清火の鎌を受け止めようと剣を構える。
しかし清火は二人の騎士の目の前で姿を消し、 背後から鎌を振りかざした。
二人の騎士は反応に遅れ、 背中を斬られてしまった。
「……まだ浅い……流石に攻め方が甘すぎるか……」
『その速さ……一体何が貴様をそこまで強くしたのだ……』
「さぁね……突然真っ黒な物体が私の目の前に現れたと思ったらいつの間にかこうなってた……」
次の瞬間、 清火は鎖を出し鎌に巻き付け、 円を描くように大きく振り回した。
すると二人の騎士は鎌を受け止めようと剣を構えた瞬間、 鎌から飛び散った青白い炎が剣を溶かし、 そのまま鎌が二人の騎士の胸を切り裂いた。
清火は鎌を手元に戻し、 倒れた騎士の元へ歩み寄った。
「……悪いわね……私はもっと先へ進まなくちゃならない……この次元迷宮を潰す為には……」
『……その力……やはり人間とは思えんな……』
『我らの剣を溶かす程の火力……フッ……ここまで来ると清々しい……』
「アンタ達の魂も無駄にはしないから……安心して……」
『フフ……まるで死神の如き思想だな……』
そう言うと二人の騎士は力尽きた。
……死神の如き思想……か……確かに私……強くなるに連れて段々思考も人間離れしてきてるかもね……
そんなことを考えながら清火は二人の騎士の亡骸を見送り、 最上階へ上った。
…………
放置された次元迷宮、 最終階層……
塔の最上階へ上った清火とゼヴァは大きな空間に出た。
そこは正しく魔王が座するような玉座の間だった。
そしてその奥には……
『ほう……人間がここまで来るとは……』
ボロボロの真っ黒なローブを纏った巨大な悪魔のような魔物が玉座に座っていた。
「アンタがボス? 」
『左様……我が名は魔王 リーグ……貴公の名を聞かせてもらいたい……』
「……清火……場合によってはモルスとも呼ばれるけど……」
こいつ……異様な人間味を感じる性格してる……不気味ね……
するとリーグは片手に巨大で真っ黒な杖を出し、 魔法陣を展開した。
『ここまで上り詰めた勇ましき人間、 モルスよ……その勇気に敬意を表し、 我に挑むことを許そう! 』
「もとから挑むつもりだよ……! 」
次の瞬間、 リーグの魔法陣から黒い泥のような塊が現れ、 次第に手のような形へ変形し清火に襲い掛かった。
清火は黒月で黒い塊を撃ったが黒い塊は銃弾を呑み込み、 止まらない。
……魔法攻撃が通じないか……というよりあれ自体に何かが触れると消滅してしまうみたい……
清火は黒い塊を避けると大鎌で黒い塊を斬りつけた。
すると黒い塊は切断され、 斬り落とされた部分は蒸発するように消滅した。
「……この鎌なら効くみたいだね……」
『な……何だと……! 』
黒い塊の強さによほど自信があったのか、 リーグは驚愕した。
清火は隙を見て黒月をリーグに撃ち込んだ。
しかし銃弾はリーグの手前で弾かれた。
「……やっぱりそう簡単にはいかないよねぇ……」
『フフ……我に飛び道具は効かんぞ……』
「なら直接……って訳にもいかなさそうね……」
リーグの周りには大量の黒い塊が守っており、 下手に近付けば集中的に攻撃される危険性があった。
見たところあの黒い塊はゼヴァに反応していない……生き物、 生者に反応して襲って来るのか……それともリーグの意思で襲って来るのか……
そう考えた清火はある事を思いつき、 ゼヴァに合図をした。
ゼヴァは静かに頷くと姿を消した。
『……何を企んでいるか知らんが……我に手を出すことは叶わぬぞ……』
「さぁ……それは攻撃を受けてから言ったら? 」
『フン……その前に終わらせてくれるわ! 』
そう言うとリーグは杖を掲げ、 周囲に無数の魔法陣を出現させた。
魔法陣からは大量の悪魔が湧き出てきた。
「召喚系の魔法か……まだ私には無い力ね……」
『さぁどうする……多勢に無勢……貴公でもこの数を一人では捌ききれんだろう……』
「確かにそうね……私には召喚系の魔法は使えない……でも……」
すると清火はドラゴンゾンビの魂を呼び出した。
「……魔法じゃなくても魔物を呼び出す手段はあること……覚えておいた方がいいよ……」
清火がそう言うと同時にドラゴンゾンビの魂は青白い炎を吐き出し、 悪魔達を一気に焼き払った。
『何だと! ? ドラゴンを呼び出すなど……貴公、 本当に人間なのか! 』
「さっきもそんなこと言われたよ……それよりも……背後に気を付けた方がいいよ……」
『何っ! ? 』
リーグが背後を向いた次の瞬間、 ゼヴァが剣を構えた状態でリーグの頭上に姿を現した。
リーグは黒い塊をゼヴァに嗾けようとするも、 黒い塊はゼヴァの体を通り抜けてしまった。
……なるほどね……あの黒い塊は生き物を呑み込むことはできるけど、 魂となった亡者には効果を発揮しないんだ……
そしてゼヴァは一瞬にしてリーグの首を斬り飛ばした。
『……よもやここまでとは……人間……』
首だけになったリーグはその言葉を最後に灰のようになって消えてしまった。
……攻略完了……かな……
「お疲れ様ゼヴァ……助かったよ……」
『モルス様のお役に立てて光栄の限り……また何かございましたらお呼びください……』
そしてゼヴァは清火の影の中へ消えるように戻っていった。
「……さて……あれがコアで間違いなさそうね……」
清火は玉座の横に飾られていたコアを取り、 塔を降りた。
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「……ん? ……え」
清火が塔を降りた瞬間、 塔は地響きを起こしながら崩れていった。
ちょ……え……これは巻き込まれるって!
