第8話【死の誕生】(前編)
清火がSランクの次元迷宮を攻略してから翌日、 清火の元に電話が入った。
『清火様、 会長との面会が許可されました。 本日の正午、 協会本部前にてお待ちしております』
「分かりました……」
そして清火は協会本部へ向かった。
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攻略者協会日本本部にて……
建物の前に着いた清火は拳一と合流した。
「あれ、 清火様……あのパーカーは着ていないんですね」
「……あれは迷宮攻略の時にしか着ないので……///」
この時清火はジャージのズボンに普通のパーカーを着て黒いキャップ帽を被り、 あまり目立たない格好をしていたのだ。
……あのパーカー着てないとしっくりこなくなった自分を殴りたい……
「そうなんですね……それよりも会長がお待ちです。 こちらへどうぞ」
そして拳一は清火を会長室まで案内した。
…………
「分かってはいると思いますが……くれぐれも粗相の無いように……」
「はい……」
清火に警告をした拳一は会長室の扉をノックした。
「……入れ」
「失礼します」
扉の向こうから老人の声がし、 清火達は会長室へ入った。
部屋に入るとそこには一人の老人が接客用のスペースにあるソファーに座って待っていた。
年齢は恐らく60代程の男性だった。
「待っていたよ、 清火君……いや、 モルス君と……呼ぶべきかな? 」
「どちらの呼び方でも構いません……」
……堅苦しそうな人だなぁ……
清火は老人にそんな印象を抱きながらも向かいのソファーに座った。
すると老人は拳一に外で待つように促した。
「……何かあればお呼びください」
「うむ……」
そう言って拳一は会長室の外へ出て行った。
「……いやぁ、 すまないね! 部下の前では威厳を保たなくてはいかんからなぁ! 」
「え……」
拳一が部屋を出た瞬間、 老人の態度が一変した。
……あぁ……この人……フローガさんと同じタイプだ……
「おぉっと失礼した、 儂は攻略者協会日本本部の会長の飯澤 修次郎だ。 よろしく」
「あ……はい、 よろしくお願いします……私の事は知っているみたいですね」
「そりゃあ知ってるとも、 君の話は拳一君から聞いてるからね! 今は協会内で君の噂で引っ切り無しだよ」
そんな有名になってるのか……私……まぁそれはいいとして……
そして清火は早速本題に入ろうと修次郎に話そうとした。
「あの、 早速なんですが……」
清火が何かを言おうとすると
「許可しよう……」
と修次郎がすぐに応えた。
「え……」
「君の強さ……今この場で直接会って分かった……君にはSランク次元迷宮の単独攻略することができる……攻略が出来ずに放置されたSランクの次元迷宮があるからそこに向かうといい、 拳一君にも話を通してあるからすぐにでも行けるさ」
もうそこまで……というより私を見ただけで力量が分かるのか……まぁこっちもさっきから会長の覇気を感じてならないけど……
「……話が早くて助かります……」
「ではこの話は終わりだな! どうかね、 少し話でもしていかないかな? 」
そう言いながら修次郎はウイスキーの瓶を出した。
……昼から酒って……どっちにしろ私は早くSランクの次元迷宮に行きたいしさっさとお暇したいんだけど……
「すみませんが……私にはやりたい事があるので……」
清火はきっぱりと断ると修次郎は笑った。
「はっはっは! やはり君は色々と面白い、 会長である儂を前にして物怖じしない態度をした人間は君が初めてだ! 」
「そんな態度で話し掛けられたら誰だって馴れ馴れしくなりますよ……」
そう言って清火は席を立った。
「あぁちょっと待ってくれ……君に渡しておく物がある……」
修次郎はそう言って清火を引き留めると自分の机に向かい、 引き出しの中から何かを取り出した。
そして修次郎は清火に小さな箱を手渡した。
「……開けてみなさい」
「……これは……バッジ? 」
箱に入っていたのは剣の装飾をされた小さな金色のバッジだった。
「それはZランクの者に与えられるバッジだ……先代の一人が残していったものだが、 君にそのバッジを渡しておこう……」
「Zランク! ? 」
本当に存在したのか……Zランクの攻略者なんて……しかも先代が残したものって……
「もしかして先代って……」
清火が聞くと修次郎は答えた。
「そう……噂に聞く『イージス』と『ザヴァラム』という二人の攻略者だ……もう亡き者とされているから儂も彼らの事はよく知らんがね……」
「……本当に……いいんですか……? そんな貴重なもの……バッジなら他にも作れるはず……」
すると修次郎はフッと笑った。
「……不思議なものだ……何故だか君にそのバッジを持っていてもらいたいと思ってね……」
「……そう……ですか……」
……Zランクの攻略者『イージス』と『ザヴァラム』……か……一体どんな人だったんだろう……
