秘密の畑
異世界での生活にも少しずつ慣れてきた。
毎日のように家族と過ごし、村の様子を眺めながら、俺はこの世界について少しずつ知識を増やしていった。
そして、俺には誰にも知られてはいけない秘密がある。
女神様からもらったスキル――『マイルーム』だ。
マイルームの中には、前世の日本で使っていたような家具や道具が揃っている。
冷蔵庫もその一つだ。
ただし、中に食料が無限に入っているわけではない。
野菜室を開ければ、一般家庭の冷蔵庫に入っている程度の野菜があるだけだ。
じゃがいもだって、せいぜい五個ほど。
使った物は現地のお金を支払うことで補充される。
つまり、マイルームは便利ではあるけれど、何でも無料で手に入る魔法の倉庫というわけではない。
お金を稼がなければ、いずれ何も買えなくなる。
「やっぱり、食料を自分で作れるようにしたほうがいいよな……」
そう考えた俺は、ある計画を始めることにした。
それは――畑だ。
もちろん、家のすぐ近くで畑を作るわけにはいかない。
マイルームの存在を知られるわけにはいかないし、俺が普通の子供ではないと疑われるようなことも避けたい。
そこで、村から少し離れた場所にある、人目につきにくい土地を利用することにした。
まだ小さな身体では自由に動き回ることはできない。
だから、今すぐ大規模な畑を作るつもりはない。
まずは少しだけ。
土を耕し、じゃがいもの種芋を植えてみる。
もちろん、前世の知識があるからといって、農業が簡単にできるわけではない。
土の状態や水の量、日当たりなど、考えなければならないことは多い。
それでも、何もしないよりはいい。
「……これくらいなら、できるかな」
土に触れながら、俺は小さな手で慎重に作業を進めていった。
そして、問題になるのが水やりだった。
毎回、水を運んでくるのは大変だ。
そこで俺は、以前から練習していた魔法を使ってみることにした。
「水よ……」
手のひらに意識を集中する。
すると、わずかな水が生まれた。
「おお……!」
成功だ。
まだ大量の水を出すことはできない。
けれど、畑に水を撒くくらいなら何とかなる。
少しずつ水を出しながら、畑に撒いていく。
「これなら楽だな」
魔法を使えるようになって、本当に良かった。
その後も俺は、時間を見つけて畑の様子を確認するようになった。
最初は何も変化がなかった。
しかし、何日か経つと――。
「……芽が出てる」
土の中から、小さな芽が顔を出していた。
思わず笑みがこぼれる。
前世では農業なんてしたことがなかった。
それなのに、自分で植えた作物が芽を出したことが、妙に嬉しかった。
これなら、いつか自分で食料を作れる。
そう思うと、少しだけ未来が明るく感じられた。
そんなある日のことだった。
「アレン?」
「……!」
突然、後ろから声をかけられた。
振り返ると、そこにはリサが立っていた。
「リサ……?」
どうしてここに?
まさか、畑を見られた?
俺は慌てて畑を見る。
だが、リサは畑そのものよりも、俺の手元をじっと見ていた。
「今、何してたの?」
「えっと……」
どう答えるべきか迷う。
しかし、リサは不思議そうな顔をしたあと、少しだけ目を輝かせた。
「もしかして……魔法?」
「……うん」
隠しきれないと思い、俺は小さく頷いた。
するとリサは、ぱっと顔を明るくした。
「すごい!」
「そんなにすごくないよ」
「すごいよ!」
リサは俺の近くまでやってくる。
「私も魔法を使ってみたい」
「そうなの?」
「うん……」
リサは少し恥ずかしそうに俯いた。
そして、しばらく迷ったあと――。
「ねえ、アレン」
「ん?」
「私にも魔法を教えて!」
「え?」
思わず聞き返してしまった。
まさか、リサのほうから頼まれるとは思っていなかった。
「魔法を教えてほしいの?」
「うん!」
リサは元気よく頷いた。
「アレンが魔法を使ってるところを見て、私も使ってみたくなったの!」
「でも、俺もまだ練習中だよ?」
「それでもいい!」
リサの目は真剣だった。
俺は少し考える。
前世の知識を持っている俺と違って、この世界の魔法についてはまだ分からないことが多い。
それでも、これまで自分がやってきた練習方法なら教えられる。
「分かった」
「本当!?」
「うん。でも、無理はしないでね」
「分かった!」
リサは嬉しそうに笑った。
こうして俺は、リサに魔法の練習方法を教えることになった。