塔の崩壊に巻き込まれると危険を感じた清火は急いで塔から離れた。
しかし清火は塔の崩壊に間に合わず、 瓦礫に潰されそうになった。
「う……うぉぉぉ……! 」
一か八かだけど試すしかない!
すると次の瞬間、 清火以外の周りの動きが止まった。
……まさか最初に試す瞬間がこれになるとは……
ゼヴァから吸収した時間停止能力である。
そして清火は急いでその場から離れ、 時間停止を解除した。
「……崩れるなんて聞いてないよ……」
そんなことを呟きながら清火は次元迷宮の出入口へ向かった。
…………
その頃、 出口付近では拳一を率いる協会の職員達がキャンプをしながら清火の帰りを待っていた。
そして……
「……なんだ……皆待っててくれてたんだ……」
清火が次元迷宮の出入口から出てきた。
すると拳一達は驚いた様子で清火の元に駆け寄ってきた。
「清火様! もう戻らないかと思いましたよ……」
「え……たった数時間でしょ? 大げさじゃ……」
すると拳一達は顔を見合わせる。
「……清火様……貴女が次元迷宮に入ってから三日ほど経っていたんです……」
「み、 三日! ? 」
清火が次元迷宮に入ってから外では三日も時間が経っていたのだ。
次元迷宮では体感的に数時間しか経っていないのに……外じゃ何日も時間が進んじゃうってこと……?
「……なるほどね……Sランクの次元迷宮……何でもありなのね……」
「にしてもご無事で何よりです! それで……迷宮攻略の方は……」
拳一にそう言われると清火は黙ってコアを手渡した。
「報酬には興味ないから無報酬でいいよ……私がやりたくて勝手にやったことだから……」
そう言って清火はその場を去ろうとした。
「えっ、 清火様! 帰りの車出しますのでお待ちを! 」
拳一に呼び止められると清火は振り向いて言った。
「私一人で帰れるので……」
次の瞬間、 清火の背後に一体のドラゴンの魂が現れた。
清火はドラゴンの背中に乗り、 飛び立った。
「もう報道するなり好きにして構いませんよ……私は自分の力量がもう分かりましたから……」
Sランクの次元迷宮を一人で攻略できることはもう分かった……そこまでいけばあとは十分……周りがどうしようがもう障害にはならない……
そして清火はその場を去っていった。
「……あれが攻略者モルス……はは……本当に死神だな……」
拳一は清火に渡されたコアを見ながらそう呟いた。
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街に帰ってから清火はすぐにローナのラボへ向かった。
清火は次元迷宮に行く前、 ローナにある物を調べるように頼んでいた。
それは……
「ローナ、 例の石……何か分かった? 」
「oh! キョウカ、 良く来たわね! まずは座って」
そう言われて清火はソファーに座った。
「……キョウカ、 率直に言うわ……この石はかなり危険な物かもしれない……」
そう言ってローナが出したのは赤い宝石だった。
そう、 それは以前清火がリッチを倒した時に手に入れた謎の宝石である。
危険な物って……一体何が……
清火が疑問に思う中、 ローナは赤い宝石について話した。
「色々分析してみた結果……この石からはとんでもない魔力量と別のエネルギーが検出されたの……」
「別のエネルギー……? 」
「そう……そのエネルギーはね……核と同じだったの……放射線物質の反応が出たから間違いは無いわ……」
核! ? そんな物を持ち歩いてたって……恐ろしい……
しかしローナは笑って話した。
「hahaha! でも放射線自体は少ないから人体に影響は無いわよ。 それよりヤバいのは魔力の方……」
そう言うとローナは部屋の奥へ行き、 一つの石を持ってきた。
「これは……魔法石? 」
「そう、 いたって普通の魔法石……よく見てて……」
そう言ってローナはおもむろにハンマーを取り出し、 魔法石を砕くように叩き付けた。
次の瞬間、 魔法石は爆竹のように破裂した。
「うわっ! ? 」
「これが危険って言ってた理由……砕けやすい石系の魔鉱石は強い衝撃が加わるとこのように魔力爆発を起こすの……そしてとんでもない魔力量が検出されたこの石……ただでさえ砕けやすい素材なのにそんな魔力量が爆発を起こしたら……」
……うわぁ……
清火は背筋が凍る感覚を覚えた。
「まっ……強い衝撃が加わらなければそれまでだから心配は無いわ……で、 どうする? この石……」
「……私が持っておくよ……家に置いておけば何も起きないだろうし……」
清火がそう言うとローナは一瞬顔を曇らせたが
「……そう……分かったわ……でも心配だから念のために衝撃を吸収する素材で出来た箱に入れておくわね……」
そしてローナは石を特別な箱に入れ、 清火に渡した。
「またいつか来るから……その時はよろしく……」
「えぇ……」
そして清火はラボを後にした。
「……あの石は確かに危険だけど……キョウカ……あなたを覆うオーラ……あの石以上に危険な何かを感じさせる……一体この短い間に何があったの……」
部屋で一人になったローナはそんな独り言を呟いた。
…………
「……」
この石……確かに危険な代物だけど……それ以上に引き付けられる何かを感じてならない……
そんなことを考えながら清火は箱を眺めた。
続く……