そんなことを思いながら清火はバッジをポケットにしまった。
「……とりあえず……私はこれで失礼します……迷宮には明日向かわせて頂きます」
「うむ……また会える機会を楽しみにしているよ……」
そして清火は部屋を後にした。
…………
「……あれが攻略者モルスか……凄まじいオーラの持ち主だ……」
部屋で一人になった修次郎はそう呟いた。
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翌朝……
清火は拳一を率いる協会の人間達に車で送ってもらい、 放置されているという次元迷宮へ向かった。
「到着です……ここが放置された次元迷宮です……」
「なるほどねぇ……ここが……」
そこは都心部から離れた場所のフェンスに囲われた山奥の森だった。
……山全体がフェンスに囲われているなんてね……相当危険な迷宮か……それともこれが普通なのか……どっちにしてもこんなものが放置されているということはSランクの攻略者達はまともに仕事をしていない証拠か……全く……
「……どいつもこいつもゲーム感覚かよ……」
「ん……? どうかされました? 」
「いや、 独り言だから気にしないで……」
そして清火は次元迷宮の入り口前に立ち、 拳一達に言った。
「……もしかしたら今日中には帰れないかもしれないから、 その時には帰って構わないよ……それじゃ……」
「えっ……」
拳一が何か言おうとする前に清火は次元迷宮へ入ってしまった。
「帰っていいって……どうやって帰るんだ……? 」
清火が迷宮へ入った後、 拳一は呟いた。
…………
放置された次元迷宮、 第1階層……
そこは地獄のように燃え盛る火の海が広がっていた。
「……ふーん……まるで魔界ね……」
……さて……私の軍隊は……どれだけ戦えるかな……?
すると清火は大量の魂達を呼び出し、 それぞれ散らばらせた。
「……私はあの塔へ向かおうかな……」
清火は向こうに見える巨大な塔へ向かった。
あそこを登ればいいのかな……流石Sランクか……なにも階層は下に続くだけじゃないということか……他に下へ続くような物がないから確定だろう……
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数十分後、 清火は塔の入り口前まで着いた。
……ただならぬ気配……ゼヴァに似た気配……それが複数体……なるほど、 どうやらここを放置したのは無能達のせいなだけではないということね……
「……呼んでみようかな……」
「ゼヴァ……」
清火はゼヴァの名を呼んだ。
すると次の瞬間、 清火の影から黒い塊が出てきた。
その黒い塊はみるみる内に人のような形に変わり、 天使の翼が生えた騎士の影のような姿になった。
口も鼻も無い真っ黒な顔には黄金に光る眼が二つ輝いていた。
「……は……? 」
これが……ゼヴァ! ?
それは清火が以前に戦ったあの魔物の姿をしたゼヴァではなかったのだ。
するとその騎士は清火の前で跪いた。
『お呼びに預かり光栄の限り……我が主……モルス様……』
「え……喋れるの! ? 」
この時清火は初めて話すことのできる魂に出会った。
「えっと……ゼヴァ……だよね……? 」
『はい……』
何か……態度変わった?
「えっと……その姿は? 」
『これこそが私の本来の姿だったのです……闇の因子によりあのような醜い姿にされていたのです……』
「へ、 へぇ……そういうこと……」
するとゼヴァは突然清火に背を向けて立ち上がった。
そして腰に掛けてあった真っ黒なオーラを放つ剣を抜いた。
「……来たみたいね……門番が……」
『モルス様……ここは私にお任せを……』
ゼヴァが剣を構えると同時に現れたのは二体のベヒーモスだった。
……二体か……ゼヴァに任せても大丈夫なのかな……
清火の心配を余所にゼヴァは躊躇なくベヒーモス達の方へ向かっていった。
『愚かな怪物共……我が主の歩む道を邪魔するな……』
次の瞬間、 ゼヴァは一体のベヒーモスの目の前で姿を消し、 頭上へ飛び上がった。
そしてゼヴァはベヒーモスの眉間に剣を突き刺し、 そこから光の光線を放った。
内側から光線を放たれたベヒーモスはそのまま体にヒビが入り、 爆散してしまった。
あれはあの時の光線か……
するともう一体のベヒーモスがゼヴァに襲い掛かろうとした。
しかしゼヴァは素早くかわし、 ベヒーモスの体の下に潜り込み、 剣でベヒーモスの体を輪切りにしてしまった。
「すご……」
『殲滅が完了しました、 モルス様……』
ゼヴァは私と同じくらいの戦闘能力があるかも……かなり頼もしい……
「ありがとう……探索している魂達も戻して塔へ入ろうか」
『承知……』
そして清火は魂達を戻し、 塔の中へ入った。
…………
放置された次元迷宮、 第10階層……
清火が塔に入って数十分、 清火は塔の10階部分まで登った。
