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お風呂



 俺が三歳になった頃。


 魔法の訓練は、相変わらず続けていた。


 火。


 水。


 光。


 毎日少しずつ練習を重ねたことで、魔力の扱いにもかなり慣れてきた。


 そんなある日、俺はふと思いついた。


(火と水を組み合わせたら、どうなるんだろう?)


 これまで別々に使っていた二つの魔法。


 それを同時に使ってみることにした。


 まず水を出す。


 そして、その水を火の魔法で温める。


 最初は上手くいかなかった。


 火が強すぎれば水が一気に蒸発する。


 逆に水が多すぎれば、火が消えてしまう。


(難しいな……)


 何度も試す。


 火の強さを調整する。


 水の量を調整する。


 そして、魔力の流れを細かく調整していく。


 何度目かの挑戦で――。


「……できた」


 桶の中に手を入れる。


 水は、ほんのり温かい。


「お湯だ……!」


 俺は思わず笑った。


 これで、ずっと我慢していたものが手に入る。


 ――風呂だ。


 この世界には、毎日お風呂に入る習慣がない。


 身体を拭いたり、水で汚れを落としたりすることはある。


 でも、前世の日本で暮らしていた俺にとって、それだけでは物足りない。


(やっぱり風呂だよな……)


 温かい湯に浸かる。


 肩まで沈む。


 ゆっくり身体を温める。


 それだけで、前世の記憶が蘇ってくる。


 俺は誰もいない時間を狙って、お湯を作った。


 そして――。


「はぁぁ……」


 湯船に浸かる。


 思わず声が漏れた。


(最高だ……)


 三歳児とは思えないほど、風呂を満喫してしまった。


 それからというもの、俺は魔法でお湯を作り、いつでも風呂に入れるようになった。


 もちろん、両親には秘密だ。


 突然、三歳児が一人でお湯を用意して風呂に入っていたら、絶対に怪しまれる。


 そんなある日。


 村を歩いていると、いつもとは違う賑わいが聞こえてきた。


「今月も来たぞ!」


「行商人だ!」


 村人たちが村の入り口に集まっている。


 俺も気になって近づいてみる。


 そこには、一台の荷車があった。


 荷台にはたくさんの商品が積まれている。


「いらっしゃい! 今月の商品だぞ!」


 どうやら行商人らしい。


 食料。


 衣類。


 生活用品。


 村では手に入りにくい物まで、いろいろと並んでいる。


 村人たちは商品を手に取り、値段を確認しながら買い物をしていた。


(行商人か……)


 俺はその様子を眺めながら、マイルームのことを思い出した。


 マイルームには、いろいろな物がある。


 食べ物もある。


 生活用品もある。


 便利な道具もある。


 そして――。


 マイルームの中にある消耗品は、使えば補充される。


 ただし、無料ではない。


 補充するためには、この世界の通貨が必要になる。


(だったら……)


 俺は考えた。


 マイルームの物を使う。


 ↓


 使った分が補充される。


 ↓


 補充にはお金がかかる。


 ↓


 なら、お金を稼げばいい。


 今までは、マイルームを便利な部屋としてしか考えていなかった。


 だが、よく考えてみれば――。


(マイルームの中にある物を、増やして売ればいいんじゃないか?)


 もちろん、何でもいいわけではない。


 この世界に存在しない物をいきなり売れば怪しまれる。


 高価すぎる物も駄目だ。


 三歳の子供が扱える物でなければならない。


 そして、できれば食べ物。


 食べ物なら多少珍しくても売りやすい。


(何かないか……)


 俺はマイルームの中を思い出していく。


 そのとき――。


 ある物が頭に浮かんだ。


(……じゃがいも)


 マイルームにある食材。


 珍しい調味料や加工食品ではない。


 比較的普通の野菜。


 料理にも使える。


 しかも――。


(種芋にできるんじゃないか?)


 じゃがいもなら、食べるだけではない。


 芽の出た芋を植えれば、新しいじゃがいもを育てられる。


 もしこの世界にじゃがいもがなければ、かなり価値があるかもしれない。


 逆に、すでに存在していたとしても、普通の野菜なら怪しまれにくい。


(これなら……)


 俺は行商人の荷車を見る。


 村人たちは、様々な食料を買っている。


 食べ物には確実に需要がある。


 しかも、じゃがいもなら大量に売る必要もない。


 まずは少しだけ。


 試してみればいい。


(マイルームから一個出して、村で売ってみる)


 問題は、どうやって売るかだ。


 三歳の俺が直接、


「じゃがいもを買ってください」


なんて言えば怪しまれる。


 それなら――。


 父さんか母さんに相談する?


 それとも、別の方法を考える?


 俺は腕を組んで考え込んだ。


(まあ、急ぐ必要はない)


 マイルームは逃げない。


 行商人も毎月やってくる。


 だったら、まずはこの村で何が売れるのかを調べよう。


 そして、少しずつ準備する。


(よし……)


 俺は心の中で決めた。


 最初の商品候補は――。


 じゃがいもだ。


 異世界での俺の商売が、ひっそりと始まろうとしていた。

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