「ここまで登って分かった……この次元迷宮にいるのは悪魔達ばかりだ……」
『ここは魔界に最も近い環境の次元迷宮のようです……恐らく上に行けば話せる魔族と出会うでしょう……』
ゼヴァと同じように喋れる魔物か……戦闘能力も馬鹿にならないだろうなぁ……
そんなことを考えながら清火とゼヴァは塔の更に上を目指した。
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放置された次元迷宮、 第15階層……
「さて……あれってどう見ても中ボスだよね……」
部屋に入るとそこには騎士のような恰好をした魔物が剣を突き立てて待っていた。
そして清火は部屋の中央まで来ると……
『ほぅ……人間がここまで来たのは久しぶりだな……三年ぶりと言ったところか……』
「ようやく喋る魔物に会えた……」
塔の15階まで登った清火とゼヴァは遂に話す魔物と遭遇した。
『さぁ……御託は無用……ここから上を目指すのであれば我を倒して見せよ……』
そう言うと騎士の魔物は剣を構えた。
清火は鎌を取り出し、 構えようとするとゼヴァは清火の前に出た。
『モルス様……貴女が戦う必要はありません……あれ如き、 我が剣で十分……』
「……そう……じゃあ任せるね……」
正直ゼヴァとあの魔物……気配はどちらも同じくらい……どっちが強いのか気になる……
ゼヴァの全力を見てみたいと思った清火は大人しく観戦することにした。
そしてゼヴァは剣を抜き、 構えた。
『ここは我が主の進む道……貴様に邪魔はさせん……』
『久々に骨のありそうな相手に会えたことに感謝しよう……では、 行くぞ……! 』
次の瞬間、 二人の姿が消え、 激しい金属音と共に宙を舞いながら刃を交える二人の姿があちこちに現れ始めた。
……速い……私の目でもギリギリ見えるくらい……
そしてしばらくするとお互いに距離を取ったゼヴァと騎士の魔物が現れ、 二人は同時に距離を一気に詰め、 剣を振るった。
ぶつかり合った二人の剣は激しい金属音を轟かせながら火花を散らせ、 辺りに衝撃波を発生させた。
『凄まじい剣技だ……』
『貴様こそ……だが……我に貴様の刃は届かん……』
すると次の瞬間、 ゼヴァは騎士の剣を滑らせるようにズラし、 目にも留まらぬ速さで騎士の胸を大きく斬りつけた。
騎士の着ていた鎧は大きく切り裂かれ、 その裂け目から大量の血が噴き出した。
『見事だ……だが……我ら王は貴様なんぞ……』
そう言い残すと騎士は灰のように消えてしまった。
……王……やっぱりボスは魔王ってところかな……そんな奴の魂も奪えば……かなりの戦力になる……ゼヴァがいる時点でかなりの戦力だけど……
清火はそんなことを考えているとゼヴァが戻ってきた。
『モルス様、 道は開かれました……さぁ、 上へ……』
「そうだね……」
そして清火とゼヴァは塔を上がっていった。
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放置された次元迷宮、 第49階層……
塔を登り始めて数時間、 清火とゼヴァは塔の最上階に到達しようとしていた。
……ここに来るまでかなり手こずった……大体15階層ごとに中ボスがいる感じだったけど……皆喋れる魔物だった……
『……申し訳ございません……私の実力が無いばかりに……』
ゼヴァは塔の45階層の中ボスで敗北してしまったのだ。
「気にしないで、 お陰で楽にここまで登れたんだし……」
流石に魔術師五人の相手はゼヴァ一人じゃ捌ききれないもんね……まぁそれでも倒されなかったゼヴァは大分だけど……
「……それよりもこの塔にいるボスに関する情報は何も聞き出せなかった……聞き出そうものなら皆自殺しちゃうし……」
『彼らの忠誠心は相当なもののようです……彼らを統べる王とは一体どのような魔物なのか……』
「まぁ実際見てみれば分かるよ……」
そんな話をしながら次の階層へ上ると……
『……よくぞここまで参られた……しかしこの先は我が王の玉座……先へ進ませるわけにはいかぬ……』
『進みたくば我らを倒して見せよ……』
二人の騎士が最上階へ進むための階段の扉を阻んでいた。
一人は白い鎧を身に纏っており、 頭にはヘルムを被っていて顔は見えない。
もう一人は黒い鎧を身に纏っており、 白い鎧の騎士同様に顔はヘルムで見えない。
『モルス様……ここは私が……』
「いや、 もういいよゼヴァ……ここからは私が戦う……」
ゼヴァは再び前へ出ようとしたが清火は止めた。
ここまでゼヴァに頼りっきりだったしね……中ボスがどれほどの強さなのかも見てみたい……
そして清火は鎌を出し、 騎士達の前へ出た。
『ほう、 子娘一人で我らと戦うつもりか……』
『よかろう……その威勢には敬意を表す……いざ参らん! 』
そう言うと二人の騎士は清火に襲い掛かった。
続く……




